The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第五十五話 魔法披露宴⑤

 王都グラーツィア、アゼクオン別邸。

 俺としてはアゼクオン領の屋敷より馴染みのある場所だ。

 この世界に来てからも、なんだかんだで利用する機会が多い。

 

「学園に入学したら、ファレスちゃんはここから通うのよね……。ねぇ、クロフォード――」

「それはダメだスジェンナ。いつまでも親の庇護下に置いていては学園に通う意味が無いだろう」

 

 すっかり日も落ちた暗い王都はそれでも街明かりと喧騒で賑わっている。

 馬車を降りて、別邸の門をくぐりながら俺は、ひとつ大きなことを知った。

 少し前を歩く両親へ目を向ける。

 そこに映るはいつも通りな様子の母さんと普通に会話をする父上の姿。

 

 そう、あの父上が普通に会話をしているのだ。

 どうやら父は無口なのではなく、ただ温まるのが遅いだけだったようで波に乗ってきてしまえばこの通り、こちらへ向かう道中からこうして普通に会話をするようになっていた。

 ……これは原作にはない裏の設定だったりしたのだろうか?

 

 まあ、設定にしろ、今世におけるオリジナル要素にせよ両親の仲がいいのは良いことだ。

 きっと原作ではこんな穏やかで賑やかな空気ではなかっただろうからな……。

 

 そんなことを思いながら俺は一人、自室へ向かった。

 

 ◇◇◇

 

 魔法披露宴に招かれるのは参加者の親族のみだ。

 しかし、サラにとってそんなものは些末なことでしかなかった。

 ファレスの行く先がサラの通る道なのだから。

 

「ファレス様、夕食のご準備が整いました」

 

 自室でくつろいでいた俺の耳に聞き慣れた声が届く。

 

「……サラ? 待機を命じられていたはずではなかったか?」

 

 無論、俺がこの世界において最も聞き慣れた声の持ち主と言ったらサラ、彼女しかいない。

 だが、今回は国事。

 名分上では皇帝の名のもとに開催される魔法披露宴には厳格なチェックが存在する。

 前もって使用人、従者すべての参加者が王城に名前を控えられ、その中に含まれない人物はいかなる理由があろうとも披露宴会場に立ち入ることは出来ない。

 

 サラはその微妙な立場上、今回はアゼクオン領にて留守を預かる手筈になっていたはずだ。

 なのにどうしてここに?

 

「はい、ですので父に頼み招待状を頂いてまいりました。皇帝陛下からの招集をお断りするわけにはいきませんので」

 

 悪意など微塵も感じさせない、いや、実際に思っていないのであろう満面の笑みでサラは言った。

 

 だが、俺にはわかる。

 そんな無茶をエバンス伯爵が受け入れるはずがない。

 だと言うのに、確かにサラの手には皇帝陛下の封蝋で閉じられた招待状が握られている。

 

 つまり……この子は一切の悪意なく実の父を動かすだけの何かをしたという訳で……。

 うん、サラのことは怒らせないようにしなきゃだね。

 

「……そうか。……ではいつも通り、俺の身の回りのことは任せたぞ」

 

「! はいっ! お任せくださいっ!!」

 

 尻尾が生えていたらきっとちぎれんばかりに振り回されていることだろう。

 そんな幻想さえ見えてくるほどの純真な可愛さだ。

 何時もこうだったら……いや、それはそれで大変そうだ。

 

 いつも以上にさらに洗練された動きで俺を連れていくサラの背中を見ながら、何だか肩の力が抜けたような気分になった。

 

 

 夕食は流石にアゼクオン当主一家が揃うと言うこともあってか、本邸で出て来るもの以上に気合いの入った料理ばかりだった。

 このシェフがいれば俺の学園生活における食事の心配もなさそうだ。

 

 食事中は馬車から降りたままのテンションの両親に俺が生まれてから今に至るまでの色々なエピソードを聞かされた。

 やれ、いつ喋り出した~だの、歩き出したのはいつ頃だっただの、本当にファレスがこの世界に生まれ、今日までを生きて来たのだということを実感させられた。

 

 ………………。

 

