The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第十八話 母、襲来

 緩んでいた空気が瞬時に引き締まる。

 それも仕方のないことだろう。

 侍従や騎士たちにとっては俺以上に仕えるべき存在である、アゼクオンのナンバーツーが傍付き一人も連れず、単身で帰ってきているのだ。

 

 俺だって訳が分からず、ようやく落ち着いてきた頭痛が再発した。

 

「は、母上、お早いお帰りですね……。いや、もしかしたら早すぎるほどかもしれません」

 

「そんなことないわ。そもそも私はファレスちゃんを置いて王都へなんて行きたくありませんもの」

 

 いやいや、皇帝の生誕祭には行かなきゃだめでしょう母上。

 なんだよ行きたくありませんって、というかそれで本当に帰ってきちゃってるし!

 

 脳内ツッコミが大渋滞を起こしそうな中、わずかに残った理性的な部分で会話を続ける。

 

「そういう訳にもいかないでしょう母上。陛下のご生誕祭なのですから」

 

「むぅ、今日のファレスちゃんはなんだか冷静ね。でも、そんなファレスちゃんもいいわっ!」

 

 ああ、話にならない。

 父上、なぜ母を一人で帰したのですか……。

 

 俺が内心で頭を抱えていると、それまで呆然としていた何人かのメイドがようやく状況を理解して、母の下へ駆け寄る。

 

「奥様! ここへはどうやって? ご連絡いただければお迎えに上がりましたのに」

「そうです! それにファレス様もおっしゃられておりましたが、皇帝陛下のご生誕祭の方はよろしいのですか?」

 

 母の下へ駆け寄ったのは母とは年の近いメイド二人。

 確か、作中でも登場していた幼いころから母に仕えている二人だったはずだ。

 

「そんなことはどうでもいいわ!」

「「良くありませんっ!!」」

 

 ……そんな二人相手だからこういう対応ができるんだよな? 母上。

 いや、ファレスの母はこういう人だったか……。

 

 そんな漫才のようなやり取りを呆然と眺めていると母は俺めがけて駆け寄ってくる。

 

「すごいわファレスちゃん。実は私もう少し前に戻ってきていたのだけれど、あなたの演説があまりにも素晴らしくて出て行けなかったわ」

 

「それは……ありがとうございます母上。ですが、まだ対応は終わっていませんので、これから侍従と騎士の責任者を集めて明日以降の対応について話さなければ……」

 

「まあ、それは大事なことね! でも――」

 

「でも?」

 

 なんだか少し顔を険しくした母が意味ありげに言葉を区切る。

 そして顔を俺の顔に突き合わせるようにジーっとこちらを見つめてから、こう言った。

 

「あなた、今日はずっと動いていたんじゃない? 夕食どころか、昼食もとっていないでしょう? そんな子供を働かせられるほど私は無責任な母親じゃないわよ!」

 

「いや、それは……今日は有事でしたし……」

 

「関係ありません!」

 

 きっぱりと言い切ると母は今度は周りにいる侍従や騎士たちの方へ向き直った。

 

「息子だからと贔屓する親心があるのは事実よ? でも、あなたたちはいくつ? この子はまだ十二にもなっていないのよ? ファレスの指示で最良の対応をしてくれたことには感謝するわ。でも、あなたたちの主のことを疎かにしていいのかしら?」

 

 母の言葉に侍従たちの顔色が一斉に青ざめていく。

 そんな中で、人一倍顔色を悪くしたのはもちろんサラだ。

 

「――っ! も、申し訳ございません奥様!」

 

 そして最も早くその言葉を口にできたのもサラだった。

 

「……サラさん。あなたのお仕事は何かしら?」

 

 そんなサラにあくまで穏やかに、しかし確かな迫力で詰め寄る母上。

 庇ってやりたい。サラにも事情があったと。

 しかし、多くの侍従や騎士たちの前で俺がサラを庇おうとするのはあまりよろしい行いではない。

 

 貴族という立場がとにかく煩わしい。

 しかし葛藤に悩む俺を置いてサラは母上に答える。

 

「ファレス様にお仕えし、その身に不自由がないようにすること、です」

 

「ええ、そうよね。では、どうして今日は出来なかったのかしら?」

 

 ……どうして?

 傍から聞いている分には別段特におかしな印象を受ける言葉ではない。

 だが、この身体に宿るファレスとしての記憶に、今の母の言葉は何かが引っかかる。

 

「……私の力不足です。目の前のことに集中するあまり……」

 

「ああ、違うわ。そう言う定型的な答えを求めているわけではないの。例えば、そのあなたの手についているブレスレットのこととか、ね?」

 

「……!?」

 

 顔を伏せていてもサラの動揺がこちらにも伝わってくる。

 ……この人は本当に。

 どういう感知能力をしているのか。

 

 だが、これ以上は流石に面倒になりすぎる。

 大罪魔法のことを母に報告するにしても、サラの件をこの衆人環視のなかで言うのは余計な火種になりかねない。

 

「……母上、差し出がましいとは思いましたが、現在ここにいるのはアゼクオンの臣下のみではありません。これ以上身内の失態を見世物にするのはどうかと」

 

 俺はクインとレド、特にレドの方へ母上の視線を誘導しながら諭す。

 

「……」

 

 一瞬の沈黙。

 そして――

 

「あら、これは失礼したわね。あなたはスペーディア商会の……」

 

「は、はいっ! クイン・スペーディアと申します」

「挨拶して早々に失礼かとも思いますが、我々はこの辺りで失礼させていただいても?」

 

