The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第二十七話 母さん

 王都を出てから一日。

 まだやることがあると言う父より一足先に俺とサラは先にアゼクオン領へ戻って来た。

 

「さて、スペーディア商会に行かないとな」

 

 ノウ領に行くつもりはなかったが、こうして行かざるを得ない状況になってしまったからには、あの元剣聖レドを巻き込むのが上策だろう。

 レド自身も行きたそうな顔をしていたしな。

 

 そんなことを考えながら起き上がると、丁度部屋にノックの音が響いた。

 

「ファレス様、サラです。失礼します」

 

 普段は返事を待ってから入ってくるサラだが、基本的に朝は違う。

 起こすために来るのだから当然のことではあるが、今日のソレはなんだかいつもよりも間がない気がした。

 

「おはようございますファレス様。お早いお目覚めでしたね」

 

「ああ、今日から忙しくなるからな。サラにもしっかりと働いてもらうぞ」

 

「もちろんです! ファレス様の手足の代わりにだってなって見せます!」

 

 ちょっとした激励のつもりが想像以上のカンフル剤になってしまったらしい。

 今までに見たことのないほどの気迫でサラはやる気をあらわにしている。

 

「とりあえず、今日の予定だが、朝食後はすぐにスペーディア商会に行く」

 

「わざわざ向かわれるのですか?」

 

「ああ、時間が惜しいからな。ノウ領までは向かうだけで二日かかると見た方がいいだろう。そして向こうで被害状況の確認と対応を考えたうえで一月以内に目に見える形で復興の成果を見せなければならない。これを成し遂げるには俺の力だけでは厳しい。使えるものは最大限活用すべきだ」

 

 ……今更だが、口にするととんでもない難易度だぞ?

 なんてことを子どもにやらせようとしているのか……あの父も皇帝も。

 

「そうですか……でも、スペーディア商会に力を借りるということは」

 

「ああ、災害対応の件も含めて借りが二つになってしまうな」

 

「………………」

 

 突然無言になるサラ。

 だが、ただ黙っているのではない。

 一瞬、思わずぞっとしてしまうような目をしていた。

 

「サラ?」

 

「……あ、いえ、失礼しました。奥様がお待ちですので朝食に向かいましょう」

 

 本当に一瞬のことだったが、やはり大罪魔法の覚醒者と言うのは他とは何かが違うのだ。

 ファレス然り、今のサラ然り、向かわなければならないノウ領にだって……。

 

 はぁ……ノウ領の、あいつにだけは関わりたくないのだが……。

 『マーチス・クロニクル』でのことを思いだし、改めて気を重くしながら、俺は身支度を整えて朝食に向かった。

 

 ◇◇◇

 

「ねぇ、ファレスちゃん。今日は私とお買い物にでも行かない?」

 

 朝食を朝から上機嫌な母と向かい合う形で食べていると、そんなことを言ってきた。

 

「魅力的な提案ですが、母上。昨日もお話した通り、一刻も早くノウ領へ行かねばならず……」

 

 やんわりと断ろうとするも、母の表情は曇っていく。

 

「なんだか、ファレスちゃんもクロフォードも急に忙しそうね……。これも、あの皇帝のせい……」

 

 単なる愚痴にしてはえらく感情のこもった呟き。

 仮にも帝国貴族なのだから最高権力者の愚痴はあまり言わない方がいいと思うのだが……。

 

「ノウ領のことが片付いたらぜひ行きましょう」

 

「……ねえ、ファレスちゃん。私もノウ領について行ったらダメかしら」

 

 無論、ダメだ。

 母上はアゼクオンのナンバーツー、この領では当然、俺より立場が高い。

 しかし、今回の俺は皇帝の名代。だが、連れて行くのはアゼクオンの臣下だ。

 こうなった時にノウ領で指揮系統の分散が起きかねない。

 

 長期的な復興プロジェクトとして関わる場合なら、作業を分担し指揮系統を分けた方が効率が良いのは間違いないだろう。

 しかし、今回はひと月と言う制限が設けられている。

 

 ひと月は口にする以上に短い。

 そんな短期間で成果を持ち帰るには指揮系統を分断している暇などないのだ。

 

「すみません母上。これは陛下から俺が与えられた役目。母上と一緒に行ってしまえばきっと甘えてしまうでしょう」

 

「……ファレスちゃんが私に甘えてくれたことなんてあったかしら?」

 

 ……ないかもしれない。

 だってスジェンナ母上はファレスを無限に甘やかすから。

 

「ともかく、この役目は俺自身が自分の力で果たしたいのです」

 

「……そう。いつの間にそんなかっこいいことを言えるようになったのかしら……我が子の成長の速さに感動と寂しさを覚えるわ」

 

 よよよ、とわざとらしい噓泣きをする母上。

 

「まだまだですよ」

 

 そんな母を軽くいなしながらも、母の目を真剣なまなざしで見つめ返し、話を着地に持って行く。

 

「ん~、分かったわ。でも、一つ条件があるの。聞いてくれる?」

 

「もちろん」

 

 完璧な流れだ。

 これであとは条件とやらを聞けば……

 

「こうして話すときに敬語を使わないで頂戴。皇帝の生誕祭の時に聞いたのだけどね。仲のいい親子は敬語を使わないんですって! 私たちもそんな仲のいい親子を目指して敬語を止めましょう?」

 

 ……母上、それはおそらく物語か身分感覚の薄い平民の話では?

