If   作:F1さん

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マーヴィカと男性プレイヤー 後半

 

 マーヴィカの気配が去り、蒼海は頬杖をつくとため息をつく。

 

(本当にどうしたものか)

 

 マーヴィカが何を思い詰めているのか分からないが、彼女の事を知る必要があるのは確かだ。

 

 その為にはずっとこのままという訳にはいかない。

 

 だが、このまま抜け出す方法が考え付かないし、勝手に抜け出せば何をされるか分からない。

 

 蒼海はマーヴィカに怒りをぶつけたい訳ではない。彼女を困らせたい訳でも、怒らせたい訳でも無い。

 

 寧ろ彼女がそこまで躍起になるほど、自分に執着する理由が分からず困惑していたのだ。

 

「参ったな……」

 

 蒼海は椅子の背にもたれ掛かり天井を見上げる。

 

 相変わらず暗い壁紙と天井が無機質で、彼の不安な気持ちを煽る。

 

 だが蒼海はため息を飲み込んで、目を閉じて、唇を引き結び、首を横に振りその考えを振り払う。

 

 マーヴィカに悪気がないのは分かっている。彼女はいつだって真剣で、真っ直ぐだ。

 

 蒼海は額に浮かんだ汗を拭い「よし」と気合いを入れるように呟いた。

 

 まずはここから抜け出す方法を考えるべきだ。

 

 しかし、休ませたくても椅子に固定されたままじゃ寝れそうにない。

 

 だが、いつもであれば食事を片付けるついでにマーヴィカが鎖を外してくれていたのだが、今日は気分を害してしまったようから早く来てくれないかもしれない。

 

 蒼海はどうしたものか、と考えながらも、仕方ないので机にうつ伏せの体勢になり、とりあえずこのまま寝てしまう事にした。

 

※※※

 

「……うぅ」

 

 数日後、蒼海はベッドの上で熱に浮かされ、唸っていた。

 

 その熱は、彼の体の奥から湧き上がる様に全身を蝕んでおり、蒼海はその感覚に耐えていた。

 

「う……っ」

 

「額が熱い。熱が上がっているな」

 

 マーヴィカは冷静な声で蒼海の頭に触れると、氷嚢を蒼海の額に当てる。

 

「……つめた……」

 

 蒼海が気だるげにマーヴィカを見ると、彼女は静かに語り出した。

 

「最近この国は寒暖差が激しいからな……。基本的には日中は熱いが、夜は冷え込む。慣れない環境が影響し、体調を崩したのだろう」

 

 マーヴィカは蒼海の額に手を置く。手袋が外され、冷たい氷に触れていたその掌はひんやりとしていて心地良い。

 

 その冷たさに蒼海は「う……」と声を漏らす。

 

「……医者を呼ぶしかないな。蒼海、少し待っててくれ」

 

 マーヴィカは蒼海をベッドに横たえると、部屋を出ていった。

 

 それを見て、蒼海は今しかないと、ベッドを降りようとする。

 

 だが体に全く力が入らず、起き上がれない。

 

 蒼海は悔しげに唇を噛むと「くそっ」と小さく呟いた。

 

 しかし、それでもなんとか体をずらし、シーツを引っ掻きながら床を這う。

 

 赤子に戻った様な気持ちになりながら、それでもなんとか床を這いながら扉を目指す。

 

 余程焦っていたのか手錠は外されており、首輪は緩んでいた。

 

「う、あ」

 

 蒼海は必死に腕を動かしながら扉へと近づくと、壁に体を預けながらドアノブに手を伸ばし、力を入れると扉が開いた。

 

 閉め忘れていたらしい。

 

 そしてそのまま転がり出ると、今度は自力で立つ事が出来た。

 

(マーヴィカには悪いけど……)

 

 蒼海はふらつきながらも壁伝いに歩く。

 

 蒼海は辺りをなんとか見回し、誰もいないのを確認すると、壁伝いに歩く。

 

(マーヴィカは医者を呼ぶと言っていたが、早く帰って来てしまうかもしれない)

 

 蒼海は、とある目的の為に、ここから出るしかない。

 

「はぁ……っ、は……」

 

 蒼海が歩く度、彼の体から汗が滴り落ちる。

 

 だが彼はそれを気にも留めず、壁を伝い歩く。

 

 何度か壁に体を打ちつけながらフラフラと進む彼の瞳にはどこか虚ろで、その姿は魂の抜けた木乃伊の様だった。

 

