The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第六十三話 魔法披露宴⑬

 ブルーノ侯爵に長々と捕まってしまったが、それ以降は簡単に顔合わせ程度の挨拶をこなしていくことができた。

 特に印象的だったのは、すり寄り方がルーカスそっくりなマーデン子爵と侍を感じさせる風貌のクラービー男爵だろうか。

 

 マーデン子爵は何というか典型的な小悪党貴族とでも言うかのような、小太りちょび髭なおじさんでルーカスが近くにいなければ、あれがルーカスの父親だとは気づけなかった。

 話した内容も同じ南部貴族同士仲良くしましょう! みたいな当たり障りのないことばかりで、あとは誰が聞いてもお世辞だと分かるようなことばかりを言ってきたのみだった。

 これに乗せられていたら、それはもうおしまいだ。

 

 次にクラービー男爵は寡黙な人だった。

 どちらかと言えば地位や名誉に興味はないような武人を感じさせる雰囲気の人で、俺の挨拶にも「ああ」だとか「剣も振るえるのだな」と父上に負けない淡白ぶりだった。

 だが、実力はかなりありそうで、リューナスの強さの理由を垣間見た気がした。

 ちなみにリューナスはまだ、料理に飛びついたままこちらを見ようともしなかった。

 ……彼女は大物になるよね、誰が見てもそう思うだろう。

 

「さて、とりあえず他貴族家には挨拶が終わったか」

 

「はい、クラービー男爵様で最後でした」

 

 俺の呟きにサラが答える。

 とりあえずサラと俺の間に邪推された関係の否定はできただろう……。

 できたよな?

 

 一抹の不安を覚えつつも俺は最後の目的地へ向かう。

 

「最後は奥様のおっしゃっていた……」

 

「ああ、母上の父、つまり俺の祖父にあたる方だな」

 

 スレイド・ファルシアン、北部では知らぬ者はいない大英雄だ。

 もはや生ける伝説として、剣聖など公に認められている人物よりも有名かもしれない。

 

「私もついて行ってしまってよろしいのでしょうか?」

 

「良いんじゃないか? もしかしたら待たせることになるかもしれないが」

 

「承知しました」

 

 俺の一歩後ろを遅れることなくついてくるサラに、言外にもしそうなっても余計な真似はするなよ? と忠告する。

 無論、俺の要望には基本即答のサラは承諾するのだが、はたして……。

 

 まあ、こればかりはサラの有能さを信頼するほかない。

 

 会場内で明らかに異質な存在感を放つその人はバルコニーへつながる扉に背を預け、腕を組んだまま目を閉じて静かに俺の到着を待っていた。

 皇帝とも違うそのオーラはこれまで俺が出会ってきたどの人物よりも強大で圧倒的だ。

 

「お待たせしました。スレイド様」

 

「ああ……いや、気にすることはない。それに儂はお前の祖父だ。堅苦しい言葉遣いも不要だ」

 

「分かりましたお祖父様。それで、お話とは一体?」

 

 祖父と会話をしていると何となく『傲慢』がチリチリと反応している気がする。

 一体なんだ?

 これまでにない感覚だ。

 

「うむ、そうだな。その前にエバンスの娘よ、孫を借りるぞ?」

 

 そんなことを考えていたらスレイドがサラに声を掛けた。

 

「……! はいっ! どうぞ私のことはお気になさらず」

 

 どうやら、かのサラとて、この人の放つ雰囲気と言うか気配には緊張せずにはいられなかったらしい。

 声を掛けられた瞬間、わずかに肩が跳ねていた。

 皇帝に対してはあんな大立ち回りをして、目の前で俺に仕えるとか余程緊張しそうなことを言っていたと言うのに……。

 まあ、気持ちは分からなくはないが。

 この人からは圧倒的に強者の風格が漂っている。

 俺の『傲慢』もその辺りに反応しているのだろうか?

 

「そう言う訳にも行くまい……そうだな。リカルド! このご令嬢の相手をしてやりなさい」

 

 スレイドは少し離れたところで美人さんと話をしていたリカルドを呼び出し、サラの相手をするように命じた。

 すると、言われたリカルドもこちらに気が付き、すぐに駆け寄ってくる。

 

「こちらは……なるほど。承知しました。その前に自己紹介をさせてください」

 

 サラを一瞥したリカルドはその隣に立つ俺を見て即座に状況を理解したようだ。

 

「ああ、そうだったな。お前たちが顔を合わせるのは初めてか」

 

「はい。ファレス君にサラ嬢でしたね。俺はリカルド・ファルシアンだ」

 

「初めまして。ファレス・アゼクオンです」

「サラ・エバンスです」

 

 所感はかなりフランクで接しやすそうな青年と言った感じだ。

 年齢はおそらく十四か十五だろうか?

