The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第七話 剣の極致

 サラの誕生日プレゼントと俺の手袋を買いに行った翌日、俺は吸魔をこなし、サラに見守られながら食事を取り、今日も剣の訓練をしようと訓練場に行く。

 

 そうしていると普段はサラ以外に話しかけられない俺に家のメイドが話しかけて来た。

 

「ファレス様、訓練中に申し訳ありません」

 

 その顔は確かに恐れや怯えを含んだものだったが、それでも話しかけて来たということは相応の事態があったということだろうか?

 

「構わない。なんだ?」

 

 俺が剣を振る手を止めて、メイドの方へ向き直ると、それはそれは驚いたような表情を見せるメイドさん……両親よ、メイドにさえこんなに怯えられている息子をなんでここまで放っておいたのですか?

 

「……ンンッ、その、ファレス様にお客様がお見えになられています」

 

「客だと?」

 

「はい。スペーディアの家紋がついているので、怪しいものではないと思うのですが……」

 

 なるほど?

 いや、それにしても突然すぎるな。

 ここはゲームとは言え、貴族社会。

 当日、いきなりの訪問なんてあまりに非常識だ。

 ましてやアゼクオン領でアゼクオン家にこの態度……間違いなく相応の事情があるな。

 

「客間に通してもてなしておけ。着替え次第、俺が対応しよう」

 

「かしこまりました」

 

 恭しく頭を下げるメイドが下がるのを見届け、俺も自室に戻り着替えようと思ったところ、着替え一式を用意したサラが立っていたのは……もはや伝統芸だ。

 

 ◇◇◇

 

 サラのおかげで大したロスもなく客間に向かうことができた。

 が、あの先回りにはいつも驚かされる。

 

「すまない、時間を取らせたな」

 

 客間の扉を開けながら、そう声をかける。

 あまり褒められた態度ではないが、一報も無しに訪ねてきた相手にはおそらくこれで正解だろう。

 貴族社会には詳しくはないが、俺の中のファレスなら会おうともしないだろうから、きっと……大丈夫だ。

 

 そんなことを考えながら入った部屋の先で待っていたのは、昨日散々な目に遭わせられた剣聖レドと借りてきた猫のようになっているクインだった。

 

「……クイン、状況を話せ」

 

 レドに背後に立たれ大きなソファに一人腰かけているクインはあまりこういう場に慣れていないのかそれとも連絡なしの訪問に対する罪悪感からか、スペーディアの次期当主という気概が全く感じられない。

 

「さ、昨日は大変申し訳ありませんでした。そして、連絡も無しに訪問してしまったことも重ねて謝罪いたします」

 

「良い。過ぎたことだ。それで?」

 

「本日は……」

 

 こういう面倒な前置きをしながら話さなければならない貴族とは大変だな、とクインの前置きを聞きながら思っていると、レドがわざとらしい咳払いを一つ。

 

「お嬢様、本題を」

 

「あ、すみません! それで本題なのですが……ファレス様! 私に魔法の指南をお願いできませんでしょうか?」

 

 ……ん?

 

「お嬢様、それだけでは目的の半分でしょう?」

 

「あ、そうでした! その……レドが剣の師範になられるということでしたので、ファレス様がレドに指南を受ける日に少しで構わないのです! 私に魔法の手ほどきをお願いしたいのです!」

 

「俺に……か?」

 

「はい! ファレス様に! 私の事情を知っても、私に道を示してくれたファレス様にぜひ、ご指導賜りたく! ファレス様が語った理論に、私は人生を懸けられる価値を見出したのです! そして、それを学ぶべくは貴方の下に行くべきだと」

 

「ぶ、無礼ですよ!」

 

 興奮と恥ずかしさが入り混じったような表情で詰め寄るクインと間に割って入るサラ。

 なにやらサラの目つきが厳しい気がする。

 

 ……なるほど。

 クインは俺の魔法理論に相当感銘を受けてくれたようだな。

 まあ、魔力を扱う特訓はそろそろ始めようと思っていたところだし、スペーディアに恩を売っておくのも悪くないな。

 

「いいだろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「だが、用事がそれだけとは言わないだろうな? こんな些事、手紙の一つで事足りるだろう」

 

「は、はい! それで本題は……」

 

 上ずった声で本題に入ろうとするクインを今度はレドが遮った。

 

「そちらについては私から、ご説明させていただきます」

 

「ほう……」

 

 昨日の借りを返さんばかりに態度を大きくして見せる。

 ……なんだか俺の思考が原作ファレスに寄ってないかこれ?

 

「剣のご指導を承ったことに加え、先日のお詫び……という訳ではありませんが、剣の極致と呼ばれるものを御覧に入れたいと」

 

「ほう?」

 

 今度は素の反応。

 剣の極致……これを聞いて興味を持たない男子がいるだろうか?

 いや、いないっ!

 

 これは断言できる。

 剣ってだけで心惹かれるのに、極致だと?

