If   作:F1さん

9 / 17
雷電将軍(影)と男性プレイヤー 後半

 

(──……好きです)

 

 夜。大半の人々が寝静まり、くらい和室の中で1人の女が静かに襖を開けた。

 それから、上質な布団で目を閉じる青年を見て、静かに呟いた。

 

 瞼を閉じ、規則正しい呼吸をする、ただの人間。

 

 他の世界からやってきた、戦えなく弱い人間。

 

 そうは知っていても、彼女の内では塒を巻くように様々な感情が渦巻いていた。

 男性らしい体つきはしているが、神である彼女であれば容易に組み伏せることが出来る。

 

 だが、それはしない。

 

「────……」

 

 女、雷電将軍、否──影は、静かに彼の枕元まで歩み寄ると、膝を畳につける。

 

 そうして、見える距離まで近寄れば、青年の頬を撫でた。

 

 影の手は、柔らかく滑らかで、白く細い。

 

 しかし、武人として、掌は固く、何かを磨り続け、研磨された刀の様な暑さがあった。

 

 影の瞳は暗闇の中で紫に輝く。

 

 それこそが彼女が人ではない証。

 

 影は自信がなかった。

 

 それは、自分が武人としては優れており、無想の一太刀が使えたとしても、今は亡き眞のように穏やかで、清らかで、美しい人間ではないからだ。

 

 優しい、この青年のように。

 

 自分の様な恐れられ、距離を置かれるような存在が、彼に触れても良いものだろうか。

 

 彼と傍にいても許されるのだろうか。

 

 ──だが、その不安は。

 

 この1人の青年の安らかな寝顔の前には、無意味だった。

 

 影は、自分の作るように命じた人形【雷電将】や他の人、人ではない様々な存在が彼、蒼海を惹かれている事を知っている。

 

 影自身もまた、蒼海に惹かれた1人だったから。

 

 だから、彼が護りたかった。

 

 かつて護れなかった片割れの様にならないように。

 

 そう。影は、この蒼い髪の青年を護りたくなったのだ。

 

 永遠に。

 

 だが、今では『永遠』がどんなに難しいかを知っている。

 

「蒼海」

 

 影は、彼の名を呼ぶ。

 

「……愛しています。」

 

 そう言って影が、そっと眠る彼と唇を重ねようとするが────彼女はある事を思い出し、動きを止めた。

 

 そして代わりに、彼の頬に優しく口付ける。

 

 何故か分からないが、影はそれで充分だと思った。

 

 満たされる事は無いが、それでも、十分だった。

 

 ───影はそっと立ち上がり、彼の元を去ろうとするが──思い留まると再び彼に近付き、布団に横になる彼の隣に潜り込んだ。

 

 そして、その胸に頭を預ける。

 

(……温かい)

 

 影は蒼海の胸に頭を寄せながら、安らかな表情で目を閉じる。

 

 心臓の音が、安心感をくれる。

 

 彼女が護りたかった男の熱を感じるだけで。

 

 影はそれだけでも幸福だと思えた。

 

 こうして2人が眠った後、誰かがそっとその部屋に入り込み、布団の直ぐ傍に近付いた。

 

 2人の寝顔を暫く見つめた後、その人物は口元に微笑を浮かべるが、結局それ以上の事はせず───桃色の長い耳を少しだけ揺らすと、静かに襖を閉め、立ち去った。

 

※※※

 

 

 

 ───眩しい。

 

 それに、なんか暖かくて柔らかな感触に包まれている様な気がする。

 

 これはなんだ?

なんだか、懐かしい香りがする。

 

 俺は、その香りに誘われる様に瞼を開くと────それが桜の匂いだと気が付くのと同時に、自分の胸の上に何かが見えた。

 

 窓から射し込む朝日に眩しさに目を細めながらそれを見る。

 

 三つ編みだ。

 

 長い髪は紫色の髪の束が織り込まれており、それが朝日に照らされるとキラキラと光って見えた。

 

「っ!?」

 

 俺は思わず固まる。

 

 すると、俺の上に頭を置いていた人物も目を覚ました。

 

「おはようございます」と、その人物は俺に挨拶をしたが、俺はそれどころではない。

 

 いやだって……なんで?

 

 いやいやいや!!! 

 

 なんで俺の上で寝てたの!? 

