The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百四十六話 皇帝たる資格③

 ――学園、野外演習場。

 

 ファレスとの正面対決を控え、戦意を高める騎士たちだったが……落ち着いて現状を確認すれば、今の自分たちはファレス・アゼクオンに対して宣戦布告をしただけであり、ファレスがそれに応じるかどうかは分からないということに気が付いた。

 

「あの、ベリル殿下。やる気はもちろんあるのですが……」

「俺たちはいつまでここで待てば良いのでしょうか?」

「ファレス・アゼクオンは本当にここへやってくるのでしょうか?」

 

 一人が疑問を口にすれば、他の騎士からも色々な懸念点が次々と口を吐いた。

 

 そんな様子の若い騎士たちを見て、隊長であるグレイグは頭を抱える。

 本来ならば、上の決定に一騎士が口を出すなどあってはならないことなのだ。

 もし、何か意見を言うとしてもそれは確認を取り、許可を得てから行われる進言でなくてはならない。

 

 そんな基礎中の基礎も忘れてしまったのかと、グレイグが一歩踏み出し、説教をしようとすれば、その様子に目ざとく気が付いたベリルがそれを手で制した。

 

「(わざわざ高まっている戦意を失わせる必要はない。ここは僕に任せて)」

 

 グレイグの方に視線をやり、そんな意志を伝えると、流石は皇帝の護衛をしていただけのことはあるのだろう。

 ベリルの言葉をほぼ完璧に受け取り、踏み出した一歩を引いた。

 そしてその代わりに今度はベリルが一歩前へ出る。

 

「皆の疑問もよくわかる。でも、ファレスは間違いなく来るよ。だけど彼が来るのをただ待つだけってのは確かに退屈だ。だから、この半分には少し動いてもらおうかな」

 

 そう言うベリルに若い騎士たちはファレスへの絶対の信頼とそれでも抗う意志の強さを見た。

 そんな姿に騎士たちの戦意はより強まっていく。

 

 ここに集まった若い騎士たちにとって、ベリル・グラーツィアとは、仕える王ではなく、貴族だけど気取らない良い人、だった。

 

 帝国の近衛騎士隊とは隊長であるグレイグがそうであるように、平民出身の者が多く在籍している。

 無論、長男長女ではなく、家より国に仕えたいという貴族家出身の奇特な者もいるが、貴族が数多く集まる王城では、そんな平民出身者たちの団結力は強い。

 

 天下の皇帝モラク・ルー・グラーツィアのお膝元でいちいち身分差を笠に着て、嫌がらせをするような者は騎士たちの中にはいないが、それでも生育環境の違いから、平民出身者は出身者同士で固まることが多い。

 そのため、彼らの中には何となく貴族家出身者には苦手意識があった。

 そして、誰も口には出さないが、平民出身者と貴族家出身者の間には透明な、だが確かな溝が生まれていた。

 

 しかし、このベリル・グラーツィアという人物はその溝をまるでないものであるかのように簡単に乗り越えて来た。

 貴族どころか王城勤めの役人すら滅多に近づかない訓練場に頻繁に顔をだし、平民出身、貴族家出身、に関係なく声を掛ける。

 

 偶に魔法の手ほどきを頼んでくることさえあったほどだ。

 さすがに平の騎士に務まる仕事ではないと、その任は当時隊長になりたてだったグレイグが務めることになったが、それ以降もベリル・グラーツィアはその貴族らしからぬ態度で騎士たちに接し続けた。

 そんな関係はベリルが学園に入学して以降も続き、ベリルが年齢を重ねるにつれて、一方的に声を掛けられる関係から、騎士が普通に話しかけられるような関係にまで進展した。

 

 その頃には気が付けば近衛騎士内の見えない溝もいつの間にかきれいさっぱりに埋まり切り、騎士たちにとってベリル・グラーツィアは大恩ある人へと成り代わっていた。

 

 だからこそ、先日の事件には胸を痛めた騎士が多かった。

 いつの間にか自分たちの悩みを聞いてもらうまでの関係に進展していた殿下が、人知れず大きな悩みを抱えていたことに気が付けなかったから。

 そして、そんな殿下に自分たちが何かをする前に、ファレス・アゼクオンの手によって事態は解決されてしまったから。

 

 だから、今、この場に集まっている騎士たちは今度こそという意気込みで戦意が高まっている。

 ベリルの言う作戦がどれだけ無理難題であろうと、有無を言わさずに実行するだけの戦意があった――

 

「半分には……そうだな。王都にあるアゼクオンの別邸を押さえに行ってもらおうかな」

 

「はい! ……え?」

 

 ――それが帝国一の武門であるアゼクオン家門を押さえるという無理難題を通り越して、無理な作戦でさえなければ。

 

