The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第四十九話 皇帝への報告⑦

 急に確信突いた質問を投げかけてくる皇帝からは一国の長たる者の覇気のような、そんな形容しがたいオーラのようなものが出ている気がした。

 

「それは……ちょうど今より報告させていただこうと思っていたところです」

 

「ほう、さぞや興味深い話が聞けるのであろうな?」

 

 和やかな会食の場は一変、獲物を狩る鷹の目をした皇帝によって一気に会場は静まり返った。

 

「……そこの子竜、水竜のサンはノウ領にて古来より海の神として恐れられていた存在の末裔です」

 

「ほう、彼の地にそんな話があったとは……エドワード伯爵、お主は聞いたことがあるか?」

 

 俺の話を聞いた皇帝は国中に情報網を張り巡らせるエバンス家の当主であるエドワード伯爵へ確認する。

 

「ええ、迷信程度の噂で、ですが。それも先代の頃に一度聞いた限りです」

 

 言い終わるとギロリとこちらを睨み、グラスを一気に呷る。

 そんな伯爵の様子をさほど気にする様子もなく皇帝はこちらを向き直った。

 

「どうやら存在はしておるようだな。それで?」

 

 視線の鋭さは変わらず、俺へ続きを促す。

 

「はい。ノウ領で漁船の船長をしているナバラという人物にその話を聞いた我々は最終目標として水竜の討伐を掲げました」

 

「負けるとは思わなかったのか?」

 

 こちらを見定めるようで、半ば煽っているとも取れるような態度で矢継ぎ早にそう切り返してくる皇帝。

 だが、俺にその質問は嚙みつけと言ってるのともはや同義だった。

 いくら皇帝の御前とは言え、ここまで自我を殺す俺ではない。

 

「無論です。私、いえ、俺の行く道には敗北はありません。そうでないと示しもつきませんから」

 

 猛禽類を思わせる皇帝のその瞳に負けじと立ち向かい、堂々と宣言する。

 

「はっはっ、それは良い。実際に手名付けているようだしな。だが、子竜が人の形をとるとは……余も長く生きたと思っていたが、まだまだ知らぬ世界があるようだな」

 

 俺の視線をしっかりと受け止めた皇帝は本日何度目かの愉快そうな表情で笑うと、サンの方を興味深そうに見つめる。

 

「お言葉ですが陛下、ファレスが言うことが事実ならばこのまま野放しにしておくのは危険では?」

 

 そんな皇帝の様子を見て、あまり口を開いていなかった国の要職者であろう人物がそう言う。

 

「ふむ、余は手名付けられていると思うが、ファレスどうだ?」

 

「抜かりはありません。すでにサンは私の従魔となっております」

 

 俺が左手をサンの方に向けてかざせばそこから紫色の魔力の糸が伸びる。

 そしてそれはサンの首辺りとつながった。

 

「この通りです」

 

「そうでしたか。従魔なら……まぁ」

 

 要職者だと思われる気弱そうな男はそこで引き下がる。

 ……どうやらうまく誤魔化せたようだ。

 

 実際は『怠惰』の魔法にてサンの意識中に楔を打ち込んでいるため、従魔である証明は出来ないのだが、吸魔の指輪を二つ装備することによって鍛え上げた俺の魔力制御は見た目だけなら従魔契約をしているように偽装することが可能だ。

 

 ただ皇帝の視線だけは気になったが、どうにもこれ以上追及するつもりはないらしい。

 サンに繋いだ魔力の糸を解除し、姿勢を正すと今度は皇帝がいきなり手を合わせて拍手をして来た。

 

「つまり、ファレス、お主は此度のノウ領復興任務にて、その復興とノウ家の調査だけでなくエバンスですら実態を掴みかねていた海の神とやらまで手名付けて見せたと」

 

 拍手をしながら、俺の成果を並べ上げる皇帝。

 これで、報告は終わりか?

