The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第七十七話 学園入学⑫

「サン、ちょっと耳を塞いでいてくれる? お姉ちゃんたち今から大事な話をしなくちゃいけないの」

 

「ええ、サンさん。お耳を塞ぎなさいな」

 

 突如として訪れた人生最大のピンチに俺の脳はかつてないほどに高速で回転していた。

 おかしい。本当ならばスペーディア商会とグランダル公爵家の対立構造について話し合って、対策を考える場になるはずだったのに……とにかく、何とかしてこの状況をやり過ごさなければ。冗談抜きで死にかねない!

 

「ま、まあ二人とも一旦落ち着け。二人が考えているようなことは……」

「うぅっ……ファレス様」

「いや、待てサラ……」

 

 ダメだ。八方塞がり過ぎる。

 どちらに舵を切っても、そこは地面いっぱいの地雷原だ。

 

 徐々に彼女たちが距離を詰めてくる。

 いつの間にかサラも俺の真後ろに立っている。

 

 ……どうする? どうする!

 よく考えろ。

 俺は今どんな立場だ?

 サラとは……うん、まあいい。

 とはいえ、婚約関係になったわけでもなければ交際しているわけでもない。

 そしてそれはクインもセレスティアも同じこと。

 

 だとすれば、これはまだハーレムとは言えないんじゃないか?

 いや、言えない!!

 

 と言うことは、下手に出るより強気に、あたかも俺が正しいかのように振る舞ってやり過ごす!

 これしかない!

 史上最高速で回転した俺の脳は的確にクズの答えを導き出した。

 だがしかし、現状ではそれ以外にこの場を乗り切る手段が思いつかない。

 こうなったらもう、とことん傲慢に、俺らしく、だ!

 

 俺は手始めに『傲慢』の魔力を解放した。

 その魔力の奔流で制服の裾がたなびく。

 

 そして、全員の注意が逸れた隙に全員に向けて言い放った。

 

「どの立場で争っている? 俺が誰だかわかっているのか?」

 

「「「……っ」」」

 

 三人の目に微かにハイライトが戻り始めた。

 よし、この調子で……。

 

「サラ、お前は俺のなんだ?」

 

 まずはサラにそう問う。

 

「私は……ファレス様のメイド。私はファレス様の物です」

 

「ああ、そうだ。サラは俺の物だ」

 

 じっくりと視線を交わし、サラが恥ずかしそうに俯いたところで俺はクインに視線を移した。

 

「クイン、お前にとっての俺とは何だ?」

 

 続いてクインに問う。

 

「私にとってのファレス様は……大恩のあるお方。いつかその道を支える一人になりたいと思わせてくれる、そんな、私にとっての光です」

 

「ならば、今お前がすべきことは何だ?」

 

「私がすべきは……ファレス様に――」

「いや、皆まで言わずとも良い。ただ、今抱いたことを忘れるな。今後も期待している」

 

「は、はい」

 

 胸に言葉を抱きしめるようにしているクインを一瞥し、一番近くにいるセレスティアへ視線を移す。

 

「セレスティア、お前は俺に何を求めている?」

 

 最後のセレスティアにはそう問う。

 

「私は……」

 

 だが、セレスティアの言葉はそこで止まってしまう。

 しかし、それも仕方のないことだろう。

 なにせ彼女は俺と同じ侯爵家の出身だ。

 こんな風に自分の本心を吐かせられる機会なんて経験がないだろうから、プライドや色々な感情が邪魔をしているのだろう。

 

 だが、俺はジッとセレスティアを見つめ、その言葉を待った。

 

「……意地の悪いお方ですわね」

 

「嫌か?」

 

「……本当、ずるい方。ハァ……いいですわ。私は……私は貴方に興味を持ってほしい。そう、思っていますわ」

 

 覚悟を決めたような表情でこちらを見据え、セレスティアはそう言った。

 

「それは何故だ?」

 

「貴方に選ばれる女になりたいからですわ」

 

「この現状を見ても、か?」

 

「……はい」

 

「……ならばいい。好きにしろ」

 

「はい、好きにしますわ」

 

 ふわりと笑って見せるセレスティアには確かな強かさを感じた。

 

 ………………。

 

 しばしの沈黙。

 サラは照れて俯き、クインは全身で言葉を味わうように、セレスティアは覚悟を決めた女性の表情をして、それぞれ黙っていた。

 

「ファレスお兄ちゃん、もう耳、いい?」

 

 耳を塞いだサンが普段よりも大きな声でそう聞いてきた。

 俺は一度コクリと頷くとサンは耳を塞いでいた手を外し、三人のことをジーっと見つめる。

 

「そう言えば、昔お母さんが言ってたんだけど、すごい人の元にはいっぱい人が集まるんだって!」

 

 そして見つめていたかと思えば唐突にそんなことを言い放った。

 ただ、本当にそれだけ。

 何か続きがあるわけでもなく、言った本人であるサンは満足そうにニコニコしている。

 

 だが――どういう訳か三人もサンに笑顔を向けていた。

 

 ……女性同士にしかわからないことがあるのだろうか?

