The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第五話 剣聖

 俺たちが出てくると、若干の不満を顔に浮かべるサラが全く同じ位置で待っていた。

 

「ご無事のおかえり、何よりにございますファレス様。お決めになられたのでしょうか?」

 

 不機嫌を訴えるように、いつもより執拗に丁寧さを強調した口調だ。

 

「ああ、この手袋に決めた。指先が出てないと不便かとも思ったんだが、見てくれ」

 

 だが俺はそんなサラの態度にあえて触れず、大量の指輪を嵌めたままの手に手袋をはめる。

 中には、いかにも悪役がつけていそうな大きな宝石のついた指輪もあったのだが、そんなものまるでないように手に収まった。

 

 その様子を見たサラが驚愕に顔を歪める。

 

「……え!? ファレス様のために選りすぐった厳選の成金悪役指輪たちがっ!?」

 

 ……サラ?

 

「なんでぇ……あのゴテゴテな感じが良かったのにぃ……」

 

 ……サラ???

 

「こちら特別性となっておりまして、手袋をしていてもまるで素手と変わらない感覚で扱うことのできるという商品です! ファレス様の理知的で深く冷たい眼差しの奥にある暖かい優しさと非常にマッチする色合いでお似合いですよね!!」

 

 わけのわからない不満を垂れるサラにクインが張り切って説明をしてくれる。

 だが、クインの言っていることもちょっとよくわからない。

 優しさにマッチする色合いとはいかに。

 

「……あなた、中々見る目がありますね? ですが、ファレス様の魅力は……」

 

「……ンンッ! 二人とも落ち着け。待たせてすまなかったなサラ。せっかくの機会だ。お前も何か選ぶと良い」

 

 これ以上、場がややこしくなる前に話しを変える。

 それにサラには全財産を叩いて吸魔の指輪を買ってきてもらったという大恩がある。

 無論、立て替えるつもりではいるのだが、まあ、元々一昨日はサラの誕生日だしね。

 

「……ファレス様?」

 

 サラが耳を疑うような顔で俺を二度見した。

 

「なんだ? 好きに選んでいいんだぞ?」

 

 まあ、原作ファレスならこんな風に誰かに何かを買うなんて滅多にないだろうからな。

 そんな反応になるのも無理はない。

 

「……え、ええっと……」

 

 サラがキョロキョロと近くの商品を見回し、慌てている。

 ……かわいい。

 きっと、原作ファレスの感覚で早く選ばなければとでも思っているのだろう。

 

 俺はわたわたしているサラを傍目に見ながら、クインを手招きして呼んだ。

 

「どういたしましたか?」

 

「何でもいい。彼女に似合う物を見繕ってくれ。あの調子じゃとりあえずで選んでしまいかねないからな」

 

「かしこまりました」

 

 恭しく頭を下げ、もう物は決まっているとでもいうかのような自信のある足取りでクインが去っていくのを見送り、サラの方へ向き直った。

 

「どうだサラ、気に入るものはあったか?」

 

 視線があちこちに向いているサラへ問いかける。

 ほんとに何でもいいんだけど、ここで俺がなんでもいいぞ? なんて言ったら「何でもいいから早く選べ」と思われかねない焦りようだからこれ以上は言いづらい。

 

「あ、あのファレス様……その……やはり私が何かをいただくなど……」

 

「ほう……俺からの贈り物は受け取りたくないと?」

 

 とはいえ、これでは日が暮れてしまいそうだったので、少しからかってみる。

 

「! 滅相もございません! で、では……あちらをっ!」

 

 だが、いや、やはりと言うべきか。

 俺のからかいを真正面から受け止めたサラは手近にあったブレスレットを指さした。

 

「いや、そうではなく――ん? これは……」

 

 ちゃんと選んでいいんだぞ、と言おうとしつつ、サラの指したブレスレットに目をやると……それには若干の違和感があった。

 まさかとは思うが、この違和感はつまりそう言うことなのか?

