If   作:F1さん

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マーヴィカと男性プレイヤー 前半※病み要素あり

 

 ナタの聖火競技場は今日も賑わっている。

 

 この国の建物は特徴的な形をしており、様々な建築家達が悩んで作り上げたその建物が並び、その建物に人々が集い、そしてまた新しい建物が建てられていく。

 

 昔は小さな建物だったが、そこに集う戦士達のために、と様々な部族が混じり合うと建物は巨大化していき──この国の繁栄ぶりを表していた。

 

 そんな建築美を誇る巨大な建物の中の奥にはナタの『炎神』の為の部屋が用意されていた。

 

 そこでは燃える様な長い赤い髪の美女が机の上に置かれた沢山の食べ物を美味しそうに口に運んでいる。

 

 だが、向かいに座る青年は眉を下げ、料理と美女を交互に見た。

 

「……相変わらず沢山食うな……マーヴィカは……」

 

 ナタにいるにしては鍛えられている様には見えない珍しい容姿の青年だが、その服はナタの『懸木の民・ウィッツトラン』と呼ばれる部族の人間が良く柔らかな薄い生地の服を着ている。

 

 呆れと諦めの混じった声で『マーヴィカ』と呼んだ美女にそう告げると、彼女は太陽を思わせる瞳を細め、にかっと歯を見せて笑う。

 

「蒼海も遠慮なく食べるといい。聖火競技場の屋台の料理はいつも新鮮でうまい。ほら、この肉料理もうまいぞ」

 

「いや、俺はいいよ。もうお腹いっぱいだし……それにさ」

 

 青年は、片腕に腕に巻かれた手錠の鎖をじゃら、と鳴らしながら「これじゃ食えないし」と、呻くように小さく呟く。

 

「? 何か言ったか?」

 

「いや、何も」

 

「?」

 

 首を傾げるマーヴィカに青年──蒼海は苦笑しながら考える。

 

(別に逃げ出すつもりは無いんだけどな。危ないし。でもマーヴィカが俺を拘束する理由については、心当たりはある)

 

 窓がないその部屋はまるで牢獄の様だった。

 

 気がついた時には既にこの部屋に拘束されており、それからずっとマーヴィカに世話をされ続けている。

 

 だが、マーヴィカが人をペットの様な扱いをする人間ではない事を蒼海は知っている。

 

 彼は『見てきた』のだから。

 

 だが迂闊にそれを口にすればマーヴィカの逆鱗に触れる可能性が高く、口を閉ざし、考えを集中させる為、目を閉じる。

 

「あ。そうだ。そろそろこれ外してくれないか? 食事の時だけ外してくれればいいから」

 

 蒼海は明るい声でそう言ってみたが、瞬間、マーヴィカの纏う空気が変わった気がした。

 

 恐る恐る目を開くと、彼女は変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま。

 

 だがその太陽の様な虹彩にはどこか冷えた色が含まれていた。

 

「蒼海、また良からぬ事を考えているな?」

 

「……いや、全く」

 

「君、嘘を吐くのが下手だな」

 

 マーヴィカは蒼海の『嘘』をあっさりと見抜く。

 

「それに、私は君の事をよく知っている」

 

(それは俺も同じだよ)

 

 マーヴィカは蒼海の事を『知っている』。

 

 それは蒼海も同じで、マーヴィカの事は知っている。

 

「君はいつもそうだ。『何か』を隠している」

 

「いや、別に、何も隠してなんかないって……」

 

 蒼海はマーヴィカから視線を逸らし、口籠るが、それを見て、彼女は皿の上に肉を戻す。

 

「その『嘘』は──なんだ?」

 

 そして、立ち上がるとカツカツヒールを鳴らし、手をテーブルにつき、身を乗り出した。

 

「私は、君を守りたい。だから君をここに『軟禁』している。

それは、君も分かっているだろう?」

 

 蒼海はマーヴィカの威圧感に、思わず「う」と呻く。

 

 炎神になった彼女は基本的には大らかで、太陽の様に暖かい人間なのだが、それ以上に責任感が強い。

 

 彼女はナタを守る為に500年眠りについた。

 

