The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第六十四話 魔法披露宴⑭

 バルコニーから会場に戻るとすぐに、にぎやかな話し声やグラスの重なるような高い音、歩く人々の足音など様々な音が世界に戻って来る。

 

 そして俺の姿を見つけたサラがリカルドたちに頭を下げてこちらに駆け寄って来た。

 ……俺としては慕ってくれて嬉しいんだけど、それ結構失礼に当たるんだよサラさん?

 

「ファレス様、おかえりなさいませ」

 

「ああ、ただいま。早速で悪いがリカルド兄上の方へ案内してくれ。先ほどはごく簡単にしか挨拶できていないからな」

 

「承知しました!」

 

 俺と離れていたのがそれほど苦痛だったのだろうか?

 普段の三割増しくらいの笑顔で返事をするサラ。

 

 でも、張り切って案内してくれる当たり、リカルド兄上たちに悪感情があったわけではなさそうだ。

 

「ああ、ファレス君、戻ったのか」

 

「はい、たった今戻りました」

 

「祖父とはどんな話を?」

 

 ごく自然に質問してくるリカルド。

 しかし、その裏に何かしらの意図があることは明白だった。

 

「特にこれと言った話では……少しお褒め頂きました」

 

 年相応の子供をイメージして照れたふりをする。

 

「……そうか、確かに素晴らしい魔法だったものな」

 

「ありがとうございます」

 

 リカルドは一瞬、釈然としない様子を見せたもののそれ以上は追及してこなかった。

 

「リカルドさん。私のことも紹介していただけるかしら?」

 

 すると、もともとリカルドと会話をしていたであろう、これまた美人な女性が会話に入ってくる。

 なんとなくどこかで見覚えのある目元をしている気がするが……。

 

「おっと、これは失礼した。ファレス君、こちらカーヴァリア家の長女エルシアさん。セレスティアさんのお姉さんだよ」

 

 ……!

 道理で目元が似ていると思ったわけだ。

 なるほど、この人がカーヴァリアの後継ぎ候補筆頭、エルシア・カーヴァリアなのか。

 

「自己紹介が遅くなり申し訳ない。ファレス・アゼクオンです」

 

 俺が自己紹介をすると、微笑と共にそれを受け止めたあとで、多少の申し訳なさが滲む顔をしてエルシアは言った。

 

「先ほどは妹が失礼してしまったようね。でも、本当はすごくいい子なの。大目に見てあげてね?」

 

「いえ、こちらにも非がありましたし、気にしていませんので。もしよろしければ、その旨をお伝えいただけると」

 

「それは良かったわ! もちろん、伝えておくわね!」

 

 リカルドとは違い、特に含みのなさそうな真っすぐな笑顔が眩しい。

 そんなまっすぐさのおかげなのか、いつもは同年代の女性と言うだけで警戒心マックスなサラちゃんも特に変わった様子を見せない。

 ……この人は逸材かもしれない。

 

「お願いします。……それで、先ほどまではどんなお話を?」

 

 会話が止まってしまいそうだったので、俺から話題を投げる。

 それにサラが警戒していないこの状況を作るためにどんな話をしていたのかシンプルに気になった。

 

「学園の話をしていたんだ。俺もエルシアさんも来年入学だからね」

 

 リカルドが俺の質問に答える。

 なるほど、この二人は同年の生まれか。

 

「そうでしたか! 学園の話と言うと? 講義の話ですか?」

 

「それもあるけど、メインは実習訓練の話だったよね」

 

 そう言ってリカルドがエルシアを見る。

 

「ええ。ファレスさんは旧ノウ領で魔法生物と対峙したのでしょう? 怖くありませんでしたか?」

 

 するとエルシアがノウ領の話を切り出して来た。

 俺たちが水竜もといサンと戦ったこともしっかりと伝わっているようだ。

 

「はい、恐怖は感じませんでしたね。確かに緊張はありましたが、頼もしい部下にも恵まれていましたので」

 

