The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百四十一話 竜の王と色欲の英雄⑪

 ルーカスが学園に到着した頃、既にベリルは学園の演習場の中心でルーカスのことを待っていた。

 ベリルとて愚かではない。

 当然、ルーカスがグランダル家と結託していたことは知っているし、魔法の影響にあったことにより情状酌量の余地ありとして、特に不自由なく釈放されたことも聞き及んでいる。

 

 だが、尚もベリルはこの場には誰も連れてこなかった。

 

 ルーカスがこの密談に最後の活路を見出しているのと同じように、ベリルもまたこの密談で意を決しようとそう決めていた。

 

 演習場入口から微かな足音が響く。

 広大な敷地に自分以外は誰もいないおかげもあって、その音は明確に、くっきりとベリルの耳に届いていた。

 

「これはこれはベリル殿下! お待たせしてしまったでしょうか?」

 

「いや、待っていないよ。こっちこそ、急に呼んでしまって悪かったね」

 

 媚びるような口調のルーカスに自然体でそれを迎えるベリル。

 ルーカスもまた、演習場内には一人の従者も連れて来てはいなかった。

 

「して、殿下? 今日はどのようなご用事でお呼び出しを? 私たちの間に直接の面識はなかったと思うのですが」

 

「ああ、そうだね。でも、君から貰った手紙に心を動かされてさ。あの一件以降、僕にお見舞い以外の連絡をして来たのは……先生以外だと君だけだったから」

 

 少し遠くを見つめてベリルはそう口にした。

 

「そうなのですか? 薄情なものですね。殿下はあんなに大変な目に遭いましたのに」

 

 器用に同情する表情を作りながら、ルーカスはあたかも自分も同じ被害者であると同調してみせる。

 

「薄情? それは少し違うと思うよ。皆の判断が正しいのさ。こんな僕が次期皇帝だなんて、ふさわしいはずがない」

 

「何をおっしゃいますか! 殿下はこれまで日々の努力を欠かされていなかったではありませんか!」

 

「……ははっ、お世辞が過ぎるよ。それじゃあ君は、僕がこれまでに何をして来たか言えるかい?」

 

「そ、それは……」

 

 いつも通り、相手を煽てて良い気にさせるつもりだったルーカスはまさかの切り返しに窮してしまう。

 

「ははっ、良いんだ。実際その通り、僕は現皇帝の元に生まれたというだけで、王太子として何か成し遂げた訳でもない。実績、実力ともに備えた先生が……ファレスが同世代にいる以上、僕は彼が次の皇帝になるべきだと思っている」

 

 だが、ベリルはそんなルーカスを気にした様子もなく、淡々と本心から、誰もがそう思っているだろう? とでも言うように語った。

 

「…………ファレス・アゼクオン、ですか。殿下もまた、彼の本性を知らずに騙されているようですね」

 

 しかし、ルーカスは違う。

 現在、表に出てきている彼はルーカスであって、ルーカスではない。

 原作『マーチス・クロニクル』を知る、一人の廃プレイヤーだった。

 

「ファレスの、本性? 確かに彼は少し口が悪かったり、態度が大きいところもあるかもしれないけど、それもあの実績あっての物だろう? むしろ貴族としては正当なものだと思うけどね」

 

「まあ、殿下がそう思ってしまわれるのも理解できます。どういう訳かこの世界の彼は隠し事が上手いようですから。ですが……本当の彼は、同い年のメイドを苛め抜き、気に食わない相手は陰で蹴落とす。問題を起こしても家の力で何とかしてしまうという悪辣極まりない男なのですよ」

 

 ルーカスのよくわからない言い草に頭上に? が浮かぶベリルだが、ルーカスがファレスを嫌っているのであろうことは理解できた。

 そして……今日、ここに一人で来たベリルにとって、それはそれだけで十分なものだった。

 

「そうか……ルーカス。君の考えは良くわかった」

 

「おお! 分かっていただけましたか! ならばぜひ私と協力して、あの悪辣なファレス・アゼクオンを打倒しましょ――」

「残念だけど君にはここで消えてもらうよ。目的のためって言うのもあるけどね。それ以上に、僕とメーディアを害した君を僕は許すつもりはない!」

 

 ルーカスが最後まで言い切る前に、言葉を重ねさらに魔法を畳み掛ける。

 それはあの日、ファレスに教えられた戦い方。

 必殺の魔法ではなく、必殺のパターンに相手を持ち込むこと、それをベリルは不意打ちという形で実践してみせたのだった。

 

「悪いとは言わないよ。僕の計画には君の死、もしくはそれと同程度の怪我を負わせることが必要だから。ファレスを皇帝にするためなら、例え彼がそれを望まなくても、僕は自ら悪役になる!」

