The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第六十一話 魔法披露宴⑪

 立食パーティーの会場は、それはもう、どこかのホールかと言わんばかりの広さだった。

 ほんとにこの王城はどんな規模をしているんだ……。

 もちろん用意された料理たちも見た目から食欲を刺激されるようなものが集まっているが、この場には食事に意識を傾ける者はいないだろう……一人を除いて。

 

 魔法披露宴開始前にセレスティアに注意されていたはずなのだが、料理の魅力に勝てなかったのか、再び食事に傾倒するリューナスの姿は明らかな異質としてかなり目立っていた。

 両親も来ているはずだが、新興の男爵家はこういう機会で顔を売らなければならないから、娘の相手をしている暇がないのだろう。

 

 ちなみに俺はと言うと……。

 

「なぁ、おいファレス。さっきのは一体何なんだよぉ?」

 

 北の大辺境伯であり、母さんの兄、つまり俺にとっては伯父であるグスタフにバッチリ捕まっていた。

 おかしい、先ほどまでは父上の肩を一方的に組んでゲラゲラと笑っていたはずなのにいつの間にこんなことに。

 

「ただ、見た魔法を真似したというだけです。得意なんですよ」

 

 俺はパーティーレセプタントから受け取ったワイン風ジュースを傾けながら、何とかいなせる方法を探す。

 

「魔法を真似するたぁ、そりゃぁとんでもねぇ特技だな」

 

 うすうす思っていたが、この伯父、段々酔っぱらって来てないか?

 こう言う喋り方なのは間違いないだろうが……これ以上はかなり面倒になりそうだ。

 男の絡み酒なんて勘弁過ぎる。

 

「そうですね。自分でもかなり特殊だとは思っていますよ」

 

 適当に相槌を打ちながら、どうにか避難できないかと周りを探る。

 ……母さん、はダメだ。

 雛鳥連合とその家族たちから挨拶を受けて、鼻高々に俺の話をしている。

 あれに巻き込まれるのも勘弁願いたい。

 

 ……父上は相当に疲れたのか、侯爵だと言うのに存在感を消して柱に背を持たれ、一人でちびちびグラスを傾けていた。

 ……あの人、もしかしなくてもただの陰キャなのでは?

 よく母さんと結婚出来たな。

 

 あとは……と視線を動かしながら、一人こういう状況には必ず駆け付けそうな彼女の姿が見えないことに気が付いた。

 魔法披露宴の会場では、メイドの恰好のまま身を乗り出してこちらを見ていたのだから真っ先に飛びついてくるかと思っていたが、流石のサラちゃんも控えたのだろうか?

 まあ、本来ならサラは正式招待者ではなく、エバンス家の力で無理やり招待状を作らせたと言っても過言ではないからここにいなくても……。

 

 そんなことを考えていたら、会場のドアが勢いよく開かた。

 そして入って来たのは、明らかにアゼクオンを意識した赤いドレス姿のサラ。

 ……なるほど、ここにメイド服姿で入るのは流石にあれだもんな。着替えて来たのか。

 

 なんて冷静に考えていたのも束の間、サラは一瞬で俺の姿を見つけるとつかつかと若干の速足で俺の元へやってくる。

 

 うん、走らないだけ偉いけど一応、通り過ぎた中にカーヴァリア家がいたからね?

 エバンスは特殊な家だけど伯爵家、一応侯爵家相手には挨拶した方がいいよ?

 

 だが、サラが最優先するのはもちろん俺だ。

 

「ファレス様!」

 

「サラ、赤いドレスも似合っているぞ」

 

 こうなっては仕方がない。

 もう、俺はいつも通り行くしかない。

 

「……! ありがとうございます! ですが、やはりドレスは……慣れません」

 

 まあ、だって自分から好んでメイド服を着るくらいだからなこの子は。

 十二歳にしてこの奉仕精神……いや、うん。考えないでおこう。

 

「ん? 嬢ちゃん、さっき上にいたよな?」

 

 なんて考えていたらおそらくギャラリーでサラの顔を見ていたのであろうグスタフがそう声を掛ける。

 ……エバンスの密偵は帝国では公然の秘密。

 無論、グスタフも存在を知っているだろうし、ファルシアン家にも一人は必ずいるはずだが……これは若干厄介か?