 まあ、取り合えず窮地は脱せたみたいだし、何でもいいか。

 

 今の俺にとっては、状況の意味を理解する以上に、死ななくて良かったという安堵が大きかった。

 

 ◇◇◇

 

「……さて、サラも来たことだし、本題に入るとしよう」

 

 しばらく間を開けて、三人が完全に冷静になったであろう段階で俺はそう切り出した。

 

「はい。そう言えばどうしてここにお集まりに?」

 

 居住まいを整えるクインとセレスティアに対し、まだ状況を理解していないサラがそう聞いてきた。

 

「ああ、先日の件、サラも覚えているだろう?」

 

「先日のと言うと……クインさんが襲われかけたあの?」

 

「そうだ。それについていろいろと関係のありそうな話をセレスティアが知っていてな。その確認をしようとしていたところだ」

 

「その話だったのですね!」

 

 ようやく合点がいったという風にクインが言う。

 サラに向けた説明だったが、そう言えばクインにも事情をまだ説明していなかった。

 

「ああ。セレスティア、改めて先ほどの魔道具の話を」

 

「分かりましたわ。と、言いましても大した話ではありませんし、スペーディア商会どころかその縁者であるクインさんには今更なお話かもしれませんが……」

 

 セレスティアはそう前置きをしながら、コホンとひとつ咳払いをして話始めた。

 

「簡単な話しですわ。元よりグランダル公爵家によってほぼ寡占状態にあった魔道具の販売をスペーディア商会も大々的に取り上げ始めたという話です――」

 

 この世界における魔道具の位置づけはかなり微妙なものだ。

 これを正確に理解するには、そもそも魔道具とは何なのかという興りの部分から話す必要があるが、簡単に言えば、現在、世間で魔道具として扱われている物は全て鑑定士と呼ばれるよくわからない連中によって認められた物のみである。ということだ。

 

 もう少し詳しく説明すると、元々魔法的な作用を持つ物が魔道具と呼ばれていた中で、魔道具を騙って物の値段を吊り上げて商売をする連中が現れた。

 それに対抗するためにおそらく皇家が鑑定士という立場の人間を生み出し、魔道具として扱える物はこの鑑定士により鑑定を受けた物のみとなったのだ。

 

 しかし、時は流れ現代になると、鑑定士事業に味を占めた皇家筋のグランダル公爵家がその時点での鑑定士を全員グランダル公爵家の専属とし、魔道具事業を独占してしまったのだ。

 

 現実的にそんなことが可能なのかと言われれば、もちろん不可能なのだが、公爵家という身分と声明によって半強制的にこの状況がまかり通され、現状に至っている。

 

 無論、グランダル公爵家に反発し専属とならなかった鑑定士もそこそこ存在したため、スペーディア商会などの大きな商会は、そんな鑑定士崩れの鑑定士を雇ってはいるが、実際に商品を魔道具として売り出すことは出来ないというのがつい先日までの魔道具事業の状態だった。

 

「どうでしょうか? クインさん私の見解も含めてお話してしまいましたが」

 

 話を終えたセレスティアはクインに確認するようにそう聞いた。

 

「はい。セレスティア様のおっしゃる通りかと。最近は北の方から多くの魔道具が持ち込まれ、鑑定士が足りない状況となっていました。そしてお母様……母はそんな時が来ることが分かっていたかのように、秘密裏に育成していた鑑定士を総動員し、一挙にグランダル家の鑑定士に張り合えるほどの数の鑑定士を揃え、グランダル家の寡占状態に風穴を開けたみたいです」

 

 クインはセレスティアの話を肯定しつつ、現在進行形の業界の状態までを話してくれる。

 

 ……ギンカ・スペーディア。

 やはりすさまじい女傑だ。

 自身はその腕一つで貴族へと成り上がり、その傍らでは既存の流通体系に穴をあけてしまえるほどの人材を大量に育成していたなんて……。

 

 商売という物は結局品質とサービスの競い合いだ。

 いくら権力による弾圧があろうと、一度潜り抜けられてしまえば、その後は広がっていくのみ。

 それにスペーディア商会はグランダル家の手掛ける商会のようにお高く留まった貴族専用という訳ではなく、誰にでも開かれていながら、その格式を維持するような洗練されたサービスがある。

 

 グランダル家はかなり手痛い一撃を受け、仕方なくクインへ手を出そうという判断になったのだろう。

 無論、マーデン家を介し、自らの手を絶対に汚さない形ではあったが。

 

「クインさんのお母様は素晴らしいお方ですわね」

 

「ええ、本当に凄いです」

 

 セレスティアとサラも俺と同じ思考に至ったようだ。

 まあ、今の話を聞かされれば誰でもそう思うだろうが。

 

「あ、ありがとうございます。なんでしょう、私のことではないのになんだか恥ずかしくなってしまいました」

 

 そんな二人から尊敬の眼差しを向けられてクインが照れている。

 あまり注目されることに慣れていないせいだろうか?

 

 俺は一歩引いた位置からそんな光景を眺めていたのだが、不意にセレスティアがこちらを向いて言った。

 

「そう言えば、ファレス様。先ほどお渡ししたこちらもスペーディア商会の方で取り寄せていただいた品ですのよ?」

 

 開かれたセレスティアの手に乗っていたのは少し大きめのビー玉サイズの通信玉だった。

 

 ………………。

 先ほどようやく落ち着いた空気が一瞬にして張りつめたものになる。

 

「セレスティア、貴様……」

 

「あら、私何かしてしまいまして?」

 

「……ファレス様、その玉を砕く許可を」

「ファレス様。もしかすると不備があるかもしれませんので、私の方で一度確認させていただきたいです」

 

 ずんずんとサラとクインが詰め寄ってくる。

 おい! こんなところで白状するならいったい何のために俺にこれを渡して来たんだセレスティア!

 

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