「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件   作:chickden

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廃墟の戦い

 

「ありがとう諸君、最高だ……最高の宴だ! ここに集まってくれた選ばれし皆、特別な君たちよ。次のナンバーは君たちだけに贈る特別な曲、いくよ? 『Valentine's Day』」

 

 ハヤテのMCが終わり、曲が始まったと同時。

 ドォォン! という衝撃が響き渡る。ダンジョン『シブヤ』前、特設ステージの裏手に大きな赤い光の柱が立つ。ギグに夢中な観客は皆、それを演出だと思った。

 

 だが違う、それは戦いの始まり。終わりの始まり。

 

『Yeahhhhhhhhhhhhh!』

『ハヤテー! 最高だぜー!』

 

 誰もが気づかぬステージ裏手、そこから少し離れた場所で、真の宴が始まった証なのだった。

 

「ふふ、愛してるよ。諸君!」

 

 次のナンバーが、始まる。

 

 ――――。

 

(危なかった。コンマ以下の時間で命拾いをした……!)

 

 蓮司はシンシアの特大攻撃を、すんでのところで避け切っていた。

 開幕から大技を繰り出してきた彼女だ。

 

 戦いが始まった刹那、シンシアを中心にした魔力の奔流がうねり、蓮司に襲い掛かってきたのだ。

 それは何匹もの蛇のようにのたくり、連続で彼に襲い掛かってきた。

 避けて、走って、避けて、走って、瓦礫の裏へ逃げる。蛇たる魔力は瓦礫を破壊しながら、追い掛けてくる。

 それでも、そのほんの少しの威力軽減が、蓮司の命を守る。掠る攻撃が、彼の命にまでは届かなくなる。

 

 避けた。避けた。避けた。

 ときに攻撃を『掠らせ』ながら、蓮司はミリの精度で身体を動かす。最後まで避けきったとき、魔力の蛇たちは最後、巨大な光の柱となって天へと昇っていった。

 

「えー?」

 

 あっけに取られた声を出したのはシンシアだった。

 

「今のをそんな簡単に避けちゃう?」

 

 声に驚きの微粒子が含まれている。

 

「いや危なかったぞ、ミリ単位のギリギリだ。あやうく即死だった」

「残念、瞬殺で終わってくれたら楽できたのに」

「すまんな」

 

 余裕を見せて笑ってみせるも、蓮司の背中には冷たい汗が流れている。

 ゲームで予習が出来ていてよかった。

『ダンジョン&マジック』の中でも、彼女の開幕技は常にこの大技だった。その『予言』がいま、蓮司の命を救った。

 

(……勝機があるとすれば、この経験差を活かす道だろうか)

 

 シンシアは明らかに驚いていた。彼女は間違いなく、初弾でケリをつけるつもりだったのだ。そして実際、それだけのチカラが篭もった攻撃だった。

 

(俺が彼女の想定を超えられたのは、ゲームでこの戦いをシミュレートしてこれたからだ。……この差を最大限に使っていく)

 

 蓮司は攻めに出た。

 シンシアの右手に集まっていく赤い魔力、これが集中仕切る前に接近して、彼女の右手を蹴り上げる。

 

「なっ!?」

 

 シンシアは短く声を上げ、驚きの表情を作った。

 機先を制された彼女は受けに回る。咄嗟にアイテムボックス(空間)から取り出した剣で、蓮司の木刀をいなしながら後退する。

 

 後退しつつ、ひと呼吸。

 握った剣で彼女が反撃に出ようとしたところを、再び蓮司は先読みの肩当たりでシンシアの両腕をかちあげる。

 

 これらは全て、彼がこれまでシミュレートしてきた結果だ。

 シンシアの攻撃予備動作を、全て覚えきっている。見た瞬間に、対応する動きを選択しているのだった。

 

(いけるか!? このまま、彼女が落ち着きを取り戻す前に……!)

 

 本来シンシアは、七色に攻撃パターンを変えて蓮司の予想を覆しながらの技を繰り出すはずだった。しかしその未来線を、彼の積極的な攻めが書き換えたのだ。シンシアの技、その全ての機先を制することで、彼女に選択肢の自由を与えない。

 

 押されて姿勢が不安定な状態では、出せる技の幅が狭くなる。

 蓮司は攻めによる誘導で、シンシアの次なる行動を予測しやすくしていた。

 

 木刀がシンシアの身体を捉える。

 一撃必殺、とはいかない。彼女の魔力防壁は堅牢だ。それでもダメージは入っているはずだ。このまま押し切る、と言わんばかりの激しい攻勢。シンシアは、想像していなかった自身のピンチに狼狽えた。

 

(どういうことなの!? 今の状態の私なら、現状の『R』であれば抑えることは難しくなかったはず……!)

