「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件 作:chickden
オフライン版『ダンジョン&マジック』。
まさかゲームのプロテクトを外したら、中からシングルプレイ専用の同タイトルゲームが出てくるとは思っていなかった。
タイトル画面はだいたい同じ。
TPS(サードパーソンシューティング)視点で、自キャラの後方ちょっと頭上から見下ろす構図にて、ダンジョンの中を冒険者がひた歩くデモ画面。右上隅に『DUNGEON&MAGIC』と、石造りのようなロゴ文字が浮かんでいる。
違いは、そのロゴに被さるよう小さく『SHIBUYA.ver0.03』と表記されていることだ。この文字が意味するところは――。
「間違いない。このマップは、ダンジョン『シブヤ』の一階層と同じ」
デモ画面で自キャラが歩いているマップの構造に、覚えがあった。
蓮司の頭の中には『シブヤ』に関するあらゆる情報が記憶されている。彼は確信の上でマウスのボタンをクリックしてゲームを始める。
キャラクリエイトもなく、突然ダンジョンの入口からゲームはスタートした。
装備は、武器の木刀にアーマーのジャージ。持ち物は、フェイズシフトウォッチ。
(……つまり、これは俺ということだ)
キーボードで移動し、マウスで視点移動。
操作自体は普通のアクションゲームに近い。
蓮司がダンジョンの入口で木刀を振ったり転がったりしていると、部屋のドアがノックされた。
「兄貴ー、デザート持ってきたよ。入っていい?」
「どうぞ」
ドアが開いて七海が顔を出す。
彼女は入ってくるなり、膨れっ面で自分の兄を見た。
「自分の食器を流しに持っていきもせず自室に篭るとか、よくないぞ兄貴ぃ」
「済まない、今日はちょっと気が急いてしまって……!」
「いいけどね、またプログラムに夢中だったんでしょ。はいこれ、デザートのフルーツ白玉」
フルーツ缶詰をシロップに白玉団子を合わせて、そこにちょっとの小豆餡を乗せてある。白玉と小豆餡は自家製という、小椀だがなかなかに凝った品だ。蓮司は受け取ると、ありがとう、と礼を言って口にする。
「……小豆餡が、スッとした甘味をしてるな」
「わかる? 和三盆を使ってみたんだよ。甘みがスッキリしてるでしょ」
蓮司は案外味のわかる男だった。
七海が食事やデザートに凝り性なのは、そのためだ。頑張ってつくったものを、ちゃんと理由付きで美味しいと評されるのは、心地が良いものなのだった。
手間を掛けたことが理解して貰える。
それはある意味で快楽と言えた。なので、兄に食事を提供するのは嫌いじゃない七海だった。
「あれ、これって兄貴がハマってるゲームでしょ? ダンジョン&マジック」
気分良さげな顔で、七海がモニタを見る。
「珍しいね、実際にゲームをプレイしてるなんて」
「そんなことはないぞ。俺は『ダンジョン&マジック』を愛してやまない男だ。今でもちょいちょいプレイをしている」
「またまた。わかってるんだよ、昔ほど部屋からゲームの音が漏れてこないもん。最近はずっと解析ばかりだったんでしょ」
「うぐ」
そう言われると、言葉に詰まってしまう蓮司だった。
確かに以前ほどはゲームをプレイしていない。解析ばかりだったかもしれない。
愛を疑われたみたいな気持ちになって少し消沈していると、七海が後ろからゲーム画面を覗き込んできた。
「このゲーム、難しいらしいね」
「そんなことはないと思うが……。ちょっとやってみるか?」
「私!? ゲームなんかほとんど触ったことないよ?」
友達がやるのを横で見てるくらいが関の山だと、彼女は首を振った。
「なにごとも体験だ。ほら七海、ここに座って」
蓮司がイスから立ち上がり、七海に促す。
七海も、兄がどういうものをやっているのかに興味があったのだろう、言われるがままに座ると手をワキワキさせた。そこに蓮司は、ゲームパッドを握らせる。
「初心者はパッド操作の方がキャラを動かしやすいだろう」
「ふーん。……って、このキャラ、なんか兄貴に似てない?」
