The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第七十六話 学園入学⑪

「……サン?」

 

 俺はそのあまりの衝撃に思わず声を出して驚いてしまう。

 

「……お兄ちゃん? ファレス様にご兄弟はいませんでしたわよね? それに浮気とは? いったい何の話です?」

 

 ギュっと、いや、そんな可愛い感じではない。

 ズンっと締め付けられるようにセレスティアが掴んでいる方の腕が重くなる。

 

「……少し待て。俺も混乱している。サン、どうしてお前が学園に?」

 

 俺はサラとは違う重さを見せてくるセレスティアを一旦諫め、先にサンへそう聞いた。

 

「あ! そうだった! それはね……」

「サンっ! 一人で飛び出しちゃダメって! あっ! ファレス様……」

 

 とてとてとこちらに歩きながら説明しようとしてくれているサンの背後からさらに人影が現れる。

 その人物とは当然クインだった。

 俺を見つけた途端その表情が明るくなったかと思えば、隣りにいるセレスティアを見てすぐにテンションが下がったのが分かる。

 

「クイン、サンを学園へ連れてきていたのか?」

 

「あ、いえ、今日初めて連れてきました」

「うん! だから今探検してたんだよ!」

 

「そうか。だが、サン。学園についてきたということはサンにも仕事があるのではないか?」

 

 元気よくピースをして見せるサンに俺は出来る限り優しく問いかける。

 本当に自分が成長したせいなのか、この無邪気な幼さには強気に出れない……。

 

「はっ! そうだった! クインお姉ちゃんを守らなきゃ!」

 

 俺の質問で自分の役目を思い出したのか、そう呟くとクインの腰にヒシっとしがみつくサン。

 ……くっ、なんだこの庇護欲をそそる生き物は!

 今まではこんなことなかったのに。

 

「……あのファレス様? 私にも分かるようにご説明頂けますか?」

 

 すると今度は俺の隣で置物になっていたセレスティアが不服そうな表情で俺を睨んでいる。

 

「あ、ああ。とりあえず廊下で長話という訳にはいかないだろう。クイン、サン、お前たちもついて来い」

 

「はいっ!」

「うんっ!」

 

 こうして俺はセレスティアに加え、クインとサンも連れて自分の教室へと戻った。

 

 ◇◇◇

 

 入学初日の放課後ということもあり、すっかり閑散とした教室。

 先ほども座っていた左奥の席の周りに皆で座り、順番に話を始める。

 

「さて、まずはセレスティアへの説明をするとしようか」

 

「お願いしますわ。もちろん、はっきりとした説明でないと認めませんわよ?」

 

 まるで浮気を問い詰められる夫のような気分だ。

 ……いや、サラに問い詰められるならばともかくとして、セレスティアにこの態度を向けられるのは若干遺憾なのだが、この際細かいことは気にしない。

 

「分かった分かった。……まずサンは俺の妹ではない」

「えぇっー」

 

 きっぱりとそう告げる。

 サンは不満そうにしているが、これが事実だ。

 

「では、一体どなたですの?」

 

「サンは俺の従魔だ。今は人化しているが本来は魔法生物の中でも極めて珍しい水竜の子供だ」

 

「……冗談、ではなさそうですわね」

 

 一瞬、疑いの視線を向けて来たセレスティアだったが、俺の真剣そのものな顔つきを見て納得してくれたようだ。

 ただ、それでも信じがたいことであるのも確かなようで、サンのことをまじまじと見つめている。

 

「セレスティアお姉ちゃん、すっごい美人さんだね!」

 

 ジッと見つめてくるセレスティアを何かの遊びかと勘違いしたのか同じようにジッと見つめ返すサンが不意にそんなことを言った。

 

「おねっ!? サンさん? 今私のことを呼びましたの?」

 

「え、うん! そうだよ!」

 

 セレスティアは少しの間目をパチパチと開けたり閉じたりしていたが、やがて……湧き出る笑みを押さえるように口元を手で隠すとこう言った。

 

「聞きました? ファレス様! この子、今私のことをお姉様って!」

 

「言ってないぞ?」

 

 お姉ちゃんとは言っていたが、お姉様とは一言も言っていない。

 あのクールキャラなセレスティアもここまで崩れるのか……。

 いや、これに関してはサンが強すぎたのかもしれない。

 

「あ、そうだ! セレスティアお姉ちゃんにサンが水竜だって証拠、見せてあげる!」

 

「……証拠がありますの?」

 

「うん!」

 

 証拠?

 そんなものあっただろうか?

 サンの人化は完璧だ。

 髪色こそ珍しい水色ではあるが、この世界ではそこまで髪色が特徴的になると言ったことはない。

 となるといったい何を見せるつもりだ?

