The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第四十話 相反する力

 魔力を手袋に流し込むと目の前で暴れ回る水竜の声がより鮮明に聞こえるようになってきた。

 

「憎イ! 私欲ノタメニ海ヲ荒ラス人間! 許サナイ許セナイ!」

 

 だが、変わらず聞こえる内容は人間への恨み言ばかり。

 鮮明になって分かったが、どうにも自我を欠いてしまっているような状況に見える。

 あの体表からも分かるように何かに汚染されたような状態なのではないだろうか?

 

 と、考察をしているだけでは状況は一向に改善しない。

 一先ず、意識の確認の意も込めて声をかけてみる。

 

「おい! 水竜! 貴様はなんのために暴れているっ!」

 

 この魔力を介した会話は、口から話す言葉以上に感情が強く反映されているようで、俺的には下手に出たつもりだったのだが、ファレス節が全開になってしまった。

 

「憎イ! 人間ハ皆憎イ!!」

 

 だがそんな俺の心配も杞憂に終わる。

 全く取りつく島がない。どうやら自我を憎しみや怒りなどの負の感情に飲み込まれてしまっているようだ。

 

 ……これではこいつの言葉が分かってもなんの意味もないではないか。

 さて、どうすればいいのか……。

 

 継戦を意識したレドの剣も『嫉妬』の魔法による拘束もバインドダメージもあまり効果には期待できない。

 本気で仕留めにかかるレドならばあるいは……と言ったところだが、そんな溜めを作っている余裕はない。

 と、すれば……あと俺が持っている手札は……『怠惰』か。

 

 これまでは状況の先延ばしにしかならないだろうと真っ先に選択肢から外していた『怠惰』の魔法だが、『嫉妬』の魔法による拘束さえ大して意味を持たない現状なら、上手い具合にこいつの意識を取り戻させることが出来たりしないだろうか?

『怠惰』の魔法は強力だが、この魔法が最大の力を発揮するのは人間が相手の場合。

 クゾームは大して訓練もせずに魔法に溺れていたから、自我を奪い廃人にする程度にしか使えていなかったが、魔力の扱いに長け『傲慢』を有する俺が『怠惰』を行使すれば人間相手でなくとも、もしかしたら調整が可能かもしれない。

 

 どちらも希望的観測に基づいた、超利己的な思考だ。

 

 だが……それがどうした。

 俺は『傲慢』、ファレス・アゼクオン。

 常に己を通せずしてその名が務まるだろうか?

 答えは否、断じて否だ!

 

 俺は失敗を受容するような甘い人間ではない。

 その傲慢さを正しく用いて、不遇たる命運から解放されるんだ!

 

 決意を固め、俺はクゾームから得た『怠惰』の魔法を竜皮の手袋を通じて、水竜の意識に直接行使した。

 激しい感情の渦が魔力を介して俺にも伝わってくる。

 だが、それに負けず『怠惰』を使い続けると、水竜に変化が訪れた。

 

 それまで暴れ回っていた水竜は突然、天に向かって雄叫びを上げる。

 しかし、それも束の間、今度はまるで相反する内の何かを必死に押し留めるように全身を揺らし始めた。

 

 当然、それを好機と見たレドが必殺の一撃を放とうと一気に集中力を高めるのが伝わってくる。

 だが、俺はそれを叫んで制した。

 

「待て! レドっ!」

 

 俺の声を聞き、寸での所で停止したレドがおかしなものを見るような目でこちらを振り返る。

 

「どうしたのですか? ファレス様。今こそ絶好の機会、これを逃せば今度はサラ様が持ちません!」

 

 そう言われて、サラの方に目を向ければ見たことがないほど顔色を青くし、今にも倒れてしまいそうなサラの姿があった。

 あれほどの状態になってもまだ倒れずにいられるのは、もはや執念をも超えた何かだろう。

 ……いや、サラのことだ。きっとその何かの正体は信じられないばかりの忠誠心。

 そんな姿を見せられても俺は……。

 

 俺の中に迷いが生じる。

 そして、そんな俺の胸中を見抜いたのか再び、集中力を高め始めたレド。

 

 あの様子はやはり何かが……だが、このままでは……。

 作戦開始前までは討伐するつもりでいたが、先ほど水流から流れてきた感情を受けた今、なんとなくここでこいつを倒してしまうのはまずいのではないかという気がしてくる。

 加えてサラの様子を見てしまったことで、一度ははっきりと決めた決意が揺らぐ。

 

 だが――

 

「止メテ……誰カ私ヲ……」

 

 再び竜皮の手袋を通して水竜、いや、彼女の声が聞こえてきた。

 

「!」

 

