If   作:F1さん

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イチャイチャ系


ゼンゼロ
当代最年少の「虚狩り」と恋人の青年


 

 ──星見雅。

 

 彼女は、新エリー都の公的組織「H.A.N.D」に存在するエーテリアス討伐やホロウ災害の対応を専門とする遊撃部隊「対ホロウ事務特別行動部第六課(対ホロウ6課)」の課長だ。

 

 長いふわふわとしている狐のシリオンらしい黒い獣耳に、姫カットに編み込みハーフアップ。そして、鋭い眼光を秘めた赤い瞳。

 

 その美貌は──麗しく。

 

 長いまつ毛が影を落とすその凛とした佇まいは、ミステリアスな魅力を感じ、大半の人は魅入られるだろう。

 

 凛とした雰囲気から、和洋折衷の(恐らく改造された)制服のプリーツスカートは袴の様に錯覚してしまう。

 

 対ホロウ6課は戦闘能力に優れたメンバーばかりだが、容姿も優れており、市民にアイドルじみた人気を誇っている。

 

 しかし、この雅という女性には少し困った癖がある。

 

 マイペースな彼女は日常に“変な修行”を自分に課している。

 

 そして今──その被害を受けているのは、俺だ。

 

 雅は俺の1kの住む部屋のカーペットに座る俺の膝の上に正座で座っていて。

そして、俺が買ってきた、まだ切り分けていない丸いメロンをしっかりと抱えている。

 

 こんな拷問どっかでみたな……旧時代の映画だっけ?と俺は現実逃避をする。

 

 膝に伝わる服越しの温もりは暖かいし、髪の手入れも欠かせないらしい雅の髪からは高級そうなシャンプーのいい匂いがして、俺の理性を削る。

 

 彼女は恐らく、目を閉じているに違いない。

 

 雅曰く「好きなものを我慢して精神統一をする修行」と言っていたからだ。

 

 彼女は目を閉じれるが、俺は色んな意味で閉じれない。つらい。

 

「なあ……雅」

「……」

「あの……修行なら、膝から降りてだな」

「……」

 

 俺の願いは届かず。無視してるのか?これ……。

俺はさっきも忠告した言葉をもう一度言うことにした。

 

「なあ雅……この修行、別に俺の上に座ってやらなくても。普通に椅子に座ればいいんじゃないか?」

「それはダメだ。此処で無ければ意味が無い」

「? そうなのか?」

「ああ。それに」

「?」

「一寸(いっすん)の光陰軽(こういんかる)んずべからず*1──こ(・)う(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)と(・)、(・)お(・)前(・)と(・)の(・)時(・)間(・)を(・)無(・)駄(・)に(・)す(・)る(・)事(・)に(・)な(・)る(・)だ(・)ろ(・)う(・)。(・)だからダメだ」

「っ!?」

 

 俺は思わずドキッとする。

 あまりにもストレートで、彼女の太(・)刀(・)筋(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)真(・)っ(・)直(・)ぐ(・)な(・)言(・)葉(・)だ(・)。(・)

 だが、すぐに冷静さを取り戻し口を開く。

 

「そういうこと言われると照れるんだけど」

「気にするな。本当のことを言ったまでだ」

 

 雅は淡々と答える。

 どういう意味だよ……と俺はモヤモヤしたり、様々な感情を飲み込み、ため息をつきつつ苦笑する。

 

 確かに久しぶりの休日だ。

 

 俺も仕事で忙しいし、雅もそうだ。

 

 だからこそ連絡を取りあって、ようやく休みが合ったのが今日だったのだ。

 

 ただ俺が考えていたのは二人でゆっくりデートをするものであって……。家デートは兎も角、こんな謎の状況になってしまうとは思わなかった。

 

 俺達は付き合って1ヶ月になる。

 俺は雅が好きだし、彼女もまた俺の事が好きなのだろうと思う。

 

 雅は、時々天然なのか……よくわからない言動をするのでたまに判断が難しい。

 友人としての付き合いで言えば学生時代からの付き合いだ。

 あの頃は互いに余裕が無く恋愛するどころではなかったし、まさか恋人になれるなんて夢にも思わなかった。

 

 恋人になった今、距離感覚が掴めない。

そんな事情から、今もキスくらいしかしていない。

 俺が中々先に進めないのもある。

 

(なんか色々と考えてたら喉乾いたな)

 

 昨日、慌てて部屋を掃除して……今日はもう一度来るまで掃除して……時間が近くなってから慌ててシャワーを浴びた。

 

 それから……。

 

 結局、緊張もあったが準備万端だったのに、雅が家に入るなりこの状態だ。

 結局淹れたお茶すら飲んでいない。情けない。

とりあえず気持ちを切り替えたい。

 

……でも動いたら彼女の邪魔になるだろうか。

 

 いやでも……。

 

 そんな葛藤をしている間にも時間は過ぎていく。

 

……

 

…

 

「……雅。喉乾いたし、飲み物取りに行ってきていいか? 