 

 そもそも密偵が皇帝ではなく俺に仕えると皇帝に宣言しているくらいにはこの子はぶっ飛んでいるのだが、そんなことは俺たち以外、知る由もない。

 

「いえ、グスタフ・ファルシアン様。お初にお目にかかります。私、サラ・エバンスと申します」

 

「エバンス? あぁ……そう言うことかよ。それにしちゃぁずいぶんと懐かれてんなファレスよ」

 

 だが、俺の心配は杞憂だったみたいだ。

 当主クラスにはこうすることで察してもらえるらしい。

 

「ええ、ありがたいことに。俺の特技もサラがいなければ成し得なかったでしょう」

 

「ほぉ……なんだよ。北じゃあ、魔物や魔獣ばっかと戯れてるって言うのに……お前はその歳でこんな健気そうな嬢ちゃんと戯れてるってか」

 

 ……ああ、一瞬酔いがさめたかと思ったが駄目だったみたいだ。

 これは典型的な絡み酒。

 ……仕方ない。

 ここはさっきからグスタフを射抜かんばかりに見つめてる人の名前を出させてもらおう。

 

「伯父上、カメリナ様がこちらを凝視されていますよ」

 

「……! なっ! あいつはさっき……」

 

 目に見えて狼狽える伯父グスタフ。

 そして俺の発言を待っていたと言わんばかりにカツカツとヒールを響かせながら、母さんとはまた違った切れ目な美人が歩いてきた。

 

「ずっと見ていましてよ? ですがあなたは十二歳の観察眼にも劣る目しか持っていないようね?」

 

 グスタフの腕をグッと掴み、俺から物理的に離すこの女性はカメリナ・ファルシアン。

 母上の義姉にして、俺の伯母にあたる人物。

 

「ごめんなさいねファレスさん。本当なら挨拶とかいろいろあるでしょうに……この立場を弁えない辺境伯のせいで」

 

「いえ、有意義な時間を過ごさせていただきましたので」

 

 社交辞令と伯父の名誉のために微かながら援護をしておく。

 

「あら、そう? でも、これ以上は悪いわ。あなたは今日の主役なのだから。こんな酒臭い男と一緒に居る必要はなくってよ。ですよね、あなた?」

 

「いや、あの……だな? 俺は……」

 

「ごめんなさい、この人私に何か話があるみたいだわ。少し外に出てくるからゆっくりと過ごしなさいな」

 

 だが、俺の援護の意味は大してなく、そのまま伯父はバルコニーへ連れていかれた。

 

「……さて、サラ」

 

「はい、承知しました」

 

 俺としてはこういう目立つ退場も勘弁だったんだがなぁ……。

 伯父が衆目を浴びながらバルコニーへ連れていかれたことで、俺がフリーになったことは即座に会場中へ伝わった。

 それはつまり……。

 

「ファレス殿、君の魔法は見事だった。我が娘とも少し言葉を交わしてはくれぬか?」

「我が娘はどうだろうか?」

「息子に魔法の教授をお願いできないだろうか?」

 

 雛鳥連合の男親たちがこのタイミングを逃すまいと寄ってくる、と言うことだ。

 男爵家の当主なんてこの国でも有数の野心家だろうからな。

 母さんはああだし、父上は気配を断っているし……。

 

 まあ、こういう面倒ごとはサラに任せておけば良い。

 そう考えて、サラを呼んだのだが……。

 ……控えめに俺の腕にサラの腕が通される。

 

 ………………。

 え?

 

「私、サラ・エバンスと申します。是非、お見知りおきくださいませ」

 

 控えめに、でも確かに俺の腕を自身の身体に寄せながら、サラが自己紹介をする。

 すると、どうだろう。

 

「あっ……申し訳ない、そうだったのか」

「……エバンス、なっ、なるほど。では私はこのあたりで」

 

 サラが名乗った途端、男爵家の当主だろう男たちが顔の色を変えて引き下がっていく。

 ……エバンスの名前は俺の想像以上に恐れられているようだ。

 

 確かに、サラの自己紹介と俺との関係の示唆は上手い手だとは思う。

 でも、この感じ自己紹介だけで足りたよね?

 

 サラの方を見てみれば、少し表情を赤らめている。

 うん、確信犯ってやつですね。

 

 まあ、これで離れてくれるならいいか。

 どうせ、学園に入学すれば俺とサラが普通の関係ではないと言うことは筒抜けになる。

 ある意味、ここでそう言う関係と匂わせたのは上策だったのかもしれない。

 

 ようやく訪れた平穏を感じながら、せっかくの高級料理でも頂いておこうとテーブルを向くと、更に掴まれたままの手とは逆の手に何やら感触を感じた。

 

「なんだ?」

 

 そう呟きながら横を向いてみれば、そこには――

 

「ファレス様は悪いお方ですわ。貴族の娘を両腕に侍らせるなんて」

 

 その圧倒的美貌を余すことなく発揮したセレスティアの姿があった。

 

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