The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第九話 剣術指南〈前編〉

 朝、珍しくサラが寝坊をしてきた。

 

「すっ、すみませんっ!!」

 

「いや、気にしなくていいが……珍しいな?」

 

「面目次第もありません……」

 

 そう言って萎れるサラからは謝意よりも自分が寝坊したことへのショックの方が大きいように感じられた。

 

「何かあったか?」

 

 昨晩も突然部屋を出て行ったきり戻ってこなかったし、それに続いての寝坊。

 さすがに何かあったと考える方が正道だろう。

 

「い、いえ、その……」

 

 俺の質問を聞いた途端、もじもじとし出すサラ。

 

 ……ファレスルートのこの時期にサラ関連のイベントは何かあっただろうか?

 

 ………………

 ………………

 ………………

 

 いや、待て。昨日も思い知ったじゃないか。

 ここはゲームじゃない。

 ゲームが舞台の現実なんだ。

 

 そう思った俺は思考に耽る前にサラに一歩踏み込む。

 

「悩みなら聞くぞ?」

 

「……!!」

 

 俺の言葉に驚き目を見開くサラ。

 さすがにクサいセリフだったか? それとも急にキャラが変わりすぎか?

 

 この世界に来て以降、なるべくファレスと同じになる様にファレスロールプレイをしていた。

 おそらく誰からも特段に言及されていたりもしないため、これ自体はうまくいっていたと思うが、俺がファレスではなく、ゲーム内描写以上のファレスを知らない以上必ず差異は現れる。

 

 どこかでキャラを変えるのは今後のために必須だ。

 ただ、急すぎてもおかしくなったと思われかねない。

 

 ここがなかなか難しいところ。

 

 そんなとりとめのない思考が逡巡して来たころ、サラが口を開いた。

 

「その……あと四年ほどお待ちいただけますか?」

 

 ???

 突然何の話だろう?

 

「あ、ああ。……四年というと俺たちは十六の年か」

 

 よくわからないままに俺は返事をする。

 するとパッと顔を輝かせたサラが勢い良く返事をした。

 

「はいっ!」

 

 ? よくわからないが、俺の反応は正解だったのだろう。

 まあ、サラの調子が戻ったのならなんでもいいか。

 

「よし、では今日も訓練場に行くぞ。今日からはあの剣聖が指導をつけてくれるはずだ」

 

「はいっ!」

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ、ファレス様が侍従も一緒にというのですから何かあるとは思っていましたが……」

 

 今日の訓練は初日ということもあり、実力を測るために再びサラと打ち合いを行った。

 そして結果は――

 

「まだまだ、剣を握って日の浅いファレス様に後れを取るわけにはいきません!」

 

 そう言ってエッヘンと胸を張るサラ。

 

 惜敗だった、と思う。

 前回よりもいい試合になっていたと思うが、やはりエバンス家で幼少の頃より修練を積んでいるサラにはまだ届かなかった。

 

「サラ様でよろしいですかな? その剣術、確か……」

「レッ、レド様! ち、違いますよ! 私はただのメイドですから!」

 

 サラの剣術からエバンス家出身であろうことを見抜いたレドと、それをばらされるわけにはいかないサラの一瞬の攻防。

 

「……なるほど。お二人の実力は分かりました。サラ様は変に手を加えず、その剣術を伸ばしましょう。ファレス様は……次は私と打ち合いを」

 

 折れたのはレドの方だった。

 まあ、これは折れたというより察して汲み取ったという方が近いであろう。

 

「はいっ」

「いいだろう」

 

 俺たちはそれぞれレドの提案を受け、サラは一人で型を確認し始めた。

 

「では、ファレス様。打ち合いを始める前に一つお聞きしてもよろしいですか?」

 

「なんだ?」

 

 間合いを取って構えに入ったところでレドが話しかけてくる。

 

「ファレス様が剣を初めて握られたのはいつ頃ですか?」

 

「一昨日だ」

 

「そうですかそうですか……一昨日? 一昨年ではなく?」

 

 納得納得と頷いていたレドがその言葉にまるで異常があるかのようにそう聞き返す。

 

「ああ、先日ふとやる気になってな」

 

「なるほど……。これは想像以上いや、もしかすると……」

 

 俺の答えを改めて受けたレドはその紳士然とした出で立ちからはとても想像できない悪い表情でぶつぶつと何かを呟く。

 

「……おい剣聖レド、もういいか?」

 

 さすがに不気味すぎて気持ち悪かったので、俺から催促をする。

 原作ファレスならブチ切れて剣を投げたりしているかもしれない。

 

「おっと、これは失礼。では、始めますか。死ぬ気で受けられますようにっ!」

 

 敬語の中に狂気を孕んだような言葉と共に急に剣を振るう。

 

「――っ!」

 

 ただ無造作に振るわれるだけの距離も何もない空振りの一閃。

 なのに、その斬撃は確かに俺の首を落とそうと走って来た。

 

「ふむ、反応は上々のようですねっ!」

 

