The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百四十九話 皇帝たる資格⑥

 構築した空間をさらに広げながら、俺はゆっくりとベリルたちの方を振り返る。

 そこには想像通り完全に自信を叩き折られた二人の姿があった。

 

「さて、良い戦いだったが、これで決まりだベリル」

 

 無警戒にベリルの方へ歩を進める。

 そんな俺に対して、メーディアとグレイグが魔法を放とうとする。

 だが、ここはすでに俺の空間内。

 彼らが魔法を発動することはできない。

 

「一体、何を……」

 

 失意に暮れながらも、まだ魔法を使おうとする気概は流石近衛騎士隊長と言ったところだろうか。

 そんな姿に敬意を示して、俺はその質問に答える。

 

「最近手に入れた技術だ。空間構築と言ってな。指定した空間領域内を自分の魔力によって完全に満たし、自然の魔力を排除することで自分以外の相手に魔法を使えなくするというものだ」

 

「なっ!? 自然の魔力を恣意的に排除する!? そんなことが可能なはず――」

「フッ、流石はファレス。本当に君は僕たち凡人の想像の遥か高みにいるんだね」

 

 グレイグの言葉を遮るように言葉をかぶせたベリルが、諦観を浮かべながら言った。

 わざわざグレイグの言葉に被せたのは仮にも帝国最強の騎士に醜態を晒させないためだろうか?

 だとすればやはり、ベリルは良い王になれる器なのだろう。

 

「当然だ。お前たちに戦い方を教えたのが誰か、忘れたのか? だが、先ほど言った言葉も無論嘘ではない。誇るが良い。この技はこの戦いでは使うつもりではなかった」

 

「……ハハハ。本当に君は『傲慢』なんだね」

 

 そう言いながらベリルは膝を付き、軽く目を閉じて首を差し出す。

 どうやら死ぬ覚悟らしい。

 

 隣に立つグレイグも主に覚悟を見せられて、止めたくとも止められないと言った様子だ。

 背後からはメーディアさんのすすり泣く声が聞こえる。

 

 ……何故だろう。

 先ほどまではこの状況が何よりも心地よかったと言うのに、今は無性に気持ちが悪い。

 完膚なきまでに叩きのめし、全員の自信を奪い、圧倒的優位を見せつけた。

 だと言うのに、どうしてこんなに高揚しないのだろうか?

 

 ……すると、俺の中で膨らみ切った『傲慢』の魔力が萎んでいくのを感じた。

 

 俺はベリルの前に立ち、魔剣リジルを手にかける。

 

 グレイグの拳がグッと強く握り込まれ、後ろからは勢いよく顔を覆ったのか、パチンと乾いた音が響いた。

 だがしかし、ベリルは全く動かない。

 すべてを委ねると言わんばかりに、状況を受け入れている。

 

 俺はそんなベリルの首を目掛けてリジルを振る――その直前で剣を止めた。

 

「……ファレス?」

 

 振るわれた剣によって起こされた風圧を感じてもなお痛みが訪れないことを不思議に思ったベリルがようやく目を開けてこちらを見上げた。

 

「……興が冷めた。この戦いにこれ以上の意味はない」

 

 俺はそんなベリルの顔を見て、自分でもなぜかわからないままに剣を納めると、ベリルの胸に付けられた皇族の証たるグラーツィア家の紋章を奪い取る。

 

「これさえあれば俺の勝ちは証明される。俺が皇帝を打倒するその時まで大人しくしているんだな」

 

 それを口にしてようやく理解してきた。

 いや、理性を取り戻したとでも言うのだろうか?

 これが大罪魔法が大罪魔法たる所以、か。

 

 どうやら俺は戦闘による興奮と『傲慢』の魔力の爆発的な増幅によって、その性質に呑まれかけてしまっていたみたいだ。

 ……まさか、大罪魔法にこんな落とし穴があったとは。

 あのまま『傲慢』に呑まれていたら……。

 その先は俺のよく知るファレスへと一直線だったかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、分断された反対側へ目を向けてみれば――

 

「そ、んな……」

「俺、たちは、近衛騎士、だぞ……?」

 

「だから何だと言いますの?」

「私は……いえ、私たちはファレス様の妻となるのです。最強を冠するファレス様の傍にあろう者が弱く良い道理はありません」

 

 サラの『嫉妬』によって縛り上げられ、セレスティアの雷魔法に全身を焼かれた近衛騎士たちの無残な姿が広がっていた。

 全員、全身がびしょびしょになっているのはおそらくセレスティアの雷魔法によって燃えた衣服などをサンの水魔法を頭から被せて消火したからだろう。

 

「サラ、セレスティア、クイン、サン」

 

 俺は四人の名前を呼びながら、グレイグによって生み出された大きな地割れを跳び越える。

 

「この勝負は俺たちの勝利だ。サラ、騎士たちの拘束を解いてやれ」

 

「かしこまりました」

 

 俺が言えばサラの『嫉妬』の魔法は即座に解除され、支えを失った騎士たちはそのまま地面へと力なく倒れ伏し、「グエッ」だとか「グヘッ」という情けない声を上げていた。

 

「お疲れ様です、ファレス様。……その、大丈夫ですか?」

 

 そうやってサラが魔法を解除している間に、いち早くこちらへ駆け寄って来たクインがどこか不安げな表情を浮かべて聞いてきた。

 

「無論だ。一撃も貰っていない」

 

「いえ、それはもちろん、見ておりましたので……ですが……」

 