 その声を聞いてすぐに察する。

 どうやら微かに自我を取り戻したらしい。

 恐らくこれが最後のチャンス。

 次の一撃で仕留めんとばかりに、先ほどよりも長く溜めを作っているレドを見て、俺はすぐに彼女へ話しかけた。

 

「おい! どうすればお前は止まる?」

 

「誰? モウ、誰デモイイ……助ケテ」

 

「だから、その方法を聞いているんだ!」

 

「……浄化。負ノ感情二取リ憑カレタ私ノドラゴンハートヲ浄化シテ」

 

「浄化の方法はなんだっ!」

 

「……」

 

 彼女との会話はおぼつかない。

 自身の感情を抑え込むのに必死なのか、それともまだ完全には自我を取り戻せていないのかは分からないが、どうにも肝心の情報が聞き出せない。

 レドはもう、今にも剣を振り抜きそうだ。

 

 時間がない……ドラゴンハート、それだけでは何をすればいいのかが分からない。

 

「おいっ! 浄化の方法を教えろっ!! ドラゴンハートに何をすればいいんだ!」

 

 この際、ドラゴンハートの正体だとか、そう言う細かいことはどうでもいい。

 何をすれば解決するのか、それさえ分かれば……!

 

「………………」

 

 そんな希望も甲斐なく彼女からの反応は無くなってしまった。

 

 隣ではレドが軸足にグッと力を込めるのが見える。

 

 ……万事休す、これまでか。

 

 一番の問題はこの問題を解決できないこと。

 今俺がやろうとしていることはなんの根拠もない自分の違和感に基づいただけのものだ。

 ここでレドを邪魔するのは、ここでこいつを討伐すること以上に悪手だろう。

 

 そう、俺が諦めかけた時だった。

 

「レドっ! 止まって!」

 

 これまで物陰でひっそりとコチラを覗っていただけのクインが突然飛び出してきた。

 その目には恐怖からか、涙が溜まっている。

 

「お嬢様っ!? 危険です!」

 

 これには流石のレドも驚愕し、集中状態を解きクインの元へ駆け寄ろうとする。

 しかし、クインはそれすらも手で制した。

 

「レドお願い、そこで見てて」

 

 涙を溢しながらも、水竜に向かって歩くクイン。

 その姿からは俺やサラとはまた違った強い力を感じさせる。

 

 だが、俺もただ見ている訳にはいかない。

 すぐに竜皮の手袋を通じて、彼女に話しかけようと魔力を通そうとするとクインが俺を振り返った。

 

「ファレス様、ここはどうか、私にお任せくださいませんか?」

 

「何を言っているクイン! 一体何が……」

 

 任せて欲しいと言うクインを感情のまま制止しようする。

 だが、俺は止まった。

 彼女の表情、顔からは涙は見えても恐怖は見えなかった。

 見えたのは……ただひたすらな慈愛の心。

 

 俺やサラの大罪魔法とは正反対な善なる気配。

 

「……分かった。だが、」

「はい、必ず、あなたに成功を捧げます」

 

 纏う気配は変わっても本人の本質は変わらない。

 ならば俺は責任者として、部下を送り出すのみだ。

 

「お待ちくださいお嬢様っ! ……ファレス様! 一体どう言うおつもりですかっ!!」

 

 主人に停止を命じられてその場で動けないレドが、再び水竜の方へ歩を進め始めたクインに叫びかけ、それが通じないとわかるや否やすぐに俺に叫びかけてきた。

 

「落ち着けレド。貴様ともあろう者が何を取り乱している」

 

「ですがっ!」

 

 レドはまるで娘を攫われそうになる父親の如く狼狽している。

 ……俺の知るレドの逸話とは些か違いを感じるが、そんな小さな違和感には今は蓋をして言葉を続けた。

 

「貴様には見えぬのか? あの力、並大抵のものではない。それに、クイン自身が任せろと言ったのだ。あれだけの力と自信を見せられて、それを止めるほど俺に狭量な人間になれと?」

 

 俺の言葉を受けて目線を下げるレド。

 

「……っ。何かあれば、お嬢様に何かがあれば……」

「ああ、呪うでもなんでもしてみよ。この場の責任者はこの俺、ファレス・アゼクオンだ!」

 

 だが俺は倒れそうなサラの元へ行き、その体を支えながらレドに向けて高らかに宣言した。

 すると、すでに水竜の顔の真下にまで到達していたクインがこちらを振り返り、俺に礼を告げるように頭を下げた。

 

「やって見せよ! クイン・スペーディア!」

 

「はいっ!」

 

 その返事ともにクインが水竜に向けて手を伸ばすと、クインの全身が清らかな水に包まれ、そして水竜の中へと入っていった。

 

 




次回クイン視点です
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