The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第八十七話 マーデンの暗躍⑨

 エンペンとの勝負があった日から、早い物で一週間が経過した。

 あれからも俺たちは毎日カーヴァリア家の別邸に赴き、クインの魔法による治療のほか、エルシアさんと少し話してそのメンタル回復に努めた。

 

 なんだかんだで、それまであまり仲良くなかったリカルド兄上とも毎日交流することになり、少し打ち解けることが出来た。

 リカルド兄上は現在期末試験中に自分の持ち場を勝手に離れたことで、一月の謹慎処分を食らっているらしく毎日の夕方この時間のみ、何とか使用人たちを説き伏せてここに通っているらしい。

 

 ……これは結婚秒読みだな。

 あとで久しぶりに母さんにでも、手紙で伝えておくか。

 

 そして、今、俺が何をしているのかと言うと……。

 

「ふぁ、ファレス! 本当にこれを嵌めなくてはならないのか?」

 

 学園に設置された個人学習用の個室にて、扉を完全に締め切り、風魔法の結界で音漏れ対策も完璧に整えてこの男、エンペン・グランダルと向かい合っていた。

 

「嫌ならやめておくか? 俺としてはどちらでも構わないが……それではいつまで経ってもお前の魔法能力はそのままだ」

 

 俺がエンペンに渡したのは一つの指輪だ。

 無論、おかしな含意などはない。

 後ろに控えるサラは憎々し気にエンペンを睨んでいるが、その指輪は俺も二つ嵌めている魔力補助アイテム『吸魔の指輪』だった。

 

「だ、だが、これは……貴族にとっての恥の象徴ではないか!」

 

「ああ、その通りだな。しかし、指輪を使い魔法を扱えるようになった貴族と、生涯魔法を使えない貴族。どちらの方が恥だと思うのだ?」

 

「くっ……」

 

 俺の言葉を受けて、エンペンは言葉に詰まる。

 エンペンだってわかっているのだ。

 この方法が最善であり、唯一の方法であると。

 しかしながら、公爵家の次男としてこれまで約十六年間を生きて来た彼のプライドが、その決断を鈍らせていた。

 

「……所詮、その程度か貴様の覚悟は」

 

 そしてそんなエンペンの気持ちは俺にもよくわかる。

 だから、これは過去、その道を踏み外してしまった先導者からのありがたい一押しだ。

 

「……ああ、そうだね。あんな醜態を晒しておいて、ここでも恥の上塗りをするなど……もはや家名も関係ない。僕個人としてそんな情けない自分を許せない」

 

「……そうか、覚悟は決まったようだな」

 

 そう言う俺をまっすぐ見つめるエンペン。

 ふむ、中々良い顔をするようになった。

 

「ああ、悪いね。情けない姿を見せてしまったよ」

 

「ふっ、今更だろう」

 

「ハハッ! それもそうだね!」

 

 俺たちは笑い合う。

 そして、エンペンは遂に右手の中指へその指輪を通した。

 

「ぐっ…………」

 

 エンペンの周囲に中々の魔力の奔流が巻き起こりその体を取り囲む。

 

「こ、これが、本当の覚醒の感覚なのか?」

 

「まだだ。指輪をつければ万事解決という訳ではない。これから毎日数時間程度、吸魔にあてる時間を作れ。そうすれば程なくしてお前にも覚醒が訪れるだろう」

 

「……そうか。こんなに簡単に……本当に僕は何をしていたのか……」

 

 エンペンは吸魔の指輪を見つめ、乾いた笑いを浮かべながらそう呟く。

 その言葉には後悔や苦労など色々な感情が感じられた。

 

「……過去は過去だ。過ぎたことはもうどうしようもない。だが、未来はいくらでも変えられる」

 

「……っ!」

 

「良かったな。まだ、取り返しのつく段階だ」

 

 俺はそう言い残し、エンペンに背を向けた。

 そして、サラに合図をして個室を出る。

 

「ありがとう……ありがとうファレス……」

 

 背後から掛けられる言葉には振り返らない。

 男の泣き顔なんて見たところでいいことはないからな。

 

 ◇◇◇

 

「もうすぐ学園入学から一月ですね」

 

 個室にエンペンを一人残し、部屋を出て来た俺にサラがそんな話を振って来た。

 

「そうだな……早いのか遅いのかはともかく、濃い一月だったな」

 

「そうでしょうか? 私としては……」

 

 そこまで言いかけて途端に顔を赤くするサラ。

 ……あ、あぁ……そう言えばそんなこともありましたね。

 

「……五月は実戦演習があったな」

 

