The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第八十三話 マーデンの暗躍⑤

 時は少し遡り、一人の少女が人込みの影を縫い、その男の後をつけていた。

 

「……ファレス様をバカにするような態度、尾行の指示でなければ今ここで始末してしまいたいほどです」

 

 かなり離れた位置からルーカスの姿だけは見逃さないように人込みや柱の陰などに潜んでいるサラは、少し前のルーカスの発言を思い出し憤慨していた。

 

 あれはそう。

 もう何度目になるか分からない、もはや今年度入学生の中では恒例になりつつある、エンペンがファレスに絡み、返り討ちに遭うというやり取りの中でのルーカスの一言だった。

 

「エンペン様、気になさる必要はありませんよ。見てください。あの男はあろうことか女性を四人も侍らせるようなクズ野郎です。そんな浮ついた男の言葉など全く気にする必要はございません」

 

「全く! ファレス様がそんなクズな訳が……」

 

 サラはそう呟きながら当時の光景を思い出す。

 ……左腕には自分が、右腕にはセレスティアが抱き着き、膝の上にはサンを乗せ、その背後には訳知り顔で佇むクイン。

 ……あれ? 意外と間違っていないのでは?

 

「………………ファレス様の、浮気者」

 

 心に灯った嫉妬の炎を、何とか口に出すことで鎮火していると、遂にルーカスが大きく動きを見せた。

 周りをキョロキョロと確認したかと思えば胸元から小さい笛のようなものを取り出し、それを吹いたのだ。

 

 サラは一瞬、急な音が鳴るのではないかと身構えるも、そんなことはなく、笛を吹いたような音は一切聞こえない。

 

「……一体何をしたのでしょう?」

 

 そう思いながらも、警戒は解かず監視を続けると、学園の影の方から一台の馬車がルーカスに向けて走ってくるのが見えた。

 

「馬車? それにあの紋章……」

 

 その馬車はルーカスの前で停車すると即座にルーカスを中に引っ張り込み、慌ただしく去って行ってしまった。

 

 さすがにエバンス家出身のサラといっても、スピードの出ている馬車の尾行を生身で見つからずに行うというのは難しい。

 

「尾行できるのはここまでですね……。ですが、収穫がなかったわけではありません。戻ってすぐにファレス様に報告しましょう」

 

 そうしてサラは一秒でも早くファレスの元に戻るべく、馬車に負けないレベルのスピードで来た道を引き返し始めた。

 

 ◇◇◇

 

 セレスティアを連れて演習場を後にした俺は演習場の出口付近で立ち止まった。

 そこに並ぶベンチにセレスティアを座らせ、俺もその隣に腰かける。

 

「あら、ここでよろしいのですか?」

 

「ああ、サラもおそらくこちらへ戻って来るだろう。それにもう一人もここが一番わかりやすい」

 

 俺がそう呟くとセレスティアは不思議そうに? を頭上に浮かべて聞いてくる。

 

「サラさんはともかく、もう一人、ですか?」

 

「ああ、セレスティア、お前の姉を治す力を持った者だ」

 

「! ファレス様が治してくださるのではないのですか?」

 

 セレスティアは俺の言葉に驚いた様子でそう聞いてくる。

 まあ、昨日のあの言い方だと今のセレスティアのように勘違いされてもおかしくはないか。

 実際、俺でも治せないことはないと思うのだが、トラウマの原因が男だからな。

 リカルド兄上は関係が深いから別枠として、俺ではプレッシャーやら何やらで悪化させてしまうかもしれない。

 

「ああ、俺ではエルシアさんに余計な気を遣わせるかもしれないだろう? こういう物は最適な者に任せるべきだ」

 

 俺がしごく冷静にそう言うと、セレスティアはまるで化け物でも見たかのように驚いた顔をする。

 なんだよ、俺が人に任せることがそんなにおかしいか?

 

 ……なんてことを思ったが、口には出さず代わりに彼女に声を掛けた。

 

「(サン、聞こえるか?)」

 

「(あれっ!? なんかファレスお兄ちゃんの声がするっ!!)」

 

 普段はクインと行動を共にしているが、実際は俺の従魔であるサンには通信玉などの媒体がなくともこのように意思疎通を図ることが可能だった。

 

「(ああ、俺だ。まだ演習場内にいるな?)」

 

「(うん! ファレスお兄ちゃんかっこよかったねってクインお姉ちゃんと話してたよ!)」

 

「(そうか、それなら良かった。……と、そうではなく、クインに頼みたいことがある。人が多くなる前に演習場の出口まで来られるか?)」

 

 純粋無垢なサンにあてられて用事を忘れるところだったが、何とか踏みとどまって俺はクインたちを呼び出した。

 

「(分かった! 出口に行けばいいの?)」

 

「(ああ、そこでサラとも合流する予定だ)」

 

「(じゃあ、すぐに行くね!)」

 

