「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件   作:chickden

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円卓会議

 

 チームハヤテ、再起動。

 その報はツイXから端を発し、一気に世界の注目ワードとなった。

 

 翌日のハヤテ配信は、視聴同時接続10万人を数え、回線がパンクする勢い。映像を伴った彼の『二層攻略スタート』宣言に、日本中だけでなく世界中が沸いたのだった。

 

 そして今、ハヤテは新宿にて最大の高層ビル、最上階の一室に居た。

 ここは『円卓』と呼ばれる会議室。

 チームハヤテことスペシャルチームの面々が大きなラウンドテーブルを囲み、作戦会議の真っ最中である。

 

「――では、二層は一層と比べ物にならないほどの力を持った敵が居る、と」

 

 息を呑みながらチームメンバーの一人が放った言葉に、ハヤテが頷く。

 

「そうだ。先日『シブヤ』の地下二層で観測された謎のエネルギー反応は、一層でボス戦で検出された物の五倍。そういう魔物が居る、ということだ。我々はかつてない敵と相対することになるだろう」

 

 彼の言葉にざわめくチームの面々。

 

「一層ボスでも死闘だったが……」

「その五倍、とんでもないな」

 

 このエネルギーとは、もちろん蓮司がアグレージを倒したときのものだ。しかしそのことを知る者はここに誰もいない。

 いや、たった一人。

 S級探索者の認定を受けハヤテの横に座っているクロエだけは、知らずとも確信していただろう。『R』――つまり蓮司が二層ボスを倒したときのものであることを。

 

「大丈夫ですよ、皆さん☆」

 

 ザワついて空気が重くなりかけた会議室の中で、クロエは場違いな元気さで笑った。

 

「私たちにはハヤテさんがついてますから☆ きっとまた、黄金剣の光が道を切り拓いてくれちゃいますよ!」

 

 ――ね?☆

 と。

 

 彼女がラウンドテーブルを囲む面々に微笑み掛けると、空気が変わる。

 一人が拳を握ってハヤテの方を見た。

 

「そ、そうだな。彼女の云う通りだ、俺たちにはハヤテさんが居る」

「あのグレーターデモンを屠った黄金剣二の型は凄まじかった」

「うむ。ハヤテさんを中心に、俺たちが力を合わせれば……!」

 

 他の者も、追従する。

 視線を向けられたハヤテが、「ははは」と笑った。

 

「困ったなクロエちゃん……、確かに俺はリーダー的な役割をさせて貰っているが、それはあくまで便宜上の物でしかないんだ。この『円卓』が象徴するように、スペシャルチームは皆が対等。そしてそれは、能力においても同じことが言えると俺は思っている」

 

 ハヤテは注目されながら、逆に一同を見返した。

 ゆっくり、ぐるりと皆に視線を返した彼は、しばしの間を置き――。

 

 白い歯を噛みしめるように、ニコリ。

 自信に満ちた破顔をしてみせた。

 

「聞いて欲しい。ここに集まったのは日本で指折りの探索者だ。たとえ等級がAでもBでもそこは変わらない、この俺と同じレベルを知る者だ。皆、自負して欲しい。俺が倒せる、それは皆でも倒せるということだ。俺はそう確信している」

 

 チームの面々は感激した様子で頷いた。

 

「ハヤテさんにそこまで言われたら、芋を引くわけにはいかないな」

「こんどこそ、俺の絶技を見せてやりますよ!」

「そうだ。俺たちはスペシャルなんだ!」

 

 おおお、と唸りを上げて盛り上がる。

 ハヤテは頷いて――。

 

「皆、それでこそだ。忘れてはいけない、俺たちは『本物』の戦いを見せなければいけないのだ、ということを。『R』と名乗るブログ主……ネットに引き篭もったあの子供部屋おじさんに、『真実』を見せてやらねばならないということをね」

 

 フッと笑った。

 

「そもそも、あの『R』とかいうブロガー、哀れだよな。俺がウエノ08を攻略した直後に現れて、今度は俺たちがシブヤ一層をクリアしたら二層の記事を書き始める。まるで俺のストーカーじゃないか。そこまでして俺のようになりたいのかねぇ」

 

 ハヤテの言葉に、周囲からクスクスと嘲笑が漏れる。

 

「確かに! ハヤテさんの後追いブログっすね!」

「承認欲求モンスターもそこまでいくと病気だな」

 