「大丈夫、大丈夫。当主であるクロフォード・アゼクオンの不在は確認済みだから。スジェンナ・アゼクオンの方はいるかもしれないけど、皆のことを信じてるよ」

 

 屈託のない笑みを携え信頼の眼差しを向けてくるベリルに騎士たちは――

 

「……はっ!」

 

 ――腹をくくって敬礼をして見せた。

 

 

「殿下……あの騎士たちも実力は確かですが、流石にアゼクオン家門を押さえるとなると……。それに、確か情報では既にカーヴァリア家を始めとする有力家が連動しているという話も」

 

 大体約半数の騎士をアゼクオン別邸に派遣した後で、演習場の観戦席へと場所を移したベリルは隣に立ったままのグレイグからそんな懸念を聞かされていた。

 

「分かっているさグレイグ。でもいいんだよ。アゼクオン家だって帝国貴族、自国の騎士を殺すわけにはいかない。それに少しでも足止めが出来れば彼らの仕事は十分だ。僕たちの戦いはそう長くはかからないからね」

 

 だが、そんなグレイグにベリルはまるでファレスがここにいつ到着するのかが分かっているかのような反応を返す。

 現時点でグレイグが確認している情報ではファレスはまだグランダル領にいるはずだ。

 

 いくら足の速い馬を使ったところで半日で戻って来れれば良い程度の距離はある。

 先ほど記録の透板を割ってから、まだ一時間も経っていないこの時点からでは、とてもではないが足止めの意味はない。

 

 だが、隣りに腰を掛けるベリルの目にはその作戦が失敗する不安を抱えているようには見えない。

 

「殿下が、そうおっしゃられるのなら――っ!?」

 

 グレイグがそう言った瞬間、尋常ではない魔力の波が王都の地を駆け抜けた。

 その魔力を捉え逃すものはもちろん実力者揃いの騎士の中には居ない。

 全員がその波が向かってきた方向へ向き直り、魔法を構える。

 

 だが、そんな緊張状態の中でもベリルは平静を保っていた。

 

「皆、そう警戒しなくても大丈夫だよ」

 

 立ち上がり、一人、騎士たちとは反対方向を、騎士たちの方を向きながらベリルは落ち着くように指示を出す。

 

「さて、移動して来て早々にだけど、もう一度下に戻ろうか」

 

「なぜでしょうか殿下? いや……まさかっ!?」

 

 騎士の一人がベリルの判断に疑問を呈した後で、ハッと気が付いたように口を開く。

 そして、その続きをベリルが引き継いだ。

 

「ああ、そのまさかだよ。来たんだ。ファレスが」

 

 先ほど、魔力の波を浴びた時以上の緊張感が一瞬にして騎士全員に伝播する。

 そんな緊張状態に拍車をかけるようにベリルは畳みかけた。

 

「もう一度言っておく。君たちは露払いを頼んだよ。ファレスは僕とグレイグでやる。もし手を出そうものなら……」

 

 だが、その時だった。

 

「私も! 私も一緒に戦わせてください! ベリル様!!!」

 

 下階、演習場の中心側から声が響く。

 必死に、これでもかと言わんばかりの全力の声量。

 彼女からは聞いたことがないほどの絶叫。

 

 だが、その声をベリルが間違えることはない。

 

「……メーディア!? どうしてここにっ!?」

 

 それまで王としての仮面を被っていたベリルの余裕が一気に崩れる。

 

「先ほどの光景を見て……居ても立っても居られず、姉の制止を振り切ってまいりました。お忘れですか? 私は貴方のペアであり、パートナーです。あの日、ベリル様がいらっしゃらずに出来なかった最後の戦いをここで。今度こそ、一泡を吹かせてやりましょう!」

 

 あたふたとするベリルにメーディアは満面の笑みを浮かべながら告げる。

 

 その表情や言葉は少し前とはまるで違うものになっている。

 だがそれはメーディアが別人になってしまっただとかそう言う訳ではなく、死という人の身では決して超えられない壁を越えたから、もしくはトールスという障害が消え、本来の自分を取り戻したからではないだろうか。

 

「……メーディア」

 

 騎士たちを連れて階段から戻るつもりだったベリルは観戦席の柵を跳び越え、演習場へと降り立つと彼女の元へ駆け寄った。

 

「メーディアっ!」

「ベリル様っ!」

 

 この三年間、ずっと微妙な距離感だった二人の間の距離が遂に零になる。

 

「メーディア、一緒に戦ってくれるかい?」

「はい! 今度こそ、二人で先生を超えましょう!」

 

 ベリルとメーディアはそれぞれをきつく、きつく抱きしめる。

 

 そして、そんな光景を目の前で見せられた騎士たちは――

 

「うおおおおおおっ!!!」

 

 これ以上ないほどに戦意を高め、演習場へとベリルと同じように飛び降りた。

 

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