 俺は無被弾で戦闘を終えたことを見せつけるように軽く腕を広げて全身を見せたが、どうやらそう言う問題ではないらしい。

 

「だったら――」

「ファレス様!」

 

 俺がそれでは何が不安なんだ? と疑問を口にしようとしたところで少し離れた場所にいたサラとセレスティアが駆け寄ってくる。

 クインもサラたちに労いの言葉をかけるために彼女たちの方を向いてしまい、結局この場ではそんなクインの微妙な反応の意図を聞くことは出来なかった。

 

 

 そんな様子をベリルはメーディアに支えられながらただ眺める。

 

「あはは……負けちゃったね」

「はい……まさか、あんな技術? をお持ちとは、流石は先生ですね」

 

「申し訳ございません。殿下。近衛騎士隊長ともあろう私がおりながらこのような結果に……」

 

 握り締めた拳をブルブルとはた目からでも分かるほどに震わせたグレイグが呟く。

 

 ベリルとメーディアは既に負けを受け入れ、歴史の転換点の目撃者としてファレスの礎となったことを受容しつつあったが、帝国最強の騎士という自負を持っていたグレイグは二重の意味でこの状態を受け入れ切れていなかった。

 

 グレイグとて、本当に勝てると思っていたわけではない。

 自身が進行を務めた魔法披露宴で若干十二歳の少年が全属性の高度な魔法を操って見せた時点で、その才格と今後の成長性には気がついていた。

 

 だが、だが、だ。

 まだあれから四年と経っていない。

 たったの十六年も生きていない青年にここまで叩きのめされるとは思っても見なかったのだ。

 

 グレイグの肩にポンとベリルの手が置かれる。

 主人にたしなめられるとは騎士隊長として情けないことこの上ない。

 だが、グレイグは止まれなかった。

 

「ファレス様っ! ファレス・アゼクオン様っ!」

 

 激情のままに、グレイグは今にもここを去ろうとしているその男の背に叫びかける。

 こんな状況でも敬称を忘れないところは、騎士隊長としての最後の敬意なのかもしれない。

 

 

「……なんだ?」

 

 何となくすっきりとしない感情を抱えたまま、演習場を後にしようとしていた俺は、不意に名前を呼ばれ、思わず振り返ってしまう。

 

 すると、そこには……恥も外聞も捨て去って、ただ己が意を示さんとする一人の男の姿があった。

 

「……ベリル殿下は素晴らしい方です! 普通は気にされないような我々騎士の体調にも気を配ってくださり、訓練後には声掛けもしてくださいます!」

 

 そんな男が唐突に語りだしたのは如何にベリルが優れているか、という話だった。

 

「私が隊長だから、というだけではありません! ここにいる騎士たち全員が、殿下に恩を感じているのですっ!」

 

 おそらく若くして隊長の座を引き継いだグレイグにとって、自分たちに良くしてくれる貴族、それも近衛が使えるべき皇族という存在はそれだけ大きなものだったのだろう。

 そんなグレイグの激白に、サラに転がされていた騎士たちも呼応する。

 

「そうです!」

「あなたがどんなに強くても――」

 

「「「ベリル殿下こそ、次代を担うに相応しい!!」」」

 

 グレイグたちは横で制止しようとするベリルたちに目もくれず、俺たちに向かってそう叫んだ。

 

「負けた分際で、何をっ――!」

「サラ」

 

 そんな騎士たちに怒りをあらわにしたサラが再び『嫉妬』の魔法を発動しようとするのを、俺は少し力の籠った声で止める。

 

 そして、騎士ではなく、ただ一人の人間として俺に意を投げつけて来たグレイグの方をまっすぐと捉えた。

 

「ベリルの人となりは俺も知っている。民の声を聴き、民を取りまとめ、導いていく。確かに結構な資質であろう。だが、それは皇帝たる資格にはならない! 近衛騎士隊長グレイグ! 貴様とて分かっているだろう? 皇帝とは正解を探求する者ではない。その力を持って己が正解を作り出す。それが皇帝だ! この国が帝国である限り、ベリルが次代を担うにふさわしいとは俺は思わない」

 

 俺がハッキリとそう言えば、グレイグはどこか聞き覚えのあるようなその言葉に膝を付き天を仰いだ。

 

「……やはり、やはり私にはあなたたちの思考を理解することは出来ません。ですが……それが皇帝というものなのでしょう」

 

 俺にはいまいち意図の取り辛い発言だったが、グレイグは満足したのかそれ以上はなんの言葉も発さなかった。

 

 そして、隊長のそんな姿を見た騎士たちもそれ以上は何も言わず、下を向いた。

 

「ファレス様、一先ず勝鬨を上げられるのはいかがでしょうか? 市井の民も待っているはずです」

 

 すると、騎士たちから早々に興味を無くしたサラがそう提案してくる。

 

「そうだな。皇帝論を説いた今、自ら実行してそれを示すとしよう」

 

 そして俺は風の魔法を用いて勝利を王都全域へ伝える。

 だが、尚も俺の中ではすっきりとしない気分と、先ほどのクインの顔つきが引っかかっていた。

 

 

 そして、ファレスの隣に立つ二人、ではなく、その背後に立つクインとサンはそれぞれ複雑な感情の籠った眼でファレスを見つめる。

 

 クインは変わらず、何かを心配するような不安げな視線。

 そしてサンは……睨みつけるかのような強い視線をファレスへと向けていた。

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