The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第八十八話 グラーツィアの皇子①

「今月からは本格的な授業に入っていく」

 

 学園生活が始まってからひと月が経ち、五月に入った今日、教壇に立つ魔法理論・実践の教師が声たかだかに宣言した。

 特に驚きの声が上がることはないが、ゴクリと息を呑む様な緊張感が伝わってくる。

 今日までの授業はつまり常識の確認だったという訳だ。

 

「とりあえず、一年時における課題は適正外魔法もそれなりに扱えるようになることだ」

 

 適正外魔法、要するに覚醒した属性以外の魔法と言う意味だ。

 覚醒した属性が得意なことに間違いはないのだが、それ以外の魔法が全く使えないのかと言えばそれは違う。

 魔法覚醒前のクインが歪な水球を生み出せていたように、努力次第でおよそ攻撃力はないもののその属性の魔法は使えるようになるのだ。

 ちなみに、複合属性はその限りではなく、セレスティアの雷魔法などに関しては完全に才能による魔法だ。

 

 ……なんて脳内で解説のようなことをしてみるも、俺の退屈は解消されなかった。

 なにせ、俺の魔法『傲慢』は強化模倣の能力。

 見ることさえ出来れば最初から使えてしまうのだ、例外なくすべての魔法が。

 それにこの『傲慢』の特性由来かは知らないが、適正外魔法程度なら『傲慢』を介さなくても、今の俺は実力だけで魔法を扱うことが出来る。

 

 まあ、何が言いたいのかと言えば、この教師の言う一年時の課題とやらは当の昔にクリアしてしまっているということだ。

 

「(つまらなさそうですわね)」

 

 そんな俺の様子を察してか、隣りから通信玉を介してセレスティアが話しかけて来た。

 

「(まあな。何せ、既に習得済みの技術だ)」

 

「(そうでしたわね。私の魔法まで完全に扱われてしまっていましたし……)」

 

「(例外はないからな。一度見ればすべての魔法が再現可能だ)」

 

「(本当に規格外のお方ですわね)」

 

 なんて、そんなやり取りをセレスティアとしていると一瞬、教師と目が合った。

 そして教師は俺の内心を見透かしたかのように言った。

 

「すでに出来るという者は無論、別メニューがある。学園生活に無駄な時間はないからな!」

 

 ……ほおう。

 別メニューなんて聞いたことがないが、そんな飛び級制度のようなものまで存在していたのか。

 まあ、退屈しのぎになるのならば何でもいい。

 

 すると教師はもう一度俺の方に目をやり、少し顔色を変えた俺を見て満足そうに授業を始めた。

 

 ◇◇◇

 

 適正外魔法の使用について、あらかたの理論を叩き込まれた後ですぐに訓練等に移動してきた俺たちは一人ずつ先の教師の前で現状確認として適正外魔法を使わされていた。

 

「ふむ……今年はレベルが高いな」

 

 最後の俺を残し、教師がそう言う。

 実際、俺の目からもかなりのレベルが窺えた。

 サラやセレスティアは言うまでもなく、数か月で全てマスターできるであろう領域、他にもそこそこ形になっている者が多かった。

 

 何より驚いたのはエンペンの急成長だ。

 どうやら彼はあれから無属性魔法を覚醒したようで、残りの四属性すべてを使って見せていたのだがそのすべての発動に成功していた。

 もちろん、発動に成功しただけで暴発したり、そよ風以下のうちわの代わりにすらならないような魔法だったが、それにしたって覚醒してすぐのいわば魔法素人が使える領域ではない。

 やはり、元々影ではかなり努力をしていたのだろう。

 

「さて、各々自身の課題となる属性は確認できたな? 今日はその属性を一定に保つ訓練をするように」

 

 なんて考えていたら教師は俺の確認をせずに授業を進め始めた。

 ご丁寧に一人一人の魔法を見て、アドバイスまでつけに行っている。

 ……あれ? 特別メニューは?

 

 仕方がないので両の掌に四属性の魔法、計八つの魔法球を発現させ、それを指で弾くようにして円の軌跡を描くように回転させる。

 これは俺がたまにやっている魔法操作の訓練だ。

 

 傍目ではそこまで難しそうに見えないかもしれないが、これらの魔法はそれぞれが少しでもぶつかれば混ざるか反応し合って消えてしまう。

 そのため、綺麗な形の八つを維持したままだんだん早くしていくと良い具合に訓練になるのだ。

 

 ……とは言え、さすがにもう三年も続けていれば流れ作業のように出来るようになってしまっている。

 さらに難易度を上げるか。

 そう思い立った俺はお手玉の要領で回転している魔法球のそれぞれに横向きの回転をかけることにした。

 それも全て同回転ではつまらないため、一つずつ順番に左右交互の回転にしていき、加えて円の軌跡が五周するたびに全ての回転を入れ替えるという操作も加えた。

 

 するとどうだろう。

 さすがの俺もかなりの集中力を裂かなければ、球状を維持できず、球の維持に意識を傾けると今度は回転がそぞろになってしまう。

 

 くっ……我ながら何て難易度の訓練を思いつくんだ。

 我ながらこの訓練方法は素晴らしいと思う。

 なんて自分を褒めながら、俺は手の上の魔法球に全集中力を向けた。

 

 

 しばらくするとようやく両方に意識を向けられるようになってきた。

 それに乗じて余裕も戻り、周囲の音が聞こえるようになる。

 

 すると何やら教師が俺を見ながら他の生徒に向かって話している様だった。

 