 

 しかも俺の布団に入って!? 

 

 飛び起きたいけど、変に動いたら影が危ないし、飛び起きられない。

 

 それに、今動いたら彼女の頭が布団に落ちるかもしれない。

 

 そう、そんな事出来ない!! 神だし! 女性だし! 

 

 いや、だから大丈夫なんだろうけど、そういう話じゃなくて!!

 

「あの……なんでここに?」

 

 俺がそう聞くと彼女は「貴方と一緒に寝たかったからです」と言った。

 

「いや……あの……え?」

 

 俺が困惑していると、彼女は少し悲しげな表情になる。

 

「嫌でしたか? 私では」

 

 俺は慌てて首を振る。

 いや、別に嫌ではないけど!! 

 影って際どい着物を着ているから……色々目のやり場に困るというか!! それに、影は美人だから緊張するし! 

 

「そうですか」

 

──影は安心した様に微笑んだ。

 それから彼女は俺の胸に頭を預ける。

 そしてそのまま再び眠り始めた。

 

 ────いや、ちょっと待って!? また寝ないで!? 俺動けないんだけど!!?

 

 俺は心の中で叫んだ。

 

 神ってマイペースなもんなのかな……と様々な7神(彼女を除き)を思い浮かべる。

 ウェンティ、鍾離、ナヒーダ…………。

ああ、うん。

色々とマイペースだ。

 

 そういう人たちを思い浮かべると、少しだけ心が落ち着いたが……ただ現実逃避してるだけじゃね、これ? 

 

「……影、影さん!」

 

 俺は彼女に声をかけてみるが、彼女は「はい」と返事をし、そのまま瞳を閉じたまま続ける。

睫毛長いし、人形みたいな綺麗さ──ってそうじゃない。

 

「あの……起きて! 起きてくれる!?」

 

 俺が再び声をかけると「嫌ですか?」と聞き返された。

 

 いや別に嫌じゃないんだけど!! むしろ嬉しいけど! でもさ!! 俺男だよ? 一応ね!? 分かってる? 分かってないのかな??

 

 いや、普通の人間だし鍛えてないし、弱いから……影は俺を男と思ってないのかもしれない。

 

 でも、それはちょっと困る。

 

「いや! そうじゃなくて!」

 

 俺は慌てて否定すると───。

 

「では何故?」

 

 と。首を傾げて尋ねられた。

 

 その仕草が可愛くて思わずドキッとするけど、今はそれどころじゃ無い!!

 

 いや、可愛いんだけど!! そうじゃないんだ!! 

 

「えっと……あの、その……俺」

 

あ〜もう! どう言えば良いんだよ!? 色々マズイだろ

 

「そう!俺は男だから!」

 

 俺がそう言うと彼女は少し驚いた様に目を開いた。

そして、直ぐに微笑む。

 

 あ……なんか嫌な予感……。

 

「知っていますよ。貴方が男である事は知っています」

 

 いや、ならさ!だからさ!! 分かってるならさ!! 

 

 この状況不味いじゃん!?

 

 俺はなんとか起きようと腕に力を込めるが───ビクともしない。

 

 え? なんで??

と思った瞬間──────柔らかな感触が唇に当たる。

 

「……??」

 

 って、これキスじゃん!?!

 

 なんで今キスされたんだ?と思いながらも慌てて離そうとするが──離れない!! 

 

 体が動かないんだけど!?

 

 俺パニック状態に陥ると、何故か彼女が離れてくれて、ようやく体の自由が利くようになった。

 

「……あの、影……今のは?」

 

 俺は動揺しつつも彼女に尋ねると、彼女は静かに口を開いた。

 

「寝ている時にしても意味が無いとおもいましたので、起きてからしました」

 

 ……いや、意味も分からないけど?

 

 いやほんとなんで急にキスされたの? 

 

 どうして?? 訳が分からなくて混乱していると……。

 

「明日からは毎日こうして一緒に寝て頂きたいのですが」

 

 と、彼女が言った。

 

「え?」

 

 いや……うん? 聞き間違いかな? 

 

 気のせいだよな?? うん、きっとそうだ。

 

 そうじゃないと困る!!!

 

 だって相手は神だぞ!!? 

 

 そんな恐れ多い事出来る訳が無いだろ!?

