The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第三十七話 『クインファレス』

 俺とサラがノウ家の問題の根幹を解決してからしばらくが経った。

 サラが活躍してくれたおかげで予想以上にノウ家の問題が早く片付いたため、あれ以降はそこまで俺が出る問題もなく、被災地だと言うのに穏やかな日常が過ぎていた。

 

「おおぅ! ファレスサマじゃねぇか! 今日はなにしてんでさぁ?」

 

 穏やかとは言え、俺は責任者。

 ただふんぞり返っているだけではなんとなく落ち着かず、ナバラたちによって造船が行われている仮工場まで足を運ぶと、ちょうど出て来たナバラに話しかけられた。

 

「造船の進捗確認だ。もうしばらくで皇帝陛下から与えられた期間となってしまうからな」

 

「そうか、もうだいぶ経ったもんなぁ。じゃ、見てくかい? きっとあんたでも驚くぜ?」

 

「ほう? では、見せてもらうとするか」

 

 時間の経過をしみじみと噛み締めながらも、自信ありげに片眉を吊り上げてそう言うナバラに期待が高まる。

 さて、魔法があるこの世界での物づくりってものは一体どんなレベルで行われるんだ?

 家なんかが一日二日で建つ世界だ。

 一体……。

 そう思って足を踏み入れた造船工場内はとんでもないことになっていた。

 

「どうだい! これが俺たちの新しい漁船、『クインファレス』だぜ!」

 

「!!」

 

 絶句して言葉が出ない。

 1853年に黒船を見た日本人もきっと同じ感情を抱いたのではなかろうか。

 そんな衝撃が全身を駆け巡った。

 

 ……そして、少し遅れてナバラの妙な言葉が頭のどこかに引っかかり、響きだした。

 

「……『クインファレス』?」

 

「ああ! 俺たちの新しい船の名前でさぁ! こういうもんはゲン担ぎに縁起のいい言葉を突けるもんだろ? だから俺たちにとっちゃこれ以上ない名前でさぁ!」

 

 いや、いやいや?

 いやいやいやいや!

 百歩譲って俺かスペーディア商会の名前が付くのは理解できる。

 だが、俺とクインの名前をただくっつけただけって……確かにナバラたちにとっては良縁だったのかもしれないけど……。

 もし、また難破でもしようものならあまりに縁起が悪いし、それに……。

 

「今、なんと?」

 

 俺に少し遅れて造船工場に入って来た絶対零度☆サラちゃんが永久凍土をも凍り付かせそうな、冷たい声音でそう呟いた。

 

「……おぉっと! さすがはファレスサマだ! 俺は仕事の続きにいってくらぁ!」

 

「お、おい! ナバラ貴様っ!」

 

「ガハハハッ! もうすぐ完成するからそれまでは部屋でゆっくりしっぽりしとくんだなぁ!」

 

 ……あんのくそ爺め!

 とてつもない爆弾を落として逃げていきやがった。

 

「ファレス、様? 私の聞き間違いでしょうか?」

 

 曇り切った眼で俺を見つめるサラ。

 ……穏やかな日常なんてなかった。

 

「待て、サラ。一旦深呼吸だ。ほら、鼻から息を大きくだな――」

「……手始めにこの工場にいる者どもを磔にしましょう」

 

 アンガーマネジメントは失敗。

 なら次は……

 

「待て待て、ただの船の名前だ。ゲン担ぎらしいから特に深い意味はないだろう」

 

「ですが……」

 

「自分の右手首についている物はなんだ?」

 

「! それは……」

 

 俺の脳がはじき出した最適解はこれだった。

 サラの右手首へ視線を向ければそこにはいつも通り、ブレスレットがつけられていた。

 

「それは誰に貰ったものだ?」

 

「ふぁ、ファレス様です」

 

 嫉妬大爆発サラちゃんを鎮める方法。

 俺がやったのは嫉妬というマイナスの感情を他のプラスの感情で塗りつぶすというだけのもの。

 普通ならかなり難しいがサラについてはその限りではない。

 

「あの船に付けられたのは名前のみ。それも俺のあずかり知らぬところで付けられたものだ。それに比べ、サラのそれは俺がお前に贈ったものだ。この違いがわかるな?」

 

「はい、はいっ! 取り乱してしまい大変申し訳ございませんでした……」

 

「良い、さぁ他の場所へも進捗確認へ行くぞ」

 

「はいっ! お供いたします!」

 

 ふぅ……何とか難は去ったか。

 本当はクインの様子も見ておきたかったんだが、この状況では仕方がない。

 まあ、船に名前を付けられるほどならば、おそらく問題なくこなせているだろう。

 それに造船の進み具合的にそろそろ報告にも来るだろうし。

 

 ……これであとは、海の神とやらだけだな。

 

 いつの間にかかなりしっかりとした拠点として構えられた建物をサラを連れて回りながら、まだ見ぬ海の神について思考を巡らせた。

 

 ◇◇◇

 

 ――同時刻、海。

 