「そうだな。俺と思って、大切に動かしてくれ」
「あはは、このボタン押すと兄貴が左右に転がる。おもしろーい!」
「やめろ、目が回りそうだ」
そうしてゲームを始めた七海だったが。
「あ、死んだ」
最初の魔物、ポイズンジャイアントに遭遇して即死した。
「また死んだ」
レッサーデモンに遭ってすぐ死んだ。
「あああ、なにこれ!」
迷って逃げているうちに、魔物だらけのモンスターハウスに入り込んで、肉片となった。
仕方もあるまい、これは初心者でも遊べる普通の『ダンジョン&マジック』ではなく、高難易度ダンジョン『シブヤ』を模した特殊なバージョンだ。初見で触った人間がどうこうできるはずもない鬼畜難易度に、ゲームも仕上がっていた。
「難しすぎ! 兄貴、交代! 見てる方がいいよ!」
「敵の攻撃を見切るだけなのだがなぁ」
そういって交代した蓮司は、敵魔物の攻撃を華麗に避けつつ相手の懐に入っていく。
「たとえばポイズンジャイアント。これは振りかぶりモーションが大雑把に三種類あるんだが、それぞれで打撃のインパクトタイミングが違う。その幅、およそ1.5秒。見極めて、モーションの長い攻撃がきたときに――」
攻撃判定の内側に入る蓮司。
そこから木刀で、腹を一突きした。
「弱点の腹を攻撃する。これだけで倒せる」
「すごいすごい、兄貴、やるじゃん!」
感心されても喜ぶ素振りすら見せない蓮司だ。
彼にとっては当たり前のことをやってるだけなので、なぜ感心されたのかピンときていない。
「レッサーの相手はこう。まず木刀でツノを一本叩き折る。すると飛ぼうとしたときにバランスを崩すから」
地面に伏したところを、木刀にて一撃。
「攻撃力を鍛えたキャラでタイミングよく弱点を突けば、大抵の魔物は一撃で屠れるんだ。実はこのことを知っているプレイヤーは少ない」
「なんで?」
「うーん、なんでだろうな。コンマ001秒のタイミングで弱点を殴打するだけで良いのだが」
「シビアすぎ! それを簡単だなんて、兄貴の基準が変だよ!」
そんなことを言われても、と困惑してしまう蓮司だった。
簡単なものは簡単なんだから仕方ない。
アルゴリズムを把握し、デジタルに動かせばいいだけだ。この、『ゲームと同じ戦い方』で、現実のダンジョンでも無双を続けている蓮司は、言われても首を傾げるだけだった。
「いっぱい! いっぱい魔物が来たよ!」
「そういうときは、こう」
言いながら、頓着なく魔物の集団に向かってキャラを歩かせる蓮司だ。
「こいつはB-2パターンの動きをする個体。だから面倒がないように先に倒してしまう」
強引に魔物の懐に入ったかと思うと、胸を一突き。この魔物の弱点はそこなのだろう。
「次は援護役である奥にいる敵を狙う」
前にいる魔物が繰り出す攻撃を、全て紙一重でかわして、なにごともないような歩みでキャラが奥の魔物に近づいていく。逃げようとした魔物を、背中から叩く。
「さすがに背中は弱点じゃないから、一撃では屠れない。なので、物量で叩きのめす。背後からの敵の攻撃は、パターンに応じて避けることで視認しなくても可能」
「いやいや、普通可能じゃないからね、兄貴!?」
結局蓮司は、大量に押し寄せてきた魔物を、アルゴリズムを読むことで局地的な各個撃破に持ち込んで、瞬殺してしまう。七海が呆れた声を出した。
「まさか兄貴、現実のダンジョンでもこんな戦い方してるの?」
「そうだが?」
「危ないじゃん! 全部ギリギリで避けたりしててさ!」
「十分安全マージンを取りながらの行動なのだが」
言いつつ余裕の表情。
時にモニタすら見ずに、キーボードとマウスを操作して敵の攻撃を躱している。
「ぜんっぜんわからない。ホント?」
「たとえば今の流れは、計算上では0.1秒反応行動が遅れてたとしても対応が可能になっている。問題はない」
口をあんぐり開けたままの七海である。
0.1秒を安全マージンと言いのける兄の基準がわからない。これはなにを聞いても理解不能だ、と『理解』したのだった。
そうこうしているうちに、一層ボスのフィールドへとやってきた。
青いグレーターデモンが立っている。