 そんな時、話し声と共に誰かが階段を上がってきた。

 

「こっちだ」

 

 聞き覚えのある低い女性の声にもう戻っできてしまったのかと、蒼海は内心舌打ちをしたくなったが、何とか堪える。

 

(このままじゃ、マーヴィカに見つかる)

 

 蒼海は壁伝いに歩くのをやめて、物陰に隠れようとした時──「炎神様! 大変です!」と、慌てた様子の男の声が聞こえた。

 

「どうした」とマーヴィカが尋ねると、男は「それが……」と、言いにくそうに口籠ったが、やがて覚悟を決めたのかマーヴィカの耳元で何かを囁く。

 

「……そうか、わかった。すぐに向かう」

 

 マーヴィカは何かを察した様に小さく頷くと、誰かに「お前は患者の様子を見てきてくれないか」と告げ、再び階段を上がり始める音がした。

 

 蒼海は、マーヴィカが去るのを確認すると物陰に隠れ、息を整える。

 

(……今しかない)

 

 蒼海は再び壁伝いに歩き始める。医者らしき人物が来るかもとは思ったが、マーヴィカよりはマシだろう。

 

 マーヴィカに見つかってしまえばそれこそお終いだ。

 

 蒼海は震える足を叱咤しながら、壁伝いに歩き続ける。すると、ガタンと何か大きな音がした。

 

(まずいっ)

 

 咄嗟に気配を殺し、木箱の物陰に隠れようとするが遅かった。

 

「ん? 誰かいるんですか?」

 

 見知らぬ『豊穣の邦(ほうじょうのくに)・テテオカン』らしき服を着た大男が蒼海に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「……っ」

 

 瞳が合い、恐怖に一瞬、足が竦む。

 

 だがすぐに思い直し、大きく息を吐くと、「っマーヴィカには言わないでくれ!」と叫んだ。

 

「は?」

 

 男は、きょとんとした顔をするが、すぐに合点がいったのか「ああ」と手を叩く。

 

「炎神様が言っていた『蒼海』とは、あなたのことですか」

 

 マーヴィカに自分の名前が伝わっているのは当たり前だ。だが、医者らしき大男は困った様に頭を掻くと、蒼海に向かって手を差し出した。

 

「とりあえず、部屋にお戻り下さい。炎神様には恐らく、部屋から出るなと言われていたでしょう?」

 

「……そうだけど。このままじゃ、駄目なんだ。お願いがある。……これから言う事と、頼み事は、マーヴィカには、黙っていて欲しい」

 

 蒼海は大男のゴツゴツした手を取ると「頼む」と頭を下げた。

 

 日に焼けた精悍な顔立ちの大男は何かを察したのか、眉を寄せ、ふぅ、とため息をつくと「分かりました」と言う。

 

「と、言いたいところですが」

 

「……だよな」

 

 蒼海は当然だな、と思いながら頷いた。だが、男は腕を組みながらむむむ、と唸る。そして小さな声で呟いた。

 

「なので、私は見てなかった事にします。

炎神様には黙っていますが、バレたら私は庇えません。

私だって自分が可愛いんです。

……でも、炎神様の『伴侶』であるあなたが、どうして熱を出したまま無理して外に出ようとしていたんですか?」

 

「……マーヴィカはそう言ってたのか。

俺は、その……この国をあまり知らないんだ。気がついたらこの国にいて。彼女は良くしてくれる。

でも俺は、彼女の事をもっと知りたい」

 

 蒼海は「だから、その為には必要な物がある。……外に出たいんだ」と、大男の服を掴む。

 

 異郷のナタでは見ない容姿の青年。

 

 それが初対面の人間に必死に頼み事をしている姿に大男は考え込んだ後、ため息を付き、蒼海の肩を掴む。

 

「熱があるのにあんまり無茶しちゃ駄目ですよ」

 

「……今無茶をしなきゃ、いつやるんだよ」

 

 蒼海は肩に置かれた手を払い除けると、大男を睨み付ける。だが直ぐに態度が悪かったと反省し、「ごめん」と謝った。

 

 八つ当たりをしても、何も変わらない。

 

「それで、協力してもらいたい事がある」

 

 蒼海は大男に向かって手を差し出す。

 

「……すみませんが私はこれから他に仕事があるんです。その頼み事というのは炎神様に知られるとまずい事ですか?」

 