 そう思いながら答えを返す。

 

「結果だけを上げるとあらば、その通りです。大変貴重な機会を頂けたこと感謝いたします」

 

「うむ、余の想定を大きく超える成果だ。エドワード伯爵、これでお主もファレスのことを認めざるを得ぬな?」

 

「陛下……! くっ……」

 

 悔しそうに口元を曲げ、憎々し気な視線で俺を睨もうとするエドワード伯爵。

 だが、その視界には否応なくサラも入ってしまう。

 

「そう、ですな。現時点では帝国にとっても大きな人材であることに間違いはないでしょう。あくまで現時点では! ですが」

 

「ほっほっ、だそうだぞ」

 

 サラの手前これ以上恥を晒すわけにもいかないと思ったのか、意外としっかりとした評価をしてくれるエドワード伯爵。

 そして陛下は楽しそうにそれを笑って俺に会話を振って来た。

 

「はい、ありがたいお言葉です」

 

 俺もこれ以上エドワード伯爵を刺激して面倒ごとになるのはごめんなので、当たり障りのない言葉でこの会話を終わらせた。

 

 ふと、窓の外に目をやれば、既にだいぶ時間が経っている様子だった。

 食事の皿も白が目立つようになり、晩餐会の終わりを告げているようだ。

 

「さて、今日は良き時間だった。ファレス、そして一行の者ども此度の任務大義であった!」

 

 陛下が改めて俺たちに労いの言葉をかける。

 

「はっ、ありがたき幸せに存じます」

 

 俺が胸の左側に手を当てて首を垂れれば、他の四人もそれに続いて同じようにした。

 

「アゼクオン侯爵家、並びにスペーディア男爵家には追って褒美を使わす。臣下の者どもにもよく休みを与えるように」

 

「はっ!」

 

 ふぅ、どうやら皇帝は今回の任務の結果に満足してくれていたようだ。

 報告の前はもっと入り組んだものになるかと思っていたが、こうして終わってみればそこまできわどい質問もなかった。

 

 俺は皇帝のありがたいお言葉に返事をしながら晩餐会もとい報告会を振り返る。

 

「うむ、ではグレイグよ。そこの四人を城門前まで送るように」

 

「かしこまりました」

 

 これでようやく肩の荷を降ろせ……ん?

 気を抜こうとして耳を疑った。

 だが、残念なことに俺の耳は正常だったようだ。

 

 皇帝の隣に座っていた近衛騎士隊長グレイグが立ち上がり、こちらにやってくると俺の横のサラに声をかけた。

 

「では、こちらへ」

 

 サラはすぐに俺のことを聞こうとしていたが、グレイグから放たれる圧倒的なオーラに口を開くことができないようだ。

 チラリとこちらを見て申し訳なさそうな表情をしている。

 

 俺はそれに気にするなと答えて、四人の退室を見送った。

 すると、それに続いて陛下以外の王城側の人物たちも次々と退室していく。

 最後にエドワード伯爵がわざとらしく扉を閉めて、遂に会場内には俺と皇帝の二人だけとなった。

 

「さて、ファレスよ」

 

 俺がドアの方を見ている間、窓から空を見上げていた皇帝が俺を呼びながら振り返る。

 

「……はい」

 

 一体何なんだ? 最後に俺だけを残すなんて……。

 ……俺の大好きで大得意なゲームの知識に当てはめれば大抵こういうイベントって――

 

「……ぐっ!」

 

 どうやら俺の想像は当たっていたらしい。

 反応速度の限界ギリギリのスピードで何やら攻撃魔法が迫って来たのを何とか知覚して、レドの時穿剣の魔法でそれを打ち払う。

 打ち払った魔法は先ほどまで食事をしていたテーブルの方へ飛んでいき、テーブルを音もなく粉砕した。

 

「ほっほっ! それを打ち払うか! だが、どうやらその魔法はお主が先日、余に見せたクロフォード侯爵の魔法とは別物のようだな?」

 

 くそっ! 完全にやられた。

 王城を出るまでは気を抜くべきじゃなかったのに……!

