The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第九十九話 ネクシア聖教国の聖者①

「まさか聖者などと……大言壮語も甚だしい」

 

 一人、学園を後にしながらトールスは悪態をついていた。

 

「まあ、まあ、良いでしょう。ベリル・グラーツィアによる殺人事件は間違いなく起きた。これで、グラーツィア家に不信を表明するには十分な証拠が揃いましたね」

 

 それに……実際に対面してみてよく理解した。

 ファレス・アゼクオン、ルーカスの報告以上の男のようだ。

 

 アゼクオンはこの先、我らグランダルが帝位を取った後で厄介な相手になるかもしれない。

 とりあえず、メーディアの件と併せてルーカスに情報収集でもさせておこう。

 あの死体だけは何としても早く処分しなくてはならないからね。

 

 王都の闇に影が溶ける。

 こうしてファレスとトールスの初めての対面は幕を閉じた。

 

 ◇◇◇

 

「クイン、ホーミカ先生の容体は?」

 

 俺はトールスの去った訓練室で状況確認をしていた。

 

「一命は取り留めましたが、私の手持ちの回復薬ではこれ以上の治療は難しいかと。聖魔法の使い手がいらっしゃれば、状況は変わりますが……」

 

「そうか」

 

 駆け寄ったクインの元では、適切な応急処置と回復薬による治療が施され、傷はともかく顔色は大分安定したホーミカ先生の姿があった。

 

 この世界において一つゲームらしくない点を挙げるとすればそれは回復魔法の存在だ。

 回復魔法は今や大半のRPGに存在して当然の物だろう。

 しかし、この世界の回復魔法は聖魔法と呼ばれる無属性魔法に一まとまりにされており、非常に珍しい存在になっている。

 

 しかも聖魔法の使い手は、この大陸に存在するグラーツィア帝国に所属しない数少ない生き残りであるネクシア聖教国が独占している。

 普通ならば一強状態のグラーツィア帝国に対し、このような強気の態度に踏み切るのは自殺行為に他ならない。

 しかし、ネクシア聖教国はグラーツィア帝国が成立するより前から聖魔法の独占をしており、グラーツィア帝国の建国にあたり、グラーツィア帝国で生まれた聖魔法の使い手を聖教国で神官にする代わりにグラーツィア帝国の教会に高位の聖魔法使いを常駐させる契約を結んでいるのだ。

 

 ……これだけならば侵略してしまえば良いと思うのだが、何故か帝国が侵略に踏み切ったことは建国から一度もない。

 

 何か皇家の重大な秘密でも握られているのか、それともまた別の理由があるのか。

 

 そこは分からないが、とにかく回復魔法の使い手はグラーツィア帝国では、とにかく連れてくるのが難しい。

 それに聖者と呼ばれる最上位クラスの聖魔法の使い手となると教会に派遣されている神官でもそのレベルに達しているかどうかは定かではない。

 

「ファレス様! 保険医の先生をお連れしましたわ」

 

 と、俺が考え込んでいるとセレスティアが保険医を連れて戻って来た。

 

「ああ、助かる。先生すぐにホーミカ先生の容体の確認を」

 

 俺の指示にすぐに頷くとホーミカ先生の容体の確認を始める保険医。

 これ以上ここに居ても出来ることはないな……。

 

「さあ、授業の時間はもうすぐ終わる。皆、くれぐれも余計な噂はしないように」

 

 俺は今一度全員にそう言い含めると、戻って来たメホロス先生に状況の処理を引き継いで教室に戻った。

 

 ◇◇◇

 

 激動の日、帰りの馬車。

 ここ最近は毎日カーヴァリア家の別邸を訪れるため、俺の馬車が狭く感じるほど詰めて乗っていたが、今日はサラと二人だけだ。

 

「ファレス様、先ほどの件で一つご報告が」

 

 いつの間にか当たり前のように隣に座るようになったサラがそう言うと、どこからともなく厳重にハンカチで包まれた何かを取り出した。

 

「それは?」

 

「先ほどのメーディアなる女学生の胸ポケットに入っていたものを拝借してまいりました」

 

「……持ってきたと言うことは相応の内容が記されていたか」

 

 一瞬、何してんの!? と突っ込みかけたが、この真面目な雰囲気は理由があるのだろうと思い直す。

 

「はい。ちょうど貫かれた位置の反対側でしたので、若干血液の付着がありますが内容は問題なく確認できます」

 

 そう言ってサラがめくったページには、恐らくメーディアさんが定期的につけていたのであろう日記のようなものがびっしりと書き記されている。

 

「……これは」

 

 流し読みでざっと内容を確認していくが、そこに記される内容はほぼ全て殿下やトールス、姉のアナレさんのことばかり。

 そして、確認できる限りの最後のページにはこう書かれていた。

 

『あの怪しい男から受け取った小箱を結局渡してしまった。あんな気味の悪い物を……申し訳ございません殿下。この罪はいかようにも償います。だから、だからどうかお許しください』

 

 日付を確認すると先週となっている。

 先週……小箱……まさか、あの時のあれか!?