「ええ、資材の提供には感謝するは、明日にでも補填をしますから、必要な書類を送っていただけるかしら?」

 

「承知いたしました」

 

 クインの挨拶のあとは流れるようにレドが対応を引き継ぎ、なんとか話を逸らすことができた。

 やっぱりレドは剣を握らせなければ基本的に優秀な老紳士だな。

 

「さて、じゃあファレスちゃん行きましょうか。色々……あったみたいだし、母にお話を聞かせて頂戴?」

 

「……はい、母上」

 

 まだ、明日以降の件が……とも思ったが、母上に引いてもらったのだ。

 ここで断って再び蒸し返されても困る。

 そう考えて、俺はサラを伴って母の後を追った。

 

 ◇◇◇

 

「ふぅ……」

 

 サラの淹れてくれた紅茶と軽食を食べて数時間ぶりの休息をとる。

 さすがに十一歳児の身体で動いて魔法も使って、指揮を執るのは精神力ももっともだが、やはり体力的に厳しいものがある。

 

「よかった。食欲はちゃんとあるようね」

 

 テーブルを挟んだソファに向かい合うように腰かけて、母が話しかけてくる。

 

「ええ、ご心配をおかけしすみません母上」

 

「いいのよ。親とはそう言う存在なのだから。ほら、サラさんも、給仕が終わったのならそこに座って休息を取りなさい」

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「もちろんよ。さっきはあなたが一番真っ先に頭を下げたから少し ったけど、本来はあなたも気を使われる側の子供であることを自覚なさい?」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 そう言うとサラは申し訳なさそうに俺側のソファの端へ小さく腰を下ろすと、控えめに自分で淹れた紅茶を口にした。

 そんなサラを見て、何とも言えない表情で笑った母は再び俺に向き直り、こう切り出した。

 

「さて、ファレスちゃん。まずは……おめでとうかしらね。魔力覚醒、したのでしょう?」

 

 もはやさすが親だ、なんて簡単な言葉では隠しきれないほどの鋭さの母上。

 本当に何でもお見通しなんじゃないかと思わせるような風格が漂う。

 

「はい。なんとか先日、覚醒を果たしました」

 

「ええ、本当になんとか、だったようね?」

 

 含みありげにそう言う母の目は間違いなく俺の手元を見ている。

 

「……」

 

「……はぁ、本当にそこまでする必要があったのかしら? 確かに覚醒が遅くなるとうるさい連中は増えてくるかもしれないけれど、そんな者は端から黙らせてあげるのに」

 

 ああ、そうなのだろう。

 実際に原作ではそうだった。

 アゼクオン侯爵家はその身分以上の圧倒的な実力を誇る家だ。

 特段武門という訳でもないが、父もこの母も一騎当千の実力者。

 

 だが、その結果があの原作ファレスのひねくれようだ。

 きっと両親への歪んだ認識も原因の一つだったのだろう。

 

「ええ、これは必要なことでした」

 

 そう言いながら俺は今日一日つけていた竜皮の手袋を取る。

 

「……! 吸魔の指輪を二つ!? ふふっ、ふふふっ! そう、さすがはファレスちゃんね。こんなことでも母の思考の上を行くのね」

 

「あ、あの、奥様。その指輪も私――」

「サラ。良いと言ったはずだ」

 

 またも顔色を青くしたサラが指輪についても申し出ようとするので、それには割り込む。

 

「あらあら、母の不在中にまた少し仲良くなったのね」

 

 そんな俺たちの様子を見て、母は嬉しそうにはにかんだ。

 

「まあ、必要なくなったらいつでも言うのよ? 聖者を捕まえてきてあげるから」

 

 聖者をそんな野生のポ〇モンみたいな扱いにしないであげて欲しい……。

 

「はい、お願いします母上」

 

「ええ! それで、ファレスちゃんはどんな魔法を覚醒したのかしら? 私と同じ風かしら? それともラルフォードみたいに二属性?」

 

「俺が覚醒した魔法は……属性的には無属性に該当するのでしょうか。ですが、全属性といっても差支えありません」

 

「ふふっ、と言うと?」

 

 母上は少しも驚かずに楽しそうに笑っている。

 

「俺の魔法は一度でもしっかりと見るか、この身で受けるかした魔法を全て扱えるようになる無属性魔法です。酷く傲慢で圧倒的な魔法でしょう?」

 

「うふふ、さすがねファレスちゃん。そんな魔法聞いたことも見たこともないわ。ぜひ見せて頂戴」

 

「ええ、是非ご覧に入れましょう母上」

 

 そう言うと俺はソファで足を組んだままの姿勢でレドの『時穿の心剣』を使った。

 

 音も何の兆候もなく俺は母上の真横に移動する。

 

「あら、いつの間に……。ふふっ、ふふふっ! すごい、凄いわファレスちゃん! 今のは何かしら? 誰の魔法を使ったの?」

 

「今の魔法は、かの高名な元剣聖レドの魔法です!」

 

「そういえば、スペーディア商会の子についていたわね。そんな人の魔法まで簡単に使えちゃうなんてさすがは私の子!」

 

 ぎゅうっと豊満な肉体が押し付けられる。

 男なら誰でもドギマギとしてしまいそうなこの状況、だが、俺の胸に湧いてきたのは懐かしさと安堵の感情ばかり。

 

 ……もしかしたら、()()()()もこうして認めてほしかったのかもしれないなと、少し切ない気持ちになったのは俺だけの秘密だ。

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