 おそらく学園入学前の年代だろう。

 

「さて、ではリカルドよ。儂はファレスと少し話をしてくる。その間、サラ嬢の相手を頼んだぞ」

 

「分かりました。さぁ、サラ嬢、あちらで軽く食事を取りながらお話しましょう。もう一人俺と同年代の女性もいるので気楽にしてもらっていいから」

 

「あ、はい! ありがとうございます。お邪魔させていただきます」

 

 ふむ、特に何かを感じるでもないが……あの人はなんだか引っかかるな。

 まあ、今気にすることでもないか。

 

「さて、ファレスよ。ついて来なさい」

 

「はい、お祖父様」

 

 さて、北の大英雄様が俺に何の用なのか?

 わざわざ別の場所に行くほどだ。

 対した用じゃないなんてことはないだろう。

 

 久しぶりに身の引き締まる思いで俺は祖父の後をついていった。

 

 祖父はバルコニーへ出ると、立ち止まらずに会場の明かりが通り過ぎるまで奥へと進むと、おそらくパーティー会場の隣にあたるであろう一室の扉を開き、そこへ入った。

 

「王城にこんな場所があったのですね」

 

「ああ、儂もお前くらいの歳の頃、モラクと共に見つけたのだ」

 

 ……モラク?

 モラクってモラク・ルー・グラーツィアのことを言っているのか?

 

「……陛下とですか」

 

「うむ、そうとも言うな」

 

 続けて、あの時は何のための空間なのか分からなかったがな! と笑って見せる祖父。

 言われてみれば皇帝と祖父は同じくらいの年齢に見える。

 

「お祖父様が陛下と親交があるとは……知りませんでした」

 

 皇帝の印象はかなりフランクで誰とでも(無論、立場を踏まえてではあるが)親し気に振る舞うというイメージがあった。

 だが、それは逆に親交の深さを感じさせないというか、そう言うミステリアスさを含んでいるように感じていた。

 

「まあ、言っとらんからな。スジェンナも知らないのではないか?」

 

「なるほど……」

 

 どうにも話が見えてこないな。

 祖父と皇帝の仲が良いのは分かったが、それとこの状況に何の関係が?

 

「ふむ、ファレスお前今、儂がどうしてこんな話をしているのか? と考えているのではないか?」

 

「……! おっしゃる通りです」

 

 なんて考えていたら簡単に見抜かれていたようだ。

 こうなっては下手に隠さないほうがいいだろうと正直に認めて、祖父に話を促す。

 

「はっはっ! 素直なのは良いことだ。分からぬことは分からぬと言えることはどの立場でも重要だ。……して、肝心の話だが」

 

 急に声のトーンを変えた祖父にゴクリと生唾を呑んでしまう。

 背筋には嫌な汗が流れるのを感じる。

 なんなんだ? この感覚は?

 

「……お前の魔法、その特別な魔法についてだ」

 

 ……!

 思わず目を見開いてしまう。

 この言い方、間違いなくこの人も大罪魔法や美徳魔法の存在について認知している。

 そして俺がその使い手の一人であることも。

 

「ああ、そう警戒する必要はない。儂は北の地を守る戦士であって、別に陛下にも忠誠を捧げているわけではない。ましてや孫に手を上げようものなら、後でスジェンナに殺されてしまうわ!」

 

 どうやら無意識に魔力が溢れ出たらしい。

 だが、俺の『傲慢』の魔力にも全く引かず、なんなら笑って話を続ける。

 

「お前のその力は……見た所陛下の魔法と同種類と言ったところか? ふむふむ、だが、何となく違いを感じるような……」

 

 そう分析しながら俺のことをまじまじと見つめるスレイド。

 

「流石ですね……魔力だけでそこまで見抜けてしまうものですか」

 

「まあ、どうにも儂の魔法と正反対の性質のようだからな! ほれ!」

 

 俺の感想にまるで孫とキャッチボールをする祖父のようなノリで、凄まじい魔力を解き放ってくるスレイド。

 その力は純白の白……そして、こうして体感してみてようやく理解した。

 