 そう言って元気よくクインを連れ出そうとするサンの姿がありありと目に浮かぶ。

 ……やはりサンとの会話は……何というか、こう……癒されるものがあるな。

 これは俺がロリコンという訳では決してない。

 ただ、純真無垢という物は時に……心にまで染み渡るというだけである。

 

「ファレス様? 淑女を一人残して自分だけそのように緩んだお顔をされるとは……もしかしなくても他の方のことを考えていらっしゃいましたね?」

 

 なんて、サンのことを考えて癒されていたら、表情にも出てしまっていたようで、不満げな顔のセレスティアがわき腹をつついてくる。

 

「……何を根拠に――」

「女の勘ですわ。ですがその反応……間違いないようですわね」

 

 ……だってセレスティアとかサラと一緒に居ると常にこうなんですもの。

 サンみたいな元気いっぱい裏表ありません! な童女に癒されるのも仕方がないことだろう。

 さきほどまで陰りのなかった太陽に雲がかかり、何やら不穏な雰囲気が漂い始める。

 

「ファレス様!」

 

 かと思えばそんな声と共に雲に隠れかけた太陽が再び顔を見せた。

 セレスティアに何と言ってやり過ごそうかと考えている俺の元へ、救世主サラが戻ってきたようだ。

 

「サラ、戻ったか」

 

「はい! 申し訳ありません。ルーカスは途中で馬車に乗って去ってしまいましたので、尾行しきれませんでした」

 

 謝っている割には、普段より申し訳なさを感じない、というか普通な様子のサラ。

 

「いや、気にしなくていい。ただ、急いでこの場を離れたと言うことに意味がある」

 

 そんなサラの様子が少し気になったが、あえて言及はしなかった。

 

 それよりどうやらやはり、ルーカスにはこの場に残っているとまずい用事があったようだ。

 今はそれが分かっただけで十分だ。

 

 だが――

 

「ですが、一つ気になることがございまして……」

 

 そんな俺の期待をサラは良い意味で裏切ってくれた。

 

「何があった?」

 

「はい。ルーカスの乗り込んだ馬車なのですが、音の聞こえない笛のようなもので呼び出していました。それにその馬車にはグランダル家の紋がついていました」

 

「……! 間違いないな?」

 

 なるほど、この成果があったから謝罪にいつものような暗い感情が籠っていなかったのか。

 

「はい。この命に懸けて間違いないと断言いたします」

 

 そう言うサラの瞳は俺への忠誠に燃えていた。

 

「そうか。良くやったサラ。これでエンペンはただの道化であり、背後にルーカスとグランダル家の思惑があると思って間違いないだろう」

 

 俺がそう言うと嬉しそうな顔をして、俺の左腕を取るサラ。

 ……どうやらメイドモードはここで終わりらしい。

 右腕の締め付けが少し強くなった気がしたが、気にしないことにして残りのクインとサンの到着を待った。

 

 ◇◇◇

 

 グランダル家は帝国唯一の公爵家として、そして皇帝の血族として、他の貴族たちより強くその立場、血筋に誇りを持っていた。

 そんな誇りの中、エンペンがそんな家でも自分を失わず、真っすぐ育ったのはもはや奇跡と言えるほどだ。

 

 グランダル家はそんな権威の象徴とするように、王都に別邸を二つ持っている。

 ここはその一つ目、普段エンペンが利用している邸宅とは別の、古くからグランダル家が所有している別邸だった。

 

「やぁ、ルーカス。お勤めご苦労。どうだったかな? 僕の愚弟は」

 

「トールス様、分かり切ったことをお聞きになる必要はないのでは? アレが敗北することなど元々分かり切っていたことでしょう?」

 

「ハハッ、言うね。仮にもアレもグランダル公爵家の一員なんだけどね?」

 

「フッ。それがお身内にあれほどの道化を演じさせた方のお言葉ですか?」

 

「ハハハッ。それもそうか。……まあ、期待はしていなかったけどあの宝晶は? 爆発しなかったのかい?」

 

「はい……ファレス・アゼクオンによって爆発前に処理されてしまいました」

 

「ふーん」

 

「それもまるで、あの宝晶が何なのかを理解しているような動きでした」

 

「……へぇ、それはちょっとおかしいね? あの宝晶はまだうち以外には流出していなかったと思うんだけど……それとも予想よりスペーディア商会が優秀なのかな?」

 

「その辺りまではまだ何も……ですが、奴には警戒が必要かと」

 

「まあ、そうだよね……じゃあ、次に狙うべくは……」

 

 仄かな明かりだけが灯るその部屋で、二人の男がそれぞれ腹に黒いものを抱えながら笑い合う。

 互いに必要以上には踏み込まず、使えるから利用し合う関係。

 ある意味脆く、それでいて友人関係よりも強固なその関係は一体何を引き起こすのだろうか?

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