The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第十六話 貴族社会

「ファレス様っ! ご無事ですか!?」

 

 クインとレドは俺を見かけた途端こちらへ走ってくる。

 

「クインにレドもよく来てくれた。ちょうどそちらに向かおうと思っていたところだ」

 

「資材提供の件ですな?」

 

 俺が話しを始めようとしたところでレドが先んじてそう言う。

 

「! ああ、そうだ」

 

 話しを聞いてみれば、スペーディア商会は()()()の指示の下で既に支援活動を始めてくれていたらしい。

 何と気の効くことか……地震なんて初めては怯えそうなものだが、人が魔法などという凶器を持ち、一歩生活圏の外に出れば魔物に襲われる危険のあるこの世界では、案外大したことではないのかもしれないと思えて来た。

 

「そうか、恩に着る。騒ぎがひと段落した時点でもう一度報告をせよ。領主として可能な限りの補填は約束しよう」

 

「あ、いえ、補填などは……。これは我がスペーディア商会からの恩返しだと思っていただければ……。スペーディア以外の商会の方々も動いてくださっていますし」

 

「そうか……だが、その気持ちだけ受け取らせてもらおう。アゼクオンは領主だからな。自領の被害への補填を商会任せにしてしまってはその名が廃る」

 

「そっ、そうですか……過ぎたことを申しました」

 

「良い。感謝していることもまた事実だ。それより……その件はもう対応済みということは……まだほかに何か要件が?」

 

 申し訳なさそうにしているクインから目線を外し、レドの方を見る。

 

「そうですね。本日こうして突然訪問させていただいた理由としましては、隣りのノウ領より連絡が入ったからなのです」

 

「! 連絡だと、これほど早く? まさか……」

 

「はい、お察しの通りかと」

 

 言葉にはしない。だが、それもそうだろう。アゼクオンとは隣接しているとはいえ険しい山脈に遮られるノウ領からの連絡がこれほど早く来ているということは、それに用いられたのは間違いなく遠話の水晶……国宝級のアイテムだ。

 

 国中を探しても、王宮以外ではそうそうお目にかかれないだろうとんでもない希少性を持つそれ。

 この水晶の厄介な点は二つでペアのアイテムという点。

 対応した物しか遠話をすることができないのに、それぞれは別々のところで見つかるという、大罪呪宝と同じかそれ以上に厄介なアイテムなのだ。

 

 その一つをスペーディア商会が保有しており、それに片割れがこのアゼクオンにあるとは……。

 

「場所を変える。サラ」

 

「はい、では皆様こちらです」

 

 事が重大すぎて、とてもじゃないが立ち話できる内容ではないため、一度場所を改めることにした。

 

 ◇◇◇

 

 いつもの談話室。

 そこで俺はクインとレドに向かい合う。

 

「サラ、風魔法で防音壁を」

 

「はい」

 

 俺の指示に合わせてサラが軽く手を振ると、ドーム状に風魔法が展開される。

 この世界に来てからサラの魔法を見るのは初めてだったが、『嫉妬』を御したおかげかゲームの時以上に魔法の制御力が向上しているような気がした。

 

「……何だか、お二人とも、少し変わられました?」

 

 そんな俺たちの様子を見たクインがそんなことを呟く。

 

 さすがはスペーディア商会の跡取り、その目利きはアイテムの価値を見抜くだけに限らないということか。

 そう思って感心しているとサラがこう言った。

 

「いえ、クイン様。何も変わっていませんよ。元より私はファレス様の物ですので」

 

 毅然とした態度。

 だが、その中にはどこかクインに対するマウントのようなものが感じられた気がした。

 

「……! そう、ですか」

 

 それを受けたクインも小さな声で「これは私も負けられません」と言っているように聞こえたのは俺の聞き間違いだろうか?

 

「ンンッ――そろそろ、本題に入るぞ?」

 

 わざとらしい咳払いで、弛緩しかけた空気を締めなおす。

 

「あっ! はい、失礼いたしました」

 

「遠話の水晶については……この事態だ。何も聞かない。それよりノウ領から入ったという連絡の内容を聞かせてくれ」

 

「はい。では、そちらについては私から」

 

 俺の問いにレドが答える。

 

「先ほどの地の揺らぎ、あれはノウ領でも同様に発生した模様でした」

 

 ……ほう、ではサラの魔力暴走が原因ではないのか?

 

「これは伝聞ゆえ、現地の者の主観でしかないのですが、どうにもこのアゼクオンを襲った揺らぎよりも規模の大きな揺れが発生したようで」

 

 なるほど、本当に地震だったのか?

