The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

54 / 161
第五十四話 魔法披露宴④

 父上との話し合い? からしばらく経ったその日。

 サンサンと照り付ける太陽が正装をしている俺を容赦なく責め立ててくる。

 

 そんな暑い中、いつも以上にハイテンションな母さんに手を引かれて、俺は馬車に乗り込んだ。

 

「やっと私もファレスちゃんと王都に行けるのね!」

 

 そう、遂に目前までやって来たのだ魔法披露宴が。

 

 この国、グラーツィア帝国にとって魔法披露宴とはかなり重要な催しの一つ。

 貴族の権威、立場、そう言った特権に付随する視線を意識させるうえで避けては通れない国事だ。

 

 だからこそ、原作ファレスはあれほど捻くれて歪んでしまった。

 

 魔法披露宴に集まる同年はそこまで多くない。

 全貴族家が対象とは言え、百はあっても二百も貴族家が存在しているわけではなく、更に同年同月に生まれた子息子女に限られるのだ。

 

 スペーディア商会のように何かしらの力を持って男爵位を得、貴族入りする者や兄弟関係で分家して新しい姓を名乗ることを認められる者もいるため、二人以下になったことはないそうだが、おそらく多くて十人程度だろう。

 

 しかし、それは同年の数のみの話。

 当然自分の子供の晴れ舞台ということで貴族は親族を多く招き、披露宴は皇帝の誕生日程とは言わないがかなり大規模に行われる。

 

 そして、そうなると必然的に侯爵家の子息である俺への注目は限りなく大きくなる。

 魔法にはかなりの自信を持っている俺からしても、その緊張は中々のものだ。

 

 ……ほんと、原作ファレスはどんな感情で魔法披露宴に臨んだんだろうな。

 

 馬車に乗り込み、母さんの隣に腰を下ろしながら、もう何度目になるか自分でも分からないほどに考えた原作ファレスのことへ思い馳せる。

 

「……ファレスちゃん? 大丈夫? また、体調がすぐれない?」

 

 ずっと黙りこくってされるがままになっていた俺を母さんが少し不安そうな目で見つめて来た。

 

「いや、違うよ。体調は万全さ。ただ、俺と時を同じくして生まれた者たちが不憫だと思ってね。披露宴の主役はどうやっても俺だから」

 

 だが、あれこれ考えて周りを不安にさせるというのは俺の本意ではない。

 ファレスは『傲慢』であってこそなんだ。

 

「ふふっ、そうね!」

 

 俺の言葉で不安は取り払えたのか、いつもの明るい笑顔を見せる母さん。

 正面で黙って俺たちのやり取りを聞いていた父上も、先日以来少し表情が穏やかになった気がする。

 

「お父様もこんな立派に成長したファレスちゃんを見たらびっくりするわ! ねぇクロフォード、アゼクオンのお義父様方は本当に呼ばなくていいの?」

 

「ああ……先代は賑やかな場所は苦手だからな」

 

 そうか……母さん側の親族は見に来るのか。

 両親の会話を聞きながら、自分の家族はここにいる二人だけではないと思い直す。

 アゼクオン先代は原作に登場しないため、どういう人なのかは知らないが、母さんの、スジェンナ・ファルシアンの一族のことはよく知っている。

 

 ファルシアン家は帝国北部における大辺境伯というこれまた珍しい立場の存在だ。

 

 帝国北部は魔物、魔獣、魔法生物が跳梁跋扈する魔境である。

 そのため、アゼクオンをはじめとした南部や西部、東部とは異なり、その大半をファルシアン家が治めているという状況なのだ。

 そして、そんな魔境を治めていた母の父、つまり俺の祖父は良い意味で貴族らしからぬ、豪快な人物だ。

 原作では母の兄に家督を継いで、自分は最前線で跳梁跋扈する獣どもを薙ぎ払っている。

 

「ファレスちゃんがお父様に会うのはだいぶ久しぶりじゃないかしら? 生まれた時以来?」

 

「そうだな。アゼクオンとファルシアンでは物理的距離が離れすぎているし、あの御仁は自ら出向く質でもないだろう」

 

 父上が窓の外のさらに遠くを見つめながらそう言う。

 ああ、父上にも苦手な人とかいるんだ。

 僅かに口元を歪める父を見て、俺はそんなことを思った。

 

