「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件 作:chickden
「結局その年は、皆でお母さんに仲良く怒られちゃいました」
「なるほど七海さん、リュウゲツさんは良いお父さんでもあったのですね……」
「はい、本当に!」
暖かい空調の利いた喫茶店。
女の子二人がコロコロと笑い合っている。クロエと七海だ。
七海の父、リュウゲツに関してのインタビューは滞りなく進んだ。七海に許可を得てボイスレコーダーでの録音をしつつ、メモ書きも欠かさない。話を聞きながら、クロエは思った。「ああ、想像通りの人だった」と。
家族思いで懐が広く、好奇心が強い人。
英語でしか残されていない文献を読んできた印象と一緒。なるほど、そんな父に育てられた彼女――七海は、やはり好奇心が強く、明るい。
「七海さんを見てると、リュウゲツさんを始めとしたご家族の皆さん、誰もが魅力的な方だというのが伝わってきます。仲良しさんだったんですねー☆」
「やめてくださいよー、テレちゃいますから」
七海が身体をモジモジさせる。
その仕草が幸せそうで、クロエはちょっと羨ましい。自分の家族とは、あり方が違うんだろうな。どうしても、そう痛感させられてしまう。
家族……。
あれ、なんだろう。その言葉で思い出してしまったのは、初子さんのことだった。
本当の家族よりも、家族に近い存在の人。初子さん。
七海さんも、ご家族と喧嘩したりするのだろうか。
クロエはふと疑問に感じ、そのことを訊ねてみた。
「しますよ、します。むしろ多いですよ!」
「へえ? そうなんですか」
「だって兄貴ってば、私になにも相談してくれないんです。なにか問題が起こっても、ぜーんぶ、自分で解決しようとしちゃう。それがもう、ムカつくんですよね」
笑いながら、そんなことを言う。
むしろ楽しそうにすら見える七海に、どこか嫉妬を感じてしまうクロエだ。
「ああ、わかる気がします☆ もっとこっちのことを頼ってくれても、って!」
「そうなんですよ! わかってもらえて嬉しいな、クロエさんでもそんなこと思うんですね!」
「あはは☆ むしろよくありますよー? 初子さんは先回りして問題を解決しようとしちゃう人ですから」
「そうなんですか、意外!」
意外? そうかな?
クロエは不思議に思った。
「あれれ? そんな意外ですかぁ?」
笑いながら聞き返す。
「はい。初子さん云々よりも、クロエさんの方が、なんでも自分で解決しちゃいたがるタイプだと思っていたので」
「そうかなー☆ そんなことないですよー」
「えー?」
キャッキャと笑い合う二人だ。
そうなのかな、私ってそんなに、自分だけで解決したがるタイプなのかしら。
そんなことを考えているクロエは、間違いなくそのクチなのだけれども、自分ではそうも思っていなかったらしい。
「でも七海さん、お兄さんが大好きなんですね。微笑ましいです☆」
「クロエさんだって、初子さんのこと大好きじゃないですか」
そうかな。そうかも。
好きだった。だから、信じて貰えなかったことが、寂しかった。悔しかった。
私たち、本当はそんなに仲良しじゃあなかったのかな。って。
「でも、クロエさんだって」
と七海が、曇りのない目で言ってきた。
「マネージャーの初子さんのこと大好きですよね、すごく仲良しに見えます」
「え?」
少し俯き加減になっていたクロエが、顔を上げる。
「いつも配信見てるんだから、それくらいわかりますよー。お二人の信頼関係、すごく憧れちゃいます。私、初子さんのこと『かっこいいお姉さん』だなって思ってるんです。だから――私『も』、憧れてるんですよ?」
――私『も』?