 

 防戦一方になったシンシアは、汗を流しながら計算外れの現状について考える。

 

(まず、距離がよくない。こんな密着戦をせずとも、私には遠距離からの攻撃手段が豊富にある。いったん距離を取るのが正解なはず)

 

 シンシアが退こうとすると、倍の速度で蓮司が距離を詰めてくる。

 

(それがさっきから出来ないのは、この、異常な反応のせいだ。まるで私の行動を見切っているかのように、『R』は先読み気味に行動を被せてくる)

 

 これは、――おかしい。

 

「やるじゃない『R』? まるで私の行動を、全て見切ってるみたい」

「必死に食らいついているだけだ。見切っているなら、もっと楽に俺が勝ってると思わないか?」

 

 確かにそれはそうかもしれない。

 ――シンシアが心の中で頷く。しかし全て得心がいくわけではなかった。じゃあなぜ、こんなに自分の速度について来れるのか。

 

「私って、そんなに遅いかしら?」

「速いだろう。少なくとも、キミほどの速度をこれまで俺は見たことがない」

「そうよね、そう。……私はあなたの速度を大幅に凌駕しているはず」

 

 その通りだ、と。

 蓮司は木刀を繰り出しながら、心の中で頷いた。

 だから、焦る。彼女が落ち着く前に、答えに行きつく前に、どうにか突破口を開きたい。大きなダメージを与えたい。

 

「どうかな。俺のデータが不足していたんじゃないのか?」

「そんなことはないはず。あなたがダンジョン内で戦う限り、運動データはこちらに回収できる。その分析されたデータが、私の優位を示していたもの」

 

 なるほど、そんなカラクリになっていたのか。

 勇者候補の情報を得ることもできる、それがダンジョンシステムのうち。

 

「なんだ。ダンジョンは『こちらの勇者を選別する為の装置』ってだけじゃなかったんだな」

「……アグレージに聞いてるんでしょ? 私や彼は、アンチ勇者システム側の先兵。勇者候補を排除したい派閥の魔物だもの、いくらでも策は弄するわよ」

「魔物? キミも魔物なのか? シンシア」

「私は100年以上生きたホムンクルスよ」

 

 ホムンクルス……確か錬金術で人工的に作られた人間を差すのだったか。

 

「人間となんら変わらぬように見えるが……」

「ありがと。それはきっと、誉め言葉なのよね」

「ああ。そう受け取ってもらって構わない」

 

 シンシア嬢が薄く笑った。

 

「ふふ。でもね、普通の人間では、なかなかここまで魔力を自在に扱えないの。こんなことができるのは、勇者とかそういう類の、ひと握りな選ばれし者くらい」

 

 彼女の笑顔。

 それは俺に、余裕を見せつけようとしているモノだろう。

 まだ答えに行きついていない証拠だ。

 

 俺は今、押せている。

 彼女を圧倒している。

 

 ゲーム内での予習が功を奏した、悪くない流れ。勝てるかもしれない。

 正直、ゲームで出された『あの技』を繰り出されて、そこから距離を取られて遠距離戦に徹されたら、俺の勝ち目は薄くなる。――そこに気づかれる前に、どうにか有効打を。

「……あなた、さっきから後の先を取っているのに、有効打には結びついてないわね」

 

 ギクリ。

 その言葉に、蓮司は血の気を引かされた。

 思わず無言になってしまう。

 

「さっきから見てたわ。やっぱり、スピードでは私が勝ってる。それなのに、私の攻撃が捌かれてしまうのは……。まさかとは思ってたけど――」

 

 シンシアの目が、怪しく光る。

 

「あなた、私の技を見たことあるのね? それも一度じゃない、何度も、何度も」

 

 言い当てられて、蓮司は一瞬だけ次への動作が遅れた。

 そしてその一瞬が、致命的だった。シンシアが剣で自分の手首を切る。血が迸り、霧となって赤い魔力のオーラと混ざり合う。

 

「しま……っ!」

 

 蓮司が恐れていた技を用意されてしまった。

 それはゲームでも、いつも反撃の切っ掛けになる技だった。近距離の敵を弾き、強制的に距離を確保できる範囲技。

 

超新星(スーパーノヴァ)!』

 

 魔力が膨らんで弾ける。蓮司は吹き飛ばされた。

 

「理屈はわからないけど、確信したわ! あなたは私との戦いを、何回も経験している。だからこそ、私の技の『起こり』を見て先を取れる! ならここからは、あなたの不得意な遠距離で戦わせてもらう!」

 

 赤い魔力のオーラが、まるで幾匹もの蛇のように伸びてのたくった。

 開幕よりもより多い数で、蓮司に襲い掛かっていったのだった。

 

 ◇◆◇◆

 

 ハヤテリサイタル会場。

 ゴッ、と。突風が吹いたかと思うと、その後に訪れたのは衝撃だった。

 特設ステージの大きな照明が、衝撃をモロに受けて倒れてくる。

 

 観客は一瞬で素に戻り、悲鳴を上げた。

 

『うわああああー!』『危ない!』『なんだこれ!?』

 

 ガシャアーン、とステージの上で照明が砕けひしゃげたときも、ハヤテは歌っていた。忘我の境地、恍惚とした表情で自分の世界に入っている。

 

 そこにまた、衝撃波。

 ステージ裏のどこか遠くで、赤い光の柱が何本も立ち上がった。

 

