「羽未、違いが分かるか?」
「分かんないっすね〜……」
私は思わずそう返す。いや、分からないのは石の善し悪しじゃなくて、なんで空といた私が鍾離先生といるかってことなんですけど。え、これ私がおかしいの??
「そうか……では、これはどうだ」
「あ、それは分かる。まだ石の方が分かる。木材とかよくわかんない。なんちゃらアッシュ材とアッシェン?うんたら材って名前似すぎ。あとホワイトが付く木がなんで2種類はあるの!?」
「よし分かった。一旦落ち着け」
「う〜ん、なんで?」
鍾離はなんとか私を宥めようとしてくれてるけど、私は全然落ち着いている。だって見た目が似ている木と名前が似ている木が紛らわしくて仕方ない。
「まず、これは石珀だ。」
「ああ、よくお世話になっております……。地中の塩の地下遺跡に沢山あるんだよね。色んなことに使うし。」
「ああ。それと、こっちは夜泊石。」
「あ〜、これはね。青く光ってて綺麗だよね。」
「そうか……それだけ分かったなら十分だ。では、最後だな。これとこれはどうだ?」
「あ、これは分かるよ!星銀鉱石はドラスパでしか手に入らなくて、清水玉は亀?の甲羅にたまに着いてる。」
「ふむ、ではこれは?」
「あ〜、それは……」
そんな感じで私が名前を覚えるまで先生に教えられた。
……ああ、めっちゃ時間かかった……。石の話だけで何時間使った?
石博士にさせるつもりなのか?この神……
。人間と生きる時間が違うからって、この神……。
まあ、でもこれでやっと帰れる。
でもナチュラルに考えて?私、鍾離に名前教えてないよ?
デジャビュ?デジャビュなの??
私は、鍾離に名前を教えた記憶はないぞ?
「あの〜、お兄さんや?」
「ん?なんだ?」
「なんで私の名前知ってるの?教えた記憶ないんですけど。」
「?お前はいつも俺と一緒に様々な場所を巡っていただろう?」
「は、はあ」
なに当たり前のことを?みたいな顔でこっち見ないでくれません?私、その記憶ないんですけど。
確かにゲーム内の鍾離には常日頃にお世話になっていたよ?
設置型で、沢山石砕いてくれるし。
よく高いとこに登る時とか、石砕いてくれて助かったし。
……でも?それはゲームでの話では?
というか本当に怖くなってきた。
いや、鍾離なら有り得そうだ。
夢の中にこんにちはできるし、神だし。魔神だし。
なんで現実だと思ってるの?
私の普通の人生は一体どこへ……。
私は心の中でため息を吐いて、考えるのをやめた。
だって疲れそうだし。私の精神が危険信号を出してる気がするし。
とりあえず空の所に帰ろう。
うん、そうしよう。
「私、そろそろ行くんで。じゃ、これで……「どこに行くんだ?」へ?空達と旅をしてるんで、探そうかと」
「ああ、旅人か。いや、その必要はない。」
「え、なんでですか?私空達探さないといけないし、それに……」
「その必要はない。」
「いやでも」
「大丈夫だ。璃月港の外は危険が多い。お前を1人にさせるわけには行かない。」
「え、でも私「璃月港の外は危険が多いのだ。分かるな?」あ、ハイ」
「分かればいい。では行こう」
「はい……」
なんで鍾離こんな押し強いの?おかしいだろ……。
そんな神じゃなかったよね?
急に人が変わっちゃった感じじゃん。
しかも、なんか腕掴まれてるけど、力が強すぎて振り解けないし。
え、これ私、このまま璃月港に監禁されるの?
……いや、それはない。うん。大丈夫。きっと大丈夫。多分大丈夫。
保護しようとしてるだけかもしれないじゃん?
私はそう自分に言い聞かせて、鍾離について行くことにした。
※※※
それから何故か鍾離の部屋に連れてかれてしまった。
いや、変な事はされてないけど。
ただ普通にお茶飲んだり、何故か七聖召喚とかをやったりしただけだし。
でも全然負けるんだけど。
この人強すぎない?