 母さんは全くもっていつも通りだったが、珍しく顔が薄く赤らむほどに酒を入れた父上があんなに饒舌だとは思っても見なかった。

 さすがの母さんも途中から父上のことを心配してしきりに水を勧めていたのは、何となくこの二人の相性の良さをまたも垣間見てしまったようで、原作ファンとしては嬉しい一方、現息子としては微妙な感情になった。

 

 そして今は――酔いながらも真剣なまなざしを向ける父上と向かい合っていた。

 

「さて、ファレス。酔い冷ましに付き合いなさい」

 

 こんな会話で中庭の訓練場に連れ出され、今に至る。

 中庭には俺と父上、そしてなにやら父上と同じくらい真剣な眼差しをした母の姿もあった。

 

「父上、酔い冷ましとはまさか……」

 

「ああ、無論。お前の考えている通りだ」

 

 つい先日にも似たようなことをした気がするのだが……なんて思ったのも束の間、地面を蹴った父上が目の前に現れる。

 

 咄嗟に防御姿勢を取りつつ、振り抜かれようとしている父上の拳に違和感を覚えた。

 その拳は炎を纏っていなかった。

 それどころか魔力の気配さえ感じない、純粋なただのパンチだ。

 

 魔法に対して素手で立ち向かうというのはいくら父上が実力者と言えど、危険すぎる。

 俺はすぐに防御用に控えた魔法を解除し、寸でのところでその拳を躱す。

 耳元で空気を裂く鋭い音が聞こえる。

 

「父上、一体なんの――」

 

 言いかけて言葉を呑む。

 父の表情を見れば、これが酔いに任せた戯れなどではないということは一目瞭然だった。

 

「ファレス、お前は素晴らしい。その歳にして、アゼクオンの名の大きさを理解し、そればかりか自らの力を最大限発揮している。今やこの国でお前の名を知らぬものなどいないだろう」

 

 口ではそう言いながら、父の拳は的確に避けづらい場所を狙って打ち込まれる。

 魔法を使えば、簡単に状況を覆すことが可能だが、それをしてしまっては帰って父上に危険が及んでしまう。

 俺は黙って回避に専念し、父の次の言葉を待った。

 

「だが、な。……俺の見て来たお前はそこまで器量の良い子ではなかった。才は確かだっただろう。アゼクオンとファルシアンのサラブレッドだ。間違いなく帝国最高峰であることは何の疑いようもない。だが、その他の面においてお前は年相応だった」

 

 ここに来て今日一番鋭い拳が放たれる。

 不利な体勢で咄嗟の回避も間に合わない。

 仕方なく両腕でその拳を受け止めようと俺は顔の前でガードポジションを取った。

 

 すると、予期した通りの衝撃はいつまでたっても訪れず、その代わりにこれまでほぼ常に俺が身に着けていた漆黒の手袋が両手から抜き取られていた。

 

「……!?」

 

「……それは一体なんだ? ファレス」

 

 手袋に覆われていた俺の指に現れたのは――帝国貴族にとっては、一種の恥の象徴である『吸魔の指輪』

 少し離れたところで母さんの息を呑むような声が聞える。

 

 ……いつかは来るだろうと思ってはいた。

 

 俺は『マーチス・クロニクル』の廃プレイヤーの一人。

 特にファレスルートについては中々の含蓄があると自負している。

 何度も何時間もゲーム内でファレスになり切り、ファレスとしてゲームをプレイしてきた。

 だから、ファレスらしい思考や行動のロールプレイにもそれなりに自信を持っていた。

 

 だが、それ以上にバッドエンドを回避することを目標に生き始めたのだ。

 俺は……ファレスではない。

 

 本物のファレスならば、何よりもプライドを優先するファレスならば……どんな目に遭おうと恥の象徴たる『吸魔の指輪』をつけることはあり得ない。

 

 そして、生まれたときからファレスを見て来た両親がそんなことに気が付かないはずもない。

 

「あえて、こう聞こう。ファレス……お前は何者だ」

 

 父上から……クロフォードから放たれたその言葉が、冷たく重い氷柱となって俺の胸に突き刺さった。

 

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