The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百四十八話 皇帝たる資格⑤

 ファフニールの背に乗ったまま、王都上空を駆け抜けていけば、どうしてか地上から俺の名を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「ファレス様万歳!」

「ファレス様万歳!!!」

 

 そんな声を聴いていれば、まるで、年と性別が様々なサラがたくさんいるような眩暈を覚えそうな感覚に包まれる。

 そんな俺の困惑はセレスティアたちにも伝わっているようで、皆怪訝そうな顔をしていた。

 

 ただ一人、サラだけは「ようやく気付きましたか。全く……」なんて、まるでこの状況こそが正しいものだとでも言うかのような態度だった。

 

 だが、もう、他のことに気を取られている場合ではない。

 目の前には優雅にそびえる王城が立ちはだかっている。

 こうして上空から見てもその存在感は計り知れない。

 だが、一先ずの目的地はこの先だ。

 

 王城の北側、まるで城の防壁になるかのように作られた堅牢な造りのその建物こそ、今の俺たちの目的地。

 

「ファレスよ。あそこで間違いないのだな?」

 

「ああ、上空まで頼むぞ」

 

「分かっておる。降下は必要ないのだな?」

 

「ああ」

 

 ファフニールとの短いやり取りが終わると、すぐ目の前の学園に向けてファフニールは速度を上げた。

 

 すると、数秒もしないうちに俺たちは学園演習場の上空へとたどり着く。

 

「では、我の出番はここまでか?」

 

「ああ、助かったぞ」

 

「カカッ! 気にするな。……それよりも、勝て。そして次は王として酒でも交わそうぞ」

 

「フッ、誰に物を言っている。だが、それは悪くない提案だ」

 

 俺はファフニールの誘いを承諾すると、皆を自分の近くに再度集め、空間を解除する。

 すると先ほどまで遮られていた風が吹き抜け、俺の外套を揺らした。

 

「では、行くとしよう」

 

 今更、号令の必要もない。

 今回は全員に風の魔法を行使して、皆まとめてベリルの待つ演習場へと降りていく。

 

 高すぎるあまり、捉え切れていなかったその姿が徐々にくっきりとした輪郭を帯びていく。

 

 ……ベリルだけでなく、メーディアさんにあれは近衛騎士隊長グレイグとその部下か?

 なるほど。

 総力戦と言う訳だな。

 

 降下していくにつれてはっきりとした視線の先にはメーディアやグレイグと言った顔見知りの姿もあった。

 尤も、その様子は友好的なものではないようだが。

 

 こちらの声が届く範囲までゆっくりと降りてきたところで俺は満を持して口を開く。

 

「数日ぶりだな。ベリル・グラーツィア」

 

「ああ、この前は情けない姿を見せて悪かったね」

 

 軽い口調のやり取り。

 だが、今の俺たちの間に親しさを感じるような柔らかさは存在しない。

 

「先に行っておく。降伏するならば今だけだ。ここから先を望むというのならば、いくらお前が帝国の皇子だとしても、関係なく潰す」

 

 サラたち全員を着地させ、対等な視線でベリルと向き合ってから、一応降伏の勧告をする。

 だが、もちろん返ってくる返事は――

 

「むしろ、それを望んでいるんだ。本気の君とぶつからなければ意味がない」

 

 一蹴の言葉。

 決まり切ったやり取り。

 これでお互い遠慮なくやり合う準備は整った。

 

「そうか。ならばベリル、お前はお前たちには歴史の礎になって貰う」

 

「ハハッ! それは光栄だね! なら、そんな歴史の象徴に傷をつけた礎として、後世に名前を残すとしようかな!」

 

 ベリルはそう言い放つと全身から魔力を解き放った。

 重く、のしかかるような重圧的な魔力。

 そして、どこか似た感覚を覚える。

 

 ……これは、大罪魔法?

 

「ファレス、君の相手は僕とメーディア、それからグレイグでさせてもらうよ」

 

 一瞬、俺がベリルの魔力に気を取られている隙にグレイグが右手を振るった。

 足元に大きな亀裂が走り、俺は咄嗟に避けたものの一時的にサラたちとは分断される形となってしまった。

 

「「「ファレス様っ!」」」

 

 サン以外の三人の叫び声が響く。

 

「気にする必要はない。三対一程度ハンデにもならない! そちらの騎士の相手は任せたぞ」

 

 心配を掛けまいと即座に指示を出すが、その隙を逃すまいとグレイグとメーディアの風の魔法が強襲する。

 

「――チッ!」

 

 メーディアの魔法も中々の技術だが、グレイグの魔法の精度は俺が今まで見てきた中でも最高レベルだった。

 適当な魔法で迎え撃とうとしたところでその緻密なまでに計算された魔法を確認し、俺はすぐに対応を魔剣リジルによるものに切り替える。

 

「……良い魔法だな」

 

「かの『煉獄』様に評価いただけるとは恐れ多い」

 

 リジルで魔法を斬り払いながら俺が口にした呟きに律儀に反応を返してくるグレイグ。

 だが、その攻撃の手は休まらない。

 次々に俺でも干渉が難しいほどの魔法を繰り出してくる。

 

 さすがは帝国最強の騎士と呼ばれていただけのことはある。

 十二歳の頃にグレイグに戦いを挑んでいれば、負けもあり得たかもしれない。

 