 

 倒れ伏すルーカスに向かってか、それともこれからの未来の自分に向けての宣言か、どちらかはベリル自身も分からない。

 だが、確実に賽は投げられた。

 あとは鬼と出るか蛇と出るか――

 

「……チッ! 無能の癖に小賢しいことしやがって!」

 

 ルーカスに背を向けたベリルの耳にそんなあり得ない声が聞こえて来た。

 驚愕に振り返ればそこには無傷で立つルーカスの姿があった。

 

「……やっぱり僕の魔法の才能はこの程度なんだね」

 

 しかし、立ち上がったルーカスの姿をその目に収めても、ベリルに焦りはなかった。

 この程度の理不尽は既にファレスで経験済みだった。

 

「ハッ! 残念だったな。俺に不意打ちの魔法は効かないんだよ! 何せ俺には『暴食』の魔法があるんだからな!」

 

「……知らない魔法だね。だけど……僕のやることは変わらない。不意打ちが効かないなら、正々堂々君を殺すだけだ」

 

 お互いに半歩程引き合いながら、戦闘態勢に入る。

 

「馬鹿を言うな! お前ごときが俺を殺すことなんて出来るはずがないんだよっ! 何せ、弱さに絶望し、指示宝珠の力に頼っても、出来たのは教師一人と婚約者の命を奪うことだけ。聞くところによれば両者無抵抗なところを殺ったらしいな? そんなクズにこの俺が負ける訳ないんだよっ!」

 

 先ほどまでとは打って変わって、煽てやお世辞の一切ない、丁寧な罵倒を口にしながら、ルーカスが腕を振るう。

 すると、整えられていた演習場の地面に地割れが走り、ベリルに目掛けて鋭利な刃となって迫りかかった。

 

 ベリルはそんな刃を同じように土魔法で生み出した分厚い壁によって回避し、攻勢の手を緩ませるために着弾個所を分けた土弾を放った。

 だが――

 

「ハァ……だから、言っただろ? 俺には魔法は効かないんだよ! 俺の『暴食』は魔力を食らう。並程度の魔力しか持たないお前の魔法じゃ何百年経って俺には通じないんだよっ!」

 

 自慢げに勝ち誇るように自身の魔法を語るルーカス。

 

「さっきの君は不意打ちは効かないと言っているように聞こえたんだけど?」

 

「ハッ! それはただの理解力不足だろうよ」

 

 その間もベリルはルーカスに向けて魔法を放ち続ける。

 一点突破を図ってみたり、その背後に生み出した土弾で背中を狙ってみたりと、多彩な攻撃を繰り出した。

 

 しかし、それでも――

 

「効かない! 効かない! くだらないな! ……だが、その目付きどこかあいつと同じ目をしているようで腹が立つな」

 

 ルーカスには届かない。

 着弾前にまるで闇に呑まれるように魔法が吸収されてしまう。

 

「あいつ……と言うと、もしかしてファレスかい? だとしたら、光栄だね」

 

 だが、ベリルはまだ余裕を崩さない。

 この感覚にも覚えがあるのだ。

 あの時は二人掛かりで、それでも一歩も届かなかった。

 その経験があるから、ベリルはまだ焦らない。

 

「その余裕そうな態度も癇に障る。だが、いつまでその余裕が続くんだろうな?」

 

「君がいくら不倒でも、僕が折れることはないよ。もっと理不尽な存在を知っているからね。それに僕は君を殺すと決めた時点で、自分が死ぬことも恐れていない」

 

 確かな覚悟の元にわずかな笑みすら浮かべて宣言するベリル。

 そんなベリルにルーカスの攻撃の手が少し緩くなった。

 

「おっと、覚悟の勝負では僕の勝ちかな?」

 

 その隙にベリルはここまでで一番多くの魔力を込めた一撃を放った。

 その魔法は鋭く速く、ルーカスの顔を捉える――その直前でもう何度目になるか分からない闇の中へと消えていった。

 

 ルーカスの顔が一瞬隠れる。

 そして、再び現れたルーカスの顔は……酷く、凶悪な笑みを浮かべていた。

 

「お前がそこまで覚悟をしていたとはな……。ならば、ここでお前は殺さずにお前の目の前でお前の婚約者を嬲り殺しにしてやろう! ハハッ! そうなってもお前は耐えられるのか?」

 

 ニヤリと歪んだ笑みを浮かべるルーカス。

 その狙いはもちろん、ベリルの動揺だった。

 しかし――

 

「……なんだと?」

 

 ルーカスが踏み抜いたその地雷は覚悟を決めたベリルにとって、唯一不発弾とならなかった特大の地雷だった。

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