「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件 作:chickden
「右翼、敵の層が厚い! レッド、吹き飛ばせ!」
「了解だ、
司令官サエコが後方から目になって、マイクで前線へ指示を送る。
レッドこと蓮司が母を「司令官」と呼んだのは、イエローの安全スーツを着込んだシンシアが彼女をそう呼んだからである。
呼称を共通化することで、互いの認識を促進する意図だった。
蓮司の意図を過不足なく理解して、イエローことシンシアが蓮司の居なくなった戦線へのフォローを行う。蓮司が右翼の魔物を吹き飛ばす間に、シンシアは疾風の如き動きで他のラインを維持したのだった。
(……戦いやすい)
シンシアは思った。
命令が的確だ。敵は、ホログラムの魔物とはいえ万をも数えそうな総数。前に出ていると全体像が把握できなくて、前線に穴ができやすい。
そこを司令官のブラックは理解して、後ろから流れを俯瞰しているのだろう。いや、それだけじゃこの正確な指示は説明できない。
(予測、か)
シンシアの予想通り、サエコはホログラムの動きを先読みしていた。
プログラマ的視点からのアルゴリズム解析、それは蓮司が得意とするものだったが、彼女もまた一流のプログラマなのである。司令官サエコの指示は的確だった。
ズドン、という大きな音と共に
魔物の吹き飛び方が尋常じゃない。かつてシンシアが見たこともない打撃力、この世界には、まだまだ埋もれた達人が居るものだと彼女は笑顔を禁じえなかった。
「右翼、あとは私の魔法で維持できます!」
「そうか。ならばピンクに任せる」
「はいレッドさん!」
ピンクの安全スーツはクロエ。
彼女はオモチャの杖を手にして、それと自身の力だけで使える範囲の魔法を駆使した。半透明で硬質そうな『壁』が空間に設置され、右翼方面の敵の移動が阻害される。
クロエに後を託すことを宣言し、レッドこと蓮司はシンシアの元へと戻った。
「すまないなイエロー。フォロー助かった」
「これくらいなんでもないわ。それにしても、あなた凄いわね」
「む?」
「ホログラムの魔物と言っても、今は魔力を大量に帯びてて半物理化してると思えるくらいの重さや攻撃力を感じる存在になってる。それをあんな簡単に吹き飛ばすなんて」
プラスチック製の剣を振るいながらシンシアが笑顔を向ける。
だが蓮司はその視線に気づくことなく、淡々と答えるのだ。
「しょせんはホログラム、と言う気はないが、やはり実体を持つ魔物に比べるとすべてが軽い。イエロー、先ほどから解析するにキミは素晴らしい使い手だ。本当はキミにも難しいことではないはず」
「…………!」
シンシアは、蓮司の指摘に驚かされた。
確かに自分は今、チカラを出すことをセーブしている。正体がバレたくないからだ。
「――あなた、『目』が良いのね」
「なに。ただの解析好きだよ」
「ふぅん、ただの、ね」
トクン、と心臓が鳴った。
久しぶりだな、クロエと戦う以外でこんな気持ちになったのは。
シンシアの剣が、これまで以上に冴えていく。
「ほう、ギアを上げたか?」
「わかるんだ」
「――? わかるもなにも、全然違うじゃないか」
「ふふ、わかっちゃうんだ。ホントすごい」
シンシアと蓮司の前で、ホログラムの魔物が吹き飛びまくる。
天井へ飛ばされ叩き潰されて光の粒になり、地面に叩きつけて圧殺する形で光の粒にされ、前方に吹き飛ばせばその後方の魔物たちを巻き込みながら、大量に光の粒を生み出した。
(二人とも、すごい)
後方でその光景を見ていたのは、ピンクことクロエだった。
前線で戦っているレッドと
(シンシアの動き……、もしかして、この間のポイズンジャイアントを倒したときよりも激しいんじゃないかしら)
とすら思ってしまう。
二人の援護をもっとしたくて、彼女は指揮官である
「わかったピンク! 思う存分二人をフォローしてやれ!」
「はい! ありがとうございます!」
あまりここで正体をバラしたくはない。あくまで今日は、普通の女の子としてシンシアと一緒に遊びにきたのだから。クリスマスとは、そういう『日』なのだから。
オモチャの杖では、彼女の
「見事なクラウドコントロールだな、ピンク」
隣の
「これが
「――――!」
バレている。自分が何者なのか、この司令官にはバレバレだ。
「大丈夫、言う気はないさ。スペシャルチームのお姫さま方にだって、休暇は必要だ。メリークリスマス、ピンク」
おどけた声で、サエコ。
その響きにクロエは、えも言われぬ温かさを感じた。
――ああ、と。
人としての懐の広さを感じる。この
「はい、メリークリスマスです!」
クロエは杖を掲げた。
攻撃魔法の光が杖の先から迸り、右側に設置していた壁の隙間を抜けようとしていたホログラムのゴブリンたちを吹き飛ばす。
「はは、やるじゃないか!」
フルフェイスヘルメットのバイザー越しに少し見えた
そう思うと、急に気が楽になってきた。
私の横に居るのは、きっと歴戦のつわものだ。信じて従えば、この状況すらもきっと楽しめる。……楽しめる? こんな状況を、楽しんじゃっていいの?