 一瞬、あの手紙のことかと勘繰って反応が遅れてしまった。

 

「……さすがのご慧眼ですね」

 

「ほっほっほ。伊達に長生きはしておらぬ。それに余の眼から逃げ切れる者はおらぬのだ」

 

 そう言うと皇帝の両目が怪しげな光を放つ。

 元のままでもすべてを見通すような雰囲気さえ纏っていた皇帝の視線が、文字通り俺の内側を全て覗き込んでいるような錯覚さえ覚えさせられた。

 そして――

 

「余のこの眼はとある魔法を宿しておる。ファレス、お主と同種の魔法だ」

 

「!?」

 

 そう言われた瞬間、俺の全身が全力で警報を鳴らし『傲慢』の魔力が溢れだす。

 どういうことだ? 皇帝が大罪魔法持ちだと!?

 

「ほう、それがお主の力か。なんとも傲慢で不遜なものを感じさせてくれるな」

 

 赤黒い魔力に纏われた俺を推し量るような目で見つめ皇帝はそう言った。

 

「……陛下の魔法とは?」

 

 いや、こんなこと聞くまでもない。

 俺はこの魔法の正体を知っている。

 最悪だ。皇帝の魔法と俺の『傲慢』は言わば水と油。

 同居が許されない相性最悪の魔法。

 その名は……『強欲』

 

『傲慢』を強化コピーの魔法だとすれば『強欲』の魔法は強奪だ。

 そしてこれらの魔法は両者をコピーすることも強奪することもできない。

 

 つまり、戦闘になった場合それまでの手札のみで戦うことになる。

 突き詰めれば『傲慢』の魔法が有利だろう。

 しかし、俺と皇帝では生きて来た時間が違う。

 俺たちの魔法はストックがものを言うようなものだ。

 まともな手札が父の火属性魔法とレドの時穿剣、そして『嫉妬』、『怠惰』しかない俺は圧倒的に不利。

 

「聞かずともわかっているのだろう? だが、心配することはない。ここでお主を殺そうなどとは考えておらぬからな」

 

「では、先ほどの攻撃は?」

 

 両手を広げて害意がないアピールをしてくる皇帝に尚も警戒を続けながら、そう質問を返す。

 

「ふっ、あの程度挨拶にもならぬであろう?」

 

「では、一体……」

 

 俺がそう呟くと皇帝は悪魔のように表情を歪めて、こう言い放った。

 

「野心の強い家臣には力を見せておく必要があると思ってな」

 

 ……ちっ!

 内心でこれ以上ないほどに大きな舌打ちをする。

 この爺、全部見透かしたうえで最初から面白がってやがったのか。

 

「ほっほっ! お主はまだ若い。その野心で余の役に立ってくれることを願っているぞ」

 

「……」

 

 これ以上ここにいても良いことはない。

 もう、帰ろう。

 

 俺の内側で激しい怒りの感情が渦巻いていたが、ここで皇帝と事を構えるのはあまりに愚策。

 そう自分に言い聞かせて俺は出口の扉へと歩を進めた。

 

 扉の前まで来たところで俺はもう一度皇帝の方を振り返る。

 

「忘れるところでした。招待状に同封されていたご質問にお答えします。今回の一件の責任は陛下にございます。この国は陛下の国ですから。どうかノウ家には寛大な処置を」

 

「はっはっはっ!! 考えておこう!」

 

 最後に放った俺の嫌味も簡単に受け流される。

 ……いいだろう。

 今回は皇帝が大罪魔法所持者だと露ほども考えてもいなかった俺の負けだ。

 だが、次はこうはいかない。

 

 俺は『傲慢』ファレス・アゼクオンだ。

 二度も誰かの手の上で踊らされるなんて真似はしない。

 そう心に誓って俺は会場を後にした。

 

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