「ああ。……マーヴィカが、怒るかもしれない。それでもやらなきゃいけない。賭けなきゃ、いけないんだ」

 

 蒼海が拳を握ると、男は「そうですか……」と言って少し考えた後「このまま戻らないつもりですか? 熱があるのに、その体で」と蒼海の顔を覗き込む。

 

「……っ」

 

「炎神様は、あなたをとても大事にしているように見える。……それは分かりますか?」

 

「分かってるよ。だから、それに返事をしなきゃならないんだ。俺は」

 

 蒼海はマーヴィカの『伴侶』だと言ったらしい。だが、それはマーヴィカの一方的な押し付けだ。

 

 だから、蒼海はマーヴィカの『伴侶』にこのまま本当になる訳には行かない。

 

 例えマーヴィカが自分を『運命の相手』と思い込んでいても、だ。

 

「……はぁ」

 

 大男は何かを言おうと口を開きかけるが、頭をぐしゃぐしゃとかき回して溜息を吐いた後、「分かりました」と頷いた。

 

「あなたが逃げ出すより、私があなたの頼み事を後で聞いた方がマシに思えます」

 

「本当か?」

 

「炎神様にバレずに、手に入れればいいのですね? 分かりました。協力しましょう」

 

 男はそう言うと蒼海に向かって手を差し出す。

 

「……ありがとう」

 

 なんとも言えない感情に彼は涙目になりながら男の手を握る。

 

「いえ。でも、炎神様は勘がいい方なので、気をつけてくださいね」

 

「分かった」

 

 蒼海が頷くと、男は「とりあえず、部屋に。診察をしなければ」と、蒼海を部屋へと誘導した。

 

※※※

 

 診察を終えた後、蒼海の熱は目に見えて下がり、元の生活に戻れる事が出来た。

 

 だが、未だ外には出られず、むしろ前より監視が厳しくなった様にも感じる。

 

 それに、やけに体調が良かったり悪かったりと安定しない日が続き、マーヴィカに「大丈夫か」と心配される事が多くなった気がする。

 

 だが、蒼海はマーヴィカに首を横に振る。

 

 本やゲームをこよなく愛するインドア派だと言え、このままずっと部屋に閉じこもっているのも気が滅入るが。

 

 それを口にすればどうなるかなんて、想像に容易い。

 

 今はマーヴィカが居ない。

 

 頼んだ事をちゃんとあの男がやってくれたのか不安だが、静かに機会を待つ。

 

──トントントン。

 

 そんな時『予め決めていた』数の扉のノックが、部屋に響く。

 

 暫く、ガチャガチャと何かを扉の鍵穴を弄る様な音が聞こえると、最後にはぎいっ……と音を立てて扉が開く。

 

 そこにいたのは少年か青年か区別が難しい年齢の青年(にしておこう)。

 

 長いバンダナが特徴的な彼は『蒼海が知っている』ように恐竜の様な黄金の瞳をしていた。

 

 ゲーミングっぽさがある身軽なツナギを腰で締めた彼は『お前が俺に頼んだ奴か?』と、少しほぼ見えない眉を寄せる。

 

 蒼海は首を縦に降れば、彼は蒼海に首輪と手錠がつけられている事を確認する。

 

「分かった。とりあえず外して──炎神様の元に連れていけばいいんだな。頼まれていた物も持ってきた。

だが──どうして俺を頼った?」

 

 彼は蒼海をじぃっと見ながら、腕を組み、何かを考えるように顎に手を当てる。

 

 その鋭い視線に蒼海は、自分と彼は実際に会うのは『初対面』だという事を思い出す。

 

 マーヴィカを思うばかりでうっかりしていたな……と蒼海が苦笑する。

 

 だが、それでも彼に返すのならば『誠実さ』でなければ。

 

 誰にでも公平で、それ故に他者からは疎まれてしまう彼に。

 

「悪いが、今対価になる様なものは無いんだ。この身一つしかない。でも。俺は君が『人の心がない人間』なんかじゃないと知っている。君からしたら俺は胡散臭い人間だろうけど、俺は君を知っている。だから──」

 

 蒼海は彼に向かって、頭を伏せる。土下座ができる体制では無いからだ。

 

「頼む。俺は何があっても、君に彼女が被害を加えないと、誓う」

 