クロエが自分の気持ちに戸惑っていると。
「良いんだぜ、楽しんでも。リュウゲツも言っていたさ『アクシデントなんか遊ぶくらいの気持ちが丁度いいんだよ』ってな」
「リュウゲツ……? あの、ダンジョン探索者の父の?」
「おほ、知ってたかい? くく、まあそんな御大層なもんじゃないがね」
ブラックさん、なんだか嬉しそう。
もしかして、リュウゲツさんとなにか関係のある人なのかな。
「だから楽しめ、エンジョイだ」
「……は、はい!」
言われて、ワクワクしてしまう自分を自覚した。
この人は――いえ、この人『たち』は、凄い。前線で戦っているシンシアも、きっとレッドさんに同じ気持ちを感じているはず。
「よーし、
「もう大丈夫だよ、おかあさ――司令官! 大きな怪我をした人は居なかった!」
「ならば、少しづつ防衛ラインを下げて後退する。わかったなレッド、イエロー?」
前線で戦っている二人は同時に返事をした。
「了解だ!」「わかったわ!」
ホログラムを捌きながら、二人はジリジリと後退を始めた。
押し寄せてくる魔物の数は多く、ときおり打ち漏らしが出そうになることもあった。
しかし互いが互いのそれをフォローすることで、結局のところは一匹も逃さない。
後ろでピンク――クロエが見惚れるほどの、それは綺麗な連携。
シンシアは不思議な気持ちになった。
(息が、……合う)
クロエと以外で、こんなにもしっくりとした共闘ができるなんて。
横で剣を振っているこの男は、いったい何者なのだろう。
フルフェイスヘルメットのバイザー越しに、その横顔を見つめた。
けっこうカッコイイ……? 眼鏡が理知的で、思っていたよりも細身そうな顔立ちだった。少し神経質そうにも見えるけど、眼鏡の奥にある目は反して大らかそうに見えなくもない。なにより。
(この人と一緒に戦うの、楽しい……な)
アクシデントだったはずなのに、充実した時間を過ごしていると感じる自分を自覚する。なんだろう、この気持ちは。
と、蓮司がシンシアの視線に気づいた。
「どうしたイエロー? ぼぅっとしてると危ないぞ?」
「……!」
シンシアが、キッと蓮司を睨みつける。
「危ないとか、誰に向かってそんなことをあなたは言うの!?」
「誰なんだ?」
「え? ……えっと、いや、その!」
「ぼぅっとしてたら危ない。それは相手が誰であっても同じだと思うが」
それは、そう!
シンシアは顔が熱くなってくるのを感じた。きっといま、私の顔は真っ赤だろう。
そして、ふふ、と口元から笑いを漏らした。
楽しい。ワクワクする。私がギアを上げても、この人は易々とついてくる。
「またギアをあげたか?」
「ついてこれる?」
「もちろんだ」
「そうこなくっちゃ!」
ギアを上げたのは私だけじゃない、この人もそうだ。今度は私が逆についていく番。
「ほう、ついてくるか」
「もちろんよ」
「見事なものだ」
彼女は、この瞬間がとても尊い時間だと感じている自分を自覚した。だから聞く。隣で戦っている『今の自分のパートナー』に。
「ね、どうやら今ね、私はこの瞬間が楽しいみたいなの。あなたは、どう?」
「必死だ。一般の皆さんも多く居るこんな場所でのアクシデント、さらに言うなら俺の家族も巻き込まれていて危ないんだぞ?」
「なーんだ、残念」
ちょっと傷ついたような声で、シンシアは踊りだした。
剣舞だ。踊るような動きで、ホログラムの魔物を次々に屠っていく。蓮司は、一瞬その動きに目を奪われた。そして自覚する。――ああ、と。
「すまない。自己の解析が至らなかったかもしれない、どうやら今俺は、少しワクワクしている」
「え?」
「キミと、いやキミたちと言うべきかなイエローとピンク。キミたちと共闘を、どうやら俺は楽しいと感じていたようだ」
蓮司はプラスチックの剣を、これまで以上の大振りで思い切り振った。
それは、あえて隙を残す動き。
今までの彼が使ったことのない動きだ。しかし今、この隙を埋めるものが居てくれる。イエローことシンシアが彼の背中をフォローし、ピンクことクロエが魔物の動きを抑えてくれている。
「なるほど。人と一緒に戦うというのも、楽しいものなんだな」
蓮司は呟いた。
「感謝するよイエロー。俺にそれを自覚させてくれたのは、キミだ」
