「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件   作:chickden

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瞬間のすれ違い

「まさか、今をときめくクロエさんに来ていただけるとは」

 

 元渋谷のスクランブル交差点だった場所の中央。

 周囲では砕けたコンクリートビルの残骸にツタが絡まり、緑が芽吹いている。そろそろ寒くなる季節、緑には茶がちらほら混ざっていた。

 

 今や廃墟となった街の中心である超級ダンジョン『シブヤ』の入口前に、今、クロエは居た。

 ここは『シブヤ』への出入りを管理する警備員室だ。

 

 シブヤは一般人立ち入り禁止。

 ここはその立ち入りをチェックして不法侵入を咎める為と、ダンジョンから外に魔物が溢れ出てしまう災害『暴走(スタンピード)』の兆候を観測する為に設置されている。

 職員は主に、現役を退いたとはいえ元B級以上の探索者たち。

 先人である彼らに敬意を表しながら、クロエは深々と頭を下げた。

 

「いえ、突然のワガママを聞いて頂けて感謝してます」

「ははは。気にせず普段通りの明るい態度で居てください。ここにはクロエさんのファンも多いので、その方が皆も喜びます」

「わっかりました☆」

 

 キャラを外向けに切り替え、クロエはウインク。

 対応した職員は笑顔になった。

 

「これから当面の間、『暴走(スタンピード)』の兆候検査に手を貸してくださるとのことでしたが……」

「はい☆ でも私、あまりその辺の知識がなくってぇ……。勉強も兼ねてお手伝いさせて貰えたら嬉しいな、と☆」

「わかりました。なにせ一層攻略後ですからね、ダンジョンにどのような変化があってもおかしくないときです。強力な、現役S級探索者がここに居てくださることは、私たち現場にとっても有難いことです」

「いえいえいえ。私なんか警備にはホント素人同然☆ ご迷惑掛けないようにしなきゃ!」

「ではこちらへ、クロエさん。マネージャーさんも」

 

 マネージャーの初子は、クロエたちについていく。

 はぁ、なんでこんなことになったのか。

 

(本当なら、今日もTVや有力ネットサイトからの取材でクロエの魅力をアピールするはずだったのに)

 

 乗り気ではない初子だったが、先日クロエの剣幕に押されて承諾してしまったのだ。

 そう先日。超級ダンジョン『シブヤ』の攻略日記と称する記事をブログサイトに投稿する謎の人物『R』が、シブヤ二層の攻略記事を更新した日のことである。

 

『見てください初子さん、Rさんは今、三層への扉を開けることができなくて立ち往生しているみたいですよ!』

 

 ブログには、例によって二層を攻略していく過程が細かく記述されていた。

 書き手の几帳面さがわかるデータの羅列。細かいマップ情報。これが本物ならば、記されている情報の価値は黄金に匹敵するだろう。本物ならば。

 

『逆に言うと、彼はもう二層のほとんどを解明してるみたいね』

『はい。私たちが浮かれてパレードなんかに興じている間に、しっかりと』

 

 クロエがブツブツ小声で呟きながら考え込む。

 彼女の『R』に対する執着は、少し異常だ。どこかで圧を抜かないといけないわよね、と初子がクロエの方を見ながら考えていると。

 

『そうか。そうですよ、『R』さん――『討伐者』さんは、シブヤに潜り続けている。一般人が普通は入れない、あのシブヤに。ねえ初子さん、シブヤにも入口を警備する施設がありましたよね?』

 

 ――うん。と初子は答えた。

 

『そこで私たちも張り込みましょう! 討伐者さんが人の目を盗んでシブヤに入り込んでることは、間違いないんですから』

 

 ◇◆◇◆

 

 という経緯で、クロエと初子は『シブヤ』の警備の手伝いを願い出た。

 モニタルームで入口付近の様子をチェックしたり、大きく口を開いた入口前で魔力を計測して暴走(スタンピード)の危険をチェックしたり。

 ここで働く為のレクチャーをひとしきり受けて、今はモニタルームで休憩中だ。

 

 目を皿のようにしてモニタ群を見つめるクロエの横で、初子はスマホを使ってダンジョン攻略ブログ(ダンブロ)を見ていた。

 

 初子は実のところ、『R』のシブヤ攻略日記ついて半信半疑だった。

 

 あんなに大変だったシブヤ一層の討伐戦。

 あれが、既にボスを狩られたあとの残りカスだったなんて。ならば本物のボスはどれだけ強いのか。そしてそのボスを、一人で倒すことが本当に可能なのか。

 

 想像ができないのだ。理解の範疇を超えている。

 当然、というべきか。『R』のブログを信じている者など世間には一人もいない。証拠に彼のページのコメント欄は大荒れに荒れている。

 

”まだ更新してるよ嘘松”

”チームハヤテが実証したじゃねーか、シブヤ一層がまだ未クリアだったって”

”あの配信があって、またブログ更新できるとか、図太すぎ”

”しかも二層をほとんどクリアしたとか、書いてることおかしいだろ”