『に、逃げろ!』『これ、演出じゃないぞ!』

 

 万を数えるであろう観衆が、一気に散っていった。

 なおも歌っているハヤテを止めて一緒に逃げようとしたクルーだったが、倒れた照明が邪魔をしてハヤテの元にたどり着かない。それどころか、一本、また一本と、照明が倒れてくる。

 

「だ、ダメだ、逃げよう」

「ハヤテさんなら平気だ、なにせS級探索者なんだから!」

 

 そう声を上げたチーフクルーの言葉に従い、クルーも、バックバンドの皆も逃げていく。

 

 熱唱するハヤテだけが、ステージには残されたのである。

 

 ◇◆◇◆

 

 蓮司は逃げていた。

 シンシアが伸ばす、真っ赤な蛇のような魔力オーラから。

 何本も、何本も、のたくりながら地面に着弾しては、赤い光のオーラになって天に上る。

 

 瓦礫が弾け飛び、アスファルトがひび割れる。

 それは、ただの破壊の嵐だった。

 

(くっ……、やはり、こうなってしまったか!)

 

 蓮司は歯噛みしながら、瓦礫の山を飛び越え、転がり、必死に射線から身をかわす。

 このオールレンジ攻撃は、時間が経つにつれて密度を増していく。

 一本避ければ、次は二本。二本避ければ、四本。

 

 指数関数的に増えていく殺意の飽和攻撃。それは、ゲームの中で蓮司が何度も味わわされた、最も確実な『負けパターン』そのものだった。

 

(一度だけ……チャンスはあった)

 

 蓮司の脳裏に、数分前の光景がよぎる。

 接近戦でシンシアを押し込んでいたとき。彼女の喉元に、あと数センチまで木刀が迫った瞬間があった。

 あそこで躊躇なく踏み込んでいれば。喉を砕く覚悟で、殺す気で振るっていれば、あるいは勝敗は決していたかもしれない。

 

 だが、できなかった。

 心のどこかに、非情になりきれない自分が居た。

 

『とりあえずダメージを与えて、戦闘不能に追い込めれば』などと、甘いことを考えていたのだ。

 

 その結果が、これだ。

 自分の覚悟のなさが招いた、絶体絶命の窮地。

 悔やまれる気持ちも、少しはある。――だが。

 

「なんで近づいてこようとしないの『R』!? 魔力切れを狙っていても無駄よ、私は『シブヤ』からいくらでも魔力を補給できる!」

 

 苛立ちを隠そうともしないシンシアの声が響く。

 彼女は焦っていた。蓮司を殺すことに、ではなく、もっと別の何かに追われているように。

 

「そんなんじゃない! 俺は!」

 

 蓮司は声を張り上げた。

 迫りくる魔力の蛇を、木刀で弾きながら叫ぶ。

 

「俺は、この期に及んで、キミとの和平の道を望んでいる!」

 

 そう、俺は思うのだ。『よかった』と。

 

 あそこで殺す気になってしまわなくて、本当によかった、と。

 なぜなら、もしシンシア嬢を殺してしまったら――クロエちゃんが悲しむからだ。

 彼女にとって、シンシア嬢はかけがえのない親友だ。あんなに楽しそうに笑い合っていた、大事な日常の象徴だ。

 

 その親友が、自分が尊敬している『R』の手によって殺されたとしたら?

 俺は、俺の推しの笑顔を、永遠に奪うことになる。

 そんなことは、死んでもできない。

 

 だから不利になった今となっても、まだ可能性があると、俺はポジティブに考える。

 シンシア嬢と和解することができるかもしれない、と。

 

「なにを寝言を……! あなたがそんな甘っちょろいこと言っても、私は! 私は!」

 

 シンシアの悲痛な叫びと共に、魔力が爆発的に膨れ上がった。

 空間が歪むほどの密度。

 何十、何百という赤い蛇が、一斉に鎌首をもたげる。

 

「くっ……!」

 

 蓮司は廃ビルの残骸の裏へと滑り込んだ。

 だが、隠れた場所など無意味だった。

 

 ドガガガガガガッ!

 無数の魔力槍が、コンクリートの壁ごと蓮司を貫こうと襲い掛かる。

 壁が紙くずのように砕け散る中、蓮司は泥まみれになって転がり出た。

 

 受け身を取る暇もない。

 すぐに次の波が来る。

 視界が赤い光で埋め尽くされる。処理落ち寸前の脳内CPUが、警報を鳴らし続けている。

 

「時間がないのよ! 死になさい、『R』!」

 

 シンシアが右手を天に掲げた。

 全ての魔力が一点に収束し、巨大な処刑鎌のような形を成す。

 回避不能の広範囲攻撃。

 これで終わりだ、と彼女の目が告げていた。

 

(……ここまで、か)

 

 蓮司が覚悟を決めた、そのとき。

 

「シンシア、やめてっ!」

 

 渋谷の廃墟に、凛とした声が響き渡った。

 瓦礫の山を乗り越え、息を切らして駆けつけた――クロエの声が。

 

 

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