 この人の魔法は美徳魔法。

 クインと同じ、大罪魔法とは対極に存在する力だ。

 それも……

 

「おお、これは面白いな! どうやら儂とお前の魔法は互いに反発するようだ! モラクの魔法とではこうはならなかったと言うのに……そこそこ長く生きたつもりだったが、まだまだ不思議なことばかりだな!」

 

『傲慢』の対極に位置する力。

 すなわち――『忠義』

 

「お祖父様、少しよろしいですか?」

 

 俺は思わずそう口に出していた。

 

「ああ、来なさい!」

 

 だが、祖父はまったく気にした様子はない。

 

 俺は拳に炎を纏わせる、父の魔法を発動する。

 そして、出来る限りの力を込めて祖父に殴りかかった。

 

「ほお……それは婿殿の魔法か。ふんっ!」

 

 しかし、祖父はまったく気にした様子も見せずに俺の拳を片手で受け止める。

 すると――俺の魔法は霧散し、祖父が放つ魔力も霧となって消えた。

 

「これは……」

「ふむ、どうやら儂の想像通り、儂らの魔法は互いに反発し、逃げ場がなくなると霧散してしまうようだな」

 

 ……まじかよ。

 まさか『傲慢』に対抗できる魔法が『強欲』以外にもあったとは……。

 

 互いに魔法がつかえないのでは、普通に現実と変わらない肉弾戦ということになる。

 ……『忠義』の魔法の所有者が身内で本当に良かった。

 

「はっはっはっ! それにしてもまさか孫と手合わせできる日が来ようとはな! ファレスよ、暇が出来たらファルシアン領にも来ると良い。それだけの力があればバカな魔獣どもにも引けを取らんだろう」

 

「はい。母上の許可がとれましたら是非」

 

「おっと、そうだったな。スジェンナが許さぬか……では、学園入学まで気長に待つとしようか」

 

 祖父の手が俺の頭に乗せられる。

 

「今日の披露宴は見事だった。その才を腐らせず、良く伸ばせ。そして儂に新しい景色を見せてくれ」

 

 意味はよく分からないが、今日で一番祖父の感情がこもった言葉だと言うことだけは理解できた。

 

「はい!」

 

「よし! ではもう良いぞ! 儂は少し、この部屋で懐かしい思い出に浸るとでもしようか」

 

「分かりました。では失礼します」

 

 祖父に一礼してバルコニーの方へ出る。

 

 まさかあのスレイド・ファルシアンが美徳魔法の使い手だったとは。

 原作ではまばゆい光の魔法を使うことから三属性以上が複合した超希少属性の使い手なのでは? と言われていたような気がするのだが、まさかの事実だった。

 

 だが、こうしてまた一つ『傲慢』に詳しくなれて良かった。

『傲慢』であり続けるためには、情報は重要だからな。

 

 そんな思いを抱きながら俺は会場に戻るのだった。

 

 ◇◇◇

 

「聞いていたのだろう? モラクよ」

 

 ファレスの去ったその部屋では、スレイドが空虚を見つめてそう呟いていた。

 しかし、その目には確かに何かが捉えられているようだ。

 

「お主が何を考えているのかは知らぬが、あの子は儂の孫だ。手を出してみろ、ただでは置かんぞ!」

 

 やはり、何かと会話をしているかのような気迫に緊張した空気が流れる。

 

「まあだが、儂が手を出す必要もないかもしれないがな」

 

 そう言って視線を切ると、スレイドも会場へ戻って行った。

 

 ◇◇◇

 

「はっはっはっ!」

 

 玉座に腰かけるその男は不意に笑いだした。

 

「陛下? どうかなさいましたか?」

 

 突然の出来事に困惑した表情の騎士隊長が皇帝を振り返る。

 

「いや、何でもない。だが……うむ。どうやら次の世代は面白そうだ」

 

「そうでございますね。皇子殿下ももうすぐ学園へご入学なさいますし」

 

「む? あれには期待しておらぬ。余の後を継いだところで所詮、王止まりであろう。この国を支配する皇帝にはなれんだろうて」

 

 ……近衛騎士隊長グレイグはこの言葉に反応するわけにはいかずにそこで黙ることを選択した。

 

「皇帝に必要なものは賢さでも思いやりでもない。圧倒的な力よ。なぁグレイグよ」

 

「……浅学な身にて、私には分かりかねます」

 

 グレイグのその返事に呆れたのか、満足したかは分からない。

 だが、この返答に困る話題はここで終わった。

 

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