 

 俺はこの日記に出て来た小箱の存在に思い当たる節があった。

 恐らくこれは先週の魔法実技の授業前、俺の元へ駆け寄って来たベリル殿下にメーディアさんが手渡していたものだ。

 

「チッ」

 

 思わず舌打ちをしてしまう。

 

「ファレス様?」

 

 サラが不安そうな顔でこちらを向いた。

 

「いや……どうやらメーディアは俺に窮地のサインを送っていたようだ」

 

 そうだ。

 わざわざメーディアさんがあの日のあの時間にあんなものを渡す必要性は皆無。

 同じ教室に毎日通っているのだ。

 あの場で渡せるようなものだとしても、それ以外の時間に渡しておく方が贈り物として特別感が出るだろう。

 

 だと言うのに、わざわざ授業前の時間に渡したというメーディアさんの行動の意図を読み解けば、これを渡したと言うことを誰かに伝えたかったのではないか? と言う風に解釈できる。

 つまり、メーディアさんはあの場で小箱を出して見せることで、間接的にその存在を俺に確認させ、良くない物ならば止めてもらおうとしていた、のかもしれない。

 

 ……クソっ! 俺は確かにメーディアさんに違和感を覚えていたと言うのに。

 クゾームの魔力の方に注意が行き過ぎて、この程度のSOSサインを見逃していたとは……。

 

 考え過ぎの可能性はもちろんある。

 だが、それ以上に今回の件を未然に防げた可能性があったと思うと、悔しさが込み上げた。

 

 握る拳に力が入り、爪が手のひらに食い込み血が滲む。

 

 しかし――

 

「ファレス様、ご自分のお体を傷つける行為はお止めください。必要ならば私をお使いください」

 

 俺の拳を優しく解きながら、サラが言った。

 

「そんなことするはずがないだろうっ!」

 

 無論、触れることはあっても痛めつけるなどもってのほかだ。

 俺は間髪入れずにそう言い返す。

 だが、その答えが来ることをまるで予期していたかのように、サラは告げる。

 

「はい。ですが、私にとってはその方がマシに思えるほど辛いことなのです。ですから、何卒」

 

 解かれた両の手にサラの指が絡められる。

 

「……それに、せっかくの二人きりですのに、他の方のことばかりを考えられては妬いてしまいます」

 

 俺の膝に跨り、上目遣いで瞳を潤ませるサラ。

 ……サラが日記を渡して来たからだと言うのに。

 

「……ああ、そうだな。悪かった」

 

「いえ、私こそ……」

 

 今日の帰り道は少しだけ道が悪かった。

 

 ◇◇◇

 

「やぁルーカス、待っていたよ」

 

「お待たせいたしましたトールス様。して、今日の御用件は?」

 

 もはや日常と化したトールスとルーカスの密会も今日のように呼ばれて始まるというのは中々に珍しい。

 

「もう、噂は聞いたかな?」

 

「ええ、遂に行動に移されたようですね。実際は実戦演習で無差別に襲わせる予定だったのでは?」

 

「ああ、そうだね。想像以上にベリル・グラーツィアがアレの使用に踏み切るのが早くてね。僕の計画では実戦演習直前にアレを使ってもらうはずだったんだけど、何か心境の変化でもあったのかもしれないね」

 

 そう言いながら軽く笑って見せるとトールスは続けて言う。

 

「まあ、なんにせよ、グラーツィアの次期皇帝による殺人事件は起こった。今回の目的は達成さ」

 

「確かに達成と言えるかもしれませんが……」

 

 確かに達成と言えば達成かもしれないが、今回の計画はメーディアの死体処理までが計画の内だったはず。

 ルーカスはそう思って確認しようとするが、トールスは鋭い視線でその先を言わせなかった。

 

「……ああ、分かっている。分かっているとも。だから君に次の任務を任せたい」

 

「……なんでしょう?」

 

「もちろんそれは今、氷の棺に閉じ込められているメーディアの死体を消し去ることさ」

 

「……トールス様、いくらなんでもそれは……」

 

「ああ、難題を課している自覚はあるさ。でも、これは絶対に必要なことなんだ。大丈夫、僕は明日にでもグランダルやフルタスを始めとするいくつかの貴族家と合同でグラーツィア家に対する不信を表明する。確実に王都は揺れるし、少なからず学園にも影響が出るだろう。ルーカスにはその隙にこの魔道具を使ってあの氷の棺を溶かして、出来ることならメーディアの死体を持ち帰ってほしいんだ」

 

 話しながら渡されたそれは紅玉があしらわれた派手な指輪だった。

 

「これは?」

 

「それは我が魔道具研究機関で確認されている限り、最高の火力を持つ火属性魔法を内包した指輪だ。その指輪を使えばいくらあの分厚い氷だろうと十分もせずに溶かすことが出来るだろう」

 

「……分かりました」

 

「ああ、任せたよ」

 

(……処理を焦っているところを見ると、計画通りに行かなかったことが相当効いているのだろう。そろそろ切ってやりたいところだが、もしこれで本当に帝位がすげ変わるようなことがあると困るからな。まだ、もうしばらく使われてやるか)

 

 受け取った指輪をすぐには嵌めず、トールスに一礼してルーカスは部屋を後にする。

 その表情は見定める段階から、損切りの段階へと移行したような不穏さがあった。

 

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