 そんなもの見たいに決まっているだろう!

 

「如何でしょうか?」

 

「元剣聖の言う極致か……興味はあるな。だが、それだけでは突然訪問した理由にはならないだろう?」

 

 そう、問題はそこなのだ。

 結局何のためにここに来たんだ?

 

「それは……」

 

 俺の質問に一瞬レドが言い淀む。

 そして、チラリとクインに視線をやると誤魔化すようにして言った。

 

「剣の極致をお見せする条件が整う日は珍しいのです」

 

 ◇◇◇

 

 場所を移し、訓練場。

 今日は俺とサラに加え、クインとレド、そして突然様子が変わった俺を一目見ようと屋敷中のメイドたちが押しかけていた。

 それ以外にも、スペーディアの者が何の用だ? という野次馬的な考えの者もいるかもしれない。

 

「さて、何か的になるようなものはありますでしょうか?」

 

 レドがそう問うと、サラが木人形を引き摺って来た。

 

「こちらの人形でいかがでしょうか? 打ち込み用ですが……」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 そう言うと大股十歩分ほど人形と距離を取ってレドが剣を構える。

 

 ……遠いな。

 きっとここにいる誰もがそう思ったことだろう。

 

 しかし、聖を冠する使い手に距離は関係なかった。

 

 俺たちが次に見たのは納刀する剣聖とカタンという音と共に木人形から離れる頭だった。

 

 ファレスの才各故か、はたまた偶然か、俺には微かに空気が動く様を感じ取ることができたが、本当にそれだけだった。

 

「……は?」

 

 その場にいた全員が全く同じ反応をしたと思う。

 そうとしか言葉の出ない異常な光景。

 

「これが剣の極致です。いかがでしたでしょうか?」

 

「……うむ、剣聖の名に恥じない腕ということは理解した」

 

 いや、いかがでしたでしょうか? じゃないが?

 なんだこれ。

 こんなのゲーム上でも見たことないが!?

 

 まだ周りが唖然としている中、俺は切り落とされたであろう木人形の頭を見る。

 

「これは……」

 

 その切断面はまるで元からそうであったかのような、とても綺麗なんて言葉では言い表せない、ごく自然で不自然なものだった。

 

「い、今の、何?」

「なんかスペーディア家の護衛が剣を構えたと思ったら納刀してて……」

 

 俺がその異様な切断面に戦慄していると、ようやく現実に追いついてきた野次馬メイドたちが口々に感想を零し始める。

 

 その光景が現状の異様さをさらに物語っていた。

 アゼクオンのメイドともなれば、それはそれは厳しい教育がなされる。

 通常ならば客人の前で求められてもいない発言などもってのほかなのだ。

 だが、そんな教育すら吹き飛ばしてしまうような衝撃が今の一振りにはあった。

 

「……()()()レド。どうやら我が師にふさわしいようだな」

 

 とは言え、こんな醜態をいつまでも晒させておくわけにはいくまい。

 そう思い、元剣聖の部分を強調して、彼が俺の師になる者であることをここで伝える。

 

「光栄です。アゼクオン公子」

 

「ファレスで構わん」

 

「……! では、そのように」

 

 レドは少し驚いたような顔をしながらそう言うと深々と頭を下げた。

 

 ◇◇◇

 

「それにしても今日はとんでもないものを見せられたな」

 

 自室でサラの淹れてくれた紅茶を飲みながら呟く。

 

 剣聖の正しく神業な一閃を見せられた後、客間に戻ってクインと魔法理論について意見を言い合い、今日は解散となった。

 剣聖殿はやる気を出してくれているようで、これから特別大きな予定がない限り毎日通って指導をしてくれるらしい。

 無論それにはクインも同行するようなのだが……スペーディアの次期当主としてはそれでいいのか? まあ、クインは嬉しそうにしていたので、俺としては構わないが……。

 

「……ムスー」

 

 この子の機嫌はどうしたらよろしいでしょうか。

 

「サラ」

 

「はい……ここに」

 

 俺が呼んでも返事にいつものような元気がない。

 

「調子が悪いか?」

 

「い、いえっ! ファレス様にご心配頂くようなことでは……」

 

「そうか……」

 

 ううむ、せっかくサラとの間の壁が壊せたと思っていたが、これでは逆戻りだな……。

 どうにかする方法は……。

 

 俺がそう思考を巡らせていると、珍しくサラの方から口を開いた。

 

「あ、あの……」

 

「……なんだ?」

 

「その、ファレス様はクイン様のようなお方がお好みなのでしょうか?」

 

「ふむ……」

 

 ………………

 ………………

 ………………

 

「……は?」

 

 サラが口にしたのは全く予想外からの言葉だった。

 最終回同点満塁フルカウントで力んだピッチャーからデッドボールを受けるかの如きその言葉は俺の思考を無にするには十分なものだった。

 

 だが、そんな思考でもただ一つ。

 この質問が単純な、そのままの意味ではないことだけは理解できた。

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