「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件 作:chickden
『ようこそ!あなたは00000001番目の訪問者です』
黒い背景に白い文字が映える。
シンプルなページだった。そこには白文字のテキストでまずこう書かれていた。
その下に貼られたJPG形式らしき写真の取り込み画像が、裏ブログのトップページだ。なんだろうこの写真は……? 中世ヨーロッパの街並みに見えるが、それにしては建物が綺麗すぎるし、なんなら空には竜のようなものが飛んでいるらしき影も見える。
画像の下には『次へ』とページをめくるリンクが貼ってあるだけだ。
(不思議な画像だな……)
そう思いながら蓮司は次のページをめくった。
するとそこには、同じく黒背景に白文字のテキストが現れた。
『ようこそ、00000001番目の訪問者さん。……いや、蓮司くんかな』
「……ああ、俺だよ父さん」
蓮司の推測通り、この隠しページは彼専用だった。
彼は苦笑しながら、あらたな文字を表示させるためにマウスをクリックする。
『僕は怖いんだ。あちらの世界の強大さが。本当はキミに知らせぬままが理想なんだけど、蓮司くんが今ここを見ているということは、僕は失敗したということだろう。だから情報を残しておこうと思う』
画面には父の言葉と共に、中世ヨーロッパのような街並みの写真が、また表示されていた。先ほどのものとは違い、たくさんの人が往来している街並みだった。服も中世然としており、鎧を着た者たちもいる。その中に紛れて、まるで牛車のような乗り物が大通りを走っている映像だ。ただし、車を引く動物は牛ではなく。
「……ドラゴン?」
どうやら小さな竜だった。つまり、街中を走っているのは竜車とでもいうべきか。
写真の下にはボタンがあった。
『【この世界を知る】』『【戻る】』
二つのボタン。
蓮司は迷わず前者をマウスでクリックした。この世界は、一体?
『そうくると思ったよ。キミはサエコさんに似て好奇心が強いから』
「よくわかってるじゃないか」
仮面に表示される父からの言葉に、笑みを浮かべながら答える蓮司。
画面が切り替わると、少し長めのテキストが表示された。
『蓮司くんも既に察しているかと思うけど、この写真は異世界で撮影したもの。その世界はイゼルバーンと言う』
父の記したテキストは、こう続いた。
――我々の世界での中世ヨーロッパに似た街並みをしながらも、魔法というものが発達しており、文化水準でいえば我々の世界に近い。科学ではなく魔学が進歩しており、我々の世界のことも含んだ『次元』というものの把握において、イゼルバーンは圧倒的に進んでいる。
その中で『ダンジョン』とは、イゼルバーンからの侵略行動の一環。
魔物を送り込む装置にして、相手の世界における『勇者』を選別するための試練場。勇者に認定された者は、その世界の運命を賭けてイゼルバーンの勇者と戦うことになる。
「俺が、二層ボスの
『僕は勇者候補として、イゼルバーンの戦士に認められた。そしてあちらの世界に招かれた、というわけだ』
「父さんが、勇者候補だった!?」
俺と同じじゃないか、と蓮司は驚きで声を詰まらせた。
なおも読み進めると父――リュウゲツも、蓮司と同じように敵から勧誘を受けたらしい。敵対するか、異世界に帰属してこちらの世界の終焉を見届けるか。
蓮司と違っていたのは、リュウゲツは『考えさせてほしい』と言ってすぐに断らなかったとこだ。そのため交渉の余地が出て、イゼルバーン招かれたのだという。
「そうか、確かにあそこで即答する必要もなかった。つい断ってしまったが、もっと情報収集に努めるべきだったか」
長文をスクロールしながら蓮司は読み進める。
あちらの世界でリュウゲツは、他世界の『元勇者』だった老人と会うことができたらしい。その老人は『勇者対決』に負けて、
『この魔法はイゼルバーンの『勇者信仰』が生み出した奇跡の一つとのこと。負けたら抗う術はない。もし『勇者』に認定されたなら、行動には十分気を付けて』
画面をスクロールするごとに、重要な情報がテキストの形で下から現れる。
リュウゲツの残したテキストは、まだ続いた。
『現状イゼルバーンは、勇者肯定派と否定派に二分されている。僕を勧誘してきたのは後者で、一定期間僕たちの世界に勇者が現れなければ、決闘を待たずして魔物を使役した軍勢で攻め込むことが許されるようだ。僕はここまでの話を、資料と共に雇い主である
蓮司は眉をひそめた。
『だが
…………!
そのフレーズには覚えがあった。確か『ダンジョン&マジック』のプロテクトコードにもなっていた、マイナー小説からの一節。
そうだ。記憶が間違ってなければ、『ダンジョン&マジック』のリードプログラマの愛読書だったSF小説の一節だ。
父がここでこのワードを出してきたのは偶然なのか?
そんな偶然が、あり得るのか?