不意を突かれたように目をしばたかせたクロエに、七海はコロコロとした笑いを向けた。
「なんですかその顔。鳩が豆鉄砲を食ったみたいですよ? クロエさんだって、初子さんに憧れてるんでしょう?」
「あ、ええ……。そう、ですね」
ああそうだ、私は初子さんにずっと憧れていた。
物事をそつなく進めてくれる計画力。問題を解決してくれる機転。いつも温かく見守ってくれていて、だけど時に厳しい。
そんな大人に、私はなりたいと思っていた。私は、お母さんではなく、初子さんみたいになりたかった。
なりたかった……のに。
「初子さんって意外と『必死』ですよね」
――え?
七海の言葉に、クロエは思考を中断した。
「配信とか見てると、クロエさんのために走り回って、汗かいて、たまに失敗して焦ってる姿も見切れてて。そういうの見ると、ああ、この人も完璧超人じゃなくて、頑張ってる『お姉さん』なんだなーって思うんです」
七海はカフェオレを一口飲んで、ふふっと笑う。
「うちの兄貴とちょっと似てるかも。不器用で、空回りすることもあるけど、誰かのために一生懸命なところとか」
「……不器用」
「はい。でも、だからこそ信用できるっていうか。失敗しない完璧な機械より、失敗しても自分のために汗をかいてくれる人の方が、私は好きだな」
七海の何気ない言葉が、クロエの心に染み渡っていく。
――失敗しても、自分のために汗をかいてくれる人。
その言葉で、クロエは視界が開けた気がしたのだ。
私は、初子さんに何を求めていたんだろう。
完璧な保護者? 間違わない大人?
勝手に理想を押し付けて、彼女が「間違った」瞬間に、裏切られたと拒絶してしまった。
(私、初子さんに甘えすぎてたんだ……)
初子さんだって、まだまだ若いんだ。当たり前のように思ってたけど、きっとまだ、たくさんの試行錯誤や失敗を繰り返しながら頑張っている最中に違いない。
あの人だって、現在進行形で成長する為に頑張っている人なのに。それもきっと、私の為に。
――クロエの中に、「信じてなかったのは初子ではなく、自分だったのかもしれない」という気持ちが湧きだしてきた。
クロエの為に初子は行動しようとしてくれて、だけどたまには失敗もする。
そんなこともある、と許容すらできずに彼女のことを拒絶してしまった。
あまりにも幼稚な、甘えた自分。
(そうだ……初子さんを信じられなかったのは、私)
「クロエさん……?」
七海の声がクロエを我に返す。
「あ、なんでもないですよ☆ そうですね、私も――」
クロエは笑顔で、心の底から同意した。
「私も、初子さんには憧れます☆」
「ですよね、それも見てるとよくわかるんです!」
「あはは、嬉しいです☆」
あとで謝らなきゃ。ごめんなさい、って。
……だけど。
まだ胸の奥に、小さなトゲが刺さっている気がする。
素直になりたい。ちゃんと向き合いたい。頭ではわかってる。
でも、心のどこかで、こわばった感情がほどけてくれない。
(今は、『R』さんのことだけ考えよう)
クロエは今の気持ちを心の奥に押し込めた。
なんのために今、私がここに居るのか。
やらなくちゃいけないことがある。全てはそのあとに考えよう。
やることをやってから、初子さんに会おう。
お礼を言って、謝って、感謝の気持ちを伝えよう。
私のことを大事に思ってくれて、失敗するほど必死になってくれて、ありがとうございますって。
そして、これからもよろしくお願いします、って。――言おう。
それでいい。全てはあとの話。
――と、そのときだ。
クロエの頭に、突然の痛みが走る。
「あうっ!?」
一瞬、歯を食いしばった。
俯いて、激痛に耐えるべく片手を頭に添える。鋭い痛みはすぐに引いたが、こめかみに鈍痛が残っていた。
七海が狼狽えた声を上げる。
「え!? あの! ど、どうしました!?」