「あの〜、なんで私を連れて来たんですか?」
「ん?それはな、お前には璃月港で生活してもらおうと思ってな。」
「え!?いやでもここにいたら私帰れないから、それなら空達と旅をしたいんだけど、その方が楽しいし。」
「む、しかし……璃月港でもお前を狙っている輩が多いのだ。他の奴らに取られる前に手元に置いておきたい。」
「取られる?誰に?私、何でか空にはあまり話さないでフードを被るようにって言われてるから、悲しいけど知り合いとか友達とかいないんだよね。はは……」
そうした方が情がわかないし、いつか帰るなら……と言われてしまったら、ほぼついてくだけで何も出来ない私は、そうするしかなかった。
まあ、でもやっぱり空達と旅をするのは色んな事に巻き込まれやすいけど、それでも空達と一緒にいれることがとても楽しい。
だから私は璃月港で暮らすことは却下する。
「そう、か……ふむ」
「……鍾離?」
「いや、なんでもない。」
鍾離は何か考えるように顎に手を当てている様だ。
その仕草が絵になっている。
「……やはり、そうだ。一緒に住まないか?」
「……はあ!?」
「?何をそんなに驚くことがある。」
え、なにその私が可笑しいみたいな顔。
いや、私は普通でしょ?
唐突にそんな提案をされたら、誰だって驚くでしょ。
「いやだって……え?」
「ふむ、やはり璃月にいた方がいい」
いや、だからなんで!?
「そうだ、俺の家に住もう」
「え?いやいやいやいや!」
なんでそうなるの!?意味わかんないんだけど。
おかしいでしょ!絶対変だよ!!
そんなに私が好きなわけ?もうね……意味がわからない。
ああ、パイモンをもう一度見たくなってきた。
あのご飯を食べた後の笑ってる顔を見たい。癒しが欲しい……。
現実逃避をするしかなかった。
「これからよろしく頼む」
「え?あ……はい。よろしくお願いします……?じゃないわ!私は璃月に住まないから!」
「?なぜだ。」
え、逆になんで私が住むと思ったの?
逆に私が聞きたい。
「なぜって……この国にいたらいつまでたっても家に帰れないかもでしょ?それに旅人達と旅するの楽しいし」
「……そうか。」
「うん、だから私は璃月港に住まないよ。ごめんね?」
「……分かった。」
「え?あ、分かってくれたんだ……よかった……」
なんか少し罪悪感が湧くけど、まあ仕方ないよね。私は家に帰りたいし。
「──ではこうしよう」
「?」
「俺がお前の傍にいる。一緒に旅をしよう。それなら璃月に住まなくても、いつでも一緒にいられるだろう?」
「は!?いやいやいや!自分の立場分かってる!?」
「ああ、分かっている。」
いや、絶対分かってない!
岩王帝君だよ?偉いんだよ?璃月の神様なんだよ?
隠してればいいかもしれないけど、仙人の人達が知ったら、私殺されるかもしれない。
魈辺りが怖すぎる……。
いや、流石に殺されはしないだろうけど。
「いや、あの、鍾離?ちょっと考えてみて?君がいきなりいなくなったら人間達は大丈夫だろうけど、慕ってくれている仙人の人とかに、迷惑が掛かっちゃうんじゃない?それに、ほら、ね、色々あるでしょう?なんか、その、解釈違い的な気持ちもた私にはあってね?その……」
「?大丈夫だ。お前の事は俺が守るからな。」
「あ、はい」
もうダメだ……この人。話にならない。
たまにいるタイプだ。話も全然通じない人。しかも自分が正しいって思い込んでるタイプの……。
とりあえずこの場は納得したフリをして逃げよう。
空達だって私の事探してくれるはずだし、絶対そのうち会える……よね?
※※※
あれから私は鍾離との同居が続いている
。
何故だ。
本当になんでこうなった?
家にいると暇つぶしのおもちゃとか、服とか、食器とか色んなものを持ってくる。
うん、ありがたい。
養ってもらっている身、みたいになってるし。
でも、料理をしようとしたら危ないから、と台所を出禁にされ、掃除も危ないからと禁止。
私が何に見えているんだろう?
