If   作:F1さん

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雷電将軍(影)と八重神子と男性プレイヤー 前半

 

「……大丈夫ですか?」

 

 目が覚めたら真っ先に目に入ったのは綺麗な顔だった。

 

 耳に馴染むような、柔らかな声は、染み渡るように耳の奥まで入り込み、脳の中に溶け込む。

 

 心配そうに顔を覗き込む綺麗な顔立ち。

 

 可愛いと言うよりは美人系に見えるが、少し困惑したような瞳は可愛くも見える。

 

「ん、ああ……大丈夫」

 

 最初、『雷電将軍』と言う名前が浮かんだが──その声音で彼女が『影』だと分かった。

 

 俺は、影は表立った『雷電将軍』よりほんわかしている様に感じる。

 

「それは安心しました。朝なので起こしに来たのですが、起きれそうですか?」

 

「ん? ああ、うん。でも、ちょっとなんか申し訳ないな、稲妻のトップである影にわざわざ起こしに来てもらうなんて」

 

「いえ。私には時間がありますから。それに、蒼海といると私は……きっと『楽しい』ので、私には苦にはなりません」

 

「そ、そっか。なら、良いんだけど……」

 

「それより、よく私が分かりましたね?

昨日、あなたを起こしに来たのは『将軍』ですが……」

 

 俺が起き上がりながら、立ち上がる影を見ると、影は少し瞳を揺らがせながら聞いてくる。

 

「ん? ああ、影は声がなんというか、ほんわかしてるから」

 

「声、ですか。意識してなかったので気がつきませんでした。……ですが、蒼海が言うならそうかもしれません」

 

 嬉しそうに微笑む影を見ながら、俺も自然と頬が緩んだ。

 

 将軍は凛としたクールな雰囲気だが、影は凛としているが、ほんわかとした雰囲気があり、暖かい。

 

 どちらも美人ではあるが、可愛いと言う方がぴったりと当てはまる影だ。眞はどんな患者だったのだろうか。

 

 故人を思っても、ゲーム内の情報だけだと優しい子だった、としか分からないからなんとも言えないけれど。

 

「それでは朝食に向かいましょう。私は先に行きます。あなたは着替えてから来てください」

 

「あ、うん。分かった」

 

 影が歩いていき、襖を静かに閉めるのを見送る。

 

 長い紫が混じった三つ編みが揺れるのを、俺は猫じゃらしを追う猫のように、少し目で追った。

 

※※※

 

「ふふふ……汝、また影に起こしてもらったようじゃな? 愛されているようで嫉妬するぞ」

 

「……八重神子、知ってて言ってるよなぁ? その言い方」

 

「はて? 何のことやら。妾はカマをかけただけじゃ」

 

「ぐっ……!お前さぁ、そうやって色んな人をからかって……。いつか背後から刺されるぞ?」

 

「ふふ……そんな事をする命知らずはいない。ということで心配無用じゃ」

 

 神子を尻目にため息を一つ吐いた。

 

 和風の巫女服の八重神子は楽しげに桃色の唇で弧を描く。

 

 八重神子は狐だ。そして、他人をからかうのが大好きだ。

 

 今、俺をからかったのもその一環だろう。

 

 八重神子は何を考えてんだかよく分からない。ただ言えることは彼女は『煽ること』が好きなんだと俺は思う。

 

 今、俺は影と一緒に暮らしている。

 

 夢から覚めたら彼女の一心浄土にいたが、何故か彼女は直ぐに受け入れた。

 

 よく分からないが、夢を通じて俺の原神の画面かデータに通じていた、なんて事を言われた気がする。

 

 今では天守閣にある一室で、客人として生活してる。

 

 影はやる事があるからと出かけたので何をしようかな、と部屋にいたら八重神子がやってきて、冒頭の会話になった。

 

「それで、汝は今日は何をするつもりじゃ?」

 

「ん? 特に何も決まってないかな。影に『蒼海は自由にして下さい。ですが、誰か共に連れて行って下さい』って言われてるから……料理でもしてようかなって悩んでたけど」

 

「……ふむ。暇と言うことじゃな。ならば、少し妾に付き合え」

 

「……? 何かすんの?」

 

