The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第七十九話 マーデンの暗躍①

 入学式から一週間、つまりエンペンとの勝負の前日。

 学園中はその話でもちきりになっていた。

 

「なあ、聞いたか? 公爵家対侯爵家のガチバトルだってよ!」

「それもカーヴァリア家の第二令嬢の婚約者の座を巡って、ですって!」

 

 その話題は学年の枠を飛び越え、二年、三年、四年……と学園中で噂されるほどに。

 

 だがこれはかなり異質なことだ。

 俺とリューナスの戦いは入学式当日と言うこともあり、暇を持て余していた学園生徒に一時の娯楽として消費された。

 しかし、普段通りの日常においてこの学園では他学年のことがそれほど噂になることはないのだ。

 なにせ、この学園においてそんな程度の小突き合いこそ、普段通りの日常という物だからである。

 いくら内乱の少ないこのグラーツィア帝国とは言え、貴族家同士のしのぎあいは存在している。

 

 まさにスペーディア男爵家がグランダル公爵家の寡占状態に穴をあけたように、原作にてマーデン子爵家がアゼクオン侯爵家の立場を虎視眈々と狙っていたように、そんな家同士、領地同士の争いは日常的に見られる。

 

 そんな中で、この学園は全貴族家に登校義務が課せられる。

 ともすれば、この学園はそんな家同士の代理戦争の場にもなりうるという訳だ。

 まあ、親の意志の介在しない子供同士のやり取りではあるため、存外関係のない家同士での勝負になることもままあるのだが。

 

 なんてことを考えながら歩く朝。

 正直、今は噂についてはどうでもいい。

 何故なら今の俺はそれどころではない。

 左腕がまるで蛇に絡まれるが如く締め付けられているのだから。

 

「……サラ」

 

「申し訳ありません。ですが、この身を焦がすような嫉妬に耐えるためには……申し訳ありません」

 

 そう言って謝りはするものの、その腕はより強く絡まり、離れる気配がない。

 それは普段何かを主張することのないサラの珍しい主張だった。

 

「……教室の前までだ」

 

「……っ! はいっ」

 

 ……おそらく、このせいもあって今回の勝負の噂が中々引かないのであろう……。

 

 ◇◇◇

 

 放課後、俺はサラとセレスティアを連れて明日の勝負の場となる学園の隣へ併設されている野外演習場へ足を運んでいた。

 

「中々の広さだな」

 

 魔法披露宴で使った王城の施設ほどの規模ではないが、それでも多くの人間が観覧できるような観客席まで完備されたこの施設はさしづめスタジアムと言ったところだろうか。

 

「ですわね。今日までの噂の回り様、明日はこの会場が埋まるほどの人数が集まるでしょうね」

 

 俺の呟きにセレスティアがそう答える。

 その目は明後日の方向を見ていた。

 

「……ずっと思っていたのですが、あのエンペンとやらはどうしてファレス様に挑まれたのでしょう?」

 

 そんなセレスティアはさておき、相も変わらず左腕に巻き付く蛇のようになってしまっているサラがそんなことを聞いてきた。

 

「あいつは自称セレスティアの婚約者だからな。そういう所が気に入らないのではないか?」

 

 まあ、恐らくはルーカスに先導されているか、二度ほど会話に出て来た兄上とやらが何かをしていることも考えられるが、そもそもの動機としてはこの自称だろう。

 

「ですがファレス様。そのお話は、いったいどこから出てきたことなのでしょう? セレスティア様、婚約者の件、あなたほどのプライドを持つ方が震えてファレス様の服を掴んでしまうほどだったのでしょうか?」

 

 サラは反対側にいるセレスティアをまっすぐに見据え、そう言い切った。

 言われたセレスティアはと言えば……その視線は明後日の方向を見つめたまま。

 しかし、その左手が微かに震えているのは隣にいる俺たちからすれば一目瞭然だった。

 

 確かに、言われてみればサラの言う通りではある。

 セレスティアは最初から俺に怯えることなく向かってきたような女だ。

 俺が魔法披露宴で圧倒的とまで言える実力を見せつけたときでさえ、怖気づくことなく、それどころか直後にサラに張り合おうとまでしたのが彼女なのだ。

 

 そんなセレスティアがたかが公爵家の次男坊に婚約を迫られたところでここまで怯えるようなことがあるのだろうか?