「ああ、確かこいつは回復力が凄い敵で」
あのときは、木刀を折って二刀流にすることで手数を増やして勝ったのだった。
このゲームに、木刀を折るなどというシステムはない。ならば今ならどうやって倒すか。
蓮司はアイテム欄から、フェイズシフトウォッチを選び。
姿を隠して接近。
弱点への大ダメージを先制する。見えなくなることで相手の防御動作が鈍くなるから、このアイテムを使うと弱点を狙いやすい。なので、全ての攻撃を弱点に集中させていく蓮司だ。
「今なら、こう倒すのが正解だな」
神出鬼没となった蓮司は、毎回高ダメージを与えることで敵の回復量を上回ることに成功した。やがて青いグレーターデモンは倒れる。
「あ、なんか魔物が落としたよ」
「ドロップ品だな。……ああ、これは虹色魔石」
「虹色って……、え、まさか」
七海は自分が付けているネックレスに手を置いた。
それは、蓮司からプレゼントされた七色の石だ。彼のはからいで、ネックレスに仕立ててもらったものである。
「これって、魔石なの!?」
「さて。だが少なくとも、こいつからドロップしたのは間違いない。ウエノ08で一個、ここで一個。合計二個」
「もしかしてこれ、とんでもなく貴重なんじゃ……!」
七海は自分のネックレスを凝視した。
七色の石を手にしながら、目を丸くしている。
「どうだろうか。少なくとも、魔石屋には評価されなかったぞ。こんな色の魔石なんか見たことも聞いたこともない、と一蹴されてしまった。だからウエノ08でのドロップ品は、近くの公園で開かれていたフリーマーケットで売り払ったんだし」
「もったいな! 兄貴、そーゆーとこだよ、色々と無頓着すぎ!」
「そうだなもったいなかったかもしれん。だから心を入れ替えて、二個目はおまえへのプレゼントにしようと思ったんだ」
この後も蓮司はキャラを操作して、二層のボスに辿りつく。
そこには最初ボスがおらず、フェイズシフトウォッチを使って魔物の所在を暴くところも同じだった。ただし、現実ではあった『リビングアーマー・アグレージ』との会話などは特にない。出てきたアグレージと戦うだけだった。
「会話の再現はナシ、か」
「なんのこと兄貴? 会話の再現て」
「このダンジョン&マジックは『シブヤ』を模した特別版なんだ。これまでに出てきた敵も、その攻撃方法も、全て現実と一緒。網羅されているんだが、そこであった敵との会話まではサポートされていないな、とね」
「は?」
七海は声を上げた。
さっきから驚かされてばかりの彼女である。
「ちょ、ちょっと待ってよ兄貴。確か前も、『なんでゲームの中に、未踏ダンジョンのマップデータがあるのか』って疑問に思ったことあったけど、兄貴が悩んでいた『ボスとの出会い方』までこのゲーム開発者は知っていたってこと?」
「そうなんだろう。じゃないと、こんなゲームは作れない」
しかもこのゲームは、相当以前からREN社サーバー内に『プロテクトの一環として』設置されていたはずのものである。蓮司が実際にシブヤを攻略する前から、この攻略ギミックは判明していたことになる。
「変じゃん! 絶対変じゃん、特に倒したボスの能力なんかは、世界で兄貴しか知らないはずなんじゃないの? なんでそんなことまで網羅して、ゲームを作れるの?」
不思議そうというよりは少し怖そうな顔をして、七海は蓮司に訴えた。
ありえないはずのことを目の前にしたとき、理解できなくて人は恐怖するものだ。
彼女の顔は不安に満ちていた。
翻して蓮司の表情である。
こちらは好奇心に満ちたものだった。彼は妹の問いに「わからない」と答えて前置きをした上で、実に楽しそうな声音でこう言った。
「確かに不気味ではある。このキャラも俺を模した物になっているし、誰かが『ここに至る俺の未来』を予知していたとしか思えない」
言葉に反して、やはり彼は笑うのだ。
だがな、と。
「だがな、見てみろ七海。このゲームには、俺がまだ足を踏み入れてもいない三層のマップも存在するんだ。わかるか、この意味が」
「……わからない」
