「イヤイヤイヤ! 何で膝枕されてんのかな、俺は」
「すいません。ですが、こうしていたらエネルギーが回復される気がするんです。……やはり、ダメですか?」
「イヤイヤイヤ! ダメっていう訳じゃないけど!?」
人魚を思わせる様な容姿をした海祇島の「現人神の巫女」である珊瑚宮心海。
彼女はかつて海の底にある淵下宮に住んでいた海祇島の民を魔神オロバシが地上に連れて行かれた人の子孫の一人だ。
雷神に殺められた海祇島を守ろうとするオロバシの意志は珊瑚宮家の血筋に現れる。
───そして、心海はそれを継いだ。
最初は産まれ持った頭脳から毎日兵学を読んで幕僚になりたいと思って彼女だったが、最終的には海祇島の人々の為に「現人神の巫女」となった。
心海は常日頃忙しい。巫女として海祇島を治め、民の相談に乗り、平等であろうと努力する。だから、心海は凄いと、俺は思う。
俺には彼女程優れた頭脳や意思ははない。
淡い桜よりも薄い色素の長い髪が俺の膝に広がる。
濃い海の様な瞳は長い髪と同色の睫毛が縁取る。
儚い雰囲気の彼女だが、智将としての一面も持ち、様々な兵法に秀でている。
俺と彼女は付き合っているが、俺はそんな忙しい彼女に負担を掛けたくは無いと思っていた。
だから。ここにいた時は彼女の部下、と言えばいいのだろうか。犬耳と尻尾が特徴的なゴローという青年に色々教えて貰いながら心海を支えようとしてきた。
まあ。剣なんて握った事は無かったけれど、他の兵士仲間にも色々教えてもらいながら色々学び、それなりに心海を支える事が出来たと思う。
そう。そこそこ出来た筈。なのに……。
後頭部に柔らかな膝の感触を感じながら、俺は手を握られる。
目を僅かに細め、嬉しそうにも見える才女の普通の少女の様な笑顔。
「……あなたは、いつも努力をされていて、『見えていた』あの時から、私を見てくれて。……そんなあなたが、私は好きです」
よく分からないが、心海は夢の中を通して俺がゲームをしている姿を『見ていた』らしい。
そんな事ありえない、と思ってはいたが、彼女は嘘を付くような人では無い。
だから、俺は彼女の言葉を信じる事にした。
「心海が俺の事を好きになる要素なんてあったか? 」
そう聞くと心海は「え?」と驚いた様な顔をする。そして、少し考えてから口を開く。
「そうですね。私も最初はまさか、と思っていました。
だって、あなたは夢の中の人だと思っていましたから。でも、もしかしたら私以外にも同じ様な人がいるかも知れません。
──だとしたら、私は。
あなたを逃がせそうにありません。どんな方法を使っても、あなたを私の元に縛りたい、そう思ってしまっているんです。誰かに執着する、という事は、良くはない事なのかも知れません。けれど、この気持ちだけは譲れそうにありません」
そう言う心海は、真剣で。でも、少し狂気見えた。もしかしたら純粋なただの人間じゃないから、そう見えるのかも知れない。
けれど、そんな歪んだ彼女の想いでも、俺は嬉しいと、何故か思ってしまった。
「……俺は、心海の事は嫌いじゃないよ。でも、俺は酷いかもしれないけど。まだ分かんないんだ。心海が、俺の事を好きだって言ってくれた事は本当に嬉しい。……でも、他の人たちが俺を許してくれるか、分からない。中には心海がいいなら、って人もいるだろうけど……」
海祇島は小さな島国だ。古くから海祇島に住む住民は心海を受け入れている。
彼女の人柄の良さを、分かっているし、むしろ流行の最先端になる事も多い。
でも、他所から来た人間である俺を受け入れてくれるとは思えない。
だか、心海は俺の手を握ったまま、再び口を開く。
「あなたのお気持ちは分かります。でも、私はあなたを諦められません。
……ですから。私はあなたと共にありたい。あなたが心の底ではあなたの世界に未練があるのは、知っています。でも、私の事も知って欲しいんです。
……私は、あなたの為になら『何でも』出来ます。だから、あなたと共にいさせて下さい」
心海はそう言うと俺の手の甲を自分の頬に当てる。
冷たい肌の感触。でも、俺はその冷たさが心地いいと思った。
そして。心海は「ふふ」と笑い、俺の手の甲に口付ける。
その仕草はとても美しくて。俺は思わずドキリとした。
「心海……」
俺がつい、名前を呼ぶと、彼女はニコリと微笑む。
その姿はまるで、女神の様に神々しくて。俺は思わず手を強く握り返した。
