The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~ 作:嵐山田
――時は少し遡り、アゼクオン別邸。
ファレスたちが学園の演習場に到着した頃合いの別邸の状況はと言えば……。
「あらあら……騒がしいと思って出てみれば、ベリル殿下派の近衛騎士たちかしら?」
ベリルが派遣した十数名の近衛騎士たちが、アゼクオン別邸の出入り口を塞ぐように陣を組んで、別邸を任されている数人のアゼクオン騎士団たちと戦闘を繰り広げていた。
「はい……ですが、攻撃を受けているというより、我々をここから出したくないとでも言うかのような意図を感じます」
そしてそんな光景を眺めながら、アゼクオンの女主人たるスジェンナ・アゼクオンは報告を受ける。
「まあ、そうでしょうね。せいぜい彼らは私たちがファレスちゃんに加勢しないようにする足止めよ。適当にあしらっておいて」
「はっ」
そう言って報告に戻って来た門番を戦闘に帰らせると、スジェンナは目を細める。
「この状態でも折れずに戦うなんて……ベリル殿下も意外と良い家臣を集めていたのね」
王都、特に平民街からは轟かんばかりのファレス様コールが上がり、貴族街の住民も目立ったことはせずともその心には既にファレスの勝利を見ているだろう。
こんな状況下では士気もあったところではない。
だと言うのに、スジェンナの視線の先で繰り広げられる戦闘はどういう訳か中々に勝負になっている。
もちろん、いますぐスジェンナ自身が参戦すれば、一網打尽に出来るだけの戦力ではあるのだが……。
などと考えていると、その戦場に動きがあった。
耳をつんざくような鋭い音と共に、目には見えない衝撃波が近衛騎士、アゼクオン騎士団を関係なしに別邸の門へ叩きつける。
そしておそらくその攻撃の主であろう女性……いや、スジェンナからすればまだ女子程度のその人物は攻撃を躱していた残り数名の騎士に向かって全力で斬りかかった。
「私の友の屋敷の前で何をしているのだ! 貴殿たちは騎士であろう! 戦場とする場は弁えよ!」
「あらあらっ! ふふっ! そう言えばあんな子もいたわね」
そんなイレギュラーの乱入にスジェンナは思わず口角を緩める。
イレギュラーな少女は数秒で残りの騎士たちを全員斬り伏せ、門に向かって大声を上げる。
「私はリューナス・クラービーと申す! 以前ファレス殿とは剣を交え、剣を捧ぐ誓いを立てた。要請を受けたわけではないが、今こそその時と見て、こうして参上した次第! どうか、門を開けては貰えぬだろうか!」
「……ふふっ! 本当にファレスちゃんはモテるのね」
リューナスの声を聴いたスジェンナはその門に向かってゆっくりと歩を進める。
しばらく進めば、バッチリと二人の目が合った。
「おお! そこの美しきご婦人、どうか私を通しては貰えないだろうか!」
スジェンナを視線に捕らえたリューナスはその顔を見ても彼女のことなど全く知らないとでも言うかのように恐れなく声を掛ける。
「あらあら、リューナス・クラービーさん、だったかしら? ファレスに剣を捧ぐ誓いとは一体どんなものなのかしら?」
そんなリューナスにスジェンナも彼女のことを知らない風を装って質問する。
「剣を捧ぐ誓い……確かにこれでは分かりにくかったか。だが、簡単な誓いだ。有事の際、ファレス殿の剣になるという、ただそれだけの事。ファレス殿がどう思っているかは私には分からないが、彼の剣にはこの身を捧げても良い、私はそう思っているのだ」
ほんの少しも恥ずかしがるような素振りすら見せずに、きっぱりと言ってのけるリューナスのことをスジェンナはこの瞬間だけで気に入った。
「そう。いいわ、リューナス・クラービーさん。あなたをアゼクオンに迎え入れましょう」
「そうか! だが、失礼ながら……どこかの貴婦人であろうとは思うのだが、あなたが決めてしまっても良いことなのか?」
「ええ、もちろん。だって私はファレスちゃんの母ですもの!」
「はは……? 母か! そうか、あなたがファレス殿の御母堂であったか! これは失礼なことをしてしまった。世間に疎く人を覚えるのが苦手な故、どうかご容赦願いたい」
「ふふっ、いいのよ。私は貴方のことを気に入ったわ。でも……アゼクオンに迎えるには家紋くらいは覚えてもらわないとね」
「……?」
不思議そうな顔をするリューナスを楽しそうに見ながらスジェンナは倒れている騎士の内、アゼクオンの家紋がでかでかと入ったローブを着ている騎士の方を指さす。
「――っ! これはもしや……」
「ええ、片方は違うのだけどね。うちの騎士よ」
「何とっ! すまない! 大丈夫か! そちらも! ああっ、私の阿呆さがこんなことに……」
「ふふっ。こういう子も周りにいた方がいいわ」
呟きながら学園の方を向くスジェンナ。
その顔には誇らしさの中に若干の寂しさのような感情を含んでいるように見える。
「それに……皇帝は強さだけじゃないのよファレス」
そして続けて溢れ出たその言葉には、いつものスジェンナは決して覗かせない後悔が滲んでいた。
