The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~ 作:嵐山田
唖然として固まってしまったセレスティアとクインの手を引いて、俺たちはグランダル邸の外へと出て来た。
もう既に一日が過ぎているようだが、眠っていたサラたちはともかく、俺も時間の感覚がずれている感じはしなかった。
周りでは、アゼクオンの騎士たちが慌ただしく帰還の準備を進めており、あちこちでその姿を確認できる。
一方、元よりこの地に住んでいたグランダル領の民たちは不安げに、まるで恐ろしい物でも見るかのようにこちらを見据えている。
偶に混ざる悪感情がたっぷりと込められた視線はグランダル家と連動していたであろう男爵家、もしくはグランダル家の力を借りて男爵家へとのし上がろうとしていた野心家たちの物だろうか?
まあ、どちらにせよ、今後彼らが直接被害を被るようなことにはならないだろうが、ここは一つ。
「聞け! グランダルの民よ!」
風の魔法に声をのせて、街中へ俺の声が行き渡るように声を張り上げる。
すると、この少し高い位置に座するグランダル邸から見渡せる範囲だけでも多くの人々がこちらを向いて足を止めた。
「俺の名はファレス・アゼクオン。先の光景は皆も見ただろう? 俺はこれより王都へと戻り、ベリル・グラーツィアと打ち倒し、現帝政を正面から壊すつもりだ」
こんな情勢下でなければ反逆罪にも捉えられそうな発言に、街中でどよめきが起こった。
だが、俺はそんなことは全く意に介さずに言葉を続ける。
「俺のことは皆も知っているであろう? その上でどちらにつくのか、よく考えるのだ。俺が王都に戻れば、この地は一時的に領主の居ない状態となるであろう。だが、そんな無秩序は長くは続かん。しばらくすればエンペン・グランダルは戻ってくるだろうが、その時まではこの地に住む皆がこの地を治めなければならない。……この意味が分かるな?」
俺は言葉をそう締めくくり、魔法を止めた。
すべては語らない。
だが、真に賢い者ならば、その意図は分かるだろう。
グランダル家は腐っても公爵家だ。
今回の場合、直接的な関与をしていないエンペンは爵位の降級はあっても、身体的に何らかの刑罰を受ける可能性は少ないだろう。
つまり、領地を没収されたノウ家とは違い、グランダル領は今後も残るのだ。
しかし、そうなるのにはまだまだ時間がかかる。
これまでは金にものを言わせ、数多くの男爵家と連動してその地位を保っていたグランダル家だが、今後はそうもいかない。
そのための新たな権力基盤を民、自らで構築しろと俺はそう伝えたつもりだ。
俺が頂点に立った時、先日までのようなグランダル家ならば必要はない。
これはある意味で布石であり、一種の賭けでもある。
まあ、少しはエンペンへの配慮もあるのかもしれないが。
「さて、グランダル領でやることはこれで終わりだな」
俺が背後を振り返れば、先ほどまで唖然としていた二人も落ち着きを取り戻し、どこか誇らしげな表情をして俺の方を見ていた。
すると、そんな女性陣を横目に見ても、特に何かを気にする様子もないファフニールが、ずいと前に進み出て聞いてくる。
「して、ファレスよ。我を馬車代わりにすることは構わないが、我はどこで竜の姿へ戻れば良いのだ? 自慢ではないが、ここで我が竜体へと戻ればこのあたり一帯はそれだけで更地となってしまうぞ」
珍しく真面目な表情でファフニールが言った。
なるほど、確かにその通りだ。
だが、それは何も対処せずにこいつが竜へと姿を変えた場合の話。
ここには俺がいるのだ。
「その程度の影響をこの俺がかき消せないとでも? 物理的な干渉ならともかく、そうでないのであればこの辺り一帯を俺の空間で包み込んでしまえば何も問題あるまい」
「カカッ! まだまともに使ったことのない空間にそこまでの自信を持つか! 良い! それでこそわが友と言えようぞファレス!」
「フッ、御託は良い。さあ、見せてくれ、竜王の真の姿をな!」
煽てるように俺がそう言ってやれば、軽く屈んだファフニールが凄まじい音と衝撃波を立てながら上空へと跳び上がった。
それを合図に俺も全力で魔力を解き放つ。
大罪呪宝も加わって、さらに増大された俺の魔力は街の大通りを行き、路地で別れ……尚もどんどんと広がり一瞬にして街の全域へ行き渡った。
それを感覚で理解した俺はファフニールに習った通り、行き渡らせた魔力を押し固めるように、慎重に、だが、迅速に空間の構築をする。
「全身にっ……! ファレス様を感じますっ♡」
その横でサラは一人頬を染め身をよじる。
サンは自由に魔法を使えないであろう環境下であると言うのに、どういう訳か心地の良さそうな表情をしていた。
そんな二人を視界の端へ収めながら、俺は強く足を踏み鳴らした。
そうすれば、この空間内に若干量残っていた自然な魔力が、全て俺の魔力に置き換わり、街全域を覆うドーム型の俺の空間が構築された。
それとほぼ時を同じくして、上空ではこれまた凄まじいまでの魔力が解放された。
空間の外側に、まるで砲弾の連射を受けているかのような衝撃が走る。
そして、それまで街に届いていた月明かりが何かの影になり、辺り一帯は完全な暗闇に閉じ込められた。
「顔を上げろファレス。これが竜王の真の姿だ!」
そんな俺たちの元へ何かの雄叫びかのような声が届く。
声の通りに顔を上げてみれば、そこにはかなりの高度にいると言うのに、視界にその全身を収めきれないほどに巨大な、正しく竜の王たる者の姿があった。
「英雄の凱旋にはこれ以上ない姿だな」
俺は空間の外側に感じていた変体における魔力の衝撃波が止んだことを確認し、空間を解除してからそう答える。
「カカカッ! そうであろう! この姿になるのはもういつぶりか……人の姿も悪くはないが、やはり我はこうでなくてはな!」
久しぶりに竜体に戻ったファフニールは気分が良いと言わんばかりにその尾をグッと伸ばし、伸びをして見せる。
やはり、竜たちにとっては人の姿になるというのは窮屈なのだろうか?