「久しぶりに海に入れるっつうから来たけどよ……まさかナバラ船長の与太話を真剣に調査する日が来るとはなぁ」

 

「そうっすねぇ。でも、俺たち毎日海に出てましたけど、あの話に出てくる海の神なんて影も形も見たことないのに、今更調査して意味あるんすかねぇ?」

 

 ナバラの船員の中でも若く、荒れた海に放り出されても自力で戻って来るばかりかおぼれかけた仲間を何人も助け上げた腕利きの二人が海の神の調査にやって来ていた。

 

「意味の有無は俺たちじゃなくてお上が決めることさ。俺らにできるのは見たことをそのまま持ち帰って伝えるだけよ」

 

「ま、それもそうっすね」

 

「念のため、手分けはせずに行くぞ」

 

「はいっす」

 

 海の神については半信半疑な二人だが、それを語るナバラのことは何よりも信用している。

 そのナバラが語るのだから注意するだけの価値は十分にあると、気を引き締め海に飛び込んだ。

 いつもなら潜ってすぐに魚の姿を見ることができるほど豊かな海だったこの海はまるで姿を変えてしまったかのように小魚一匹の姿さえ目にすることができない。

 

 そんな状況を不気味に思いながらも、アイコンタクトを一つしてさらに奥へと進んでいく。

 

 海については帝国内でも指折りの二人、だが、数十分後、そんな二人でも冷静さを欠くような事象を目にする。

 

「急げ! 逃げるぞ! あれはまずい、本物だっ!」

 

「なっ、なんなんスかあれっ! あんなのどうすれば……」

「悩んでる暇があれば魔力を全部絞り出せ!」

 

 水面で互いに聞こえているのかいないのか分からないような会話。

 だが、その緊張感と恐怖心だけは二人ともに共通していた。

 

 何を隠そう彼らの背後からは全てを飲み込んでしまいそうな深い蒼が二人を飲み込もうと刻一刻と近づいており、彼らは久しく忘れていた海の脅威を思いだし、必死に水を搔いていたのだ。

 

 ◇◇◇

 

「……と、以上が造船の進捗報告になりますっ」

 

「流石だな。実は今日工場に顔を出してきたのだが、あれほどの船を造っているとは思わなかったぞ」

 

 夜、俺の部屋に報告にやって来たクインから改めて造船の進捗報告を受けていた。

 やはりクインの事務能力や諸々の商才は確かなものなようで、良くまとまって聞きやすい報告だった。

 

「そうだったのですか! 申し訳ありませんおもてなしも出来ず……」

 

「構わん。もてなすのは客だけにしておけ。今は俺がこの一帯の責任者なのだから」

 

「はい。ありがとうございます。それで、ファレス様船おろしの日取りについてなのですが……」

 

「もう、日程が組めるほどなのか?」

 

「はい、ナバラさんによれば今夜にでも完成すると」

 

 異世界工業ってすごい。

 魔法があれば機械って要らないんだな……。

 まあ、今回の造船のMVPはレドだろうけど……。

 クインの報告によれば、さまざまな材料の切断工程をほぼすべてレドがこなしていたらしい。

 しかも、どれも規格ぴったりに切り分けるものだから設計の通りにサクサク造船が進んだらしい。

 プラモデルかな?

 

「そうか、やはりクインに任せて正解だったようだな」

 

「いえ、そんな……私は出来ることをしただけです」

 

「そうか、ならば俺の目とお前の手腕が良かったとそう言うことにしておこう」

 

「……っ! はいっ!」

 

 自分一人が褒められた時より嬉しそうにするクインを見ながら、船おろしの日程について考える。

 復興のためならば、一日でも早く漁業を再開させるべきだが、海の神の件がある。

 

 調査報告でも上がらない限りは……。

 

 そう思っていた時、部屋の外で急な来客に対応できるように立たせていたサラとあまり聞き馴染みのない大きな声が聞えて来た。

 

「そんなに急いで何があったのですか?」

 

「悪い嬢ちゃん。すぐにファレスの旦那に会わせてくれ! 居たんだよ! ありゃあまちがいねぇ海の神だっ!」

「ほんとっす! 俺たちも見ただけですぐに逃げてきちまったんですが!」

 

 ……どうやら最高のタイミングで最悪の報せが入って来たみたいだ。

 

「……分かりました。ファレス様にご確認いたしますので少々お待ちくだ――」

「いや、必要ない。二人とも入れ。すまないなクイン。船おろしについてはまたあとだ」

 

 サラの言葉を遮るように扉を開けながら、クインに謝罪を告げる。

 

「私のことはお気になさらず、ですが、その報告私も一緒にお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 これは、おそらく全戦力を上げて当たるべき問題になるだろう。

 

「ああ、構わない。サラ、レドとナバラを呼んできてくれ」

 

 そう考えた俺は、クインに加えてレドとナバラも呼ぶようにサラに指示をする。

 

「かしこまりました」

 

 まあ、おそらくこの地での最後の仕事だ。

 完璧に対策を立てて、憂いなく任務を完遂するとしよう。

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