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青春系
黄金裔の青年と死影の侍女
──その少女は産まれながら「死」に愛されている。
白と紫が混じった様な髪に、白磁の肌。
長い耳に、全てを達観したような──諦めたような瞳。
少女は触れただけで、生命を死へと誘う。
だからこそ、処刑人の様な使命を与えられた。
昔は人々と触れ合い、踊ったり、お喋りをしたり、普通に暮らす事にも憧れはしたが──……。
だけれど。そんな彼女の元に変わり者の黄金裔が一人。
深い夜のような髪をした青年──マルスは彼の娘の元に突然やって来た。
少女──「キャストリス」はマルスに驚いた。
彼はキャストリスが放つ死の気配を気にせずにズカズカと彼女の領域に踏み込んでくるのだから。
少女はマルスを警戒するが、彼は笑いながらこういった。
「そんなに怖い顔しなくていいんじゃないか? 俺は別にお前を利用したり、危害をくわえようなんて思ってないさ」
キャストリスはその言葉に思わず口を開こうとするが、マルスが先手を打つ。
「俺は面白い事を求めて旅をしてる。
で、ついでにスカウト的な事をしてる。
待っている事が苦痛に思えるから、特別にうちの組織の偉い奴に許されてる。
……まあ、某守銭奴猫も似た様なもんだけど。
だからお前をスカウトしに来たんだ」
マルスの言葉にキャストリスは訳が分からなくなる。
その頭にクエスチョンマークを浮かべている様に見えた。
「要は面白ければなんでもいいんだよ。
で、どうする? このまま一人で踊り続けるか。
もしくは、お前と似たような境遇のやつらと一緒に踊るか?」
キャストリスはマルスの言葉に暫く考え込む。
マルスはキャストリスの答えが出るまで、ただじっと待ち続けた。
「ですが──私が触れたら、皆が死んでしまいます」
「へ?
……ああ、そういう体質なんだな。
いや別に大丈夫だろ。
触んないように気をつければみんなと同じだろ?
みんな、お前を普通に扱ってくれるはずだ」
キャストリスは目を見開いた。彼女は今まで誰にもそんなことを言われたことはなかったからだ。
「井戸の中の蛙、大海を知らず──。ってやつ知らないか?
この世界は広いんだからさ、約束してやる。
そう言ってマルスはキャストリスに向かってニッと笑って言ったのだ。
キャストリスはそれに対して少しだけ口を開きかけたが、閉じてコクリと頷いた。
「じゃあ、行くか!」
マルスはそういうと歩き出した。
それを見てキャストリスは少し躊躇うも、その後ろ姿を追いかけたのである──。
※※※
それから数年。
「おしっ、今日こそ……!
触れるぞ! 今日はアナイクスが作った手袋がある!
なんかよく分かんないけどこれなら触れても平気らしいぜ!」
キャストリスはマルスの言葉に少し苦笑いを浮かべた。
確かにマルスが連れて行ってくれた所で出会った仲間たちのお陰で自分は変わったと思う。
そして何より──彼女の心を変えたのは間違いなくこの目の前にいるマルスだった。
今では彼の事は信頼しているし尊敬してもいる。
だが──同時に少し困ったところもあるのだ。
この男はかなり無茶をするタイプなのである。
「気合いでモーディスは死なないようにしてんだし、俺もなんとかなるだろ!
そして、将来的にはみんながお前に触れることが出来るようになれば……!
見てろよ、キャス!
で、いざとなれば頼むぜ、ヒアンシー!」
「……マルたん、またキャスたんを困らせてるんですか?
キャスたんが優しいからって甘えたらダメですよ。」
「ぐっ……。それは重々承知だ。
……でもなぁ……俺はただキャスと握手したかっただけなのに……まさかこんなことになるとは……」
しょぼくれるマルスの背中を見てヒアンシーはため息をつく。
「まあでも気持ちは分かります。
でも、マルたんは『死んでから肉体が戻り、再生する能力』じゃないです
か。
わたしが回復できるとはいえ限界がありますよ?
あなたが死ぬ度に私が回復したら流石に疲れちゃいます……」
そう言うとマルスはバツが悪そうな顔をした。
「ぐ……」
キャストリスは二人のやり取りを微笑ましく思いながら眺めていた。
最初はただ、戸惑いしか無かったが──ここにいるうちにいつしかそれが「もっとみんなと仲良くなりたい」という感情になっていたことに気が付いた時には驚きであった。
──あの時。
キャストリスはマルスが差し伸べた手に自分の手を合わせてみたいと思った。
しかし、結局はまだその願いは叶っていない。
──でも今は、それでも良いと思っている。
確かに体質は直ってはいないが、誰かの近くで色々教えて貰ったり、誰かの近くで会話をしながら食事をしたりする事ができるようになった。
昔より気を張って過ごさなくて良くなった事は、彼女にとっては十分すぎるほどの変化であった。
それに──。
──でもまさか……。
マルスの考える方法の大半が「
だが、キャストリスはこの時間がとても好きだった。
マルスが自分のために頑張ってくれる姿を見るのは嬉しいものだ。最初はマルスのことを警戒していたものの──。
いつの間にかキャストリスにとって彼の存在は大きくなっていったのである。
「……」
キャストリスが手を差し出すと、マルスは恐る恐るといった風に指先をキャストリスの方へ近づけてきた。
「おぉ……。今回は耐久時間長い……!