「ふ、ふん!」
シンシアは、そっぽを向きながらも笑顔になった。
「いっぱい感謝なさい!?」
シンシアも、大振りな剣技で隙を見せる。蓮司はその背中を守った。
二人は共鳴しあうように、互い互いに背中を守りながら前線で暴れる。
「おっと、忘れてた」
と言いながら蓮司はスーツの上から首にぶら下げていたウォッチも使ってみせる。
敵に対して位相をシフトすることで、一瞬だけ敵の目から逃れる。次の瞬間、敵の死角に出没して致命打を与えてみた。
「うむ。これは戦いでもかなり有効に使えそうだぞ」
「あなた今、一瞬消えなかった!?」
「気のせいだ」
「気のせいじゃないわよ、なによそれ! どんな魔法!?」
魔法……じゃあないな。
蓮司は苦笑しながら、黙り込む。
「秘密ってこと? まーいいけどね!」
「そうだな。聞かないでくれると助かる」
二人は笑いあっている。言い合いながらも、その顔は双方ともに明るい。
「お兄ちゃん、なんだか楽しそう」
後方からその様子を見ていた
「友達、できるといいね」
クスクスと笑う。
そうやって、一行は撤退戦をやってのけたのだった。
入口まで戻った。
そこにはデズニの救護班や緊急時のエージェントたちが待っていた。
サエコの指示で、彼らが怪我人や一般の人々を誘導する。
場には蓮司たちと、エージェントたちが残った。
しかしまだ、ホログラムの魔物たちは万の数で押し寄せてくる。入口からどんどん湧き出てきていた。
「
「そうだねぇ」
蓮司の声を受けたサエコは、ピンク――クロエに小声で耳打ちした。
「ね、ピンクちゃん。あなたの『目』で、このテーマパークの魔力を絶てる場所ってわかる?」
「やってみます……!」
クロエは『目』に意識を集中した。
廃ダンジョンの奥までの構造が、魔力の光でなんとなく透し見できてしまう彼女だ。そして、その視点が一点に注がれる。
「わかりました、天井に埋め込まれた魔力の供給パイプです! そこを絶てば、いずれ供給魔力が尽きると思います!」
「埋め込まれた……? それはどこにあるんだピンク!」
蓮司が声を挟む。すると横に居るシンシアが彼に笑い掛けた。
「私ならその場所がわかるわ。でも、天井まではとても私だけじゃこの身が届かない」
「なるほど。ならば俺がキミ、イエローの発射台になれば」
蓮司はバレーボールのレシーブをするときのように腰を落とし、両手を下に構えた。シンシアがその手に足を掛ける。蓮司が気合を入れた。
「せえのっ!」
「頼んだわよ、レッド!」
蓮司が腕を振り上げて、シンシアの発射台になる。彼女の身体が、天井に向かって飛んでいく。高い高い、天井だ。それこそ何十メートルもある高さ。
「ここだわっ!」
シンシアが『目』のチカラを使って、供給パイプの場所を正確に叩き斬った。
プラスチック製の剣で、表面の岩盤を切り裂いて奥のパイプごと絶つ。
「よし! さすがだイエロー、そしてピンク!」
このとき蓮司の声は、歓喜に満ちていたのだった。
◇◆◇◆
そこからアトラクションの現場からホログラムの魔物がいなくなるまで、さしたる時間は掛からなかった。
全てが終わった弛緩した空気の中、蓮司は七海とサエコの横に居た。
「どうやら、大した怪我人も出なかったようだな」
「ああ。あンたらのおかげさ、蓮司」
サエコが蓮司のフルフェイスヘルメットを、コツンと叩いた。
七海も彼の背中をポカポカ叩きながら。
「ふふ。今日の兄貴、けっこう格好良かった」
「そうか? ふむ……まあ、たまには兄として威厳を示せたならなによりだが」
肩をすくめる蓮司を見ながら、サエコは笑う。
「あはは。今日は私も久々にワクワクしてしまったよ」
言いながら、彼女は蓮司の方を見た。
「……なあ蓮司、私はあのページのパスワードを知らないが、あの人のことはよく知っている」
「どうしたんだ母さん、急に」
「まあ聞け」
疑問を挟んできた蓮司を制し、サエコは続けた。
「ピンときたんだ。断言するが、パスは十中八九、アンタと七海に残したかった言葉だ。そういう悪戯が好きな人だったからね」
「…………」
「よく考えな。リュウゲツさんが、おまえたちになにかを伝えたかったとしたら、なんて言葉を残すかを。あンたなら、わかるだろ?」