「本当にわからないか? このゲームには俺がシブヤ二層までを攻略する前から、二層までの情報が詰まっていたと考えられる。そんなゲームに、俺がまだ未攻略な三層のデータが入っている」
「――あ」
七海はハッと、なにかに気がついた顔をした。
「そうか……。三層で起こることも、きっと『予知』されている……?」
「その通りだ」
蓮司は満足げに頷いた。
「このゲームは、今日この瞬間の俺にとって『予言書』にも等しいものである可能性を秘めている。現実のシブヤ三層で起こることを、先にゲームで体感してしまえるかもしれないんだからな」
ワクワクした顔をしてみせる蓮司とは裏腹に、七海はゴクリと喉を鳴らした。
「じゃあいくぞ、三層だ」
蓮司の動かすキャラが、三層へと潜っていったのだった。
◇◆◇◆
「ダメじゃないクロエちゃん、謹慎中でしょう!?」
マンションのエレベーターで出会ったクロエを彼女の部屋に引き戻すと、さっそく初子のお説教が始まった。横にいるシンシアも、これは仕方ないとばかり神妙にしている。万一にでも協会にバレたなら、反省の色なしとしてさらに重い裁定が下る可能性がある。
「せっかく協会が便宜を図らってくれるように、シンシアちゃんが動いてくれたんだから。そういうのを無駄にして良いと思うような子じゃあないよね、クロエちゃんは」
「……すみません」
しょぼん。
うな垂れたまま、初子の説教を真摯に受け止め続けるクロエだった。
なんで外出しようとしたのかと問われ、それも素直に答える。
「時間が出来ちゃったから……『R』さんを探したくなってしまって。蓮司さん、という名前が分かった今、じっとしてられないんです」
「はぁ、わからなくはないけどねぇ……」
本当はあまりわからない初子なのだが、そうは言わない。
クロエはどうしてこうも『R』に固執するのだろうか。いつも疑問に思っていた。確かに本当に『R』が存在し、しかも実力者だったことには驚愕もした。だけどクロエは、もっともっと有名で、これからさらに羽ばたくべき存在ではないか。
言葉を選ばないで言えば、『R』なんて今のクロエと比べたら、取るに足らない存在なのだ。彼にかまけてなんていないで、もっと『上』を見ていて欲しい。初子はそう思う。
なおも説教を続けられそうになったクロエに、助け舟を出したのはシンシアだった。
「まあまあ、初子さん。クロエが『R』教なのは今に始まったことじゃないし」
クスクス笑いながら続ける。
「わかるよ、クロエは協会からの評価になんか興味ないもんね。あなたは、ただただ強さに焦がれながら自分が存在している意味を見つけようとしてる人だもの。『R』が気になって仕方ないのはしょーがない」
「ダメよシンシアちゃん、そんなこと言って甘やかそうとして」
むっちり頬を膨らませた初子。
シンシアはその顔に肩を竦めながら、なおも続けた。
「可愛い子には旅をさせろ、この国に来て知った言葉だけど、とても良い言葉だと思う。旅をさせて厳しい経験を積ませろって意味だけど、大切ならばこそ、その子を信頼しろということでもあると思うの」
「む」
黙り込む初子だ。
「ね、初子さん。クロエを信じてあげて。この子は常に一途だけど、悪いことをするはずなんてない。……行き過ぎちゃうことはあるけどね」
クロエを見て。
「ね、クロエ。謹慎中に外に出るのは行き過ぎだった、って解ってるんでしょ? 『R』のことなら、あなたの代わりに初子さんが調べてくれるから」
えっ!? と驚き顔をしたのは初子だ。
しかしそれにも気づかない様子で、クロエの顔がパァッと明るくなる。
「本当ですか初子さん、頼んでもいいんですか!?」
クロエは初子の手を握り。
「私……私が『R』さんに拘ってること、初子さんはあまり良い気がしてないと思ってたんです。だから、いつの頃からかお願いしにくくなって……」
すごく嬉しそうな顔で、初子にまくし立てた。
「でも誤解だったのかな、初子さんはやっぱり、いつも私を応援してくれてたんですね!」
「あはは……、も、もちろんだわ、クロエちゃん」
しまった、と初子。
クロエちゃんに変な心配をさせてしまっていたのは、私か。