「あなたは、暖かいですね。……あなたの手、好きです」
「そっ、そうなんだ?」
俺は思わずそう返すと、彼女は再び微笑む。その微笑みに俺の心臓がドキリとした。
「はい。私はこの温もりをずっと感じていたいです」
なんだか、浦島太郎みたいだ。ソレは心海が海人の羽衣という能力を持っているからか、彼女が神秘的な容姿をしているからか。
もしかしたら、彼女の綺麗な瞳には人を魅了する力でもあるのかも知れない。
いや、そんな訳ないけれど。
彼女の瞳を見ていると、吸い込まれそうにな気分になる。
小さな顔にパッチリとした瞳。職人が仕上げた人形の様に整ったバランスの顔立ち。
頭のアビサルヴィシャップに生えている様な物がヒレの様にも、角の様にも見える。
触ったら壊れそう、なんて思いながら彼女は髪に触れる。
彼女はその行動に少し驚いた様な表情をして「どうされたのですか?」と尋ねてきた。
「いや、その。……ごめん、触った後になんなんだけど。髪の毛触っていい?」
「……はい。どうぞ」
俺の言葉に心海は綺麗に微笑み、自分の髪を掬って差し出す。
俺は少しだけドキドキしながらその髪に触れる。滑らかで絹糸の様な触り心地だった。そして、彼女は擽ったそうに笑う。
「ふふっ、くすぐったいです」
「あっ、ごめん! 詳しくないけど、手入れとか大変そうだな」
「そうですね。でも、好きでやっていますから苦ではありませんよ」
そして、彼女は再び笑った。その姿は本当に綺麗で、可憐だ。
「なあ、心海」
俺は彼女の名前を思わず呼ぶ。彼女は「はい?」と言って首を傾げる。
「本当に悪いけど。まだ心海の事は好きって言い切れない。けど。……でも。君と、ずっと一緒に居たい」
俺は少し言葉に詰まりながらそう言った。心海は目を丸くして俺を見る。そして、しばらくすると彼女の顔がじわじわと赤くなっていく。
「えっ……あっ、はっ、はい!」
彼女は顔を赤くしながら何度も何度も頷く。その姿を見た俺も何だか恥ずかしくなってきた。
「だからさ、俺、ちゃんと心海の事を知りたいな」
俺は照れ隠しの為にそう話す。
すると心海は少し沈黙した後、コホンと咳払いをして口を開いた。
「……そうですね。私も、あなたの事をもっと知りたいです」
「じゃあ、心海の事色々教えて欲しいな。あ、でも言いたくない事は言わなくていいから! あと、膝痺れない? 大丈夫?」
俺がそう言うと、彼女はクスクスと笑う。そして「大丈夫ですよ」と返された。
その返事に俺は少し安堵する。
「はい。では、何からお話ししましょうか?」
「うーん……そうだな……」
俺は少し考え込むとふと思いついた事を話しかけた。すると、彼女は少し考えた素振りの後、直ぐに返してくれる。
ちゃんと俺の事を考えながら話してくれているんだな、と思うと嬉しくなった。
それから俺たちは色々な話をした。心海は、俺がどんな事に興味があるのかを聞いてきた。
俺はその質問に対して自分が好きな事や興味がある事について話した。
すると彼女は「それはどうするんですか?」とか「それはどういう仕組みなのでしょう?」と、俺の話に耳を傾けてくれる。
それがとても嬉しかった。
「あ、もうこんな時間か」
ふと、窓から見える空を見ると日が沈みかけており、赤く染まっていた。
そもそも俺がいるのは心海の部屋なんだけれど。男が女の子の部屋に長居するのは良くないだろう。
俺は「そろそろ戻るから」と言って立ち上がろうとする。すると、心海は俺の手を掴んできた。
「あ、あの!」
彼女は少し焦った様子で俺を呼び止めると、そのまま俺の手を握る力を強める。
「も、もう少し……一緒に居て欲しいです……」
心海は顔を真っ赤にしてそう話す。その姿を見た俺は、思わずドキッとしてしまった。
「わ、わかった」
だからか。そんな返事をしてしまう。俺の返事を聞いた彼女は嬉しそうに微笑むと、隣を軽くポンポンと叩いた。「どうぞ」とでも言わんばかりに。
俺は緊張しながら隣に座る。すると、心海は自分の肩に俺の頭を乗せてきた。
突然の事に俺は驚いたが、黙ってそれを受け入れる事にした。
いい匂いがするし、心臓の音も聞こえる。
心海は緊張しているのか、心臓の鼓動が早くなっている様に感じた。
「ドキドキしてる?」
俺がそう言うと彼女は更にドキマギした様子で「そっ! そうでしょうか!?」と聞き返してくる。俺は思わず笑ってしまいそうになるが、なんとか堪えた。