 サンも分別がつかないわけではないからいきなり魔法をぶっ放すなんてことはないと思うが……。

 

 そう思ってサンへ皆の注目が集まる。

 

 するとサンは得意げにひらりと服をめくって腹部を露出させた。

 

「ちょっとサン!?」

 

 一番最初に反応したのはクインだった。

 ただしかし、それも反応ができただけ。

 静止には至らない。

 

「これ、クインお姉ちゃんにしか見せたことなかったけど、この鱗だけずっと残ってるんだ!」

 

 そのまま不自然に一枚だけ残った逆向きの鱗をサンは得意げに見せつける。

 ……なんて、なんてあざといんだこの子は……と言う感想は置いておいて、あれは逆鱗ってやつか?

 この世界の竜にも逆鱗ってあるんだな……。

 

 と、俺が月並みなことを考えている横でセレスティアはまたも口元に手を当てながらぽつりとこうこぼした。

 

「きれい……」

 

 まるでセレスティアらしからぬ言葉だった。

 一切の飾り気を感じさせない、貴族セレスティアのベールが剥がれてしまったかのような、そんな言葉。

 

「ほんとっ!? ふふっ、嬉しい! ありがとセレスティアお姉ちゃん!」

 

 そしてそんなセレスティアの言葉を聞き逃すはずもないサンが太陽のような笑みで喜びを表す。

 

「……良かったなサン」

 

「うん!」

 

 うりうりと頭をこちらに向けてくるサンの頭を撫でてやりながら、そう言ってやるとこれまた嬉しそうにする我が従魔。

 

「だが、今後はあまり人に見せてはダメだ。良いな?」

 

「そうよサン。女の子が人前で肌を見せるのははしたないわ」

 

「分かった!」

 

 本当にわかったのか怪しいところだが……まあ、基本的にはクインが傍に居てくれるだろうから問題ないだろう。

 

「……本当に水竜なのですね。それもファレス様の従魔……もう、驚きを通り越してしまいましたわ」

 

 セレスティアは一周回って呆れましたという顔をしてそう言う。

 サンの件は俺からしても予想外のことだったからな。

 そもそもクインが居なければ、あの時の俺たちはどうなっていたか分からない。

 これがファレスの不遇故のことなのかは分からないが、きっと今後も予想外だらけなんだろうな……。

 

「……俺の近くにいるつもりなら、慣れることだな」

 

 そんなことを思っていたからか、ふと、俺の口からそんな言葉が漏れた。

 

「ふふっ、そうですわね」

 

 それを聞いたセレスティアは嬉しそうにそう言って微笑んだ。

 

「……あの、ファレス様。私からもよろしいでしょうか?」

 

 俺とセレスティアの間に何となく良い雰囲気が流れた所でクインが横からそう尋ねる。

 

「ああ、良いぞ」

 

 俺はセレスティアから視線を切ってクインの方を向くとそう言って続きを促した。

 

「……その……ファレス様とセレスティア様のご関係って……」

 

「クラスメイトだ」

「婚約者ですわ!」

 

 グイっと腕を掴まれセレスティアの方へ体が引かれる。

 スレンダーながらに確かに存在するふわりとした感触が服越しにも伝わって来た。

 

「お兄ちゃんモテモテだー!」

 

 サンの能天気なツッコミだけが教室に響く。

 俺は強い視線を三つ感じていた。

 

 一つはもちろん、俺の腕を掴んで抱き寄せたセレスティアのもの。

 そしてもう一つは対面に座るクインのもの。

 

 では、もう一つは?

 教室の入口から恐ろしささえ感じる声が聞えてくる。

 

「……聞き捨てならない言葉が聞こえたのですが、一体これはどういった状況なのでしょう?」

 

 入口に立っていたのはこれまでにないほど『嫉妬』の魔力を溢れさせるサラだった。

 ただ、ここで怖気づくセレスティアではない。

 

「ふふっ、見ての通りですわ? 私とファレス様はとても深い関係にありますの」

 

 さらにサラの『嫉妬』を煽る発言。

 二人の間に数時間ぶりの火花が散る。

 

 だが、今回に限っては明確な勝者が存在した。

 

「深い関係? あまり無理な見栄を張らない方がよろしいと思いますよセレスティア様? その点において私とファレス様は既に……」

「待て、サラ!」

 

 俺は咄嗟にこの席周辺を風のドームで覆い、サラの声が届かないようにした。

 しかし……

 

「ファレス、様?」

「一体、どういうことですの?」

 

 時すでに遅し。

 俺の横と対面に座る美少女たちの目からはハイライトが完全消滅している。

 

 

 ……このゲームにおけるハーレムルートの末路を覚えているだろうか?

 どんなキャラクターであろうと不変の結末。

 ある意味で原作ファレスに与えられた唯一の平等。

 そう、それはすなわち……死である。

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