 それは『両親や妹や戦友たち』と永遠に会えなくなる事を意味していたのに、だ。

 

 愛する人達はそれを悲しみ、だが同時に、その厳しい選択をしたマーヴィカを誇りに思い、彼女の為に出来る事をやり、残した。

 

 マーヴィカはナタの民を『愛している』。

 

 だが、その『愛』の矛先はナタの民だけの筈だったが、彼女は不思議な長い夢の中で、一人の青年の夢を見ていた。

 

 普通で、戦えない戦士とも言えない平和な世界に生きる青年を。

 

 マーヴィカは、蒼海がその人物だと知っている。

 

 彼女はかなり忙しい筈なのに、空いた時に蒼海に会うために部屋にやってきては、他愛のない話しをして去っていく。

 

 筋トレ用具を何故か持ってきたり、食べ物を持ってきては蒼海に食べさせたり。

 

「蒼海、君は私の事が好きか?」と聞かれた事もあった。

 

 だが、蒼海は、何と返せばいいか分からなかった。

 

 閉じ込められたのは辛かったが、別にマーヴィカを恨んでもいない。

 

 マーヴィカは面倒見がよく、蒼海にも優しく接してくれている。

 

 蒼海は今の暮らしも悪くないと思えていた。

 

 いや、部屋に閉じ込められることに慣れてしまった、と言うべきかもしれない。

 

(マーヴィカは俺を守りたいって言っているけど)

 

「だから、俺は『何か』を隠しているつもりはないって」

 

 蒼海はため息を付くと、「その、抜け出すつもりも」と付け加える。

 

 マーヴィカは納得がいかなそうに顔を歪めながら手を腰に当てると、ため息をつく。

 

 彼女は豊満な体つきをしており、ぴっちりとしたライダースーツの様な服は彼女の胸や臀部を更に大きく見せ、思わず蒼海は目を逸らす。

 

「本当だろうな?」

 

 だがマーヴィカはそれを気にも留めず、ぐい、と彼に顔を近づけた。

 

(近いっ!)

 

 その衝撃で思わず椅子ごと後ろに倒れそうになるが、マーヴィカのほっそりした指が首輪から椅子に巻き付かれた鎖に絡みつき、引き寄せられた。

 

「っ!?」

 

 引き寄せられたせいでマーヴィカの顔がすぐ近くに迫る。

 

 男性的な言葉遣いを彼女は普段しているが、長い睫毛に派手な化粧をしており、女優の様な絶世の美女だ。

 

 意識しない筈がない。

 

 吐息がかかりそうな程の距離に、蒼海が頬を染めると、マーヴィカはそのまま、するりとライダースーツと同じ生地の手袋を付けたまま彼の頬を撫でる。

 

「蒼海、君は私をどう思っている」

 

「……それは」

 

 答えにくい質問に、蒼海は言葉を詰まらせる。

 

 だが、こんな閉鎖的な環境でマーヴィカを好きになったとしても、それは本当に『恋』なのか、と問われれば、それは違う気がする。

 

 だが、蒼海はその感情を表す言葉を見つけられず、小さく首を振ると「分からない」と答えた。

 

 それを聞いたマーヴィカは眉をひそめると、整えられた眉をつり上げる。

 

 迫力のある美人の怒りの表情に戸惑う。

 

 だが、蒼海は屈する訳にはいかなかった。

 

「だって、マーヴィカがどうして俺に執着するのかなんて分からないんだよ」

 

 自分でも子供みたいな文句だと思うが、蒼海は困り切った顔でマーヴィカを見つめる。

 

 マーヴィカは真剣な表情で蒼海を見つめると、彼は身動ぐ。

 

 だがそれを咎める様に首輪に繋がる鎖を引っ張られ、逆に彼が怯む羽目になる。

 

 マーヴィカの、瞳が蒼海を捉え、離さない。

 

 太陽を間近で見ている様な、眩しさに、思わず目を細める。

 

 鎖が引っ張られる。

 

 マーヴィカの顔が更に近づく。

 

「……私だって、こんな時間が長く続くと思うほど、馬鹿ではない」

 