 満足げに頷くハヤテ。

 

「哀れな彼に、俺たち『本物』が現実を教えてやろうじゃないか。ゲームのデータとやらを丸暗記すればダンジョンが攻略できるとでも思っているんだろう。机上の空論だけで悦に入っている子供に、血と汗に塗れた本物の戦場とは何かを、その目に焼き付けさせてやる」

 

 彼は握りこぶしを作った。

 周囲も同調して、拳を握る。

 

「うむ、あんなデタラメで気持ち良くなってる奴は、ワカラセてやらないと!」

「デマ情報が一番タチ悪いと、ネットの奴らに周知させないといけませんね」

「確かに。なにが『三層への扉を開いた』だ、くだらない」

 

 チームメンバーの言葉を受け、ハヤテは気持ちよさそうに両手を広げてみせた。

 

「『三層への扉を開いたけど質問ある?』……だと? フッ、笑わせてくれる。一層ボスですら我々が死闘を繰り広げたというのに、二層のボスをソロで? しかもあのエネルギー反応の主を。……あり得ない。もし仮に彼が本当に二層のボスとやらに対峙したのだとしたら、その結末は一つしかない。――塵も残さず消滅、だ。彼は今頃、自分の走馬灯の中で英雄にでもなっているんじゃないか?」

 

 その言葉に、会議室は再び笑いに包まれた。

 

「ブログの更新が止まったら、そういうことっすね!」

「南無阿弥陀仏……ってか? 冗談キツいぜ!」

 

 口々に『R』――蓮司のことを詰り、笑うチームメンバーたち。

 そんな様子を、クロエはどこか遠くを見るような気持ちで眺めていた。

 

(大丈夫、もうボスは『あの人』が倒してしまってますから……)

 

 私たちは、残り物を掃除しながら三層へとたどり着きさえすればいい。

 レッサーデモンにすら苦しんだ私たちには、それでも荷が重いだろうけど、ボスはもう居ないのだからどうにかはなるはず。

 

(あの人を追うためなら、なんでも利用します)

 

 決意したのだ。追いつくと。

 そのためにも、彼の足跡を追わねばならない。こんなところで皆に怖気づかれたら、話にならない。

 

 盛り上がって各々が意見を出し合う活気ある空気になった。

 そんな中で無言になっていたクロエに、隣に座っていた初子が小声で声を掛けた。

 

「どうしたのクロエちゃん、気分でも悪い?」

「いえ……」

「顔色悪いけど」

「大丈夫です。ほら、皆さん盛り上がってます。私たちも笑顔笑顔☆」

 

 無理やり笑顔をつくるクロエだった。

 彼女は今、『みんなを利用している』重さに耐えようとしていた。

 私は悪い子です、と自虐にも似た気持ちを抱えながら。

 

「オーケー、皆の意見は確かに俺に届いたよ。ここでまとめよう」

 

 ハヤテが手を二回叩くと、会議室は静まり返った。

 皆、彼の言葉に傾注する。

 

「作戦は前回と大きくは同じ。ただ、今回は先遣チームをクロエちゃん中心に編成したい。彼女には、得難い『目』がある。魔力を感知できるその目を使って、事前に難所の発見をお願いしたいんだ」

 

 良い案だ、と周りが頷く中、一人。初子が異を唱えた。

 

「無理ですハヤテさん! クロエちゃんの『目』は、とても消耗が激しいんです。探索に向いている『チカラ』ではありません」

「初子くん……、貴女の言いたいこともわかるが、二層は一層に輪を掛けた危険地帯であることがエネルギー反応からも伺える。ここは、クロエちゃんの『目』がどうしても必要なんだよ」

「肝心の戦闘のときに使い物にならない状態になってたらどうするのですか! 一層のグレーターデモンも、クロエちゃんが動きを止めたからこそ倒せたんじゃないですか!?」

 

 ハヤテの眉が、ピクン、と動いた。

 

「確かにクロエちゃんの『魔力の檻(マナ・プリズン)』は最大のタイミングで、最高の成果をもたらしてくれた。彼女のお陰で倒すまでが『早まった』とも思う」

 

 ゆっくりと、穏やかな声でハヤテ。彼は続ける。

 

「だが、もしあのとき、『魔力の檻(マナ・プリズン)』の援護がなかったとしても、俺たちは必ずグレーターデモンの討伐に成功していただろう。なぜなら『俺たち』はスペシャルなのだから。皆もそう思うだろう?」

 

 円卓に向かって優しく彼が問うと、「そうだ」という声が上がった。

 

「俺たちならそれができる」

「そうね……、確かにクロエちゃんが作ってくれた隙はありがたかったけど、なかったとしても時間の問題だったかと」

 

 そしてひそひそ、小声も聞こえてくる。

 

(S級になったからっていい気になってるんじゃない?)