行ける! このままいくぞ!!」
そんなマルスの反応にキャストリスはクスリと笑った。
その顔を見てマルスはムッとして唇を尖らせた後、すぐに表情を変えて再び手を伸ばす。
「もうちょい力入れてもいいか? 握れた方が……」
だが、続きを言う前に、気づけば床にマルスが倒れていた。
今回もキャストリスの力の方が強かったらしい。
それを確認するとヒアンシーは仕方なさそうに手を構え始める。
「マルたーん。起きてくださーい」
「いてて……。
また駄目だったか。
でも、やっぱりグロい死に方じゃなくて良かった!
次こそ……!」
そう言って起き上がるとマルスは再び立ち上がって手を握ろうとした。
「マルスさん! 無理はなされないでください。私は大丈夫ですから」
が──さすがのキャストリスは慌てて止めに入った。
この力は何回もすぐにできる訳ではない。この間にトドメを刺されたらマルスは死ぬ。
かなり無防備な状態なのだ。
マルスは少し不満げな顔を見せつつも渋々納得してくれたようだッた。
マルスは本当に頑張ってくれている。
キャストリスが彼と出会った時は、何もかもが嫌になって全てを投げ出そうと思えるくらいの時期だった。
だけど今は違う。
彼のおかげでこの暮らしが幸せだと思えるようになったのだから。
「……」
ヒアンシーの「回復」の光を受けながら、巻き戻るように顔色が良くなっていくマルスをキャストリスは静かに見つめていた。
彼女は何も言わずにただ黙って見守る。
彼との関係は良好だと思う。
ただ一つ問題があるとすれば──。
キャストリスがマルスに恋心を抱いているということだ。
それは友愛ではなく異性として好きだということ。
その気持ちを自覚するのにそう長くはかからなかった。
ただ、自覚したところで何ができるわけでもなかったので放置することにした。
だがしかし──一度意識してしまうともう駄目だった。
どんどん深みにはまっていくばかりである。
キャストリスはマルスを見るたび胸の奥が疼くような感覚を感じていた。
それが一体どういう感情なのか理解できず戸惑うこともあったのだが……小説を読み漁っていた事がある彼女にはこれはきっと恋というものだろうという結論に至った。
だからといって伝えるつもりはない。
迷惑になるかもしれないし彼には他に好きな人がいるかもしれないし──とにかく伝えられない理由があった。
──それに。
(仮に私が告白したら、マルスさんは困るのではないでしょうか? 私のせいで苦しんでいるのに。ならば今の状況を維持するのが最善)
(そう思っているはずなのに──やはり寂しさを感じてしまうのです)
キャストリスはそっと手を胸元に当てた。
そこにある感情を確かめるように。
そして小さく息を吐いた。
たまに見かける人々は楽しそうに手を取り合ったり、悪ふざけをしながら肩を組んだりしている……。
それに、恋人になれば触れ合うのは当然。
そういった面を考えても、もし仮に、仮に……マルスと恋仲になっても、互いに満足出来ず、別れるのは当然じゃないか、と思う気持ちはどんどん募っていく一方だ──。
だがそれを抑え込まなければいけないとも思う自分がいるのも確かだった。
キャストリスは相反する二つの想いに苦しめられながら日々を過ごしていた。
「キャス、どうかしたのか?」
キャストリスの思考はそこで遮断された。
どうやら考え込みすぎていたようで心配そうな顔をしているマルスが目に映った。
彼はいつもこうだ。困っている人は見逃せない性分なのだろう。
前も迷子の小さな子供と遊びながら母親を探していた姿を見た。
キャストリスは安心させる為に微笑みを作った。
「なんでもありません。マルスさんこそ……大丈夫ですか?」
キャストリスが問いかけるとマルスは目を丸くした後、ニッと笑った。
「俺は大丈夫だ。
……それにしてもキャスはいつも遠慮しがちだな。
もっとわがまま言っていいんだぞ?
ヒアンシーなんか前に限定スイーツをパシらせて来たからな」
「あれはマルたんがわたしのお菓子を盗み食いしたのが悪いんですよ!
せっかく買ってきたのに食べたじゃないですか!」
「でも並んだ時2つ買わせてきただろ。
お金倍になったじゃねーか!?
よくわかんね〜けど、利息ってやつか!?」
「それは違います~!
2つ目は味が違ったでしょう?
新商品が出てたからついでに買ってきて貰っただけです!