「……ごめんなさい、ちょっと頭痛が。最近あるんです、疲れてるのかな」
「大丈夫ですか、クロエさん。お手拭き、使いますか?」
「ありがとうございます、って、平気平気☆ ――すみません、ちょっとお手洗いに」
クロエは席を立ち、トイレへと向かった。
洗面所の鏡を前にして、自分の顔を見る。
もう痛みはない。
が、最近ちょいちょいと頭痛に見舞われる彼女だった。丁度、ドームTOKYOでの暴走からこちら、だろうか。一度、病院で診てもらった方がいいのかもしれないけど、気になることが多くてそれどころじゃない。
「緊張してるのかな……『R』さんにもう少しで手が届きそうだから」
ピシャリ、と手で両頬を叩く。
七海さんから、『R』さん――蓮司さんのことを聞き出さないと。
「さあ、ここからが本番」
クロエは気合を入れなおしたのだった。
◇◆◇◆
冬空に、歌が抜けていく。
思いのほか美声だな、とハヤテの歌唱を評価している自分に気がついて、蓮司は思わず頭を振った。いやいや、そんな聞き入っている場合じゃあない、早くダンジョンに入らないと、シンシアと約束した時間に間に合わない。
再び遠くからハヤテのリサイタル会場を眺めていたところだ。
しかし、なんど見渡しても隙がない。隠密行動は彼の得意とすることの一つだが、この人数の目を盗むのはさすがに難しいものである。
どうしたものか、と頭を悩ませてると。
「あ」
と背後から声がした。
振りむいて、蓮司も。
「あ」
と声を上げる。
そこに立っていたのはシンシアだ。彼女が目を丸くしていた。蓮司もまた、同じく目を丸くしてしまった。
シンシアが、控えめな声を上げる。
「……もしかして、あなたも?」
「まさか、キミもか?」
同時に悟った。
目の前の相手が、ダンジョンに入れなくて困っていたことに。
二人は時間が止まったようにしばし見つめ合い。
「ぷっ!」「ははっ!」
とそれぞれに笑いだす。
「ぷっふふふ、なにそれ私たち、バカみたいね!」
「ははは。そうだな、うん。ははは!」
しばらく二人は腹を抱えて笑い合った。遠くに歌声が聞こえる中、晴れた冬空に笑い声が響き渡る。
「どうだろうかシンシア嬢、この喜劇に免じて、矛を収めるというのは」
蓮司は笑い続けながら。
「ダーメ」
シンシアは腹を抱えつつ。
茶目っけたっぷりに片目を瞑ってみせる。
「時間がないのよ。早くあなたを殺さないと」
「よくわからない」
「わからなくて、いーの」
「……むう。まあ仕方ないか、互いに事情はある」
「そうそう」
「じゃあ――」
ふう、と笑いを収めた蓮司が訊ねた。
「ここでやるのだろうか?」
「うーん、ちょっと待って」
そう言うと、シンシアは大きく深呼吸でもするように両手を広げた。
「うむ?」
蓮司が思わず眉をひそめる。
彼女が手を広げた途端に、周囲の魔力圧が一気に上がったのだ。蓮司は魔力を可視することができないのに、空間にそれが満ちたことが分かってしまうほどの濃度。そしてそれは、ダンジョン『シブヤ』の方から流れてきていた。
「なるほど、そういうことか……」
「あ、バレちゃった?」
「ああ」
蓮司は頷いた。
「『シブヤ』からの魔力供給を得て、キミは強くなるのか」
「そう。だからね、本当はあのとき、正面から戦ったら私に勝ち目はなかったの。もし戦闘になったら困るなーって思ったから、挑発しちゃった。ここを舞台に設定するために」
「俺があの場では戦いを回避しようとする。……それを織り込み済みでの挑発だった、と」
「まあ、そうね」
クスッと笑うシンシアだ。
「まさかあなたが『クロエが悲しむ』とか言って回避を試みるとは思ってなかったけどね。よくわかってるじゃない、あの子のこと。ちょっと妬ける」
魔力がシンシアの周りに凝縮されていく。