(あの人なに……? え、マネージャー? だからB級なのにチームに居るの?)

(失礼だよな。自分たちが居なかったら、俺たちには倒せなかったと言ってるようなもんだ)

 

 それらを聞いて、カッとなった初子が抗議の大声を出そうとした、そのとき。

 

「私なら大丈夫ですよー初子さん☆ 皆さんの先導役、謹んでお受けいたしますハヤテさん☆」

 

 クロエが明るい声を出した。

 

「……クロエちゃん」

「初子さんは心配性ですからね☆ 皆さんごめんなさい、マネージャーは私の体調管理も仕事、悪気があったわけじゃないんです☆」

 

 そうは言うけど、という顔で初子がなにか言おうとしたタイミングに、間もよくハヤテが拍手をした。

 

「さすがだ、クロエちゃんは『解ってる』。自分がなにをやるべきか、をね」

 

 初子は声が出ない。機先を制された形だ。

 

「大丈夫だよ初子くん。この俺が、大事なクロエちゃんのことを考えないわけないじゃないか。そうは思わないかい?」

「いえ……あの」

 

 問われてしまうと、さすがに面と向かって『思わない』とは言えない。

 

「クロエちゃんには、優秀なサポート役を付ける。さて入ってきてくれ、シンシア」

 

 ハヤテがそう言うと、会議室の扉が開いた。

 歳の頃20歳前後、まだ若い長身の女性が、プラチナブロンドの長い髪を揺らして会議室に入ってきた。

 

 ハヤテの席とクロエの席の間の後方に立ち、クロエに礼をする。

 

「初めましてクロエ。私はシンシア・レイン、あなたと同じ『目』のチカラを持つ者です」

 

 そしてチラとハヤテの方を見た。

 

「この子はね、俺がスカウトしてきた探索者なんだ。まだランクも持たないが筋が良く、クロエちゃんと似た『目』のチカラを持っている」

「私と……同じ?」

 

 クロエがシンシアの方を見ると、彼女はフフと笑い。

 

「正直、クロエほどの精度ではないと思います。いいとこ、サポート程度のチカラね」

「とはいえ得難いチカラだよ。このハヤテが保証する、彼女は役に立つとね。彼女がサポートすることで、キミも適度に休めることだろう」

「よろしく、クロエ」

 

 シンシアが片目を瞑りながら、右手を差し出してきた。

 クロエも右手を出し、二人は握手する。

 

 初子は思った。

 つまり、ハヤテは最初からクロエに今回の先遣をやらせるつもりだったのだ。

 円卓で話し合う必要なんてなく、既定の方針。とんだ茶番だ。

 

 それでも皆は、クロエとシンシアの握手を前に、拍手をして和んだ空気を作っていた。この茶番に気づいてないのかしら、と初子は訝しんだが、もしかしたら彼らにとってはそんなことどうでもいいのかもしれない。この会議で分かった、ハヤテは自分に従順そうな人選をして、このチームを集めたに違いない。

 

 こうして、二層攻略におけるクロエの配置は決まったのだった。

 

 ◇◆◇◆

 

「ごめんねクロエちゃん、ハヤテの奴に良いように利用される形にされちゃって」

「なんのなんの、ですよ初子さん。ありがとうございます、庇ってくれて」

「うん。でもあまり役には立てなかった」

「大丈夫です。私だって、いつまでも『目』を使いこなせないままじゃいけないと思いますし」

「でも……」

 

 シンシアがフォローしてくれると言っても、クロエの『目』は本当に消耗が激しいものなのだ。いったいどういうことになるか心配な初子だった。

 それに、不意の強い刺激にも弱い。

 事実先日は、件の二層におけるエネルギー波の影響で目をやられ、倒れてしまった。

 

