2日目。
その日はクロリンデと朝から喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
……いや、なんで?
しかも来たことないカフェだ。珍しく屋内にある店。
「あなたは砂糖やミルクを入れて飲むのか。なるほど。覚えておこう」
クロリンデはコーヒーを口に含むと「ふむ」と頷いている。
無表情なので美味しいのか不味いのかわからない。
いや、ちょっと口元は緩んでる気がするけれど。
「って、なんでコーヒー飲む流れになったんだ?」
「いや、朝にコーヒーを飲むと私はスッキリするんだ。だから、あなたにも飲んで欲しくてな」
「ああ、そう……」
まあ、クロリンデの好みはわかった。
確か、記者に邪魔されずコーヒーを飲んだりしたい、みたいな事が書いてあったような気がする。
「でも、カフェインって取りすぎると身体に良くないと思うぞ。めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠とか、下痢や吐き気、嘔吐することもあるって前に聞いた様な」
「そうなのか。それは知らなかった。確かにあまり飲みすぎるのは良くない、と聞いたことはあるが」
「うん。だから水とかちゃんと飲むといいらしい。って、あんまこういうとこで言う話じゃないか。それに、あまり俺はコーヒーに詳しくないけど、なんというか。確かにちょっと香り? がいい気がする。うん」
「なるほど。あなたは詳しいんだな。学者の様だ」
クロリンデがカップをテーブルに置くと、カチャ、と小さな音が出る。
……クロリンデって確かに美人なんだけど、表情も変わらないし、何考えてるかわからない。
クールビューティって印象だし、ストイックで真面目な感じだ。
だけれど、彼女は人間らしさもある。
その1つが、記者に根掘り葉掘り聞かれる事だ。
シャルロットはちゃんと弁えているが、中には好奇心から彼女の強さの秘密を探ろうとしてくる奴もいる。
彼女はそういうのが苦手だ。
あとは、テーブルトークシアター。俺で言うTRPGを好んでいるし、魚が苦手だったりする。
天下無敵の決闘代理人も人間らしい一面を垣間見せることがある。
クロリンデはコーヒーカップを見つめると、次に俺の顔へと目を向ける。
「……ただ、私はナヴィアとか、女性とはよく出かけたりするが、男性と2人きりで出かける事はあまりない」
「それは……まあ、そうだろうな。でも、クロリンデは美人だし、ナンパとかされないのか? 素性を知らない人とかに」
「……恐らくそういう声掛けをされた事は、ある。だが、どうすればいいか分からないから、基本的には無視する様にしている」
「そうなんだ。まあ、うん。でも俺もあんまりデート的なのには慣れてないし、気にしなくて大丈夫だよ」
俺はとりあえずクロリンデを安心しさせる様に言うが、クロリンデは「そうか」とだけ言ってまたコーヒーカップに口を付ける。
……あれ? なんか、ちょっと残念そう?