次第に可視化されていく。普通の目しか持たぬ者にもわかるほどの、濃い魔力。渦巻く魔力の色は、滴るような血の赤。
「血しぶきの踊り子に相応しい色でしょう?」
「そうだな。綺麗な深紅の魔力、戦いの準備は整った、というところか」
蓮司の頬に汗がひとすじ。
これから自分が相手にするのは、かつてないほどの強敵。勝てるだろうか。
懐にはこの日の為に購入してきたエリクサーが一本。これまでこっそり集めてきていた魔法石を売って購入してきた。一本しかないのは、かの薬が高級すぎて、店には陳列用の一本しか在庫がなかったからだ。
ゲームでは何本用意してもシンシアには勝てなかった。
果たして。
「……もう少し離れてもいいか? ここではまだ、彼らが巻き込まれてしまう可能性があるだろう?」
「そうね。私も必要以上にクロエを悲しませたくないもの」
「助かる」
歩き出した蓮司の後ろについてゆくシンシアなのだった。
◇◆◇◆
「七海さん。その、虹色の石が付いたペンダントですけど……」
クロエが語尾に☆のつかない、真面目な声を出した。
「お兄さんからのプレゼントですか?」
「え? あ、はい!」
突然の問いに、七海は嬉しそうに答える。
「誕生日だから、って兄貴がプレゼントしてくれたんです」
「いいですね、とっても綺麗な、『魔石』」
「ええ、とっても……って、え?」
魔石という指摘に、はっとする七海。
見ればいつの間にか、クロエの顔が真剣そのものになっていた。これまで配信では見たことがない、獲物を追い詰める狩人のような表情。
そうだ、と兄、蓮司の話を思い出す。
『クロエちゃんたちが俺の――『R』の正体を嗅ぎつけている。接触を避けたい』
(しまっ……誘導された!?)
七海は誤魔化し始めた。
「えっと、その、別にこれは魔石なんかじゃあ……ただのガラス細工で……」
「七海さん」
が、クロエは逃がさない。
「そのご様子だと、それが魔石だと七海さんにはわかってるみたいですね」
「い、いえ、そんなことは!」
「誤魔化さなくてもいいんです。ご存じですよね、私の『目』が魔力を見れること」
クロエは七海の胸元を真っ直ぐに見つめ。
「店に入ってきたとき、ひと目でわかりました。その石からは、隠しきれないほどの凄い魔力が溢れているんです。そんな貴重なものを、一般の方がアクセサリーとして持っているはずがありません」
「う……、いえそんな。あの、ううう」
しどろもどろになる七海。
兄貴と約束したのに。これじゃあバレちゃう、兄貴が『R』だってこと。
冷や汗が背中を伝った。
もし兄貴の正体が世間にバレたら、マスコミが押し寄せる。ネットで特定され、兄貴の静かで平穏な引きこもり生活(?)が壊されてしまう。
それだけじゃない。ダンジョン協会だって黙っていないかもしれない。なにせ兄貴は色々やらかしている。責任を取らされるかもしれない、酷いめに遭わされるかもしれない。
そこに自分のことの心配はなかった。
七海はあくまで兄である蓮司のことを心配してるのだ。自分のことでないからこそ、パニックに陥っている。
「あ、あの! 私、そろそろアルバイトの時間なので!」
七海はガタリと席を立った。
逃げるが勝ちだ。とにかくこの場を去ろうとして。
――だが。
「待ってください!」
ガシッ、と。
クロエが、七海の腕を強く掴んだ。
それは、か細い腕からは想像もできないほど強い、必死な力だった。
「は、離してください! 私、ホント急いでて!」
「聞いてください! お願いします! 今あなたを行かせたら、私、もう二度とあの人に届かない気がして……!」
クロエの悲痛な叫びに、七海の足が凍り付いたように止まる。
恐る恐る振り返ると、そこには――泣き出しそうな顔で、けれど瞳にだけは鬼気迫る光を宿して、必死に七海の腕にしがみつく少女がいた。