 

 心の中で、彼らに同意している自分の存在も知覚できる。

 ただ、同時にこれが『自分たちの成したこと』が無駄だった、と思いたくない故の気持ちであることも理解している。

 

 なるべく公平な目で判断したい。

 そんな気持ちが反作用的に働いて、ついクロエの手伝いをしてしまう初子なのだった。

「あっ!?」

 

 突然、クロエが声を上げた。

 

「なにこの、凄いチカラの奔流……? これは、魔力なの?」

 

 なにもない壁の方を向いて、クロエは目を見開いていた。

 クロエの『目』の力はあれからまた、能力を上げている。壁や物の向こうであっても、強い魔力なら見えてしまう。透視というモノではないが、チカラの検知という意味で、圧倒的に敏感になっていたのだ。

 

 そのクロエの目が、なにかを捉えた。

 

「あっちです、入口付近の影場。係員さん、あっちはどのモニタでしょうか!?」

「ええと、これですね」

「このモニタ、……ですか?」

 

 そこには誰も映っていない。ただ入口付近の荒れ果てた景色、元渋谷ハチ公前であった場所がモニタリングされているだけだった。

 

「誰もおりません」

 

 係員が言う。

 

「そんな……。じゃあ、この圧はいったい……?」

「気のせい、とかじゃあないのかしら、クロエちゃん」

「いえ初子さん、そんなはずは。いまもまだ、明確に見えていますし」

「ほら最近、忙しかったから疲れてるでしょ?」

 

 なにせモニターには何も映っていないのだ。

 初子としても、それを支持するしかない。

 

 キョトンとした係員と、心配顔の初子に囲まれて、クロエは戸惑った。

 そうなのかな、これは気のせいなの? ――と。しかし。

 

 ――いえ、きっと違うわ!

 

 クロエはモニタルームを飛び出して、廃墟のままの元渋谷駅周辺を走った。「クロエちゃん!」と初子もそれを追う。

 

 モニタには映ってなくても、私の目には映っている。

 このチカラの奔流。シブヤ一層で見た、レッサーデモンなんかよりもよほど凄いチカラの塊。こんなの、気のせいなはずがない。

 

「……あ!」

 

 誰か、居る。

 コンクリート屑が散乱している荒れ果てた道路の真ん中に、ポツンと一人。

 ジャージ姿……? 手には木刀の……、おにいさん?

 

(あなたが……! あなたが討伐者さん!?)

 

 クロエが声を掛けようとしたその瞬間。

 チカラの奔流と共に、その姿は消失した。一切の痕跡もなく、その場で忽然と消えた。まるでそれは、テレポートでもしたかのような、この世界から消えたかのような、一瞬の出来事。

 

「消え……た?」

 

 クロエは足を止めて、呆然とその場に立ち尽くしたのだった。

 

 ◇◆◇◆

 

「あぶないあぶない。ニアミスだ」

 

 音のない世界で、蓮司はホッと息をついた。

 人の気配がしたので、フェイズシフトウォッチを慌てて起動した彼である。

 

(電子機器関係の方はハックして正常情報を流すようにしてあるから、問題はないと思うものの。少し気が緩んでいたな)

 

 忍び込む際に、人とニアミスをしたのはこれが初めてだ。

 彼は自分のステルス行動に自信があったし、警備機器のハッキングも完璧だという自負もあった。だからこそ気が緩んでいたのかと反省しながら、その場を去ってダンジョンの中に入っていく。

 

 あれから少しこのフェイズシフトウォッチの機能確認をしたのだが、すごく便利ではあるものの効果時間が短く、連続使用もできない。

 案外体力も消耗するようで、息も切れる。どうやら多用は禁物といった魔法アイテムだった。

 

 最初のうちは、ウォッチの再使用時間に合わせて位相を変え、魔物の目を誤魔化しながら奥へと進んでみた。どうやら使用中は、魔物の探査にも引っ掛からなくなるらしい。便利だ。

 

 ――が、蓮司は途中で気がついてしまった。常用したときの疲れが大きいことに。これなら魔物を倒しながら奥を目指す方が楽そうだ、と結局ウォッチは腰袋にしまい込んで二層奥を目指す。そして二層の最奥に着いた。

 

「さて。予想通りならば、ここの位相ズレした空間にボスが居るはずなのだが」

 

 腰袋から再びウォッチを取り出し、大きく深呼吸。

 三層に繋がる大きな扉の前で、蓮司はウォッチを起動した。

 

「なるほど。ずっと、そこに居たというわけだ」

 

 扉の前で仁王立ちする魔力を帯びた大鎧。

生きる甲冑(リビングアーマー)』が、そこに立っていたのだ。

 

 咆哮する生きる甲冑(リビングアーマー)

 動き出した甲冑に向かって、蓮司は木刀を構えた。

 

「またせたな」

 

 ――ニヤリ。

 その顔には、珍しく笑みが浮かんでいた。

 待ちきれない思いをしていたのは、彼自身だったのである。

 

 

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