The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百三十四話 竜の王と色欲の英雄④

 ファレスが大罪呪宝を手懐けて、サラとセレスティアが少し友好を深めている頃……。

 

 一番広い一階を担当することになったクインとサンは、目を凝らして辺りを見回っていた。

 さすがに広すぎることもあり、ファレスやサラたちとは違い、目は凝らすものの、一つ一つの場所にかける時間はそう長くない。

 そもそも他の騎士たちによって一度は探索されているのだ。

 よってクインとサンはファレスに言われた魔力の動きがおかしな場所に焦点を絞って、できる限りのスピードで探索を進めている。

 

「ここも何もなさそうだねお姉ちゃん」

 

「そうね……魔道具は色々あるけど、これって……」

 

「うん。多分、兄さんの鱗とかが使われてるんだと思う」

 

 グランダル家には、本当に至る所に魔道具が置かれている。調度品としての、魔道具としては意味のない物から、生活上でも利用されていたであろう便利そうな物まで。

 だが、魔道具の鑑定士であるクインと竜であるサンは、その魔道具がどのようにして製作されたかが手に取るように分かってしまう。

 

「……サン、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ。兄さんも負けた自分が悪いって言ってたし。むしろ私の境遇の幸せを感じてるよ」

 

 この手の話になるとサンの纏う雰囲気は少し大人びる。

 あの日、王城でサンの中にあの黒竜のドラゴンハートが吸収されて以降、クインは何度かそのことを気にし、こうして気遣うこともしばしばだ。

 だが、その度にサンはいつもの爛漫さを潜めさせて、クインを安心させようとする。

 

「そっか……ねえ、サン。あなたのお母さんはどんな人……いや、竜だったの?」

 

 扉を開け、ぐるりと部屋を一周しながら目を凝らす。

 その作業を繰り返しながら、クインはそんな会話を切り出した。

 その件にはクイン自身は直接関係ないとはいえ、あの時旧ノウ領で怒りや憎しみに呑まれていたサンの感情の原因は人だった。

 そんな理由で出会ってから四年以上経つ今でも何となく触れていない話だった。

 

「お母さんか~。うーん……ギンカお母さんとかスジェンナお母さんと変わらないよ」

 

「えっ?」

 

「優しくて、あったかくて、私にすっごく甘いの。お姉ちゃんの魔法に似てるね」

 

「……もうっ、そう言うことはファレス様にだけ言ってればいいのよ」

 

「ふふっ、確かにお兄ちゃんに言えばたくさん頭撫でてくれそう」

 

 照れるクインの手を取って、手をつないで歩く二人の後姿は、二人のことを知らない人から見れば正しく姉妹そのものだろう。

 

「でも、あまり迷惑を掛けちゃダメよ?」

 

「そんなこと言って~、ほんとはお姉ちゃんもお兄ちゃんに甘えたいんでしょ! あ、でも、この間のデートでたくさん甘えて来たから――」

 

「も、もうっ! サン~!」

 

「わー、お姉ちゃんが怒った~! ……?」

 

 クインの手からするりと離れて、逃げ足速く次の部屋の扉に手を掛けたサンが急に立ち止まる。

 

「待ちなさいっ! って、サン? どうかしたの?」

 

「お姉ちゃん。この部屋、なにかあるかも」

 

 クインがその部屋へとつながる扉に目を凝らしても、特に何かがあるようには見えない。

 部屋の位置だって特別不自然なところがあるのではなく、他の部屋と同様に並んでいる一室だ。

 しかし、サンの様子から、何かがあるのは間違いなさそうだった。

 

「そう……。先にファレス様達に連絡する?」

 

「……いや、まずは私の目で確かめたい。お姉ちゃん、一緒に来てくれる?」

 

 振り返り、こちらを見て言うサンの顔は真剣そのもの。

 それならば姉であるクインの答えも当然決まっていた。

 

「もちろん。行きましょう」

 

 二人は再び手をつなぎ直し、サンが扉に手を掛ける。

 深呼吸を一つして呼吸を合わせると、サンは扉を開いた。

 

 ◇◇◇

 

 エンペンの部屋を後にした俺は残りの三部屋も順番に探索していた。

 

 先に見た二部屋はおそらくエンペンの両親の部屋だろう。

 女性ものの家具などが目立つ部屋はもちろん、エンペンの部屋と比較するとかなり成金趣味が透けて見える。

 夫婦仲は良好だったのか、隣り合う部屋を仕切る壁に、お互いの部屋を行き来できる扉が設置されている。

 と、そんなことはどうでもいい。

 