もしかして、デートを他の人とした事があるのが気になる、とか? いや、まさか。クロリンデはそういうタイプじゃないだろう。
「でも、その……私はあまり人付き合いが上手い方ではないとは、分かっているんだ。……その」
「ん?」
「私は……あなたに不快な思いをさせていないだろうか?」
クロリンデはカップをテーブルに置いて、少し視線を落とすとそう呟いた。
……え? クロリンデもそう言う事気にするんだ。まあ、でも確かに意外ではないし、そもそも嫌ならデート? にOKなんてしないけど。
「いや、別にそんなことはないけど」
俺がそう答えるとクロリンデは顔を上げてこちらを見る。
その目には少しだけ不安の色が見て取れるような気がした。
ちょっと可愛いと思ってしまった。
いや、向こうは神経かもしれないのにそれは失礼か。
「なら、いいのだが……その、あなたは……明るくて誰とでも打ち解けられるようだから」
え? そ、そう? 俺ってクロリンデから見るとそんな風に見えるの? ちょっと照れる。
でも、クロリンデは実直な子だから、嘘をつかないし、それに、気も使えるし別に不快に思った事はない。
これは俺が他者が知らない視点から見て、彼女の過去なども一部知っているから言えることかもしれないけれど。
「いや、俺だって誰とでも仲良くなれる訳じゃないし。それに、クロリンデ、美人だから……やっぱりまあ、2人って事はそれなりに緊張はしてるって」
「……え?」
俺がそう言うと、クロリンデは少し驚いた様子だったが、少し頬を赤らめて顔を逸らした。
「そうか……それは……」
クロリンデは顔を伏せ、それから少ししてコーヒーカップに口を付ける。
「……」
そう言って口元を緩ませるクロリンデを見ると、やはり彼女は美人だとは思うのだが、同時に、可愛いと思った。
※※※
それからクロリンデとコーヒーを飲みながら、しばらく話した後、店を出た。
それから少しして。何故か俺はフォンテーヌの草原に座っていた。
クロリンデは仕留めた鳥を解体して、料理を作っている。
「あ、ああ。ありがとう」
俺は少し戸惑いながらクロリンデから料理を受け取ると、それを食べ始める。
……うん。まあ、美味しいは美味しいんだけど、なんかこう、ちょっと違うというか。
───やっぱりちょっとズレてる?
「その……口に合うか?」
クロリンデがそう聞いてくるので、俺は少し考えて。
「うん。美味しいよ」
と返す。すると、僅かにクロリンデは嬉しそうな表情をした。
なんだろう……なんか、餌付けされてるみたいな気分だ。
まさかこう、動物が求愛する的な? クロリンデは俺が食べ終わるのを見ると、次はプリンを持ってきた。
「あ、うん。ありがとう」
俺はお礼を言って受け取ると、またそのまま食べ始める。
なんか、いたせり尽くせり、だな。いや、別に困ることはないし、いいんだけど。
……でも、なんというか。ちょっと気を遣いすぎな気はする。
もっと自然でいいのに。
そう思って俺はクロリンデの方を見たが、彼女は至っていつも通りだ。
いや、彼女が無理をしている様には見えないし、普通にいつものポーカーフェイスで、俺の方をジッと見ている。
ちょっとこれ、勘違いするって。
クールな美人が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる……って。
イヤイヤイヤ! 変な妄想するな俺。
「その……何か?」
俺がクロリンデの方を見ていると、彼女は少し首を傾げた。
俺は慌てて視線を逸らす。
「いや、別に。このプリン美味しいな。って」
「そうか。それは良かった。おかわりもあるから遠慮なく言ってくれ」
クロリンデはそう言って、少し微笑むと、自分の食事に取り掛かるのだった。
……うん。まあ、でもなんかこういうのも悪くないかも。
割と構えてたけど、普通だ。うん、普通。
……いや、でもこれデートか? なんか違う気がするけど。
……まあいいや、とりあえず気にしないでおこう。
うん、気にしたら負けな気がする。
そう思いながらもプリンを食べ進めるのだった。
※※※
それから少しして。俺とクロリンデはフォンテーヌ廷を歩いていた。
「それで、その……実は……」
クロリンデは俺の方を向いて、言いにくそうになにか言おうとしていた。
なんだろ? なんか用事でもあるのか?