 マーヴィカは苦しげな表情で蒼海を見つめる。

 

 その傷ついた表情に蒼海の胸が微かに痛んだ。

 

 未だ旅人はこの国に来ていない気がする。

 

 外の話題は入って来ないし、他の人達から話を聞いたりはしていないからだ。

 

 だが、『旅人』がこの国に来れば、マーヴィカとのこの生活も終わるだろう。

 

 ──マーヴィカは死のうとしている。

 

 死の執政の力を借りるという行為の代償は、『命』だ。

 

 だが、マーヴィカはそれを覚悟している。

 

 そうでなければ長い時間や、人々の思いが、無駄になってしまうからだ。

 

 マーヴィカの守りたいというその感情はあまりにも強く、そして正しい故に、その考えを誰も訂正する事は出来ない。

 

 その愚直なまでの責務感。

 

 だが蒼海はマーヴィカの事を愚かだと思った事はないし、彼女を頭ごなしに否定する事は出来ない。

 

「マーヴィカ」

 

 蒼海は、鎖に引っ張られながらも彼女の頬に手を伸ばす。

 

 その瞬間、マーヴィカの瞳が不安に揺れた。

 

「俺はマーヴィカの事、嫌いじゃない。でも、マーヴィカは『教えよう』としてくれないだろ?」

 

「蒼海、私は……」

 

 マーヴィカは何かを言いかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。

 

 そして、鎖から手を離した。

 

「そうだな……君の言う通りだ」

 

 マーヴィカは立ち上がると、鎖を離し、するりと蒼海の手を離し、そのまま部屋の扉の前へと向かう。

 

「私が焦っていたようだ。すまないな、蒼海」

 

 彼女は最後に淡々とした声で謝罪すると、ドアノブに手をかける。

 

「待ってくれマーヴィカ」

 

「蒼海?」

 

 部屋を出ようとするマーヴィカの背中に蒼海は声をかける。

 

「俺は、マーヴィカの事が知りたいんだ」

 

 マーヴィカはピタリと足を止め、振り返ると「今更か」と微かに笑みを浮かべた。

 

 その笑みは何故か悲しげに見えて、蒼海は思わず身を乗り出す。

 

 だが、鎖に繋がれた蒼海がマーヴィカの元まで行くには遠すぎた。

 

 マーヴィカは後ろ手になり、まるで逃げるように「また来る」と言って去っていった。

 

※※※

 

 マーヴィカの気配が去り、蒼海は頬杖をつくとため息をつく。

 

(本当にどうしたものか)

 

 マーヴィカが何を思い詰めているのか分からないが、彼女の事を知る必要があるのは確かだ。

 

 その為にはずっとこのままという訳にはいかない。

 

 だが、このまま抜け出す方法が考え付かないし、勝手に抜け出せば何をされるか分からない。

 

 蒼海はマーヴィカに怒りをぶつけたい訳ではない。彼女を困らせたい訳でも、怒らせたい訳でも無い。

 

 寧ろ彼女がそこまで躍起になるほど、自分に執着する理由が分からず困惑していたのだ。

 

「参ったな……」

 

 蒼海は椅子の背にもたれ掛かり天井を見上げる。

 

 相変わらず暗い壁紙と天井が無機質で、彼の不安な気持ちを煽る。

 

 だが蒼海はため息を飲み込んで、目を閉じて、唇を引き結び、首を横に振りその考えを振り払う。

 

 マーヴィカに悪気がないのは分かっている。彼女はいつだって真剣で、真っ直ぐだ。

 

 蒼海は額に浮かんだ汗を拭い「よし」と気合いを入れるように呟いた。

 

 まずはここから抜け出す方法を考えるべきだ。

 

 しかし、休ませたくても椅子に固定されたままじゃ寝れそうにない。

 

 だが、いつもであれば食事を片付けるついでにマーヴィカが鎖を外してくれていたのだが、今日は気分を害してしまったようから早く来てくれないかもしれない。

 

 蒼海はどうしたものか、と考えながらも、仕方ないので机にうつ伏せの体勢になり、とりあえずこのまま寝てしまう事にした。

 

 

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