「くふふ。秘密じゃが、汝には特に利になるような事かもしれぬぞ? 楽しみにしておくと良い」

 

 ニンマリと弧を上げて笑う八重神子の顔は怪しい。味方だとしても何かを常日頃考えていそうな、そんな雰囲気があるから苦手だ。

 

 だけど、本当に悪いヤツじゃないのを知っているし、実はちょっと可愛いところもあるから憎めない。

 

※※※

 

 八重神子に案内され、稲妻城を少し歩く。

 

 すると、とある店で彼女は足を止めた。

 

「ここじゃ」

 

「ん? ここは……八重堂じゃん。お前の出版社」

 

「そうじゃ。その八重堂じゃ。暇ならここで時間を潰してはどうかと思っての。汝も、娯楽小説には興味あるじゃろう?」

 

「え、まあ、そりゃ。暇つぶしにもなるし……。でも、出版社って忙しいだろ? 入ったら邪魔じゃないか?」

 

「問題ない。妾が許可する」

 

 カウンターにいる稲妻人と目が合うと俺は軽く会釈をし、八重神子は気にせず店の扉を開くと、中には誰もおらず閑散としていた。

 

「誰もいない……」

 

「今日は売り子以外休みじゃからな。ほれ、そこに座って暇を潰すと良い」

 

 八重神子に指定された椅子に座り、棚を眺める。

 

 巻物や書物が並んでいる。

 

 八重堂は様々な小説を販売しており、幅広いジャンルの本が置いてあるので見ていて飽きない筈だ。

 

「ふむ……汝は何か気になるものはあるか?」

 

「……いや、特にはないかな」

 

「そうか? なら、妾が選ぶとしよう」

 

 そう言うと八重神子は顎に手を当てて考えるように唸る。

 

「そうじゃな……これなどどうじゃ? 『夢漠記』」

 

これ瑞希の許可取った!? 怒られるって!」

 

「ふふ……あっちも前に妾をテーマにした出し物を出した。妾がこういう事をしても大丈夫じゃろう」

 

「本当か、それ……」

 

 瑞希、とは夢見月瑞希と言い、夢喰い獏の妖怪で八重神子の幼なじみで、『秋沙銭湯』の大株主で、心理療法士だ。

 

 八重神子とは似たジャンルの経営者同士ライバルであるが、本来は仲は良い。

 

「まあ、これは試作じゃ。まだ、世に出してない。だから、汝が読んでも大丈夫じゃ」

 

「それなら良いけど……」

 

 八重神子が『夢漠記』という本を俺に手渡すと、彼女はまた棚を物色し始めた。

 

 俺は仕方ないな、と思いながら本を開き、読み始める。

 

 元々物語が好きな俺は、直ぐに物語の中に引き込まれてしまった……。

 

※※※

 

(八重神子、普通に瑞希大好きじゃん)

 

 それが本を読んだ俺の感想だった。

 

 恐らくはカモフラージュはあるだろうが、瑞希をモデルにしたような物語だ。

 

 優しい夢喰い漠の少女の話は進み、最後には大団円で終わる。

 

 ハッピーエンドで優しい気持ちになれる。

 

「はー、面白かった……」

 

 読み終わり本を閉じ、真っ先に出た俺の感想に桃色の狐耳をぴくり、と動かし八重神子が反応する。

 

 それから「汝も気に入ったようじゃな」と得意げに言った。

 

 その顔は可愛いが、「でも、瑞希にバレたらまた『八重神子様?』って圧をかけて怒られるんじゃないの」と言うと、彼女は「大丈夫じゃ。妾は天才作家の面もあるからな」と言って笑った。

 

 八重神子のその自信はどこからくるのか……と少し呆れながら俺は本を返す。

 

 そして、八重神子は本を棚に戻しながら俺に聞いてきた。

 

「汝は小説のネタになるような話を知っておるのか? もし知っていれば教えて欲しいのじゃが……」

 

「……んーまああるけど。異世界から来た訳だし。それに、サブカルチャーが俺の国では盛んだから」

 

「ほう……それは面白そうじゃな。話せ」

 

 八重神子の言葉に、俺は顎に手を当てながら考え、彼女に様々な好きな作品の話をすることにした……。

 