 とりあえず、濃かったこの四月の話は置いておいて、先の予定を口にする。

 

「……そ、そうですね。一年時は対人戦闘のみですから、余り緊張感もありませんが」

 

「それもそうだな。だが、俺たち以外の者がどこまでやれるのかは少し興味がある」

 

「ファレス様には当然のこと、私に敵う者さえいないように思いますが……」

 

 まあ、それはその通りなのだが、リューナス・クラービーのように戦闘になると急変する者がいるかもしれない。

 それに……この学年はプレイアブルキャラクター揃いなのだ。

 おそらく俺の影響で様々なところに変化が生じている今、改めて現時点での俺の目で、彼らの実力を確認しておきたい。

 

「その通りだが、同年代の実力を測っておくという点においては良い機会だろう」

 

「なるほど、もしかしたらファレス様の覇道を支えるに足る人物が眠っているかもしれませんものね!」

 

「ああ、そうだな」

 

 ……覇道、か。

 そう言えば昔、サラにそんなことを言ったことがあったか。

 個人的には現状のグラーツィア家の統治に文句はないのだが、まあ、確かにあの皇帝にはいいようにやられた借りもあるしな。

 

 一泡吹かせるための仲間集め、と言うのも面白いかもしれない。

 まあ、なんにせよ、目下の問題であるマーデン家とグランダル家の暗躍の実態を掴む方が先だな。

 

 となれば、事情聴取から始めるか。

 幸い、エンペンとは悪くない関係を築けるだろうし、あいつを足掛かりにその背後を調査するとしよう。

 

 ◇◇◇

 

「その後の様子はどうだい? ルーカス」

 

 彼らの密会はもはや日常的になっていた。

 

「想定より少し早いですが、既に噂は消滅しております。アレに関してはすっかり牙が抜け落ちてしまったようで……今ではおとなしい優等生に落ち着いていますよ」

 

「ハハッ、まあ、余計な真似をしないだけ良いじゃないか」

 

「それもそうですね。どうしましょう? 消しますか?」

 

 和やかな会話にそぐわない、冷徹な言葉が何の脈絡もなく放たれる。

 

「いや、そんな面倒なことをする必要はないさ。どうせ魔法もまともに扱えない非才の身だ。いずれ勝手に落ちぶれるさ」

 

「フッ、確かに」

 

 彼らの視線の先には恐らく、五月の実戦演習でボコボコに敗北し、誇りや尊厳など、色々な物を一度に失い、落ちぶれるエンペンの姿が映っているのだろう。

 

「……それで、今日は何の御用でしょう? 次の手を打ちますか?」

 

「ああ、そうだったね。うん、まさにその通りだよルーカス。三年の優秀な彼らは追い出したし、スペーディアを通じて、面倒なアゼクオン侯爵家もそちらに縫い付けた。これで、大駒ががら空きだ」

 

 そう言いながらトールスは目の前のリストの一番上に書かれた名前を指さした。

 

「大駒……その方はっ!?」

 

「ああ、本当ならもう少し時間をかけるつもりだったんだけどね。予想以上にアゼクオンの嫡男がカーヴァリアとも関係が深かったおかげで、そちらに掛かり切りになってくれてるからね。この機を逃す手はないさ」

 

「なるほど……確かにそうですね」

 

 本当に、この人はすごいことを考える。

 トールスの計画を聞きながらルーカスは改めてそう思わされていた。

 

 ルーカスは彼自身が大した器でないことを理解している。

 だが、だからと言って上に行くことを諦めるつもりはない。

 マーデン子爵家は一応領主家ではあるが、その領地は南部貴族でも最底辺。

 特段、強い産業もなければ、弱点があるわけでもないごく普通の弱小家門。

 そんなルーカスにとって学園とは一世一代の出世のチャンスなのだ。

 

(使えるうちはあんたの駒で居てやるよ。国賊クソ野郎)

 

 だから彼は使えるものは全て使う、それが物だろうと者だろうと構わずに、だ。

 

「じゃあ、いつも通り接触を頼めるかな? ルーカス」

 

「お任せくださいトールス様」

 

「あ、そうそう。もし、彼が次の実戦演習に悩んでいたらこれを渡してあげてよ」

 

 そう言ってトールスは何かしらの魔道具をルーカスに手渡した。

 

「これは?」

 

「フッ、気にしなくていいよ。きっと面白いことになる」

 

「承知しました」

 

 カツカツと静かな室内にルーカスの靴音だけが響く。

 そんなルーカスの後ろ姿をトールスは愉快そうに見つめていた。

 

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