「まあ、そうね。でも、今回は毎日手紙を送って催促したからきっと来てくれるわ!」

 

「……グスタフ殿は? 来るのか?」

 

 余程会いたくないのか、それとも何か苦い記憶でもあるのか、珍しく父が積極的に話を逸らす。

 

「お兄様? もちろん来るわよ。手紙はお兄様からお父様に渡してもらうようにしていたから」

 

「そうか……」

 

 父の顔に若干の安堵の色が見える。

 なるほど、確かにそれなら男性二人で気まずいことにはならなそうだもんな。

 結婚の経験はないのでわからないが、やっぱり奥さん側の男親と二人きりというのは気まずい物なのだろうか?

 いや、父がこうなっているほどなのだから、きっとそうなのだろう。

 

「あとはどんな子たちがファレスちゃんと一緒に披露宴を迎えるのかが楽しみね!」

 

 しばらく会話に加われていなかった俺を思ってか、俺の方に向き直った母さんがそう言う。

 

「確かに、名前以外はほとんど知らないからね」

 

 否、俺はこの先で出会うことになっている人物をそれなりに知っている。

 この歳は物語の中軸ということもあり、この制度にしては出来すぎなほどの人物が揃っている。

 今回の魔法披露宴に現れる同年代のプレイアブルキャラクターは俺を含め四人。

 

 帝国南部子爵家の長男ルーカス・マーデン。

 帝国西部侯爵家の次女セレスティア・カーヴァリア。

 帝国東部新興男爵家の長女リューナス・クラービー。

 

 こうして並び立てると、やはり俺の次に目立つのは西の侯爵家であるカーヴァリア家のセレスティアだろう。

 原作『マーチス・クロニクル』においてもその圧倒的なビジュアルと、淡々としていて常に冷静な高嶺の花感が大いにウケ、大人気だったキャラクターの一人だ。

 しかし、原作ではファレスとのかかわりはこの魔法披露宴程度で学園編では関わることがほとんどなかった。

 よって、俺もセレスティアのことはファレスの魔法披露宴回想シーンでしかほぼ見たことがない。

 

 次はノウ家などと同じように南部の子爵家であるマーデン家のルーカス。

 ……こいつだけは許さない。

 ファレスルートにおいて、ファレスに真っ先にすり寄り、真っ先に裏切るそれがこの男だ。

 マーデン家は南部貴族の中ではかなり小さい方で地位が弱い。

 そのため、南部大領主であるアゼクオンにすり寄りつつ、その地位を虎視眈々と狙っている。

 原作でファレスが悪役貴族と呼ばれるようになるのも、本人の性格半分、ルーカスの唆しが半分と言っても過言ではない程だ。

 とにかく、ファレスである以上こいつと仲良くすることは百害あって一利なしと言える。

 要警戒人物の一人だ。

 

 最後はクインのスペーディア家と同じように男爵位を得ることに成功した新興貴族クラービー家のリューナス。

 彼女はルーカスとはまた違った意味で警戒が必要な人物だ。

 彼女はかなり強力な無属性魔法の使い手なのだが、原作ではこの魔法披露宴で魔法を披露せず、剣を振るって見せたファレスに感銘を受け、それから学園入学までの三年間剣に打ち込むようになる。

 そして入学してしばらくすると強制イベントとして彼女との剣技対決が行われる。

 無論、原作ファレスに勝ち目はなく、彼女は意図してか意図せずかは分からないが、ファレスのプライドをズタズタに引き裂くことになる。

 

 

 改めて考えると本当に粒ぞろいというか……かなり濃いメンツだな。

 まあ、原作でも現在でも俺が一番濃い存在であることに変わりはないが。

 

「確か、女の子が多いのよね? ……どうしましょうクロフォード! ファレスちゃんの婚約者が見つかっちゃうかもしれないわ!」

 

「……そうだな」

 

 なんてことを考えていれば、母さんがいつも通り発想を飛躍させて杞憂に気をもんでいる。

 今日は感情表現が豊かだった父上もこれにはいつもの無表情で、簡単に流していた。

 

 ただ、俺としてはここにサラがいなくてよかったと心から思うのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。