◇◇◇
――学園、野外演習場。
俺は下した騎士たちを前に王都中の民に向かって勝鬨……いや、勝利宣言をするために風の魔法を展開していた。
隣ではサラが今か今かと待ち焦がれるようにうずうずとしており、セレスティアもどこか誇らしげだ。
さすがの俺も王都全域に声を届ける風魔法を行使するとなれば、それなりの集中力を要求され、数秒かけてしっかりと魔法を発動させると、話し出す。
「王都の民よ。聞け! 俺がファレス・アゼクオンである!」
そう話せば数秒遅れて王都全域から大歓声が返って来た。
「今、学園、野外演習場にて行われたベリル・グラーツィアとの決闘において、この俺、ファレス・アゼクオンが勝利を収めたことをここに宣言する!」
視線の先のベリルたちは項垂れながらもどこか清々しさすら感じさせる様子だ。
そして、俺の勝利宣言を聞いた民たちからは――
「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉっっ!!!!」」」」
大歓声をも上回る、大絶叫が返ってくる。
正直なことを言えば、これだけ熱狂させるだけの大義が俺にあったとは思っていない。
そもそも、俺が皇帝を目指すのは超個人的な目的から、だからだ。
だが、こうしてベリルを打ち倒し、賽が投げられた今、この機を逃す手は俺にはなかった。
王都中からの大絶叫がそこそこ落ち着くのを待って、俺は続ける。
「俺がベリルを打ち倒した今、皇族の内情はめちゃくちゃだ。無論、その責は俺にもあるだろう」
一度言葉を区切り、深呼吸をする。
この先を言えば最後、もう後に引くことはできない。
深く吸って、深く吐く……すると、俺の両手が不意に握られた。
左右を向けば、真っすぐにこちらを見つめるサラとセレスティアの姿。
その目からは確かな信頼が伝わってくる。
二人の顔を見て、決心がついた俺は遂に最後の一線を越える。
「だからこそ、この俺が皇帝となり、乱れた内情に秩序を取り戻そう! 賛同する者は勝鬨を……いや、次なる戦いに向けた鬨の声を上げよ!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!!!!」」」」」
「「「「「ファレス様!! ファレス・アゼクオン様万歳!!!!」」」」」
まるで全帝国民がそれを望んでいるかのように錯覚するほどの大絶叫。
頑丈な造りをしているこの演習場がその声に揺れている。
さて、これですべての準備は整った。
あとは頂点を、皇帝を取るだけ。
最強はもう、手の届くすぐそこに。
◇◇◇
「ハッハッハッハッハ! 良い! 実に良いぞ! どうやらお前の推測は当たっていたようだなメホロスよ!」
王城、玉座の間にて、学園の方を見降ろしながらファレスの勝利宣言を聞いていた皇帝モラク・ルー・グラーツィアはそれはそれは気分が良いとでも言うように高笑いをする。
「陛下……笑っている場合ではありませんでしょう。……ここまでのカリスマを発揮するのは私の推測の域を出ています」
「フッ、カリスマ、か。確かに奴のあれはカリスマなのだろう。それも皇帝の素質足りえるだけの『傲慢』さを認めさせるだけのカリスマだ。だが……」
「だが……?」
「その『傲慢』に呑まれてしまえば、それはカリスマではなく、致命的な汚点となる。さぁ、奴はどちらに転ぶのやら……」
皇帝からすれば、国の、立場の揺らいでいる危機だと言うのに、そんなものを微塵も感じさせないモラクにメホロスは苦笑いを浮かべる。
だが、彼の立場は皇帝の護衛だ。
それは物理的な意味でもありながら、皇帝という存在自体を守ることでもある。
気分の良さそうな主に水を差すのもまた、彼の役目。
「楽しまれるのは良いですが、陛下。こちらからも声明を出してください。できれば陛下自らが演説されるべきでしょう」
「ふむ、余としてはこのままここでファレスを待ちたいところなのだが……」
想像通り、一気に退屈そうな声になる皇帝。
ここまでは自分が仕えていた頃と変わらない。
昔の自分ならば、ここで諦めていた。
だが――
「なりません。……それに、ここで陛下が声明を出してこそ、最上の舞台が整うと言う物ではありませんか?」
「ほう……メホロスよ。学園の長をしたことで少しは頭が柔らかくなったようだな」
「普通は歳と共に固くなっていくものなのですが……あそこは刺激に溢れていますからな」
メホロスも教職という立場について見て、学んだことがあった。
それは……固いだけが正義ではないということ。
「フッ、ハッハッハッハッハ! 良いだろう! 余の冠を持って参れ! 余もたまには皇帝らしさというものを民たちに示してやらねばな」
「はっ」
皇帝がその腰を上げる。
その顔に携えられた笑みは余裕の笑みか、はたまた久しぶりに現れた自身へ向かってくるものへの興味か、それは皇帝のみぞ知る。
「……お持ちしました」
メホロスにはその真意は関係ない。
「うむ、では演説台に上がるとするか」
彼が仕えるべきは皇帝であり、この国なのだから。