 

 いや、そんなことはあり得ない。

 

 現在のセレスティアは原作からのキャラ崩壊が著しいが、それはあくまで俺の前でのみの話。

 ここ数日間の噂に耳を澄ませていれば、周囲から見たセレスティアは相変わらずクールな印象だと言うことは確定的だ。

 

「セレスティア、そう言えばお前には姉がいたな? 彼女は――」

 

 俺がその存在を名指しした時、セレスティアの肩は大きく跳ねた。

 まるで隠したい何かを暴かれかけているとでも言うような、そんな反応だった。

 

「……今更、お前を放逐するつもりはない。ただ、ここまで俺を巻き込んだのだ。事情くらいは聞かせてもらおう」

 

「……わかり、ましたわ」

 

 そう言ってようやくこちらを見たセレスティアはかつて見たことがないほどに弱々しい表情をしていた。

 

 ◇◇◇

 

 俺たちは演習場の観客席に上がり、教室と同じように横並びに座った。

 それから俺はサラに風のベールで外部からの音と内部からの音を遮断する結界を張らせると改めてセレスティアへ話を振った。

 

「それで、この度の事情とは?」

 

 足元をジッと見つめていたセレスティアは俺のその質問で視線を上げて、ゆっくりと語り始めた。

 

「ファレス様は一年目以外の貴族学園の期末に毎年何が行われるかご存知ですか?」

 

「ああ、戦闘実習だな。実際に魔物や魔獣、魔法生物との戦闘を経験するために何人かのグループでそれぞれ指定された地に向かい、討伐証明となる物を持ち帰る、だったか?」

 

 ……懐かしいものだ。

 これは原作にも実在したイベント。

 そしてファレス死因ランキングでも中々の上位に君臨する嫌なイベントだ。

 

「ええ、その通りですわ。ですが昨年のそれは少々変更をされましたわ。いえ、正確には三年前に変更されていたそうですわ」

 

「変更? 一体なぜだ? どういう風に?」

 

 そんな一大行事に手が加わることなんてそう簡単にはないだろう。

 それが三年前に急に変わるというのはおかしくはなくとも不思議な話だ。

 一体何かきっかけがあったのだろうか?

 

 そんな俺の疑問を見透かしたかの如くセレスティアは答える。

 

「……三年前、つまりこの国に凄まじい才能が芽生えたことが周知された年ですわ。若干十一歳にして、あの歴代最強を誇る皇帝陛下の、その名代に任命された人物が、世間の日の目を浴びた年、なのですわ」

 

 ……!?

 若干十一歳にして、皇帝の名代……そんな人間一人しか知らない。

 いや、この先もおそらく現れることはないだろう。

 

「そうですわファレス様。そのお方、ファレス・アゼクオン様はあまりに大きすぎる実績を残されましたわ。いくら名門アゼクオン侯爵家の嫡男であろうと、その功績の光は覆い隠せないほどの大きな、とても大きな実績を……」

 

 学園ではエバンス伯爵令嬢として過ごしているサラも、こう言う状況では聞き役に、俺のメイドに努めるサラも驚いたような顔をしている。

 だが、一番驚いたのは俺だった。

 俺の影響で学園の戦闘実習に変更が生じるなど、考えもつかなかったのだ。

 

「加えられた変更はごく簡単なものですわ。けれど、それに対して危険でもありましたわ」

 

 変わらず、ゆっくりとしたペースで話し続けるセレスティア。

 

「その変更とは?」

 

 合いの手のように言わされたその質問にセレスティアはこちらをジッと見つめ、言った。

 

「各学年ずつではなく、全学年合同の実習になったのですわ」

 

 空気が揺れる。

 俺たちを取り巻いていた茜色の陽光が少し陰ったように感じる。

 さして大声でもないセレスティアのその声は、だがしかし、深い感情の籠った、強い言葉だった。

 

 ……なるほど。

 少し、見えて来た。

 

「お姉様、エルシアお姉様はそこである人物と同じグループになりましたわ」

 

「その、人物とは?」

 

 いや、この質問は聞くまでもないだろう。

 話の流れ、セレスティアの怯えの原因、そんなものもう一人しかいない。

 だが、俺は聞いた……その名前を。

 恐らく一連の裏にいるのであろう、その男の名前を。

 

「……名をトールス・グランダル。グランダル公爵家が長男にして次期公爵となられる……お方ですわ」

 

 そう言うセレスティアの口調は呪詛の如く、強い恨みをはらんでいるようにも思えた。

 

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