The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百三十三話 竜の王と色欲の英雄③

 古ぼけたそのノートの一ページ目を開く。

 そこには幼くたどたどしい字で必死に感情が綴られていた。

 

 ――――――

 兄上の魔法はすごい。

 火に水に土の三属性に覚醒した兄上のことは父上も母上もたくさん褒めていた。

 僕もすごい魔法に覚醒できるのかな?

 ――――――

 

 兄上という文字から、どうやらここはエンペンの部屋であるようだ。

 つまりこの日記はエンペンの物であり、最初から数ページはそんな、純粋に兄を慕い、自分も認められたいという幼い承認欲求が残されている。

 また、そのための努力や勉強の記録も残されていた。

 

 そしてまた数ページ読み進める。

 日記と言っても毎日記録していたわけではないようで、日付の間隔はまちまちだ。

 

 ページをめくるにつれて段々と文字の線がハッキリとしてくる。

 ただ、何かがあれば日記をつけるという習慣は持っていたようで、その文字から成長が感じられる。

 

 ――――――

 遂に僕にも覚醒が訪れた。

 けど……属性数も出力規模も何もかもが貴族としての最低ラインを割っている。

 兄上はあんなに凄かったのに……どうして僕だけ……。

 ――――――

 

 成長の感じられる字面だが、その文字から見えるのは年相応な溌剌(はつらつ)さではなく、負の感情ばかり。

 だが、これには何となく共感できるような気もした。

 魔法がその力の象徴として扱われる貴族社会において、魔法が不出来というのはかなり自尊心に傷がつくはずだ。

 おそらく原作のファレスも最初はこのように思っていたのではないだろうか?

 

 と、なんとなくエンペンの境遇にシンパシーを感じながら、さらに読み進めていく。

 段々と日記に記録される日の感覚が長くなっている。

 この辺りから現実を直視するのが辛くなってきたということだろうか?

 

 そんなことを思っていると、ある日を境に再び毎日のように日記が記録されていくようになった。

 その内容はと言えば……。

 

 ――――――

 学園入学を間近に控える冬の日に、一通の手紙が届いた。

 差出人はルーカス・マーデン子爵令息、名前程度は聞き覚えがある、確か南部の貴族家の一つだったはずだ。

 家ではなく僕宛に届けられたその手紙には、興味深い内容が記されていた。

 要約すれば、自領で珍しい魔道具が発見されたが、慣例的に我がグランダル家へ渡さざるを得ない。しかし、どうしても自分で使用したいため、その珍しい魔道具の一つを僕個人に譲る代わりに、見逃してほしいというものだった。

 

 普段通りならば、こんな手紙など捨て置いて無視するところなのだが、手紙と同梱して送られてきていた魔道具を見て僕の考えは変わった。

 理由は分からない。

 だが、この魔道具に秘められているのは紛れもなく、凄まじい力だということには一目で気が付いた。

 それと同時に、これにはふさわしい持ち主がいるのではないか、ということにも気が付いてしまった。

 それが何を意味していたのかは分からない。

 それでも僕はルーカス・マーデンのこの頼みごとを引き受けた。

 この魔道具は、誰かの下で腐らせるより、ふさわしい持ち主の元へ届けるべきだと、そう思って。

 ――――――

 

 正確に、(まさ)しく記録を残すかのように、感情のはけ口としてではなく日記として書かれたその文章からはエンペンの成長の記録が窺い知れる。

 そしてこれ以降はページをめくっても白紙が続くのみ。

 どうやら、これが最後の記録になっていたようだ。

 

 だが、なるほど。

 俺はもう一度改めて読みなおして理解する。

 ルーカスとエンペンの繋がりはそう言う理由だったのか。

 

 それに……ルーカスがこの『傲慢』の大罪呪宝をエンペンへ送っていたというのも驚きだ。

 確かに大罪呪宝は俺の用に原作知識を持つ側からすれば珍しいものだが、見た目はよくある魔道具と何ら変わりはない。

 エンペンが魔道具を見て覚えた直感は一先ず置いておくとしても、俺は『嫉妬』の大罪呪宝を見ても最初は何も感じなかった。

 もちろん、ただ、体の良い言い訳として贈ったものが偶然『傲慢』の大罪呪宝で、それにエンペンが運命的な何かを感じてここに収めておいたという流れも理解できないことではない。

 

 しかし、なぜだろうか。

 どこか作為的な何かを感じてしまう。

 

 ……まあ、分からないことをあれこれと考えていても仕方がないか。

 ともかく、エンペンの直感のおかげで俺の元へこのイヤリングはやってきたわけだ。

 これはエンペンに感謝を示して、ありがたく頂戴するとしよう。

 もしくはエンペンに贈った吸魔の指輪の返礼に、とでもしておこうか。

 

 俺はその箱からイヤリングを取り出し、自分の耳へ着ける。

 すると耳に当てがった段階で留め具の調整が必要ないほど、俺にぴったりと定着し、反対側も同様に当てがうだけで、まるでゲーム世界で装備品を装備させるが如く速さで身に着けることが出来た。

 

「……これが大罪呪宝」

 

 イヤリングであるため、耳を挟んでいる感覚があるかと思っていたが、それもなく、まるで自分の体の一部のように自然だ。

 それで、肝心の効果だが……。

 