それは、S級探索者でも、トップアイドルでもない。ただ一人の、なりふり構わない少女の姿。
「お兄さん……『R』さんに、私はなんども、なんども魂を救われているんです」
「え……?」
「ウエノ08で死にかけたときも、シブヤで心が折れそうになったときも、いつもあの人の『言葉』が、あの人の『背中』が導いてくれました。あの人がいなかったら、今の私は存在していません」
切々と、堰を切ったように溢れ出すクロエの言葉。
どれだけ自分が彼を追い掛けてきたか。どれだけ彼に焦がれてきたか。
それは単なるファンの熱狂ではない。もっと重く、ドロリとした執着にも似た、切実な想いの吐露だった。
「私、ずっと自分が何者なのかわからなくて……お母さんの着せ替え人形みたいに、なんとなく生きてました。息をしていても、心は死んでいたんです」
クロエの指が、七海の服を強く握りしめる。
「母の元を離れて探索者になったあとも、結局自分が何者なのか、答えには行きついていません。でも」
俯き、唇をしばし食いしばって。
「でも、『R』さんが居てくれたから! あの人を追うことができたから、私は自分の大事なことに気づけたんです。自分の中にある気持ちに正直になろう、立ち向かおうって!」
その熱量に圧され、七海は力が抜けたように席に座り直した。
この人は、本気だ。
目を見ればわかる。兄貴のことを、興味本位やスクープ狙いで探っているんじゃない。
「お兄さんは、どんな人ですか?」
クロエが縋るように、祈るように聞く。
「七海さんには、どう見えていますか? 普段はなにをしてるんですか? 教えてください、お願いします……私に、あの人の『本当』を教えてください……!」
七海は観念したように、深く溜息をついた。
兄貴、ごめん。この熱意には、勝てないよ。
ポツリ、ポツリと、クロエの熱にほだされるように口を開く。
「……ただの、不器用な兄ですよ。優しくて、賢いけど、自分のことには無頓着で」
「はい……! はい……!」
「引きこもりで、家族に心配ばかりかけて。でも、誰かのために一生懸命になれる……そんな、馬鹿な人です」
七海が答えるたびに、クロエは花が咲いたように嬉しそうな顔をする。
その表情は、まるで長年探し求めた宝物のありかを、ようやく見つけた子供のようで。
(ああ、この人は……)
七海は確信した。
この人は本気で『R』のことを、兄貴のことを想ってくれている。
憧れて、追い掛けて、探して、探して。
泥だらけになって、ようやくここまでたどり着いたのだ。
(この人になら、兄貴をゆだねてもいいかも)
それに今、兄貴は命がけの戦いに赴いている。
相手はあのシンシアさんだ。兄貴がいくら強くても、無事で済む保証はない。
もしかしたら、シンシアさんの親友であるこの人なら、兄貴を助けてくれるかもしれない。
七海は覚悟を決めた。
心の中で、ゴメンお兄ちゃん、と謝って。
「……クロエさん」
「はい!」
「兄貴は今、家にいません」
七海は、真っ直ぐにクロエを見据えた。
「兄貴は今、シンシアさんと戦うために――『シブヤ』に居るはずです」
「え……?」
驚くクロエに、七海はこれまでの経緯を話す。
にわかには信じられないような、それは真実。クロエは黙って聞いていた。
七海の話に一切口を挟まず、だが全ての話が終わったときには。
「シンシアが……そんな……」
隠せないショックが、言葉となって漏れた。
すがるような目で七海を見るクロエ。だか彼女の口から、冗談や嘘だという言葉は出てこなかった。グッと唇を噛み、しばらくクロエは無言になるが。
「『シブヤ』なら、ここから近い……」
決意した顔で、七海の方を見る。
「七海さん、ありがとうございます。私、確かめてきます……!」
そういって店を飛び出していったのだった。
――真実を見定めるために。