 蒼海がそう告げると、彼は『はぁ……っ』と、大きなため息を付いた後「分かった。その約束は守る。だがな」と、蒼海の顔を上げさせて真っ直ぐと見つめる。

 

「……お前に会うまではどうするかはまだ悩んでいた。

だが、俺は判断した。俺は『炎神様』の為に動く、と」

 

「……ありがとう」

 

 彼は『そういう契約だ。だから、お前は気にするな』と言った後「言っておくが」と呟く。

 

「俺は契約は守る主義だ。──後程、対価を貰う。

だから、今、お前は『炎神様』の事だけを考えろ」

 

「ああ」

 

 蒼海が頷くと、彼は『とりあえずここを出るぞ』と話を終えた後、どこから出したのか『鍵』を取り出す。

 

 そして蒼海の手枷を外すと、彼は蒼海を肩に担ぎあげる。

 

「うわっ」

 

 予想外の行動に蒼海はバランスを崩すが、青年は難なくそれを受け止めると、部屋から出ると駆け出した。

 

 体型は小さいが、やはりこういう事に慣れているのだろうか。

 

 大人1人を担いでいるのにも関わらず、軽やかな足取りで蒼海を運びながら「悪いが今のお前はろくに歩けないだろう」と言って青年の名前を呼び掛ける。

 

 確かにあまり運動出来ない事で、体力は落ちている。

 

「そうだ。俺は『蒼海』だ」

 

「……こんな時に自己紹介か?」

 

 彼の言葉に、蒼海は苦笑する。「悪かったよ」と言いながらも彼は、すぐに『確かに』と言い淀んだ。

 

「お前の名前を聞いてなかったな。こういう時は名乗りあってからの方が『らしい』かもな。俺は──」

 

 彼は名乗る。画面越しに何度も聞いた名前を。

 

 それを聞いて、蒼海は安心した様に笑った。

 

※※※

 

 マーヴィカの部屋まで来ると、彼は蒼海を下ろすと『後はお前がなんとかしろ』と、そのまま来た道を引き返して行った。

 

 蒼海は彼を見送りながら『本当に、いい奴だな』と呟く。

 

「マーヴィカ」

 

 蒼海がそう扉越しに呼びかけると、しばしの沈黙の後、早い足音と共に扉が開かれたかと思うと、マーヴィカと目が合う。

 

 目を見開き、驚いた表情をするマーヴィカを見て、蒼海は微笑む。

 

「……私が出るなと言ったのに外に出たのか?」

 

「ああ。悪いけど俺はペットに成り下がるつもりはないんだ」

 

「成る程。だが、私は決して君をそんな風に見たことは無い」

 

 マーヴィカは無表情で頷くと、蒼海の手首を掴む。

 

 いつもの様な優しい力ではなく、骨が軋む様な強い力に、蒼海は顔を歪める。

 

「っ、マーヴィカ!」

 

 だがマーヴィカはその力を緩める事なく、そのまま蒼海を部屋に入れて鍵を閉める。

 

「……マーヴィカ?」

 

「私は君を『物』の様に扱った事は1度もない。

だが、他の人間から見たらそう見えるかも知れないな。

……そうだとしても構わない。

私は君を『手放さない』し、逃がすつもりもない。

私は、君が好きだ。好きなんだ。好きで、好きで仕方ない。

こういう時、どうすればいい?蒼海……」

 

 マーヴィカは壁に蒼海を追い詰める様に手を付く。狂気じみた瞳と発言をしながらも優しい声色で、笑みを浮かべた。

 

 その時、蒼海が持っていた封筒が、はらり、と床に落ちた。

 

「!」

 

 蒼海がそれに気が付き拾おうとするより先に、マーヴィカはそれを拾い『これはなんだ』と言う。

 

「……っ、それは」

 

 マーヴィカの鋭い眼差しに蒼海は口籠る。だが、これを見せるためにここに来たのだ。

 

「見て欲しい。マーヴィカ」

 

 蒼海が封筒の中身を出すと、そこには何かの設計図の様な物があった。マーヴィカは見覚えのある字に目を止め、じっと見つめる。

 

「……ヒネの物か? 何故……」

 

「とある人に頼んだんだ。お前の生家に、彼女に関するものを持ってきて欲しいと。

 

 すでに全部みているかもしれないから、無いかもしれない。だけど、もしくは他の何かがあればを持ってきてくれと頼んだんだ」

 