まあ、長い事生きている彼にとっては赤ちゃんみたいな物かもしれないけど。
成人してるんですが?それに流石に何も出来ない訳では無いのに。
「あの、鍾離」
「なんだ?」
「私って成人してるんですけど……」
「ああ、分かっているが?それがどうかしたのか?」
「いや、だからその……」
「ん?なんだ。言ってみろ」
「えと、掃除とか料理とか……させて欲しいな〜って」
「……ダメだ」
「いやいやいや!何も出来ないのは流石に罪悪感とかあるし、体にも良くないし、私の精神衛生上良くないよ?適度な運動と日光は必要だって言うよ?」
「む……いや、だが……」
「ね?お願い。このままだとストレスで鬱になりそう。」
私は両手を合わせ、鍾離に懇願する。
ここで折れたらダメだ。絶対また鳥籠の鳥状態に逆戻りしてしまう。
「……はぁ、仕方ないな。」
「やったー!ありがとう!ちなみに外には出ていいの?」
「いや、それはダメだ。」
「え!?なんで!?私暇なんだけど!!」
「む、それは……」
「ね?お願い。ちょっとした買い物とかもしたいし……」
「……分かった」
「やった!ありがとう!」
よしっ!勝った!!私は心の中でガッツポーズする。
これで外出が出来れば、空達と会える可能性が増える。
悪いけれど、私にとって大事なのは日本の我が家に帰る事なのだ。だからその為には、ここで諦めるわけにはいかない。
「だが、必ず俺と一緒に行くぞ」
「え、なんで?」
「お前は目を離すとすぐにどこかに行ってしまうだろう?だから俺が一緒にいないとダメだ。それによく物を探して迷子になっていただろう。」
「うっ……それは……」
でも、それはゲームでの操作の話であって、現実では鍾離と一緒に行動した事は無いはずなんだけど。
「とにかく、俺が一緒にいない時は外に出るのはダメだ。分かったな?」
「……はい。」
私は渋々頷くしかなかった。
※※※
今日は鍾離と一緒に街を歩く事になった。
この璃月港は、本当にゲームと似ている街並みだ。
聖地巡礼しているみたいで楽しい。
「ねぇ、鍾離!あそこのお店寄ってもいい?」
「ああ、構わないぞ」
「やった!」
私はウキウキしながらお店に並べられた丁寧な職人技で作られている簪や櫛を見る。
どれも綺麗で素敵だ。
いや、お金は無いから見るだけなんだけれど。
流石に鍾離にみたいに誰かへのツケで何かを購入する事は出来ない。
私の常識がそう告げている。
流石貿易が盛んな璃月港。品揃えが豊富だ。
僅かに海の匂いが風に乗って、潮の香りが鼻腔をくすぐる。
正しく港町という感じがする。
「何か欲しいものでもあるのか?買ってやろう」
「え!?いいよ!そんなつもりで見てた訳じゃ無いし!」
「遠慮するな。ほら、どれが欲しいんだ?」
「だから大丈夫だって……」
私は苦笑いしながら答えると、鍾離がふむと言いながら顎に手を当てる。
その仕草すら様になっており、流石美形は違うなと思った。
「よし、分かった。なら俺が勝手に選ぼう」
「へ!?ちょっと!」
私が止める前に鍾離が品を手に取り、物色し始めた。
いや、目利きだとは思うけれど!
鍾離は、手に取った簪を色んな角度から見てみたりして吟味している様だ。
そして何かを見つけたのか、私を見て手招きする。
私はそれに素直に従うと、鍾離は私の手に1つの簪を乗せた。
「これはどうだ?お前の髪色によく合っている。」
「あ、本当だ……可愛い……」
私は受け取った簪を見てみる。それは赤い花をモチーフにした物で、とても繊細に作られているのが分かる。
きっと職人技が光っているのだろう。見るだけでため息が出るほど綺麗だった。
「気に入ったのなら買おう」
「え!?いや、高そうだしいいよ!」
私は慌てて手を引っ込めるが、鍾離はそれを許さず強引に握らせる。
「遠慮するなと言っただろう?」
「お。鍾離先生。それ買うのかい?流石目利きだねぇ。」
先程から見ていた店主らしき男性に話しかけられる。
店主は人当たりの良さそうな笑顔を浮かべている。多分この璃月港に長年住んでいるのだろう。
気さくな雰囲気の人だ。
「ああ、これを貰う」
「あいよ!毎度あり!」
そういうと鍾離は恐らく胡桃に貰ったのであろう長財布を取り出し、お金を払っていた。
今回はちゃんとモラを持ち歩いていたんだ。なんかいつもお金持ち歩いていないイメージがあったから驚いた。
「ほら、受け取るといい」
「あ、ありがとう……って!いやだからいいのに!」
私は断ろうとするが、鍾離は私の手に強引に握らせる。
私はそれを落とさないように慌てて手に力を込めた。
「私何も返せないんだよ?」
「俺が勝手にしたことだ。お前が気にする必要は無い」
「でも……」
そんなやり取りをしていると、店主がニコニコと笑いながら話しかけてきた。
「仲がいいねぇ!付き合ってたのかい?」
「へ!?ち、違います!ただの同居人です!」
「え、違うのか?俺はてっきりそうだと……」
店主が意外そうに言う。
いやいや!なんでそうなるわけ!? 私はただの居候だよ!