そりゃあ、本音を言うなら『R』なんかにかまけていて欲しくはないんだけど。
それでも彼女が俯いてしまうことに比べたら、こうして前を向いててくれる方が断然嬉しい。そうなのねクロエちゃん、今あなたにとって『R』は必要な存在なのね。
クロエは諦めたように、ふう、と息を吐いた。
「……調べようとしてた、っていうけど、なにか心当たりがあったのかな?」
「はい、実は」
クロエは語った。
デズニランドで、彼ら――蓮司たちと共闘をしたこと。騒動を鎮圧して、目立たぬように逃げてきたということは初子も聞いていたが、その共闘者の中に『R』がいたというのは初耳だった。
「ドームTOKYOで確認したんです、あのときの赤犬さんですよねって。そして赤犬さんは、デズニで私たちを指揮してくれた司令官とは家族だったことがわかっています」
「ふぅん、それで?」
「司令官――ブラックさんは語ってましたリュウゲツさんのことを」
「リュウゲ……誰だっけ、それ?」
首を傾げた初子に、シンシアが横から笑う。
「不勉強ね初子さん、海外では有名な『ダンジョン探索者の父』よ?」
「もうシンシア、それ私の受け売りじゃない。そんなことで初子さんにマウント取らないで」
「あはは、ごめんごめん。すみませんでした初子さん」
クロエが話を戻す。
「リュウゲツさんは言ってたそうです、『アクシデントなんか遊ぶくらいの気持ちが丁度いいんだよ』と。この発言は、たぶんブラックさんが直接リュウゲツさんの口から聞いたもの」
「なんでそうわかるの? クロエちゃん」
「調べましたから。リュウゲツさんは、今の言葉をテキストとして残してはいません。それに、あのときのブラックさんの言い方……あれは、親しかった人を想う気持ちが篭ったものでした」
クロエが『調べた』というのならば、間違いはないのだろう。初子も、クロエの異様なマメさは心得ている。やるときは、徹底的な子なのだ。
「つまり、そのブラックさんは『R』氏と家族関係で、リュウゲツにも近しい者だ、と。クロエちゃんはそう言いたいのね?」
コクリ。頷くクロエだ。
「間違いありません」
自信に満ちた目で、彼女はそう断言した。
「……わかったわ、こちらで調べてあげる。だからクロエちゃんは、大人しく謹慎してて。近日中に解けるよう、便宜を図ってもらうから」
「ありがとうございます、初子さん!」
目を輝かせて喜ぶクロエ。
やれやれ、と初子は心の中で肩を竦めた。こういう表情には弱いんだよねぇ、大人にはない純粋さだもの。心の底からの、感謝と歓喜。だから私も応援したくなってしまう。
初子が溜め息交じりに笑っていると、横でシンシアも嬉しそうに呟く。
「ふふ。私も『R』さんに会いたいな、ちゃんとお礼を言わなきゃね。クロエを助けてくれた、お礼を」
シンシアはどこか遠くを見るように、目を細めたのだった。
◇◆◇◆
「……なんだ、この展開は」
「兄貴、これってどういうこと?」
三層に潜り始めて一時間後、二人はモニタを見ながら唸っていた。
ボス部屋らしい最奥の広間に着いた最初、そこには何も居なかった。しばらく広間を探索し、隅々まで調べてもそこには何も異常はなく、ただもぬけの殻だった。
が、突然に、背後から足音が聞こえてきたのだ。
コツコツコツ、と。ゆっくりした、余裕のある足音が。
そして蓮司がマウスを操作して、背後へと向くと。そこにはいた。彼女が。
「本当に、この『人』が、敵キャラなの? 兄貴」
七海が震える声で、画面を指差していた。
蓮司もまた、言葉を失っていた。無言でモニタを凝視する。
そこに立っていたキャラは、プラチナブロンドの長い髪が特徴的。
見覚えがある姿だ。それは当然で、彼女はいつもあの子の隣に立っていた。
そしてきっと、蓮司は彼女と共闘したこともある。
――あの、デズニランドで。
「シンシア……嬢?」
蓮司が呟くと同時、画面には無慈悲にもボスの名前を示すテロップが表示されたのだった。
『Boss is coming: Vanguard_Cynthia(先兵シンシア)』
――と。