 サラをはじめとした有能なアゼクオンの従者たちに加え、元剣聖のレドに、美徳魔法を覚醒したクイン、水竜との戦闘でもビビらずに操舵し続けたナバラなど、恐れる方が難しいレベルのメンツが揃っていたのだ。

 それに加えて俺がいるのだから、万一にも負けはない。

 ただ、『嫉妬』で拘束しきれなかったときは正直、緊張が走ったのも事実だった。

 

「さすがはファレスさんですね! 私も魔法にはそこそこの自信を持っているのですが……これまでに実戦経験という物がありませんので、実習などで対峙するのは怖いのです」

 

 一歩間違えば、かなり面倒に見られそうな発言。

 だが、エルシアの言葉には、貴族的な誇りや可愛い子ぶった猫かぶりも感じられない、感じさせない何かがある。

 おそらくこの言葉にできない何かがサラの警戒を解いたのだろう。

 

「確かに一人でと言われると、そう感じてしまうかもしれませんが、学園の実習はグループに分かれて行われるものですよね? なら、仲間を頼ればきっと大丈夫だと思いますよ」

 

「ファレス君の言う通りだと俺も思う。俺も初めて魔獣どもと対峙した時は緊張したが、部下の騎士たちが居てくれたからな。強気に出ることができた」

 

「ファルシアン家は北の魔境と呼ばれていますものね……そうですか。リカルドさんも既に実戦経験を……」

 

 そんなに気にすることもないだろうけど、まあ、これ以上のフォローは野暮だろう。

 年下の俺があんまり気を使ってもよろしくない。

 俺はサラにだけ見えるように、そろそろ戻るとハンドサインを送る。

 

「……! ファレス様、そろそろ」

 

 すると、しっかりとその意図をくみ取ったサラが完璧なタイミングで切り出してくれた。

 何も言わずに俺の意図を汲む。さすがは有能メイドだ。

 

「ああ、分かった。すみませんリカルド兄上、エルシアさん。そろそろ失礼させていただきます」

 

「そうですね。ファレスさんは今日の主役ですから、私たちが独占していては申し訳ありませんわ」

 

「それもそうだな。ファレス君、良い時間だった。また、話す機会もあるだろう」

 

「はい、では失礼します」

 

 サラを連れてその場を後にする。

 とりあえず、これで魔法披露宴は終わったも同然だ。

 尚も賑やかな会場の中心を歩きながら、俺の思考は一人静かに振り返りを始める。

 

 今日一番の収穫はやはり『傲慢』の対極に位置する魔法『忠義』を見つけられたことだろうか。

 まさか北の大英雄とも呼ばれる祖父と俺が対になっているとは……。

 あの魔法が敵にいたらと思うとぞっとする。

 意図せずにではあるが、原作ファレスが剣を学んだ意味が生まれたな。

 

 もしかしたら、原作でも剣を続けたファレスが遅れに遅れて魔力を覚醒し、最強になるルートと言うのもあったのかもしれないな。

 

 まあ、今となってはもう、知りようのない話ではあるが。

 

「ファレスちゃん、おかえりなさい。お父様と話は出来た?」

 

 母の元へ戻るといつも通りの優しい笑顔で迎えてくれる。

 

「はい。とても有意義な話を聞かせていただきました」

 

「そう、それは良かったわ」

 

 いつの間にか柱の傍で空気になっていた父上もこちらに戻ってきている。

 

「さて、そろそろこのパーティーも終わる頃合いだろう。気を抜くにはまだ早いが……ファレス、よくやった。それでこそアゼクオンだ」

 

 珍しく父上からドストレートの賞賛を受ける。

 

「ありがとうございます父上」

 

 俺が父上にお礼を述べたとほぼ時を同じくして、近衛騎士隊の騎士でこの立食パーティーの幹事のような役割をしていた男からパーティーの閉幕が告げられた。

 

 ふぅ……これでとりあえず第一関門は完全突破と言っていいだろう。

 あとは学園入学まで、剣も魔法も腕を磨いていこう。

 祖父のおかげで上には上がいると言うことを実感することができた。

 