 誰だよ、超箱入りの母上にそんなことを教えてしまったのは!

 

 母は北の大貴族の出身だ。

 帝国北部は南部に位置するアゼクオンとは違い過酷な環境で、ゲーム風に言えばラスダンの魔物がその辺りを普通に跳梁跋扈しているようなとんでもない立地。

 母スジェンナはそんなところで生まれたから、女の身でありながら、その辺の貴族家当主を超える様な並々ならぬ実力を持っており、その代わりと言ってはアレだが、世間には疎い。

 

 ちなみに俺のことをファレスちゃんと呼ぶのも何かの影響だと思われる。

 だが、これを呑まなければ話が進まない、か……。

 

「分かりました、母上」

 

「もうっ、違うでしょう?」

 

 ……ああ、もう始まってるのね。

 

「分かったよ、母さん」

 

「!?!?! か、か、母さん! ええ、ええ! いいでしょう! お仕事頑張って来てねファレスちゃん! でも、なにかあればすぐに()()()を頼るのよ? 私がいつでも、何でも助けてあげるからっ!」

 

 母上という呼び方までも変えるとは思っていなかったのか、母さんはものすごく興奮した様子でそう言うと、うわ言のように「母さん、ふふっ、母さんですって!」と繰り返している。

 

 まあ、民主主義社会における中流階級出身の身としては呼びやすいだけで助かるのだが、ここまで喜んでくれるといいことをした気がしてくる。

 

「ありがとう母さん。じゃあ、行ってくる」

 

「ええ! 行ってらっしゃい。無理はしちゃダメよ」

 

 そう言いながら手を振る母に軽く手を上げて応じながら、俺はサラと共にスペーディア商会に向かった。

 

 ◇◇◇

 

「こういう訪問は流石に一報入れてからにしたかったが、今回は仕方ないな」

 

 スペーディア商会に向かう馬車の中で、独り言ちる。

 突然の訪問と言うのは、基本的に非常識。

 貴族なら押し掛けても丁寧に扱ってもらって当然なんてものは傲慢だ。

 傲慢と言えばの俺だが、俺がファレスとなった以上、そう言う傲慢は控えていきたい。

 

「問題ありませんファレス様。勝手ながらご朝食の間に連絡をしております」

 

「おお! そうか! 助かる、よくやったぞサラ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 素晴らしいサポートだ。

 俺の手足として、なんてことを言っていたサラだったが、本当に有言実行して見せるとは。

 

「あとはスペーディア商会の協力を取り付けて、アゼクオンの臣下を三十から五十名ほど招集して、現地に向かうだけだな」

 

「僭越ながらそちらも、侍従二十名、騎士三十名ほどの立候補をスジェンナ様の主導の下集めていただきました」

 

「そ、そうか! さすがだなサラ!」

 

 ……え?

 サラさん? なんか急に有能になりすぎじゃないかな?

 

 今までも自己主張が苦手な位で何でもそつなくこなすタイプだとは思ってたけど……こんなに先回りして行動するタイプだったっけ?

 なんだか、今まではあえて有能さを出し過ぎないようにしていたんじゃ? なんて疑問が頭をよぎってしまいそうな変わりぶりだ。

 

 だが、助かったことに変わりはない。

 これで俺がやるべきはおそらく対して手間ではないスペーディア商会の協力取り付けだけだ。

 

 ちょうど、馬車が停止する。

 さて、それじゃあ、ノウ領復興計画を始めようか。

 

 意を決して、馬車を降りると、降りてすぐのところでレドが胸に手を当てこちらに敬意を示す姿勢で待っていた。

 

「突然で悪いなレド」

 

「滅相もありませんよファレス様。こちらです」

 

 そうして案内されたのは歓待用の部屋。

 いわゆるVIPルームって奴だろう。

 そこで待っていたのは、今や馴染みの顔になったクインと……

 

「歓迎いたします。ファレス・アゼクオン様。私、当商会にて代表をしております、ギンカ・スペーディアと申します。娘が大変お世話になっているようで……」

 

 まだまだ若々しく美しい外見、それでいて確かに強かな表情と気迫を携えてこちらに右手を差し出してくる。

 スペーディア商会の現代表にして、その実力でスペーディア家を男爵家にまで押し上げた張本人、ギンカ・スペーディアの姿があった。

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