流石に水分取らないと。

それにそもそもこの修行の終わりがいつになるか話してもらってないし……普通にメロン、悪くなるぞ?」

 

 すると、雅の長い耳がピクリと反応した。

 相変わらずメロンを両手で抱えたまま彼女がこちらを振り向いて視線を合わせてくる。

 

 思わず息を飲むような美しさがそこにあった。

 

 赤い瞳がまっすぐに俺を見た後、瞬きをする。

 

 俺は、その美しい顔立ちに一瞬見惚れてしまい言葉が出ない。

そんな中、彼女の小さな口が開かれる。

 

「……いいのか」

「は?何がだ?」

「私を膝の上に乗せておきながら……何もしないのか?」

「いや!? だって修行だって言ってただろ、これ!?」

 

 俺は混乱しながら大声を出す。

 

 まさかそういう流れになるとは予想外だった。

 

 なんとか彼女の体を支えているが、動揺は隠しきれない。

 

 一方で雅はいつも通りの表情だ。

 しかし微かに顔が赤く見えた。普段クールな彼女のその珍しい様子に俺はドギマギしてしまう。

 

 ──そして、1つの結論に至る。

 

「……もしかして、甘えてたりしたのか?」

「……否定はしない」

 

 俺の言葉に少し恥ずかしそうにしながら小さく首肯する雅。

 

 どうやら図星だったようだ。

 

……甘え下手すぎるこの子……!! 

 

 俺は思わず声に出しそうになった。

 

 けれどそれを抑えて必死に思考を巡らせる。

 

 彼女の性格を考えれば……今まで遠慮していたんだと今、理解した。

 

「あー、あのさぁ」

「なんだ」

「もっとこう……わかりやすく甘えてくれると俺も嬉しいんだけど……」

 

 俺がそう言うと雅はきょとんとした顔で見返してくる。

 可愛いと思ったけれど言わないでおいた。

 一々口出ししていたら話が進まないし。

 

 雅はしばらく考え込んだ後口を開く。

 

「つまり……こういうことか?」

 

 雅は俺の胸元へ頭を預けるようにもたれかかると、そのまま身体をすり寄せてくる。

 

 突然の出来事に驚いている暇もなく更なる行動をされる。

 

 ガン、とメロンが落ちて転がる音が聞こえた。

だが、そんな事を気にしている暇は無い。

 

「ちょっ!?」

 

 雅は俺の首筋辺りに顔を押し付け始めたのだ。

 まるで猫が自分の匂いを付けるような仕草と、柔らかな感触。

 

「待ってくれって!」

 

 慌てて声を上げたもののそれが逆効果になり、余計強く擦り付けられてしまう始末である。

 

 しかも今度は腕ごと絡ませてきた為身動きすら取れなくなってしまったのであった。

 

(待った、待った……! シリオンは普通の人間より力がある……! このままだとマズイ!!)

 

 内心冷や汗をかきながら焦っていたが、ふと動きが止まったことに気づいた。

 

 おそるおそる見ると彼女の顔が目の前にあったため、思わず目を見開く。

 

 その瞬間、雅は不意打ちと言わんばかりにキスをしてきた。

 

 それはとても優しくて柔らかな感触。

 

 唇同士が触れるだけのキス。 

 

「あ……えっと」

 

 急展開すぎて俺はパニックになってるし、頭の中は真っ白だ。

 ようやく回復してきたところで羞恥心が襲ってきて顔が熱くなった気がした。

 

 ちらりと見てみると彼女は満足そうな表情を浮かべていた。

 

 ……ドヤ顔が可愛い。

 

 けれどすぐに何かを思い出したようで少し険しい顔をする。

 