 問題は貴族としての仕事をしていた形跡が全く見られないことだ。

 確かに私室と執務室は違う。

 だが、偏見で申し訳ないが、グランダル家の当主、夫人が仕事とプライベートを完全に分けられる人にはどうやっても見られなかった。

 うちの両親だって、執務室で盛り上がっているところに遭遇したこともあるほどだ。

 部屋があれだけ成金に染まり、夫婦仲も良好な二人がまともに仕事をしていたとはとても思えない。

 

 と、なると……。

 

 俺は最後に残った部屋へ足を踏み入れた。

 

 消去法的にここはトールスの部屋であるはず。

 何か手掛かりがあってもおかしくない。むしろ、俺が一番期待している部屋でもあった。

 

 しかしながら、その予想はあまり良くない方向へ裏切られた。

 

 トールスの部屋はベッドがついた執務室のような造りになっており、デスクの上には資料がこれでもかと積まれている。

 これもおそらくウチの騎士たちが整理した結果このように積まれているのであり、元々はもっと悲惨な状況であったであろうことが手に取るように分かった。

 

 資料も本来当主がすべき自領に関する書類ばかりで、俺の期待した魔道具の製作や竜との接触に関する何かは全く見受けられない。

 エンペンのように引き出しに何かあるかも、と期待して上から順番に開けてみるが、ペン用のインクに印章などなど、これまた政務に扱うものばかりが収められていた。

 

「……トールスがグランダル領を出てから少なくとも四年以上は経過しているはず。最近の領地運営は一体どうしているんだ? ……この月日……まさか、定期的に自領へ帰っていたのか?」

 

 呆れ半分、困惑半分に部屋を見て回る。

 エンペンの部屋はまさに私室と言った感じで生活感があったが、この部屋にはそれが全く見られない。

 トールスをトールスたらしめるような、そう言う物がどこにもないのだ。

 ……これでは歪むなという方が難しいと思えてしまうほどに。

 同情するつもりはないが、客観的にこの状況はあんまりなものだと思う。

 

 そんなことを考えながら、何気なくクローゼットに手を掛けた。

 エンペンの部屋と同様にたくさんの服が収められているその収納は一見すれば普通に見える。

 しかし、ある部分だけ少し不自然に服がかさばっているところがあった。

 

 そこの服をかき分けてその奥を覗いて見れば、何やらひものような物が垂れ下がっている。

 

 こういうものは……。

 

 俺は直感の任せるままにそのひものような物を引いてみた。

 すると――

 

「……ここを調べた騎士たちにはあとで説教をしてやらなければな」

 

 部屋に備え付けられたクローゼットの上部で物音がしたかと思えば、ガチャリというような何かが開くような音も聞こえてくる。

 どうやら、想像通り隠し部屋があったようだ。

 

 服を退かし、クローゼット上部から上へとつながる空間へと昇る。

 

「ほう……これは……」

 

 上がったその先は、部屋というより天井裏のような空間になっており、灯りはなく暗い。

 だが、下のトールスの部屋以上にトールスという人間を感じさせる、そんな空間だった。

 

 そんなくらい空間の中心には世界観にそぐわないSF風な縦長のカプセルが置かれており、その中に、なにやらひし形の立体が浮いている。

 そして、その周りにはまるで失敗作とでも言うかのように、乱雑に魔道具のような何かが投げ捨てられている。

 

 間違いない。

 これは、魔道具を製作できる何かだ。

 そしておそらくこの散らかったものは製作の失敗作と言ったところだろう。

 

 原作プレイヤーとしてはこんなに世界観にそぐわないようなものがあるとは思えないが、実際に目の前に現れてしまえば納得するほかない。

 さて、後は魔道具製作を決定づけられる証拠として、これが使えれば良いのだが……。

 

 慎重にそのカプセルへ近づいて、辺りを確認する。

 すると、足元に何やら見覚えのある紋の付いた一通の封筒を見つけた。

 

「この紋は……なるほど。なんとなく色々が見えてきた気がするな」

 

 拾い上げたその封筒に記されている紋はマーデン家の物。

 そして差出人の名前は――ルーカス・マーデン。

 

 エンペンの日記に引き続き、ここでもお前の名前を目にすることになるとはな。

 さすがはファレスルートのバッドエンド最大の原因になる男だ。

 こう言う裏工作で原作でもファレスを陥れていたのだろうな。

 まあ、原作のファレスは()()されても仕方がない性格をしていたのだが……。

 

 だが、ここは原作ではない。

 もうここは俺にとっても現実の世界。

 俺はゲームのファレスではない。

 貴様が何を企んでいようと、その悉《ことごと》くを正面から叩き潰してやろう。

 

 思わず溢れそうになる魔力を制御しながら、俺は封筒の中身へ目を通していった。

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