「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件 作:chickden
「やあ皆さん、ごきげんよう!」
クロエの事務所に珍しい男がやってきた。いや、珍しいというよりも、なんで来た? という類の男とも言える。
真紅の薔薇の花束をキザに抱えて現れたその男、それは誰か。
「ハ、ハヤテさん!? どうしたんですが突然!」
「やあ初子くん、ごきげんよう。近くに用事があったんでね、ついついクロエちゃんの笑顔を見たくなって寄らせて貰ったよ。彼女……いるかい? 一緒にスイーツでもどうかと思ったんだ。このスイートルームの鍵と共に、甘い一晩の夢をと思ってね」
わざわざホテルのカードキーを見せびらかしてくる。
まさか直接事務所まで来るなんて。変な噂が立ったらどうしてくれるのよ! 呆れ半分、怒り半分の気持ちを抑えて、初子は努めて冷静に対処した。
「いませんよ。クリスマスですもの」
「な……っ!? そ、それはどういう意味だね初子くん!」
ハヤテの笑顔がピシリと凍りついた。
初子は意地悪な笑みを噛み殺しながら、追い打ちをかける。
「今どきの若い子が、クリスマスに一人なわけないじゃないですか」
「デデデ、デートに出掛けた、とか言うわけじゃあるまいな!? このハヤテを差し置いて!」
「さあどうなんでしょう。プライベートですから」
「バカな……! あり得ない! 俺という太陽を差し置いて、彼女が選ぶ男がいるというのか!?」
初子がにっこり微笑むと、ハヤテの持つバラの花びらが、バサァッ! と音を立てて一斉に散った。
どういう原理? と初子は驚いたが、衝撃を受けたハヤテの魔力が制御不能になり、花を枯らせたのだろうと勝手に解釈した。
「ま、まさか……例の『R』とかいう男ではあるまいな……!?」
勝手に最悪の想像をして、ハヤテは顔面蒼白になり膝をついた。
散らばった花びらの上で、世界の終わりを見たかのような表情で震えている。
「なんてことだ。クロエちゃんが、クリスマスデート……! 俺以外の男と、聖なる夜を……!」
(男とは言ってませんけどね)
見た目からわかるほどに消沈したフラれ男、ハヤテに、初子は内心でそうツッコミを入れた。
「ちくしょう! ……だが、むむ。待てよ? これは俺を焦らすための作戦か? そうか、他の男とデートするフリをして、俺の嫉妬を煽ろうというのだなクロエちゃん!」
ハヤテは茎だけになった花束を握りしめ、不敵に、しかし目を泳がせながら笑った。
「上等だ! その美しい花、俺が必ず手折ってみせる! 今日は戦略的撤退だが、覚えていろよ!」
捨て台詞を吐き、ハヤテは踵を返して事務所を飛び出していった。
事務所の外からは、楽しげなクリスマスのBGMが聞こえてくる。
街ゆく恋人たちは幸せそうだ。
この日、ハヤテの『聖夜』だけが、孤独にまみれて更けていったのだった。