「あ、ごめんねクロエちゃん。ちょっとお化粧直し行ってくる」

「はい、どうぞ」

 

 新宿高層ビル最上階。

 ひとけのなくなった廊下で、一人クロエは窓の外を眺めた。

 

 高いところからだと新宿からでも、ダンジョン『シブヤ』のある廃墟街、渋谷跡地が見える。

 彼女は「はぁ」と溜め息をついた。私は間違いなく、あそこで『R』さんの姿を見見掛けた。もう少しのところで手が届かなかったけど、あの後ろ姿を忘れることはない。きっと辿り着いてみせる。

 

「――渋谷跡地、痛々しいよね」

 

 クロエの後ろから、不意に声を掛ける者がいた。

 

「え?」

 

 彼女が振り向くと、そこに居たのは先ほど紹介されたシンシアだった。

 

「こんにちはクロエ。物思いに耽ってるところ、お邪魔だったかな」

「い、いえ……。あ。――そんなことありませんよぉ~☆」

「無理して声音変えなくていいよ。わかってるからさ」

 

 まるでお見通しとばかりの笑顔。

 シンシアは、クスと笑いながら口元に人差し指を当てた。ちょっと小意地が悪そうな顔で、クロエのことを見る。

 

「大変そうだよね、アイドルダンチューバーってのも」

「別に……そんなこと」

「いいのいいの、わかってるんだから。人気商売だもんね、人の顔色を大事にしないといけないもの。だからあなた、ハヤテさんの強引な役決めにも笑顔のまま。本当はイヤでも、反対しなかったんでしょ?」

「違い……ます」

「違わないでしょ。だってその『目』を使うのが凄く大変なことくらい、私も知ってるもの。偵察みたいな長くチカラを使うこと、やりたくないに決まってる。それでもハヤテさんの言うがままだったのは、そういうことじゃない?」

「違い、ます!」

 

 クロエはキッとした目でシンシアを見返した。

 彼女が先遣チームの中心という大変な役に応じたのは、自分の覚悟からのことだ。あの人を追い掛けるため。そのためなら、自分の身を削ること程度いとわない。

 

「それに、この仕事を大変だなんて思ったこと、ないです。リスナーの皆さんには、むしろ私が救われていると思っています」

 

 口元を引き締めて、クロエは反論した。

 その様子を見て、シンシアは嬉しそうな顔をする。

 

「ふふ。素で喋ってくれて嬉しいな。ちょっとオドオドしてたはずなのに、気がつけば芯が強そうな顔をする。やっぱり素敵だわ、あなた」

 

 急に蕩けそうな顔で喜び始めたシンシアを見て、――あ。とクロエは思った。引っ掛かってしまった。彼女はわざと私を怒らせるようなことを言って、こちらの反応を引き出そうとしてたのだ。

 

「ごめんね、こんなアプローチの仕方をしちゃって」

「いえ……」

「クロエと仲良くなりたかったの。あの『ブログ』を信じる者として」

 

 ――!?

 ドクン、と胸が鳴った。あのブログ? あのブログって!?

 

「さっきもクロエ、あの渋谷跡地を見ながらあのブログのこと……『R』のことを考えていたんじゃないの?」

「あなたも、あなたも『R』さんのことを信じてるの!?」

「ええ。私はちょっとダンジョンのことに詳しいの。あなたたちが倒したデモンはグレーターじゃない、レッサーだわ。『ホンモノ』は、あのブログの通り『R』が倒してる」

「でも……なんで私が、『R』さんのブログを信じてると?」

「一層攻略のライブ配信で、クロエは触れてた。ダンジョン攻略ブログ(ダンブロ)の、『シブヤ攻略日記』について。そのときの顔を見れば、分かる人には解るわよ」

 

 たしかあのとき、ブログに触れたのは一言だけだったはず。

 たったそれだけで、ここまで見抜くなんて。

 シンシアの言葉にクロエが呆然としてると、彼女は感激した顔でクロエの右手を両手で握ってきた。

 

「だから、ハヤテさんにクロエのサポートを頼むって言われたとき、凄く嬉しかった。今度のシブヤ二層探索、ブログに書かれていた通りきっとボスはもう倒されちゃってるんだろうけど、一緒に頑張ろ! 私たちの世界のため!」

 

 こうして、『目』のチカラを持つ二人は出会ったのだった。

 

 

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