そう思って俺が首を傾げていると、クロリンデは意を決した様子で口を開く。
「その……私は、あなたと…………」
そんな時、カメラのシャッターを切る音が後ろから聞こえた。
振り返ると、カメラをこちらへ向ける人がいた。
知らない男性記者だ。
多分、シャルロットとは違う会社の奴だろう。
「失礼します! クロリンデさんとお見受けしましたが!」
記者はこちらにズカズカと歩いてくる。
え? なんだこの人……やけにグイグイ来るな。
クロリンデは無表情に見えるが、困ってる気はする。
多分、あまり関わりたくないんだろうな。
でも、記者の男はお構いなしにクロリンデへと質問する。
「クロリンデさん! あなたは何故決闘代理人をされているのですか?」
あ、それ聞くんだ。まあ、確かに気になるけど。
って、今普通にプライベートでクロリンデで一緒にいるし、邪魔しないで欲しいんだけど。
俺は少しムカつきながらも、とりあえず記者からクロリンデを守る様に彼女の前に立つ。
「ちょっと……あの。今質問する必要あります? クロリンデさん、困ってるんですけど」
俺がそう牽制すると、記者は俺の方に目を向ける。
「あなたは部外者ですよね? クロリンデさんに取材する事にご不満でも?」
「いや、普通にプライベートで質問は良くないですって。邪魔しないで貰えます?」
俺がそう言うと記者は俺とクロリンデの方を交互に見る。
「? あなたはクロリンデさんの恋人ですか?」
「はあ? そんな事関係ありますか? なんでわざわざ言わなきゃなんないんですか? それに、邪魔しないでって言ってるんです」
俺がそう記者を睨みつけると、そいつは顔を歪ませる。
「それはこちらのセリフです! 私は今クロリンデさんに取材しているんですよ? 部外者は引っ込んでて貰えます?」
「はあ? だから、それがプライバシーの侵害だって話してんですけど? 貴方の名前何ですか? そこの会社に抗議させて貰いますけど!」
「っ! それは……」
記者は少し口ごもる。
「それに、クロリンデは取材とか嫌いです。迷惑してるし、プライベートを侵害する権利なんて貴方にはない!!」
俺がそう言うと記者は少し怯んだ様子だったが、それでも引かない。
「で、でも……私は記者としてクロリンデさんの取材「彼女が言いたいことがあればその時話が入ると思います。気持ちは分かりますけど、だからって俺たちのデートの邪魔はしないでくれますか!」
俺はそこまでハッキリ言い切ると、クロリンデの手を取り、その場を後にする。
クロリンデは少し驚きつつも、素直に俺に手を引かれてくれた。
そのまま俺たちは手を繋いで街の通りまでやってくる。
「その……すまないな。巻き込んでしまって……」
少し間を置いてからクロリンデはそう言った。
彼女はまたいつものポーカーフェイスに戻っているが、少し安心している様子だった。
「いや、別に気にしてないって。でも、俺もちょっと感情的になりすぎたかな? ヌヴィレットさんみたいに冷静に対応出来れば良かったんだけど」
「いや、それは……いい。その…………」
クロリンデは少し言いにくそうにしていたが、やがて意を決したように口を開く。
「……嬉しかった。……ありがとう。蒼海はやっぱり優しいな」
クロリンデはそう言って微笑むと、俺の手を優しく握った。
……手袋越しでも感じる、クロリンデの温もり。
俺は思わずドキッとして彼女の顔を見ると、少し恥ずかしそうにはにかんでいた。
そんな表情、初めて見た。
「いつもあなたは私を応援してくれていた。私が戦う時は、基本的にあまりないが、誰かの正義を代理する時だけ私は、この剣を振るう。そう決めている」
クロリンデはそう言って自分の胸に手を当てる。
「だが、あなたは……私にとって特別な存在なんだ。こうして今も手を繋いで一緒に歩いていると、心が温かくなる。私はこういう事に詳しくないが……きっとこれは、好きという気持ちなのだろう」
クロリンデはそう言って頬を赤らめながらも俺の事をジッと見つめている。
その目は少し潤んでいて、不安げな様子だったが、同時にどこか期待しているようにも見えた。
「……あの。それって……」
俺がそう言いかけると、クロリンデは繋いでいた手を離した。
「いや、すまない……今のは忘れてくれ。でも、一つだけ言えることは……私はあなたの事が好きだ。その気持ちに噓はない。だから、その……またこうして一緒にいてくれると嬉しい」
クロリンデはそれだけ言い残すと、くるりと踵を返して歩いていく。
カツカツと、ブーツの音が辺りに響く。
「……」
俺は呆然とその場に立ち尽くしたまま、クロリンデの後ろ姿を見つめている事しかできなかった。
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