The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第三十九話 海の神

 街を上げての大騒ぎになった宴が明けて、翌日昼。

 新船「クインファレス」が沖に付けられ、手短な船おろしを済まされようとしていた。

 

 もうあと合図一つで着水するという所で一行は動きを止め、指揮を執っていたナバラが俺の方を向いた。

 

 ……よし、ノウ領復興最終作戦開始だ。

 

「皆、今日までよくやってくれた。俺と共に来てくれた者たちはもちろん、この街の者も悲嘆にくれず、良く動き良く働く、まさに理想的な臣民である! さぁ、そんな勤勉なお前たちに最後の任務を命じよう。……この地に最も被害をもたらした海の神とやらに引導を渡す時だ! 戦えるものは俺に続けっ!」

 

 風の魔法を応用し、遠くまでよく響くように口上を上げる。

 すると――

 

「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

 

 それを聞いた船員やその他街の人々、アゼクオンやスペーディア商会の者たちから割れんばかりの歓声が上がった。

 そして、そのタイミングでナバラが船を支えていた者たちに合図を送る。

 激しい水音を立てて、クインファレスは無事海面に降り立った。

 

「さぁ、お前ら乗り込めぇ! 新船の景気づけにこの海で一番デカい獲物を吊り上げようじゃねぇか!」

 

 ナバラの掛け声で船員たちは次々に船へ駆けこんでいく。

 

「さて、サラ、レド俺たちも行くぞ。クイン、こちらのことは任せた」

 

 駆け込んでいく彼らに続いて俺も船に乗ろうと歩き出したところで、背後から袖口を掴まれた。

 振り返ってみれば、俺の袖を掴んでいるのはこちらの避難誘導などを任せようと思っていたクインだった。

 

「? どうかしたか? クイン」

 

「あ、あの! ファレス様! 私も一緒に連れて行ってはいただけませんかっ!」

 

 俺の問いかけに必死の様相でクインが叫ぶ。

 突然どうしたというのだろうか?

 こちらで指揮を執る者がいなくなってしまうし、そもそも戦闘能力に優れているとは言えないクインを連れて行くのは危険すぎる。

 

「ダメだ、こちらの指揮どうする?」

 

「それは……ですが、この地での最後、ファレス様が飾られる有終の美を間近に見せていただきたいのです!」

 

 ……えらく強情だな。

 クインにしては珍しい、が、その珍しさを発揮する場面は今ではないだろう。

 そう思って、もう一度強く拒否しようとした時、俺とクインの間にレドが割って入った。

 

「ファレス様! どうか聞き入れてはいただけませんでしょうか」

 

 レドまで?

 急にどうしたんだ?

 そう思ってレドの目をまっすぐと見つめ返すが、もちろんこんな状況にまで冗談を言うような男ではない。

 何か考えがあるのだろうか?

 何かがあるなら事前に行ってくれれば良いものを……どうしてこう急なんだ。

 だが、今の士気をこんなことで消費してしまうのは惜しい。

 

「……分かった。ただし、レド、貴様が責任を持ってクインを守るのだ。いいな?」

 

 仕方なく、俺はクインの要望を聞き入れた。

 

 それからは手早く、近くにいたアゼクオンで母さんのメイドをしていた女中の一人に声をかけ、もしもの場合の陣頭指揮を騎士の代表者と共にとるように指示を告げ、クインファレスへと急いだ。

 

「ナバラ、人員確認は問題ないか?」

 

 船に乗り込み、操舵室へ向かった俺はナバラに最終確認をする。

 

「もちろんでさぁ! いつでも出発できるぜ?」

 

 それに、いつもの三割増しで元気そうなナバラが不敵に答えた。

 やはり彼は海の男と言うことなのだろう。

 

「よし、では船を出せ! 目標はたった一つ、海の神だ!」

 

「よっしゃぁ! お前らぁ! 全速前進!」

 

 ナバラが言い切るのが先か、船が動き出すのが先か、凄まじい音を立てて船が動き出す。

 どうやらナバラ以外の船員たちも海の上に戻って来られたのが余程嬉しいらしい。

 

 こうして俺たちは遂に海へと足を進めた。

 

 ◇◇◇

 

 動き出しこそ、ものすごい音を立てていたクインファレス号だったが、一度動いてしまえば揺れはほとんどなく、果たしてこれは本当に漁船なのか? と疑ってしまうほどだった。

 

 しかし、そんな穏やかな海の旅も束の間。

 先頭にいなくとも、前方の海が明らかにおかしい状態なことは明らかだった。

 

「前方五百メートル、敵影と思しき存在を確認! 非戦闘員は船内へ!」

 

 俺が違和感を覚えたのとほぼ同時に見張り台から様子を窺っていた船員から報告が入った。

 

「……いよいよだな」

 

「そうですね」

 

「これはこれは……これほどの大物、久方ぶりです」

 

 俺の呟きにサラは短く答え、レドは剣聖時代の血が滾るのか、訓練の時、たまに見せるように目をギラつかせている。

 

「よし、俺たちは甲板へ出るぞ。ヤツが現れたら……いいな?」

 

「はい」

「無論です」

 