 というか、ノウ領の方が震度が大きいのはまずくないか?

 

 ノウ領は片面を海にもう片面を険しい山脈に囲まれるかなり険しい場所に位置している。

 しかし、ノウ領の海は漁獲量が多く、帝国の漁業に大きな影響力を持っている。

 いわゆる辺境伯ポジションだ。

 

 そんな場所での地震……日本出身の俺としては海沿いの地域での地震の恐ろしさは痛いほど分かる。

 

「……被害が大きかったか」

 

「ええ、そのようです。揺らぎに呼応するかのように海も大荒れとなり、漁に出ていたノウ領最大の漁船が難破したとの報告も……」

 

「っ!? なんだと!?」

 

 思わずとんでもない情報を手に入れてしまった。

 というか、このレベルは流石に俺の手にも余る。

 

 魔法のおかげで文化の形を保って入るものの、この世界は現代から見れば発展途上もいいところだ。

 そんな国の漁業を支える最大の漁船が難破したとなればその被害はとても金銭や手当で対応しきれるようなレベルではない。

 

「……それでノウ領から、食糧支援の要請を受けておりまして」

 

 ……っ! それはそうだろう。

 だが、いくらアゼクオンのスペーディア商会支部だとしても、とてもじゃないがそんな漁船の穴埋めをするほどの食糧援助ができるわけがなく……こうして俺のところに来た、という訳か。

 

 よりによってノウ領か……。

 学園編まで関わりたくなかったのだが……。

 

「……さすがにそのレベルの規模となると俺の裁量を完全に超えてしまっている。それに我が領も少なからず被害を受けており、スペーディア商会に援助してもらっている状況だ。ノウ家には申し訳ないが、迅速な援助は難しいというほかないだろう」

 

 だが、こんなにすぐ食糧援助の要請が来るとは、相当ひっ迫しているのは一目瞭然。

 何とかしてやりたい気持ちもある。

 

「……賢明なご判断かと」

 

 静かにレドがそう言って頭を下げる。

 口ではこう言っているが、レドとしても本音は助けたいのだろう。

 だが、この世界は民主主義の共助社会とは違う。

 

「……返事は保留にしておけ。父上たちの帰還に際して俺の方から口添えしてみよう」

 

「感謝いたします」

 

 ……妙に張り詰めた空気で息が苦しい。

 すまないなレド。

 これが貴族社会の普通なのだ。

 

「……二人ともここまで疲れただろう。サラ」

 

「はい! 紅茶をお持ちしました」

 

「お、おう。早いな」

 

 空気を換えようとサラに紅茶を用意してもらおうと声をかけたら、いつの間にかトレーにティーポットとカップを人数分載せたサラがそこにいた。

 

「とりあえず、報告感謝するぞ。クイン、レドよ」

 

「いえ、とんでもございません。あの、ファレス様」

 

 サラが淹れてくれた紅茶で一息ついていると、クインが俺を呼んだ。

 

「なんだ?」

 

「その、この後はどうなさるご予定ですか?」

 

「この後はもう一度訓練場に戻り、戻って来る侍従や騎士からの報告を待つ。被害状況をまとめ次第、明日の動きを決める、というところだな」

 

「なるほど。さすがです! それで、その……」

 

 ? なんだろう?

 何か問題があっただろうか?

 そんなことを考えていると、クインはこんな提案をして来た。

 

「これからの時間にお供させていただいてもよろしいでしょうかっ!」

 

「? 別に構わないが、良いのか?」

 

「街で救助活動をされているアゼクオンの臣下の皆様がファレス様のカリスマ性を褒められていて、私はスペーディア商会の次期当主だと言うのに、その辺りがてんでダメで――って、よろしいのですか!?」

 

 なるほど。

 確かに、今のクインは作中では見たことないようなおとなしめのキャラに落ち着いてしまっている。

 『マーチス・クロニクル』でのクインはスペーディア商会を歴代で最大規模にまで拡大し、王都の本店でその手腕を大いに振るうかなりの権力者キャラになる。

 そうなった際の彼女は今の内気そうな雰囲気は欠片もなく、まさに商会の女主人と言った風格冴え漂わせるのだ。

 

「ああ、特に何か大きなことをするわけでもないが、それでも良いなら、傍で見ているが良い」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

「レドもいいのか?」

 

「ええ、商会の者たちには既に指示を出して参りましたので」

 

「そうか。では、あと少し休憩をしたら訓練場へ戻るぞ」

 

「はい!」

 

 そう言って元気よく返事をしたクインの視線がサラとぶつかり火花を散らしていたことを俺は知らない。

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