 感覚頼りに何とか剣を受け止める。

 だが、角度までは正確に推し量れず、不安定な姿勢で受けたため、俺は大きく体勢を崩した。

 

「ぐっ……」

 

 体勢を立て直すために一瞬レドから目線を切る。

 だが、その一瞬がこの戦いでは致命的だった。

 

「なっ!? どこだっ!?」

 

「視線を切るのは悪手でしたね」

 

 瞬き程度のほんの一瞬、その刹那の時間に剣聖は俺の背後を取り、声を聞くまでこちらに所在を把握させなかった。

 スッと音もなく首筋に剣が伸ばされる。

 

「チッ……降参だ」

 

 俺は剣を捨てて手を上げる。

 不意を突かれたとはいえ、攻撃どころか防御すらまともにさせてもらえないとは……。

 それに、あの一瞬のうちに俺の背後を取る何らかの技術。

 前世で縮地と呼ばれるあれだろうか? これに関しては何の気配も感じられなかった。

 

 昨日も思ったが、あらためて思い知る。

 これが剣聖か、と。

 

「さて、ファレス様」

 

 圧倒的な実力差を見せつけられて悔しい表情を浮かべる俺に、口元に笑みを携えたレドが向かい合う。

 

「なんだ?」

 

「先ほど、私が何をしたかお分かりになりますかな?」

 

 表面上は紳士然として振る舞っているが、その心中からは弟子を煽りたい師匠とでも言うような感情が透けて見えている。

 はっきりと言ってしまえば……うざい。

 初めて見たときは、おお! これがあの剣聖レドか! なんて思っていたのに蓋を開けてみればこれだ。

 

『マーチス・クロニクル』でがっつり描写されるシーンがあれば、百パーセント残念剣聖と呼ばれていたことだろうに……。

 

「……分かれば対処している」

 

「ほほっ、それもそうですね」

 

 いちいち癇に障る話し方だが、何かを教えてくれるようなので黙って続きを促す。

 

「先ほどの一太刀。まあ、実際には二度、剣を振るっているわけですが、何を切ったと思いますか?」

 

 ヒントを出したうえで改めて俺にそう聞いてくる。

 今度は先ほどまでとは違い、しっかりとした指導者の顔をしている。

 

「二度振った、と言ったな?」

 

「はい」

 

 先の試合でレドが剣を振った瞬間、それは不意打ち気味に振るわれた首を狙った一撃のことだろう。

 だが、あの瞬間にレドは剣をもう一度振ったと言っている。

 そして、質問は「何を切ったと思うか」だ。

 

 もう一度よく思い出そう。

 

 どうやっても剣の間合いではない距離から放たれた見えない斬撃。

 辛うじて気配を察して受け止めるも角度が悪く体勢を崩す。

 体勢を立て直すためにレドから視線を切った瞬間俺の背後に……。

 

 流れとしてはこうだったはず……。

 

「瞬間移動……? まさか空間を?」

 

「ふむ、悪くない分析ですが不正解ですね」

 

 真面目腐った顔で採点をするレド。

 まあ、そりゃあそうだよな。

 空間なんて斬れてたまるか! そんなことができるならこの世界で剣が不遇なのはおかしいだろう。

 

「私が斬ったのは時間です」

 

「ほう……」

 

 ん?

 今こいつなんて言った? 時間? 時間と言ったのか?

 

「時間?」

 

「はい」

 

「斬ったのか?」

 

「はい」

 

 ……いや、いやいやいや。

 はい、じゃないが?

 何だよ時間を斬るって!

 魔法より魔法してんじゃねぇかっ!?

 

 しかもそんな必殺の太刀を剣初心者に振るうって……これは師匠選定をミスったかもしれない。

 ついゲーマー視点で伝説のキャラが出て来たから勢いのままに師匠にしてしまったが……これはあれだ。

 偉人の歴史を紐解いてみたら意外な悪癖が顔を見せ印象が変わってしまうやつ……。

 

 懐かしい感傷に頭を抱えているとパタパタとサラが駆け寄ってくる。

 

「レド様! 今の太刀は私たちにも振るえるようになるのですか?」

 

 サラさん? そんなわけがないでしょう?

 だってこの人剣聖だよ? しかも史上で剣聖歴が最も長い化け物だよ?

 

 剣には一定のプライドの有るサラがそう言いながら剣聖ににじり寄っていくのを少し冷めた目で見ているとさらに恐ろしい驚きが追ってやってきた。

 

「いえ、サラ様には難しいかもしれません」

 

「そうですか……」

 

 そりゃそうだよ。あんな剣術早々に覚えられてたまるかって……ん? サラには、難しい?

 

 妙な響きの言葉にレドの方へ顔を向けるとバッチリと目が合ってしまった。

 

「まだ何の癖もないファレス様ならば、きっと即座に習得されることでしょう」

 

 んんん?

 

「さっ、さすがファレス様です!」

 

 パチパチと拍手を向けてくるサラを傍目に、俺はレドを師匠に選んでしまったことを酷く後悔した。

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