※※※

 

「ふむ……汝のいた世界は、実に興味深い」

 

 八重神子は俺の話を聞きながら、興味深そうに頷く。

 

「前にもアリス、という冒険者から色んな話は聞いたが……」

 

「アリスさんは……あの人は規格外だって『魔女会』のメンバーな訳だし」

 

「それもそうじゃな。しかし、汝の世界は、中々面白い。

妾があやつの様に汝の世界に行ったら……まあそれはあり得ぬことじゃな」

 

 八重神子はふと目を細めて薄く微笑むと俺を見た。

その瞳は妖しい雰囲気があり、俺の視線を釘付けにする。

 

 俺は、それを見て、無意識に言葉を口にする。

 

「……──なら、お前も行けたら一緒に行く?」

 

「!」

 

 言ってからしまった! と思った時にはもう遅い。

俺と彼女の視線が交わった。

アメジストの様な紫の、彼女の持つ神の目と同じ色の瞳。

 

 八重神子は間違え無く、少し驚いた顔をしていた。

 

だが、何事も無かった様にすぐに、ふふふと笑うと「そうじゃな。汝の世界は興味深い。それも悪くない」と言ってから背を向け、別の本に手を伸ばした。

 

 俺はそれを目で追いながら思う。

 

(やっちまったなぁ)

 

 まあでも……彼女が俺の世界に来たら楽しそうだ。

 

 それに、先程、八重神子の狐耳が僅かに動いたのを俺は見逃さなかった。

 

 彼女はきっと、俺の誘いに少し興味があったのだろう。

 

(まあ、無理かもしれないけど)

 

 でも……いつか彼女が俺と同じ世界に来れたら良いなとは思った。

 

 だって、彼女だって長い間辛い思いをしてきたから。

それに、彼女だって、だから、退屈は嫌なんだろうと俺は思うから。

 

「ん? どうしたんじゃ、そんな熱心に妾を見て。……ははーん、妾に惚れたか?」

 

 八重神子がまたからかってくるので俺は苦笑を漏らすと彼女はまた可笑しそうに笑った。

 

 実際、彼女が俺の世界に来たら何をしでかすかわからなくて少し怖いが。

 

 それでも、見てみたいと思ってしまう自分が居るのも事実だ。

 

「惚れた、は兎も角。

八重神子と話すのは好きだよ。

だってちゃんと話聞いてくれるし」

 

「……汝は素直じゃのう。

ふむ……ならば、妾が汝に素敵な提案をしようではないか」

 

 八重神子はまた意地の悪そうな笑みを浮かべると、本を棚に戻し俺にとある『提案』したのだった。

 

 それから、八重堂で時間を潰しつつ、八重神子の話に付き合ったり、彼女が俺のいた世界の話を聞いてきたりしたため時間はあっと言う間に過ぎた。

 

「もうこんな時間か。そろそろ帰るかな」

 

「そうか……では、妾も帰ろう。また、話の続きは今度じゃ」

 

 八重神子はそう言ってから立ち上がると、俺と一緒に店を出た。

 

 外はもう夕暮れで日が沈みかけている。

 

 俺は少し名残惜しさを感じつつ、八重神子に部屋まで送ってもらった。

 

「今日、楽しかったよ。ありがとう」

 

「ふふ、妾も楽しませてもらったぞ。汝の話がまた聞けて良かった」

 

 八重神子は満足そうに笑みを浮かべると、俺の頭を軽く撫でた。その仕草は子供扱いされている様で少し気恥ずかしい。

 

 だが、悪い気はしないし、彼女から言えば俺は子供だし、されるがままにする。

 

 八重神子は「また会おう」と言ってそのまま立ち去った。

 

 俺はそれを見送ると、部屋に入り畳の上に寝転ぶ。

 

 今日は色々な話を聞いたので少し疲れたのかもしれない。

 

(それにしても……)

 

 今日も楽しかったなぁとしみじみ思いつつ目を閉じる。寝る前に片付けて置かなければならない事や、ご飯を食べたりお風呂に入りたいが……。

 

───今はこの微睡みに身を任せていたい気分だったからだ。

 

 

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