 

 ──そんな中、ふと、一つ考えが過ぎってしまった。

 

 口に出したらまずいよな……。

 

 でも、気になるし……。

 

 よし!! 心の中で決心した俺は勇気を振り絞って口を開いた。

 

「その……もしかしてキスもセットだったり……?」

 

「はい」

 

 いや、即答かよ!!

 

 しかも笑顔で言ってきたし!?! 

 

 俺は思わず頭を抱えた。

 

「あの……影? 流石にそれは……」

 

 俺がそう言うと、影は「駄目ですか?」と悲しげな表情になる。

 

 こんな俺をみたら八重神子はニヤニヤしてきそうだな、と俺は思った。

 そう考えながらも俺は腕を組んで考える。

 

「駄目というか……。そもそも男女が一緒に寝るのはよくないと思う」

 

 そう言ってみたものの、影は首を傾げる。

 

「何故ですか?」

 

 いや、何故って……そういえば、影ってそういう事って教わっているんだろうか? いやでも……大人だろうし教わっていると信じて言うか? 

 

「え〜っと……その……」

 

 俺が言葉に詰まっていると、影は俺の手を掴む。

 

「私と一緒に居るのは嫌ですか?」

 

 そう、彼女の胸元に俺の手を握りしめながら持って行くと、上目使いで見詰めてくる。

 

「うっ……」

 

 小さい、でもどことは言わないがデカイ。

 

 その破壊力に思わず……たじろぐと、彼女は更に距離を縮めて来る。そして、首元に顔を近づけてきた。

 

「ちょっ!?! ちょっと待って!」

 

 そんな俺の制止の声も聞かず──彼女は吐息をかけながら、耳元で囁いた。

 

「……蒼海」

 

 甘い声と感じる柔らかさ。

 

 心臓が激しく脈打つ。

 

 ───が、なんとか理性で持ち堪えた俺は彼女を押し退ける事にした。

 

「い、嫌じゃないって!? でもさ、ま、間違いがあったら困るし! その、な?」

 

 俺が慌てて言うと、影は「間違いとは?」と首を傾げた。

 

 こ、この神、天然なのか? それともわざとなのか!? 

 

「そ、それは! だから……その……」

 

 俺がしどろもどろになっていると、影は少し考える素振りを見せた後に、俺の頬に手を当てる。

 

 そしてそのまま顔を近付けてきた。

 

「あ、え? ちょ!?」

 

 彼女は再び唇を重ねてくる。

 

 今度は先程より長くて濃厚なものだ。

 

 俺は慌てて離れようとするが、体に力が入らない。

 

 ただ呆然と彼女の唇を受け入れるしか無かった。

 

「っ……」

 

 俺が息苦しさを感じ始めた頃を見計らったのか、やっと開放される。

 

 だが彼女は俺の頬に手を添えたまま微笑んだ。

 

 その表情はどこか妖艶に見えた……。

 

 …………なんて考えてしまった俺を殴りたい。

 

 いや! 殴ってくれ、九条裟羅辺りが!

 

 そんな事を考えていると、影は微笑んだまま再び俺に顔を近づける。

 

「え? ちょ!? あの!?」

 

 俺は慌てて抵抗しようと試みるが、彼女は俺の耳元に顔を寄せると囁く。

 

「……こういう事、でしょうか?」

 

───柔らかな、春の日差しの様な声音が耳に届く。

 

 影は、俺の顔を見ると満足気に微笑んだ。

 

 その笑顔を見た瞬間、俺は顔が熱くなるのを感じる。

 

 そして思わず視線を逸らすと、影の温もりが離れ「可愛いですね」と言いながら離れた。

 

 ……くっそ。こんな簡単にやられるなんて、思ってもいなかった。

 

 俺が動揺していると、影はクスクスと笑った後「蒼海」と俺の名前を呼ぶ。

 

「は、はい」

 

 俺は思わず敬語で返事をしてしまった。

 

 そんな俺に影は再び微笑んだ後、言った。

 

「……約束です。明日からも毎日こうして一緒に寝ましょうね?」

 

 その言葉に俺は絶句するしか無かった。

見てみたいジャンル

  • 原神
  • スターレイル
  • 鳴潮
  • Fate
  • ゼンゼロ
  • 新月同行
  • アズレン
  • ハイスクールD×D
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。