 俺は何の気なしに水属性魔法で手のひらに収まるほどの水球を出現させるべく『傲慢』の魔法を発動する。

 すると――

 

「――っ!」

 

 なぜか爆発的に魔力が増幅され、成人男性一人を易々と飲み込めそうなサイズの水球が出現してしまった。

 

「……なるほど。確かに強力だな……だが、この感覚では慣れるのに時間がかかりそうだ」

 

 その効果は魔力を増幅させる効果。

 それも二倍、三倍どころの話ではない。

 軽く見積もっても数十倍には膨れ上がっている。

 

 確かに原作のファレスのために用意された魔道具、『傲慢』の魔力を持っているものの覚醒上限が高すぎてまともに魔法が使えないファレスには最適の魔道具と言えるだろう。

 

 なるほど……原作『マーチス・クロニクル』でファレスルートを攻略するには、どうにかしてこの大罪呪宝を魔法披露宴前に手に入れる必要があったのか。

 

 まさか、こちらに来て数年が過ぎた今、ようやく前世の攻略法を見つけるとは……。

 まあ、今世の俺は吸魔の指輪を二つ使うことで強引に突破したがな。

 

 不遇と言われたキャラにもしっかりと攻略筋を作ってあることからも、やはり『マーチス・クロニクル』は神ゲーだったのだろうと思う反面、その条件が通常プレイ時にはほとんど見つけられない大罪呪宝であるあたり、やはりファレスは不遇なのだと思う俺であった。

 

 ◇◇◇

 

 グランダル邸二階、ファレスたちと三組に分かれて探索を始めて、この二階を探索しているのはサラとセレスティアだった。

 

「セレスティアさん、何か見つかりましたか?」

 

「いえ、おかしなものは掃いて捨てるほど出てきても、ファレス様の言われていたような魔力の動きのような物はありませんわ」

 

「そうですか。残念ながらこちらも同じくです」

 

「……次に行きましょうか」

 

「はい」

 

 ぎこちない雰囲気と微妙な距離感。

 この二人は目指すところは同じでもその在り方はまるで違う。

 それに今ではクインを含めて三人仲良く婚約(候補)者となっているわけだが、元々はその唯一の座を巡って争い合う敵でもあったわけだ。

 ファレスなど間に誰かが居なければ、そこまで仲が良いと言える間柄ではない。

 

 現にこうして、最低限の会話程度しか二人の間にコミュニケーションはない。

 

 だが、ファレスに皇帝になってほしいと願った以上、それではダメだという気持ちが二人の中にも確かにあった。

 

「……サラさん。少し質問してもよろしくて?」

 

「……構いませんが、なんですか?」

 

 最初に一歩、歩み寄ったのはセレスティアだった。

 

「あなたはいつ頃からファレス様のメイドを?」

 

「私はエバンスですから。今となっては公然の秘密のようになっていますが、物心がついたころからですね。実年齢にしてみれば七歳の頃からです」

 

「七歳……エバンスの方々は皆さんそんな年代から各家に配属されているのですか?」

 

「ええ、そう聞いています。最も私は父以外の家族の顔も名前も知りませんが」

 

「――! それは……何と言いうか……大変ですのね」

 

 エバンス家の実態は帝国でもトップシークレットの一つだ。

 そもそも本来ならばエバンスであることがバレてしまったサラはあの日、実の父エドワードによって消されているはずだった。

 今、サラが生きているのはファレスの強い意志と皇帝の気まぐれによる産物なのである。

 

 せっかく一歩を踏み出したセレスティアだったが、今の関係値の二人にこの話題は、とてもじゃないが、正解とは言い難いだろう。

 しかし――

 

「そうでしょうか? まあ、確かに、一般的に見れば大変なのかもしれませんが、私はエバンスに生まれたおかげでファレス様の御傍にいられますし、奥様もご当主様もおそらく私がエバンスだろうとお気づきになられていたでしょうに、まるで娘に接するようにしていただきましたから。セレスティアさんがお考えになるほど、私は大変ではありませんでしたよ」

 

 ファレスを心酔するサラにとっては、正解でなくとも気にするような話題でもなかった。

 

「そう……ですのね。……ねぇ、サラさん? もしよければ、昔のファレス様や普段、帰られてからのファレス様のことを教えて欲しいのだけど……良いかしら?」

 

 淡々と答えるサラを見て、セレスティアの中で彼女の印象が変わる。

 それを示すように、いつもより幾分かフレンドリーにセレスティアはサラにそう尋ねた。

 

「ええ、もちろん構いませんよ。セレスティアさんの知らないファレス様をたくさん教えて差し上げます!」

 

 そしてそれは対サラにとってはこれ以上ないほどに正解の話題。

 目を燦々と輝かせて語りだすサラに、セレスティアの顔からも思わず笑みがこぼれる。

 こうして二人は少し仲が良くなるのだった。

 

 





今話ではないのですが、祝勝会のサラ回で大きなミスを見つけてしまいました……。
本来ファレスの右手薬指には両親に渡した指輪がついていたのですが、両親には左手薬指に付けてもらっていたこともあって、すっかり失念していました。

なので、元からつけていた家族の指輪は人差し指などに嵌めかえたことにしておきます。
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