「それじゃあ、帰りましょうか。私たちが帰らないと他の貴族家も帰り辛いでしょう?」

 

 母さんがそう言うと、父上がスッと横に立ち、流れるように母さんが腕を通した。

 おおぉ……これが夫婦。

 もう何回も繰り返されたであろうその仕草に何だか感動してしまう。

 

 こう言う貴族らしい振る舞いも身に付けなくてはな。

 

 まだまだ、やることは山積みだ。

 

 俺もサラの手を取ると両親の後姿を見た。

 不意なことで体をガチガチに固めたサラがそれでも俺の意図通りに腕を通す。

 

「俺たちも行くぞ」

 

「……はい」

 

 恥ずかしそうに、そして嬉しそうに頬を染めたサラを見ると、少し安心出来る。

 ああ、まだ時間はある。

 ゆっくり、着実に強くなって行こう。

 

 そう決心して、俺たちは両親の後を追って歩き出した。

 

 ◇◇◇

 

 王城の入口までやってくると、我がアゼクオンの馬車が先頭で待機していた。

 父上が母上をエスコートして、順に乗り込み、俺もそれに倣ってサラを先に乗せた。

 おそらくエバンスの馬車もいるのだろうが、その辺りは上手くやってくれるだろう。

 

 そして最後に俺も乗り込もうとした時、背後から名前を呼び留められた。

 

「ファレス殿!」

 

 声と共にバタバタとした足音が近づいてくる。

 聞き覚えのある特徴のある声。

 貴族令嬢らしからぬ、よく通ったその声に俺は振り返った。

 ドレスの裾を押さえ、息を切らして駆けてくる彼女。

 

「リューナス・クラービー? どうかしたか?」

 

 俺がそう言うと、リューナスは肩で息をしながらこう言ってきた。

 

「貴殿は剣をどう思う?」

 

 意図は読めない。

 だが、俺は何となくリューナスの考えを察していた。

 

「剣は力と技の集大成。決して魔法にも引けを取らない武器であると、俺は考えている」

 

 そう言うとリューナスの表情はみるみる明るくなっていく。

 

「そうか! 貴殿もそう思うか!」

 

「ああ」

 

 この流れはきっと原作と同じだ。

 ただ、少し状況が違うだけ。

 

「一つ、頼みたいことがあるのだが、良いだろうか?」

 

「言ってみろ」

 

 俺は内心で湧き上がる何かを必死に抑え込みながら答えた。

 

「これから三年。私は全力で剣の修業をする。だから、三年後。いや、学園入学後で良い。私と一騎打ちをしてくれないだろうか?」

 

 俺がどうなろうとリューナスは変わらないらしい。

 その姿勢は尊敬に値する。

 

「良いだろう。だが、俺の相手をするのだ。半端な腕で来ようものならば、分かっているだろうな?」

 

「無論!」

 

 満面の笑みでこちらを穴が開きそうなほどに見つめるリューナス。

 俺はその顔に何も答えず、振り返り馬車へ足をかけた。

 

「わざわざ呼び止めて申し訳なかった。それではまた、三年後!」

 

 そう言ってこちらに背を向け、リューナスは去っていく。

 そうだよな、ファレスはこうでないと。

 静かな夜に一陣の風が吹き抜ける。

 

「ふふっ、あの子も面白い子ね。ファレスちゃんにこんな顔をさせちゃうなんて」

 

 母さんにそう言われ、窓ガラスに映った自分の顔を見る。

 そこには未来の強敵を思い浮かべ、迎え撃つ日を楽しみにするような悪役然とした強者の笑みを浮かべる自分の姿が映っていた。

 

――一章完




ここまでお読みいただきありがとうございます!

次章につきましては再び書き溜まりしだい、投稿しようと考えています。
また、カクヨムの方では毎週水曜日以外は19:04に投稿していますので、ぜひそちらも応援していただけると嬉しいです。

明日は閑話というか、SS的なお話を一話投稿します。
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