……なんて、一瞬くだらないことを考えてしまった思考をすぐに切り替えると、俺は素早くしゃがみ込み、足を抱き込むようにしてクインとサンを抱き上げた。
「きゃ!」
「わっ!」
二人の可愛らしい悲鳴を聞きながら、サラとセレスティアの方を振り返り告げる。
「二人は風の魔法でファフニールの背まで跳べるな?」
クインの方がひとつ年上であるとは言え、魔法の腕は俺たちの中では劣る。
サンについては水魔法以外はまだ習得していないため、合理的に考えて俺が二人を抱えるのが正解だと判断して、こうしたのだが……。
「………………誠に遺憾ですが、はい」
「贔屓は感心しませんわ。もちろん、問題はありませんが」
サラとセレスティアから恨みの籠った視線を向けられる。
「……では、王都へ凱旋と行くぞ」
贔屓をしたわけではないと割り切って、二人の視線には触れず、俺はそれだけを言うと、クインとサンを抱えたままファフニールの背を目掛けて大きく跳び上がった。
サラとセレスティアも不服そうな顔こそしていたが、それ以上は何か言うこともなく俺に少し遅れて跳び上がる。
「――っ!」
「わぁっ!! すごーい!」
ギュッと目を瞑るクインと、跳び上がる最中も下へ目を向け楽しそうにしているサン。
その顔には一切の恐れも見られない。
そして数秒の跳躍を終え、俺たちはごつごつとした漆黒の鱗に包まれた竜の王ファフニールの背へと着地した。
「どうだ! 我が背は!」
自身の背に跳び乗った俺たちに、サン以上にテンションの高いファフニールが乗り心地を聞いてくる。
「……快適、とは言い難いな。まあ、それも、このままでは……だが」
固いうえに、飛行時の空気抵抗を減らすために均一になっているファフニールの背は、いくら鱗の一枚一枚がごつごつしているとは言え、少しでも気を抜けば足を滑らせてしまってもおかしくない。
ただ、それは何もしなければの話。
先ほどの余派と同様に対処すればよいだけのことだ。
「皆、少し俺に寄ってくれ」
俺がそう声を掛ければ、少しで良いと言ったのに、四人がこれでもかと身体を近づけて来る。
だが、俺はそんな誘惑にも集中を切らさずに再度空間を展開する。
今度はドーム型ではなく、長方形になるように構築していく。
イメージするのは竜の上に家を建てるような、そんな光景。
ファフニールの空間で時間の流れが違うと言われたときに思い付いた。
この空間構築という技術は応用次第でどうにもできるのではないか、と。
今回はそんな応用として、俺たち全員が足場の良し悪しに関係なく普通に過ごせるような空間をイメージしてみたのだ。
床の強度を確認するように、軽く足を踏み鳴らしてみればそこには上が二、三メートル、横に十メートルないくらいの長方形の平屋のような空間を構築することが出来た。
確認のために、皆から離れて端まで歩いてみれば――
「えっ!?」
クインが驚きの声を上げる。
それもそのはず、クインの目からは今の俺はファフニールの鱗ではなく、その上、完全に空中のはずの場所を歩いているのだ。
「よし、これであとは飛行時に発生する風やら何やらを受け流してやれば、快適な空の旅になるだろう」
「お兄ちゃん凄い!!」
喜んで飛び跳ねるサン、恐る恐るファフニールと接していない部分へ一歩を踏み出すクイン、サラはどこからともなく人数分の椅子を取り出し、セレスティアはいち早くそれに座って優雅にたたずんでいる。
「我が背の上でそのような空間を構築するとは! カカッ! 考えても見なかったわ!」
背に乗っているため表情は分からないが、声だけでも現状を楽しんでいることが伝わってくる。
そしてひとしきり笑った後でファフニールが最後の確認をして来た。
「さて、それでは準備は良いか?」
俺はサラの用意してくれた椅子に腰を掛け、ゆっくりと左右を見渡す。
そうすれば、四人とも「問題ない」というようにこちらへ頷いた。
「ああ、行くぞ。目的地は王都、学園の野外演習場だ」
こうして、俺たちはグランダル領を発ち、ベリルの待つ学園へと向かうのだった。