「これを目指せとは言わないが、……そうだな。両手に四属性魔法すべてを綺麗に発現させられるようになれば今期の課題を達成したと言っても過言ではないだろう」

 

 そう言われて俺はようやく、他の生徒が魔法の発動を止めて俺を見学していることに気が付いた。

 

「……」

 

 さすがの俺もこの状況を気まずく思わないほど、人間を止めてはいない。

 そろそろかな、と言うタイミングですべての魔法を天井へ向けて打ち上げ、花火のように破裂させた。

 

「「おおおぉ」」

 

 すると、他の生徒たちから歓声と拍手が上がる。

 なぜかサラとエンペンが誇らしげにしていたが、エンペンのことは見なかったことにしよう。

 

「さて、ファレス・アゼクオン。君は少しついて来なさい」

 

「……はい」

 

 そんなことをしていたせいだろうか? 俺は一人、呼び出しを食らってしまった。

 

 教師の後をついて訓練室を出ると、普段より少しフレンドリーな声音で教師が話しかけて来た。

 

「息子から君のことは聞いていたんだが、ああして実際に見せられると壮観だね。まさか本当に全属性を使いこなせるとは……」

 

「息子? 失礼ながら、誰かの御尊父なのでしょうか?」

 

 息子と言う言葉からまさか俺の知らない貴族の親なのかと考え、思わず必要以上に丁寧な言葉遣いになってしまう。

 

「ああ、いや、違うよ。いや、違わないんだけれども……ファレス君の思っているような立場の人間ではない。私、メホロスの息子はグレイグと言ってね。この国では近衛騎士隊の隊長をさせてもらっている」

 

 ……!?

 グレイグの父親だと!?

 原作ではモブ顔教師Aだったこの人が?

 

「そうでしたか……ああ、そう言えば魔法披露宴でグレイグ殿は司会を務めてくださっていましたね」

 

「ああ、そうなんだよ。にわかには信じられない話だったけれど、噂はすごいし、今日実際にああして見せつけられたらもう疑いようがないね」

 

 俺がグレイグのことを覚えていたせいだろうか、少し嬉しそうに声音を弾ませて教師はそう言った。

 

「ありがとうございます」

 

 日本人ならばここでご子息には及びません、なんて謙遜したくなるところだが、もう俺にはそんな衝動も湧き上がらない。

 

「そう言えば、特別メニューの件なのですが……」

 

 俺がそう言いかけた所で教師、グレイグの父メホロスは足を止めた。

 そこは俺たち一年が使う訓練室よりもさらに規模が広くなった訓練室。

 

「ああ、ファレス君には今日から魔法実技の訓練授業ではここの子たちと一緒に受けてもらう」

 

 そう言いながらメホロスは扉に掛けた手を押す。

 

「悪いね邪魔するよ」

 

「「「メホロス先生っ!?」」」

 

 すると中から驚くような声が響き、数人の生徒が駆け寄って来た。

 

「突然悪いね。ホーミカ先生も授業を中断してしまってすまない」

 

「いえ、問題ありませんが、何かありましたでしょうか?」

 

 メホロスはそんな生徒たちを手で制しながら、この学年の授業を担当していたのであろうホーミカと言う若い女性の教師に声を掛けた。

 

「いや、そう言えば君が生徒たちの訓練相手になってくれる先生を探していたと思ってね」

 

「もしかして……メホロス先生が? いや、先生は今年の一年生の担当でしたよね?」

 

「ああ、その通り。だから私ではないよ」

 

 メホロスがそう言うと露骨に生徒たちのテンションが下がった。

 ……だが。

 

「その代わり、すべてにおいて私を上回る強者を連れて来た」

 

 そう言うと、背後に立っていた俺を前に立たせる。

 

「皆も知っているだろう? 彼は今この学園で最も実力のある男、ファレス・アゼクオンさ。ファレス君が皆の訓練相手になるよ」

 

 ……ほう?

 なるほどなるほど。

 確かに今の俺が苦労するような難易度の訓練を課そうとすると、この学園で実演できる者がいないレベルのことをする必要がある。

 それは当然学園としては意味がない。

 自己学習と何ら変わらなくなってしまうからだ。

 

 と、なれば、俺を教師役に据えてしまおうと言うことか。

 ……考えられているようで、どうなのだろう?

 まあ、実戦的な訓練の方が好きなので嬉しいことは嬉しいが。

 

 そんなことを考えながら目の前の生徒たちをざっと見渡す。

 ……見た感じこの学年は学園の三年だろうか?

 リカルド兄上やエルシアさんが居れば一発で分かったのだが、兄上は謹慎中、エルシアさんはまだ療養中という訳で確信には至らない。

 

「メホロス先生、それは流石に……」

 

「いやいや、大丈夫だホーミカ先生。それに、もしものことがあっても君がいれば大丈夫だろう?」

 

「それは……そうかもしれませんが……」

 

 歯切れの悪い返事でメホロスの提案を渋々承諾をするホーミカ。

 ……もしものことがあっても大丈夫とは一体どういうことなのだろうか?

 まあ、俺に限ってもしもなどあり得ないのだが。

 

「さ、ファレス君。簡単に自己紹介を頼むよ」

 

 そう言うとメホロスは俺の背中を軽くたたいた。

 

「ファレス・アゼクオンです。正直、俺自身いまいち状況を飲み込み切れてはいませんが、訓練相手を務めさせていただきます。よろしくお願いします」

 

 固くなりすぎない程度に軽めの挨拶をする。

 そんな俺の挨拶には大なり小なり様々な反応が返って来たのだが、一人だけ明確に、違った意志を持った目でこちらを見つめている人物がいた。

 

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