それを勝手に食べるのが悪いんですよ!」
ヒアンシーはぷくぅっと頬を膨らませる。
マルスは言い返せなくなって悔しげに押し黙ってしまった。
キャストリスはそんな二人を見てクスクスと笑ってしまう。
ヒアンシーとマルスは幼なじみらしく、仲が良い。
それこそ兄妹のように見えるほど。本人達は否定するけど。
そんな二人のやりとりを見るのがキャストリスは好きだった。
勿論嫉妬しない訳ではない。
キャストリス自身、そんな関係になりたいと強く思ってしまっている。
マルスが自分の為に命を張って触れてこようとする度にドキドキしてしまう。
毒のように、キャストリスは自身の身体を巡る恋心に──ずっと悩まされていた。
──だってきっと。
彼は自分のことを大切に思ってくれている。
仲間として、だけれど。大切に思ってくれている。
だからこそ命をかけてまで接触しようとしてくれるんだろう──。
分かってる。理解しているのだ。
でもそれ以上を求めてしまっている自分がいる事も否めない。
本当はもっと触れて欲しいと思っている自分がいる。
でもそんなことをしてもらったら迷惑になってしまうのではないか?
だから自分からは言えない。
「……ありがとうごさいます。マルスさんが頑張ってくれる、それだけで嬉しいです」
結局口に出せたのは感謝の言葉のみ。
しかしそれでも嬉しかった。だからこそ余計に悲しかった。
私なんかに構っている場合じゃないはずなのに。私よりも大事なこと沢山あるはずなのに。
「……はぁ。いいか、キャス。
俺の自己満足でもあるんだ。だからキャスは気にせ……」
マルスはそう言ってキャストリスの頭にポンっと手を置いた。
そしてまた脱力していく。
キャストリスは慌てて距離を取ったが遅かったようだ。
床に倒れたまま動かない彼を呆然と見下ろすことしかできない。
「マルた〜ん!?!
……全くマルたんは懲りませんね!?
そうなるのは当然でしょう!?
キャスたんのために、まず自分を大事にして下さい!」
そんなキャストリスを横目にヒアンシーはため息交じりに呟きながら回復魔法を使っていた。
淡い光が彼女を包み込み傷を癒していくのがわかる。
「──すみません……私のせいですよね?」
キャストリスは俯き加減のまま謝罪した。
彼女の性格上どうしても落ち込んでしまうのだ。
それを察したのだろう、ヒアンシーがキャストリスに優しく声をかけてくる。
「キャスたんは何も悪くないですよ。
マルたんが悪いんです」
「そうだそうだ!!ヒアンシーの言う通りだ!!俺が悪い!」
「マルたん。回復した途端に調子に乗らないで下さい。
そもそもあなたが原因でこうなっているんですからね?
キャスたんに罪悪感を植え付けないでください!」
ヒアンシーはプリプリ怒った後に「それにしても、なんでそんな危険を冒してまで触れたいと思ったんですか?」と聞いた。
確かにそうなのかもしれない。
マルスにとって危険なのだ。触れるという行為自体が。
マルスはいくら死ぬ前までに体が巻き戻るとしても痛みがないわけでは無い。
風邪だって引く。病気になることもある。
「は? キャスには
他の奴らがキャスに触れるようになれば自信がつくかなって思った。それで仲良くなるきっかけが増えれば嬉しいし。
実際ほら、仲良くなれてるだろ。
後は──…………ほら、俺の自己満足! 悪いか!?」
ヒアンシーはジト目でマルスを見た後、「はぁ〜」と大きな溜息を吐いた。そしてキャストリスの方を見て申し訳なさそうに眉を下げた。
「ほんっと馬鹿ですねぇ……。
……ねぇ? キャスたん」
「……はい……」
キャストリスは苦笑いを浮かべながら同意した。
しかし内心は穏やかではなかった。
彼の本音を聞けて正直ホッとした部分はあるのだが逆に不安になってしまう部分も多々あり、複雑だった。
彼の行動原理は不明瞭で不可解なものが多い。
どこか掴みどころのない印象を受けた。
この人に振り回されるのは正直言って心臓に悪い。
毎回ドギマギさせられて翻弄されっぱなしだ。
しかも本人には全く自覚がないようだし、尚更タチが悪いと言えるだろう。
キャストリスはどう対処すべきか思案するも解決策など思い浮かぶはずもなく、今日も途方に暮れたのだった。
簡易設定
▪️名前 マルス→マーウォルス
▪️能力──某酒小説(アニメ)みたいに巻き戻る能力。
▪️ヒアンシーの幼なじみ
▪️黄金裔はこのオリ主で書いてきます。
ちょっと違うところ
キャストリス
→声を掛けて距離をとる× 声をかけなくても距離が取れる
ちょっと空気読みがうまくなってます。
グレーたんがキャストリスに触れたらマルスは?
→マルスさん「うわーすっげえ!どうなってんの?羨ましいぜ!研究しよ!な!」
なんでキャストリスが周りに触れられるようにしないの?
→マルスさん「キャストリスがなんで無理しないといけないんだ?元々無理してるんだからおかしいだろ」
マルスさんはキャストリスをどう思ってるの?
→鈍感ではないよ。
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