「うん。おそろいだな」
俺がそう言うと心海は顔を赤くしたまま「そ、そうですね」と返した。
それから、誤魔化す為なのか、俺の手を握る力を強める。
「あの。……また、こうして一緒に居てもいいですか?」
心海は不安そうな、震える声で俺に尋ねてきた。
だから俺は彼女の手を強く握り返して答えた。
「うん。もちろん。心海がいいなら」
そう言うと心海は安心したのか、小さく息を吐いた後、俺の手を握り返す。
そして、彼女は少し照れた様に笑うと、恥ずかしそうにしながら俺に話しかけてきた。
「あの……すいません。急に呼び出して。……でも、どうしても。あなたとお話したかったんです」
「うん。俺も、心海と話したいと思ってたんだ」
俺がそう言うと彼女は嬉しそうに微笑む。そして、少し間を置いてから再び口を開く。
「……あの。私、ずっと不安だったんです」
心海はそう言うと眉を下げた。不安に満ちた顔だ。だけど、そのまま。言葉を続ける。
「……私は、あなたの隣に居る事が許されているのでしょうか。
あなたの優しさに甘えてしまって、あなたを苦しめてはいないか。私はあなたを縛りつけてはいないか。
そんな事を考えてしまうんです。
あなたにはこの場所は窮屈なのではないか、そう思ってしまって」
「そんな事ない!」
俺はつい大きな声を出してしまう。心海が驚いた様に目を丸くして俺を見た時、やってしまったと思った。
驚かせてどうする。
「あ、ごめん……大きな声だして」
「いえ。大丈夫です。……確かに、その、少し驚きましたが……」
心海はそう言って苦笑する。
そして、小さく息を吐くと再び口を開いた。
「……あなたがそう言って下さって嬉しいです。……でも、それでも不安なんです」
心海はそう言って俯く。俺はそんな心海の手を強く握る。そして、彼女の目を見つめた。彼女は少し驚いた様に目を見開くと恥ずかしそうに目を逸らした。
そんな彼女の手を離さない様にしっかりと握りながら、自分の思いを話す事にした。「俺は、君に感謝してるよ」
そう切り出すと、彼女は少し驚いた様な表情をしたけれど、すぐに微笑んで「ありがとうございます」と言った。俺はそんな彼女に微笑み返しながら続ける。
「心海が居なかったら、俺はきっと途方に暮れてたと思う。実際、俺なんて何も出来ないし、危険な場所で生き残る術も分からない。……そんな俺に手を差し伸べてくれたのは、心海だ」
俺がそう言うと、心海は「そんな! それは違います。私はただ……」と言って言葉を詰まらせる。俺はそんな彼女の手を握りながら話を続けた。
「いや、違わないよ。こうやって触れて、話をして。暮らす中で現実だって知って苦しい事もあったけど、それでも。心海は俺を思ってくれて、支えてくれた」
俺は心海の手を握る力を少しだけ強くする。そして、彼女の瞳を見て話を続けた。「だから……ありがとう、心海」
俺がそう言うと彼女は少し泣きそうな表情を浮かべて俯いた後、ゆっくりと顔を上げた。その表情はどこか吹っ切れた様な、スッキリした物になっていた。
「……そう言って下さって嬉しいです」
心海はそう言って微笑んだ。その笑顔に俺は見惚れてしまった。
そして、それと同時に気恥しさの様なものを感じてしまう。
だから、俺は慌てて顔を逸らした。すると心海は不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。
「あ! いや、その……」
しどろもどろになる俺を見て彼女はクスクスと笑った。そして、優しく微笑んでから口を開く。
「大丈夫です。あなたの考えている事くらい分かりますよ」
「……へ?」
「だって。……その、私も同じ気持ちです」
心海はそう言うと俺の目を見て微笑んだ。その笑顔はとても綺麗で。俺は思わずドキッとしてしまった。
「ふふ。お互い様ですね」と言って笑う心海を見ていると、自然と緊張も解れてきた気がする。
だから俺も笑った。
「うん。これからも、よろしく」
「はい! こちらこそよろしくお願いしますね!」
そう言って笑い合う俺たちを夕日が照らす。
オレンジ色の輝きが彼女を照らし、彼女の美しさをより一層引き立てる。
そして、夕日に照らされる心海の姿はやっぱりとても幻想的で、儚げに見えた。
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