「あ、あの……私、もう行きますね!」
私は居た堪れなくなって、その場を後にしようとするが鍾離に腕を掴まれてしまう。そしてそのまま引き寄せられる様に抱き寄せられた。
「へ!?ちょ、ちょっと!?」
「すまない。彼女は恥ずかしがり屋なんだ」
鍾離は私を引き寄せたまま、私の頭を撫でながら店主に言う。
「あ、ああ、そうなのかい?それは悪かったね」
店主は困惑しながら謝罪する。
いや、なんで私は抱きしめられてるの!?人前で!私はこういう文化分からないからやめて欲しい。
「では、俺達はこれで失礼する」
「はい!?ちょ!ちょっと!」
私はそのまま引き摺られるように店を後にした。
※※※
「もう!何なの!?」
私は鍾離に抗議するが、彼は特に気にした様子もなく答える。
「ああ。あれはこれ以上他の人間にお前を見せたくなかっただけだ」
「は、はあ?」
意味が分からない。
私は思わず素で返してしまう。
ただ店主のおじさんと会話してただけなんだけど。
「他の人間と話すのは1分までだ。それ以上は許さない」
「時間制限!?なんで!?」
「当たり前だろう。お前は俺のものだ」
「いやいやいや、いつの間に私は鍾離の物になった訳?」
「違うのか?お前は俺から離れるつもりか?」
「いや、離れようとは思ってないけれど……宝盗団とか怖いし。でも、ただもうちょっと自由が欲しいと言うか……」
「ダメだ」
「なんで!?」
さっきから全然話を聞いてくれない。
なんで?意味がわからない。
でも、ここで諦めたらダメだ。私は家に帰らないといけないし、空達にも会いたい。
だからここで折れる訳にはいかない。
私は決意を胸に、鍾離に向き合う。
「あの、やっぱり私、空達と旅をしたい。だから……」
「……ダメだと言っただろう?」
「え、」
私は鍾離の雰囲気が変わった事に気付き、思わず後ずさりする。
でもそれは遅く、すぐに腕を掴まれてしまう。
そしてそのまま壁に追いやられた。
「お前が他の男の名前を口にする度に、俺は嫉妬に狂いそうになる。お前と空の仲は知っているが、それでも俺の目の前で名を呼ぶ事は許せない」
「そこまで情緒不安定だっけ!?え、ちょっと!近いって!!」
私は必死に抵抗するが、びくともしない。
それどころかどんどん距離が縮まっている気がする。
「ちょ、本当に近いから!」
「お前は俺と一緒にいれば何も不自由しない。俺がずっと傍にいよう。だから俺だけを見ていればいい」
「は!?いや、ちょ、本当に離れてってば!」
私は必死に抵抗するが、鍾離には届かない。むしろ逆効果だ。
彼は私の腰に手を回し、さらに引き寄せるように抱きしめてくる。そしてそのまま首筋に顔を埋めた。
「ちょ、本当にやめてってば!ここ外だから!」
私は涙目になりながら抗議するが、それでも彼は止まらない。それどころか首筋を甘噛みしてくる始末だ。
「いっ……!」
思わず声が出てしまい、慌てて口を抑える。
すると今度はぺろりと舐められる感触があった。
どうやら彼は私の血を舐めているらしい。
「そんな強く噛んでたの!?確かに痛かったけど!ちょ、本当に離れてってば!!」
私は再び抗議する。
しかし鍾離は無視するかのように再び噛み付いてきた。
「痛っ!」
先程より強く噛まれた為か、鋭い痛みが走る。
「今度やったら同じ事をするしかない。分かったな?」
「わ、分かった!もう言わない!」
私は涙目になりながら答える。
本当に痛い。血は出てるし、なんかちょっと鉄臭い気がする。
というかさっきの衝撃で買って貰った簪を落としてしまった。
せっかく鍾離から貰ったものなのに。
まあ、あれ以上痛い事はもうされたくないけど……。
私はそう思いながら地面に落ちた簪を見てみる。どうやら壊れていない様だ。良かった。
「ならいい」
簪を手で綺麗に土埃を払った後、とりあえずポケットの中に入れておく。
すると鍾離は満足そうな笑みを浮かべ、私の手を優しく握った。
だけれど、私の脳内には売られていく牛が思い浮かんでいた。
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