「……少々やりすぎた。許してくれ。過ぎたるは猶及(およば)ばざるが如(ごと)し、だ」

 

 そう呟いたあと項垂れている姿を見ると、こんなに可愛い姿を見せられて怒れるはずもない。

 

ズルいな。

 

「謝らないでいいって」

 

「では……」

 

 再び俺の肩に手を置き身体全体を使って密着しようとしているようだったので、制止するべく止めに入る。

 

 今度は普通に背中に回した手で咎めるように優しく、軽く叩いてみたところ大人しく従ってくれた。少し残念そうな雰囲気だが、仕方がないことなので諦めて貰おう。

 

「智者(ちしゃ)は時に後(おく)れず、勇者は決(けつ)を留(とど)めず*2……どうして邪魔をする?」

 

 むすっとした表情で抗議してくる彼女に対して苦笑いしながら答える。

 さっきより慣れてきたようだけれどそろそろ限界だ。

 

「そろそろ俺も限界かもなんだよ……ちょっと、待っててくれ」

 

 正直言うと既にギリギリであったため危うかったところである。

 だけどそれを悟られないように平静を装いつつ話しているのだが、バレていなかったらしい。

 

 それほど必死だったのかもしれない。それは普通に嬉しい。

 

 雅が俺の言葉に意外そうに目を見開いて見つめ返してくるのに対して、なんとも言えない気持ちになってしまう。

 

 まるで猫騙しをされたかのような表情で固まっている様子を見るとつい笑みがこぼれる。

 

 すると彼女はハッとして姿勢を正し、改めてこちらを見てくる。

 

 なんだかおかしな空気になった気がするけれど気を取り直すことにした。

 

 俺は息を吐く───少し落ち着いた。

 

 そして目の前の雅を見詰め直す。

 

 彼女は未だ不思議そうな顔をしたままなので続けて言うことにした。

 

「変に誤魔化さないでいいって。ほら、修行は終わり。

というか、せっかく2人なんだからそんな事したら怒るぞ?

 大人しく一緒にメロンを食べ……あ。そうだ、さっき落ちてったな……。拾うから、ほら、立ち上がって貰っても?」

 

 俺は軽く首を傾げる。すると彼女は素直に従ってくれ、立ち上がってくれた。俺も立つと床に転がっていたメロンを拾い上げて小さなキッチンに向かうことにする。

 

 だが、歩き出そうとした時、突然服の裾を引っ張られたので、立ち止まり振り返る。

 

 不思議に思いつつ待っていると、自然と視線が合う。

 

 その瞳には先程までの焦りのようなものは消えており、代わりに真剣さが感じられた。

 

「……ありがとう。朔」

「当たり前だって。気にしないで」

 

 そう伝えて微笑むと、彼女は笑みを返してくれた。

 それから転がったメロンを軽く洗い、切り分け始める。

 

 雅はただ静かに見守っていてくれていたようだが、耳はピコピコと動いていて微笑ましい。

 

 そんなことを考えていたが、切り終わったので、皿とスプーンを用意して座り直した雅の所に戻った。

 

「「いただきます」」

 

 テーブルの前で手を合わせ、良家の娘らしいしっかりとした挨拶を耳にしながら、早速食べ始めることにする。

彼女も同じタイミングで食べ出したようだ。

 

 甘くてジューシーで美味しい味が広がっていく。

 

これは当たりかも知れない。

 

 ふと前を見ると雅も幸せそうな表情を浮かべている。

 

 彼女は表情にはあまり出ないが、いつもその長い耳が言葉を代弁してくれる。

 

 今も楽しそうに動いていた。

可愛いなと思うけれど言ったら気にするかもしれないので黙っていた。

 

 それに、とりあえず今は彼女との甘いひとときを楽しみたいと思ったからだ。

 

 星見雅は───最年少の「虚狩り」。

 

 だけれど、俺にとっては不器用な大切な恋人だ。

 

 ──この俺が生きる平和な日常は、きっと。

彼女の様な人々に護られているのだろう。

 

 

 

*1:
わずかな時間であっても、決してむだにしてはならない。

*2:
知者は好機を逃さない。勇者は決断をためらわない。




▪️簡易的設定
▪️朔/青年 雅と同い年
▪️H.A.N.Dに入っている
▪️気さくなお兄さん。外堀埋められている。
多分後に婿さんになる。雅父とは仲が良い。

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