ニヤリと笑うサエコ。
その顔には確信が満ちていた。きっとあの人がパスワードを設定するなら、あの言葉しかない、と。
「――あ」
「わかったようだね」
「ああ。解析……完了、だ」
蓮司は突然走りだした。
「すまない母さん、七海、俺は先に帰る!」
「えー、夕飯はー?」
「まぁまぁ、七海。今日は二人で食べて帰ろう、あいつにゃあとでチキンでも買ってってやりな」
サエコが笑っていると、クロエとシンシアが近づいてきた。
「あの……あれ、レッドさんはどちらに?」
「ピンク? ――ああ。帰っちまったよ、せわしない奴で悪いね」
「えー、そんなぁ。ブラック司令官、とどめてくれればよかったのに!」
「ごめんねイエローちゃん、あいつ、言っても聞かない奴でさ」
クックとサエコが笑うと、クロエとシンシアも、不思議と納得した様子で。
「……確かに、聞かなそうですね」
「思い込んだら、他をもう見てなさそう」
ほぼ同時にそう言って、二人で顔を見合わせた。
互いに同意できたのが楽しかったのか、ホントホント、と笑い合う。
「残念です。レッドさんとは、もっとお話してみたかったのに」
「仕方ない。事情聴取に掴まらないうち、私らも帰ろっかピンク。今日はありがとうございます、ブラック司令官。戦いやすかったわ」
「こちらこそありがとね、蓮司一人じゃあ怪我人が増えてたかもしれないからさ」
イヒヒと笑いながら、二人に手を振った。
二人はサエコに頭を下げて去っていく。
「そっか、蓮司さんていうんだ……」
なにかを思い出した顔をするクロエ。
「どうしたの、クロエ?」
「……ううん。なんか、不思議だなって」
クロエはもう誰もいない通路を見つめながら。
「あの人、戦ってる時に言ってたの。『ゲームであればこそ、敬意を以て真剣にやる方がいい』って」
「あれ、それって……」
「うん。私たちが読んでる『R』さんのブログにも、似たようなことが書いてあった気がして」
確か、『ダンジョン攻略は遊びではないが、遊び心を忘れては攻略できない。真剣に遊ぶことこそが敬意だ』といった一文があったはずだ。
言葉の端々に宿る、独特の哲学。それが、あのレッドさんと重なった。
「え、そんな偶然がありえていいの? こんなところでたまたま『R』と出会うなんてことが?」
「まさか、ね」
クロエは微笑んだ。
だって だって魔力の質が全然違う。あのレッドさんの魔力は、とても静かで温かかった。ブログを書いている『討伐者』さんのような、鋭い覇気は感じられなかった。
彼女は知らない。蓮司の魔力が、今は魔力を封じる指輪の力で変質していたことを。
『目』に頼る彼女だからこその落とし穴に、嵌まってしまっていたことを。
(でも、なんだろう。この引っ掛かる感じ)
クロエは胸に手を当てたのだった。
――――。
家に着いた蓮司は、電気も付けずに暗い自室のパソコンの前に座った。
モニタが彼に反応して点ると、ほんのり部屋が明るくなる。
焦る気持ちを制しながら、彼はキーボードを叩き始めた。
なぜ『ダンジョン&マジック』の中に、厳重に隠された『リュウゲツブログの隠しページ』URLがあったのか。やっといま、その理由がわかろうとしている。
蓮司は思っていたワードを入れてみた。だが。
「あれ、これじゃない……?」
エラーが出た。隠しページの中には入れない。
ならこれだろう、と続いて文字列を少し変えて同じ意味の言葉を入れる。
「これでもない? おかしいな、ワードは絶対これだと思うんだが」
考えていたワードを、少し形を変えながらなんども試してみるが、一向に隠し部屋へとはいけない。
しかし彼は焦らなかった。深呼吸して、ゆっくり考える。
「まさかな……」
そう言いながら、考えていたワードの後にこう付け加えた。
”renji”
と。
”choose excitement renji”
(ワクワクを選べ、蓮司)
パスが認証された。――ああ。
「なんだよこんなの。俺専用のパスワードじゃないか……」
リュウゲツブログの隠しページが、ついに開かれたのだった。
『ようこそ! あなたは00000001番目の訪問者です』
画面の向こうで、父さんが笑ってるような気がした。