 しかし――

 

「確かに良い魔法だが、それだけだな。魔力量で圧倒的に上回る俺が、今の貴様に負ける道理はない」

 

 俺はグレイグ目掛けて同じような風の魔法を放つ。

 

「……? その程度の魔法なら私の相手にも――っ!?」

 

 そんな俺の魔法を相殺しようとグレイグも魔法を放った瞬間に、彼の表情は信じられないものを見たかのような驚愕に包まれた。

 

「その程度? 馬鹿を言え。その魔法は貴様らが一生かかっても追いつくことのできない領域にあるのだぞ?」

 

 驚愕の表情を浮かべるグレイグに対して、俺は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

 俺のしたことは単純明快。

 グレイグと同じように簡単な魔法に強力な魔力を込めて放っただけ。

 ただ、グレイグの使うそれと俺の使うそれでは威力の幅が違う。

 

 例えグレイグが百の魔力を込めて魔法を放ったとて、俺はそれと同じ労力で千どころか万の魔力を込めることが出来る。

 魔力量を比べるような方法では、俺に勝つことはこの世界の誰にも不可能だろう。

 可能性があるとすればファフニールくらいではないだろうか。

 

 そんなことを考えながら、まずは一人と、残りのメーディアとベリルへ視線を向けようとしたところであることに気が付いた。

 先ほどまでメーディアと連携して魔法を放ってきていたベリルの姿がそこにない。

 

 かと思えば――

 

 俺は咄嗟に訪れた嫌な予感にその場を大きく跳び上がる。

 

 すると、つい先ほどまで俺のいた場所がジュっという嫌な音を立てて焼け崩れた。

 

 ……超高温の熱線? まさか……。

 原作でも情報の少なかったグレイグだが、確かその魔法は水と風の複合である雷に、さらに火を加えた三属性複合で光属性なのではと考えられていた。

 だが、グレイグは先ほど倒したはず……だったらなぜ?

 思考をフル回転させながら、視線を向ける。

 

 するとその先では……まるで俺の魔法を受け止めきったとでも言うように尻餅をつくベリルと、突き出した右手に若干の光を残したグレイグの姿があった。

 

「ハハッ! 本当はもう少し隠しておくつもりだったんだけど、こんなに早くグレイグを落とされるわけにはいかないからね!」

 

「申し訳ございません、殿下。仕留めそこなってしまいました」

 

 ……受け止めたのか? あのベリルが、俺の魔法を?

 

「後ろががら空きですっ!」

 

 その事実に一時呆然とする俺の隙を見逃さずにメーディアさんが魔法を放ってくる。

 再び後手に回ったことで、俺が剣による対処を余儀なくされると、それを見たメーディアさんの口元が僅かに緩む。

 

「必殺の一撃ではなく、必殺を決められる体勢に相手を持ち込む。でしたよね? ファレス先生?」

 

 背後からの強襲に振り向き斬りのような要領で向き合ってしまった俺。

 つまり、今度はベリルたちの側へ背中ががら空きになってしまっている。

 

 そして、そのことに気が付くと同時に俺の背を目掛けて、帝国最強の騎士による最大火力の熱光線が迫ってきていた。

 そんな状況で俺は――

 

「フッ、ハハハハハッ!」

 

 まさか、いくらグレイグが加わっているとはいえ、片手間に相手をしていた彼らにこんなに追い詰められる日が来ようとは……。

 やはり過ぎた『傲慢』は罪だな。

 ただ、それでも俺は『傲慢』を行く。

 

「見事だ。良い連係だったぞ! ベリル、メーディア、グレイグよ」

 

 刻一刻と迫る熱線を背中に感じながら俺は高笑いを上げる。

 

 周りから見た俺は今どのように見えているのだろうか?

 ピンチになっておかしくなった狂人だろうか? それとも死の間際に興奮する変態?

 いや、もはや何だっていい。

 

 今の俺はこれ以上ないほどに高揚感を覚えていた。

 ファフニールやサンの兄である黒竜との戦いでも得られなかった感覚。

 戦闘の臨場感とでも言うかのようなそれが、どうしてか俺を昂らせる。

 

 いや、本当は理由も分かっている。

 

 なにせ俺は『傲慢』なのだ。

 

 そんな俺が最も好む瞬間。

 それは――

 

 俺は熱線には背を向けたまま、軽く足を踏み鳴らす。

 そうすれば、たちまち俺の周囲は『傲慢』の魔力によって押し固められ、俺だけの空間が構築される。

 すると、必殺を確信したベリルたちの連携攻撃の締めとなる熱光線は、俺に当たる寸前に、突如として力を失い消滅した。

 

「「なっ!?」」

 

 驚愕と失意に満ちた表情が彼らに浮かんでいる様が背中越しにも分かる。

 正面に捉えているメーディアさんも「信じられない」と言った様子だ。

 

「そうだ、そう来なくてはな! 戦いとは、相手の自信を慢心を完膚なきまでに叩きのめした者に真の勝利をもたらすのだ!」

 

 ずっと隠していた。

 俺の中に眠る狂気。

『傲慢』の正体。

 

 それは相手のすべてを打ち砕く、非道なまでに完全勝利を熱望するという正しく『傲慢』な欲求だった。

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