 サラとレドに作戦の最終確認をする。

 この船の船員やアゼクオンの騎士で遠距離攻撃が得意なものを連れてきてはいるが、今回の攻略の要は第一にレド、そして俺、サラと続く。

 

 初劇のレドが仕留められればそれで良し。

 それが無理でも、俺とサラによる二人がかりの『嫉妬』の魔法でヤツを拘束+バインドダメージ、それに加えてレドの斬撃を継続的に浴びせ続け削って倒す。

 ファレス的にはあまり好ましい戦い方ではなさそうだが、元廃ゲーマーの俺からしてみれば、こういう地味な戦法は実に好ましい。

 

 二人と頷き合って、作戦が滞りなく伝わっていることを確認すると俺は最後にクインの方を向いた。

 

「……くれぐれも前に出すぎるなよ? 攻撃が来たらすぐにレドや俺たちの背後に隠れるように。自分の後ろ程度ならば、少なからず守る余裕もあるだろう」

 

「……っ! はいっ! ありがとうございます!」

 

 ここまでついてきたんだ。

 どうせなら特等席で見せてやろう。

 きっとファレスならそうするからな。

 

「前方、敵影に動きアリ! 顔を出しますっ!」

 

 見張り台からの緊迫した報告と共に俺たちは甲板へと飛び出した。

 

 そして、甲板へと出てきた俺たちを迎えたのは――

 

「これが海の神……差し詰め、水蛇……いや、水竜とでも言ったところか?」

 

 まだ体の大半が海中にあると言うのに、もたげた首で日光が完全に遮られてしまうほどの巨体を持つ、旧約聖書上のレヴィアタンのような巨大な竜だった。

 それも、爬虫類のような鱗を持つ竜ではなく、体はおそらく水で出来ていて、本来なら透き通って美しい、いわゆる魔法生物の類だろう。

 なぜか今は、その体を構成する水が影のように濃い黒に染まり切っており、魔法生物特有の神秘的な美しさは欠片も見られないが。

 

 

「取舵一杯っっっ!!」

 

 俺たちがそんな竜との邂逅を果たしている間にナバラが船の進行方向を大きく左へ変更し、障害なく俺たちは水竜と向かい合った。

 

「レドっ!」

 

「承知っ!」

 

 見たこともない速度で飛び上がったレドが空中で剣を振るう。

 その太刀筋は俺が確認できただけでも既に縦横無尽に斬り払われており、剣聖の真の実力を感じさせられる。

 だが――

 

「ダメですな……。手ごたえが全くないわけではありませんが、どうやら有効打ではないようです」

 

 いつの間にか俺の隣へ戻ってきていたレドがそう言った。

 すぐに水竜へと視線を戻すが、確かに全く効いた素振りは見せない。

 

 まぁ、ここまでは想定内だ。

 

「サラっ! 合わせろ!」

 

「はいっ!」

 

 レドの攻撃に反応したのか口元に圧倒的な質量の水の塊を形成し始めた水竜を見て、俺は急いでプランBに移行する。

 

 俺とサラの足元から漆黒の大蛇が顔をだし、水竜を締め付けにかかる。

 その光景は三頭の竜が絡み合い、それぞれを押さえつけようとしているかのような異様なものだった。

 

「くぅっ――」

 

 しかし、水竜の力は強大で、まだ魔法を使い始めたばかりだと言うのに、サラはもう苦しげな顔をしていた。

 現状の組み合っている状態ですら、船体はきしむ様な音を立てていると言うのに、直撃すれば、いくらクインファレス号とはいえ甲板に大穴が空いてしまいそうなブレスを何とか二人がかりで逸らせるも、『嫉妬』の魔法を首元へ集中させすぎたせいで、今度は体をよじって水竜が暴れ、大波が起こり船が大きく揺れた。

 

「面舵一杯っっ!」

 

 ナバラが波に呑まれないように、流れに合わせて船の進行方向を捜査している声が聞えてくる。

 今はそれぞれが出来ることを全力で行って、何とか戦況を膠着状態で持ちこたえているような状況だった。

 

 こいつはまずい。

 想像以上の強さだ。

 正直なところ、剣聖の存在と大罪魔法があったため、万全を期していたつもりでも、どこかたるみがあったのだろう。

 この一か月、色々な物事がとんとん拍子に進んでいたせいもあるかもしれない。

 肝心なところでゲーム感覚になってしまっていた感が拭えない。

 

 全力で『嫉妬』の魔法を行使しながら、戦局を変える次の一手を本気で考える。

 そんな擦り切れんばかりに脳みそをフル回転させていた時だった、聞き覚えのない声が俺の脳内に響いてきた。

 

「憎イ、憎イ! 海ヲ我ガ物顔デ荒ラス人間共ガ憎イィッ!!!」

 

 一旦思考を止め耳を傾けてみれば、その声は俺の手袋を通じて聞えてきているようだった。

 ……そうか竜皮の手袋は魔法生物とは言え、同じ竜の素材。

 こいつを介せばもしかしたら意思疎通が可能かもしれない。

 

 絶体絶命の状況で訪れた、不可思議な事態。

 だが、それ以外に縋れるものもない。

 

 俺は一縷の望みにかけて、竜皮の手袋へ魔力を流し込んだ。

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