画面をスクロールすると父の話はまだ続く。
『老人の話によればイゼルバーンの当時の勇者は『少女』で、どうやらミサイル直撃に匹敵するほどの攻撃であろうとも耐えるようだ。凄い話だろう? 僕はワクワクしてしまった。その子と戦いたいな、と思ってしまったよ。そしてそれがバレて、僕は異世界で囚われの身となった』
続く。
『それを救ってくれたのは、件の老人だ。彼は僕に”フェイズシフトウォッチ”なる次元の位相をズラして人目を避けられる
――フェイズシフトウォッチ。
なんてことだ。いま俺のポケットの中にある
「母さん……。いったいあっちで、なにをやってるんだ……!」
蓮司が苦々しく呟いたところで画面のスクロールが止まり、蓮司は最後のテキストを読んだ。
『僕は勇者を目指したい、そしてその少女と戦ってみたい。聞いた彼女の強さには絶望もした。でも同時に、探索者としての血が騒いでしまったんだ。その理不尽な強さに、どう立ち向かえばいいのかとね』
続く。
『要するに僕は、ワクワクしてしまったんだ。だけど、蓮司くんがこのテキストを読んでいるということは、僕は勇者にも成れておらず、なにかに負けたということだ。無念だけど、仕方がない』
テキストは次のように締めくくられていた。
『蓮司くんはここで闇の中にある真実に光を当てた。そしてキミには選ぶ権利がある。逃げてもいいし、戦ってもいい。choose excitementだ』
(ワクワクを選べ……、か)
蓮司は苦笑した。
まったく父さんも、母さんも、どうやら好き勝手に生きている。きっとワクワクした心に忠実なのだろう。たぶん母さんが知ってることを俺に黙ってたのも、それは意図があるからに違いない。
「父さん。俺の答えは、もう決まってるんだ」
蓮司は自身のブログを立ち上げた。
そこで、真実を世界に報告する。俺は正しい記録を残したいんだ、と彼は笑う。
(そうか。『ダンジョン&マジック』が、もしかしたら母さん謹製の可能性も出てきたってわけだ。ふふ、相手にとって不足なし。俺はアレを解析し尽くして、あンたを超えてみせるよ。母さん)
そしたらきっと、もっともっとこの世界の真実に近づけるはず。
それはとてもワクワクする。この対話の先になにがあるのか、見極めてやる。
蓮司は力強い笑みを浮かべたまま、自身のブログを更新し始めたのだった。
◇◆◇◆
『R』のブログが新たに更新された。
実はこの頃、蓮司のブログは何気に話題となることが増え、周囲への影響力を見せ始めていた。
もっともその影響力の方向は、主に笑いだ。
ネット民たちはこのブログが更新されるごとに、その内容を笑い、『R』を馬鹿にする。今回はことさら『笑い』の成分が強い、と彼らは腹を抱えた。
”え、異世界からの侵略?wwww”
”勇者キタ! 勇者キタよー!!!!!”
”こいつ、自分を勇者候補とか言ってるじゃん。恥ずかしくないのか”
だが今回は、普通に驚いている者も混ざっていた。
”いや、ダンジョンの由来は謎に包まれている。異世界説はこれまでもあったし、異世界があるなら侵略の可能性だって否定できないよ”
もっともそういったコメントは、次のひと言だけで否定されてしまうのが常なのだが。
”陰謀論者乙wwwww”
――と。
そして蓮司の身近にも、驚いている者がいた。七海だった。
「兄貴、今回のブログ本当なの!? ダンジョンが異世界からの侵略拠点だ、って奴!」
「本当だ。父さんのブログの隠しページで確認した、父さんは事実無根なことを書き残しておくような人じゃなかったからな。十分信用に値すると思って公開した」
蓮司の言葉に、さらに目を丸くする七海。
「お父さんブログの隠しページ? そんなものがあったの?」
「ああ。俺の個人名が入ってなければ、アクセス方法も公開したいところだったが」
もちろんその辺や、サエコのこともフェイズシフトウォッチことも、ブログには書いていない。個人が特定されることは当然避けたい蓮司だ。
サエコと言えば、彼女はもうアメリカに帰っている。
彼女はデズニ後には妹に言付けを残し、そのままアメリカに行ってしまったのだ。
「言付けって、なんだ?」
「えっとね……『虹の光は願いを叶える。大事なときの為に、覚えておきな』だって」
「なんのことか、わからないが」
「私の顔をマジマジと見られても困るよ、兄貴!」
蓮司と顔を合わせず帰ったことに対し彼は、「絶対確信犯だ」と舌打ちしたものである。
「でも……この内容。またきっと、ハヤテがうるさいよ?」
「構わないさ。そもそも俺は、彼のことを気にしたことがない」
肩をすくめる蓮司だが、七海の心配は当たった。
『やあ皆、落ち着いてくれ。……うん、言いたいことはわかるよ。俺も笑いすぎて腹筋がひきつりそうになったからね。だが、彼をあまり責めないであげてほしい。夢を見るのは自由だ。特に、現実が辛い人にとってはね』
配信画面の中で、ハヤテは優雅にコーヒーカップを傾けながら、憐れむような溜め息をついた。
『異世界? 侵略? ……ふふっ、クリエイティブな才能だけは認めてあげようか。だが一番傑作なのは、彼が自分を「勇者候補」などと名乗っている点だ。鏡を見たことがあるのかな? 勇者というのは、選ばれた者だけが背負える孤独な称号だ。例えば……そう、この俺のようなね』
カメラに向かってウインク。
コメント欄が「ハヤテこそ勇者!」「抱いて!」と黄色い悲鳴で埋め尽くされる。
『だが、これ以上彼の妄想を放置するのは、社会のためにも、彼自身のためにも良くない。そろそろ大人が「現実」という薬を処方してあげないとね』
『こうなったら、彼には一度直接痛い目を見てもらって、夢から覚めてもらう必要があるかもしれない』
”直接……? どういうことだ?”
”え、まさか……”
”お、くるぞ、くるぞ!?”
『俺はここに、
彼は優雅な、だが鋭い笑みで。
『もちろん、参加は自由だ。でもまさか……ネットでだけ威勢のいい「引きこもり勇者」なんてことはないよね?』
キター! とネットは熱狂の渦に巻かれたのであった。