 マーヴィカは眉を顰め『正気か?』と言ったが、蒼海はそれを気にせず言葉を続ける。

 

「まさかこんなものが出てくるとは思ってなかったけど。彼女がお前に残したものだ。……その反応から、見たことないみたいだな」

 

「……ああ」

 

 マーヴィカは設計図から目を逸らさずに頷く。

 

「……長い夢の中。ヒネに私は出会ったんだ。君を見る前に。彼女は、この建物がある『駅』にいた。……だが、これを見せて、君は何がしたかったんだ? ヒネの遺物を見つけて、思い出話をさせて? それともただの嫌がらせか?」

 

 マーヴィカは眉を寄せ、設計図をクシャと握り潰す。

 

「俺は君と『交渉』がしたい」

 

 蒼海はマーヴィカの手を握る。革の手袋越しのマーヴィカの手は冷たかった。

 

「……交渉?」

 

「ああ。……俺は、お前が俺に何を求めてるか知らないし、分からない。だけど。俺は『キィニチ』に会って分かったんだ。俺も、マーヴィカも互いに知った気になって、何も話していなかった。だから

 

 蒼海がマーヴィカの手にもう片方の手を重ねた。

 

「───だから、俺は俺の事を話すから。

俺もマーヴィカを知りたい。

だから、閉じ込めてないで、一緒にいてくれないか? 

お前が閉じ込めてたのは、俺がいなくなる事が嫌だから、じゃないのか?

俺はいなくならない。

俺がお前に抱く感情とお前が俺に抱く感情は違うかも知れないけど、それでも俺はお前が好きだから。

それは、間違いないって言えるから」

 

 蒼海はマーヴィカの目を真っ直ぐと見つめる。

 

「───うん。俺は、お前が『好きだ』」

 

※※※

 

 あの後、無事に『外』に出る事を許された蒼海は暫く陽の光をまともに浴びてなかった為、眩しさに目を細めた。

 

 陽の光は暖かく、気持ちが良い。

 

 だが、蒼海はマーヴィカに手を引かれながら、疑問に思っていたことを口にした。

 

「……マーヴィカって思っていたより背が高いな」

 

「え?」

 

 いきなり何を言い出すのだろう、というマーヴィカの疑問が手に取るように分かる。

 

 だが蒼海は構わず続けた。

 

「いや、高いんだろうなとは思っていたけど、ほかの人たちと比べてもでかいし、こうしてればよくわかる」

 

「……そうか」

 

 マーヴィカは気を悪くした様子もなければ反論もせずただそう答えただけだ。

 

 だが蒼海にとって『それ』は不本意であった。

 

「あとさ、お前のその服……体のラインがもろに見えるんだよね。……その、目のやり場に困るというか」

 

「ああ。これか?」

 

 マーヴィカは蒼海の手を離して自分の服を見るが『何か問題でもあるのか?』と首を傾げる。

 

「……うん。なんでお前が俺に強硬手段にでたかよく分かったよ」

 

「? そうか?」

 

 マーヴィカは、『よく分からないが』という表情だ。

 

 どうやら彼女は恋愛に疎いようだ。

 

 蒼海はマーヴィカに向かって手を伸ばすと『じゃあ一緒に服を買いにいこう』と言った。

 

「私のか?」

 

「ああ。……って、金無いんだ。稼ぎたいんだけど、なんかいい仕事ないかな?」

 

「そうか。なら、私のスケジュール管理を手伝うか?」

 

「ああ。マーヴィカって常日頃忙しそうにしてるよな」

 

「そうか。……だが、私は『忙しい』のは嫌いじゃない。『充実』している事はむしろ、好きなんだ」

 

「そっか。──うん。じゃあ今日からマーヴィカの秘書もどきをするよ。計算とか得意なんだよな、俺」

 

 蒼海は『それまでに金を貯めないとな』と、呑気な事を言いながら笑う。

 

 マーヴィカはそれを見て、目を少し細めた。

 

 大陽の光が2人を照らす。だが、それでめいらないようにと、皆が残した痕達が2人を影に落とす。

 

 マーヴィカは建物に何となく目をやり、目を逸らした後、『月並みな言葉だが』と前置きをし蒼海を見て言う。

 

「私は君の笑顔が一番好きらしい」

 

「……マーヴィカって、可愛い事言うんだな」

 

蒼海は目をぱちくりさせて『初めて言われたよ』と笑った。

 

そして、その温もりを握り返した。

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