 

「……これでいいのか?」

 

 確認の意を込めてさらにもう一度問い直す。

 

「え、あ、はいっ! 実はファレス様をお待ちしている間から少し気になっていた物で……」

 

 どうやらサラは俺に言われて適当に選んだのではなく、このブレスレットに目をつけていたようだ。

 このブレスレットからは先の手袋と似たような何かを感じる。

 先ほどのクインの話から察するにこのブレスレットも何らかの力を持った物なのだろう。

 明確に力を感じたわけではなくとも違和を感じられるということは、サラが道具の方から一目置かれているということだ。

 さすがはサラ優秀だな――と思うと同時に、それをはっきりと言うのにはまだ抵抗がありそうなサラの様子で微妙な距離を感じて何とも複雑な気分になる俺だった。

 

「よし、ではこれにするとしよう」

 

「その……ありがとうございますファレス様」

 

 遠慮気味にお礼を言ってくるサラ。

 きっと原作ファレスだと、お礼なんて言われようものなら「これは施しだ! 黙って受け取れないのか!」とか言ってブチ切れそうなものだが……。

 俺はファレスだがファレスではない。

 お礼を言われれば普通に嬉しいのだ。

 

「気にするな。サラはもっと自分を示してくれていいんだぞ? なにせ、お前は俺のメイドで俺はその主人なんだからな!」

 

「……」

 

 だから、こんな言葉が口を突いて出てしまったのだが……。

 

 あ、あれ? サラの反応がない。

 ちょっとクサいセリフ過ぎたか?

 少し、ほんの少し自我が出すぎてしまったかもしれない。

 今のセリフはどうやっても原作ファレスから逸脱しすぎている……。

 

 ………………

 ………………

 ………………。

 

「ファレス様、商品のご準備が整いました」

 

 微妙な空気を醸す俺たちの下へ、頼みごとを終えた様子のクインが戻って来た。

 

「んんっ……ああ、それとそこのブレスレットも貰おう」

 

 咳払いで微妙な空気を払いのけ、原作ファレスを思い浮かべながらブレスレットを指さした。

 

「こちら……でしょうか?」

 

 若干の間のある確認。

 どうやら俺の感覚は間違っていなさそうだ。

 

「ああ」

 

 そう思って、自信たっぷりに頷く。

 すると、一瞬クインとは別のところから鋭い視線を感じた。

 咄嗟に振り返るも、そちらには誰もいない。

 

「……かしこまりました」

 

 今のは……なんだ?

 恐ろしいと感じるほどに鋭く尖った視線だった。

 気のせい……か?

 

「支払いはこれでいいか?」

 

 そんな視線を感じながらも、おびえた様子を見せるわけにはいかないため、平静を装って包みを差し出す。

 この辺りの金銭感覚はこの身体が覚えている。

 まず間違いなく十分すぎる量の金貨を俺がクインに渡そうとした時だった。

 

「足りませんな……それでは」

 

 先ほど視線を感じた方向から、明らかに上位の存在である老紳士の声が聞えて来た。

 その声に俺の隣でサラが形相を変える。

 

「ファレス様に何たる無礼……許しま――」

「待て、サラ!」

 

 俺への不敬な態度に怒り心頭な様子で今にも飛びかかろうとするサラを止める。

 

 だが、老紳士はそんなサラを歯牙にもかけず、悠然と歩いてこちらへ向かう。

 くそ、入口であった時とはまるで別人じゃねぇか……。

 

「これはこれは剣聖殿……確かに俺は十分な金額を渡したと思うのだが?」

 

 剣聖……クインの話では俺を認めたのではなかったのか?

 下手なこと言ったら、即刻殺されそうなんだが?

 

「ははっ! 無論そうでしょうな。ですから足りないのはっ――」

 

 剣聖はほんの少しだけ、その足取りに力を込めた。

 ただ、それだけ、本当にただそれだけだ。

 いくら剣聖とはいえ、どんな大太刀だろうと剣の間合いではない距離。

 それだけなのに……。

 

「グッ……」

 

 俺はそれだけで片膝を付かされていた。

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