「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件   作:chickden

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作戦名は

 

 倒壊したビルの瓦礫の中。

 わずかな空間に身を潜めた蓮司とシンシアは、互いの心音が聞こえそうなほどの距離で息を殺していた。

 

 頭上から、パラパラと埃が落ちてくる。

 外では、圧倒的な質量の『死』が徘徊していた。

 

「隠れても無駄なことはわかってるはずです。私には魔力を視ることのできる『目』があるんですから!」

 

 クロエの声が響く。

 その声には篭もっているのは、獲物を追い詰める捕食者の冷徹さ。

『勇者』の防衛反応により、中の『クロエ』をより奥に縛り付けた今の彼女に弱点はない。

 彼女が『目』を凝らし、周囲の魔力反応をスキャンする気配が伝わってくる。

 だが。

 

「……あれ?」

 

 クロエの足が止まった。

 戸惑いの気配。

 

「反応が……ない。これは……どういうこと?」

 

 彼女の『目』をもってしても、二人の居場所を特定できない。

 その事実にクロエが戸惑っている隙に、蓮司たちは小さく息を吐いた。

 

 暗がりの中、二人の手は重なり合っていた。

 正確には、蓮司が持っていた『魔力を抑えてみせる指輪』の中に、互いの人差し指の先端を差し込み合っている。

 

 指輪を嵌めているわけではない。

 二人の指先で、指輪という輪っかを支えているような、奇妙で、そしてどこか親密な状態。

 シンシアが、呆れたように苦笑した。

 

「指にちゃんと嵌めなくても……指の先を少し通すだけでも効果が出るなんて。この指輪、本当に規格外の遺物(レリック)なのね」

「一か八かだったが、効果が出てくれてなによりだ」

 

 ふう、と蓮司も息を吐いて苦笑する。

 

「ね、『R』。こんな貴重品、どこで手に入れたの?」

「デズニに行くとき、母さんに貰った。俺の魔力は目立ちすぎだから、って」

「こんな国宝級のモノをポンと渡すなんて、どういうお母さまなのよ」

「……ちょっと説明がしにくい人、ではあるな」

 

 蓮司は、シンシアにこれまでの経緯を語った。

『ダンジョン&マジック』というゲームの解析から、魔物の行動アルゴリズムを学んだこと。

 プロテクトの最深部、未実装領域に『シブヤ』のマップデータがあり、それを元に攻略を進めてきたこと。

 そして――そのゲームの中に、シンシアが三層ボスとして君臨するという『予言』が記されていたこと。

 それら全てが、どうやら母・サエコの手による製作物らしいということ。

 

「……それで、私との戦闘シミュレーションをこなしてたというの?」

 

 シンシアの顔が引きつった。

 驚愕というより、底知れぬ気味の悪さを感じているようだ。

 

「なにそれ、ありえる話なんかじゃないわよ。謎すぎるわ」

「そうだな。俺もそう思う」

「なに平然とした顔で。なんでお母さまに直接聞かないの!? どうしてこんなことが出来たのか、って!」

 

 小声ながらも強い口調で詰め寄るシンシア。

 だが蓮司は、淡々と、しかし迷いのない瞳で彼女を見返した。

 

「俺は、あの芸術的なプロテクト……プログラムを、正面から攻略したいだけなんだ」

 

 安易に答えを聞くのは簡単だ。だが、それでは意味がない。

 母が仕掛けた謎を、自分の力で解き明かし、乗り越えた先でこそ、真実と対話ができる。

 

 それが、プログラマとしての、そして息子としての彼の流儀だった。

 シンシアは、呆れ顔を通り越して愕然とした。

 

「バカ。あなた、絶対バカ。ホントにバカだわバカバカバカ」

「すまない。たぶんシンシア嬢の言う通りだ。俺は馬鹿なのだろう」

 

 真顔で肯定する蓮司。

 シンシアは「はぁ」と大きな溜め息をつくと、全身から力を抜いて笑った。

 

「……なるほどね。その頑固さ故の求道、そこがあなたの強さ、か」

 

 彼女の中で、蓮司への評価がまた一つ変わったようだった。

 表情を引き締め、シンシアは訊ねる。

 

「――で、その『予言のゲーム』とやらに、クロエは出てこなかったの? 敵対する勇者として」

「出てこなかった。……というか、もしかしたら実装されていたのかもしれないが、正直わからない」

「わからない……って、どういうことよ」

「何故ならゲームの中で俺は、キミに一度も勝てたことがなかったんだよ。シンシア嬢」

 

 再び、シンシアが呆気にとられる。

 

「え? じゃあ、勝機ないまま私との戦いを始めた、っていうのあなた?」

「そういうことになるかもしれん。シミュレーション上の勝率はゼロだった」

「ばっかじゃない? 勝ち目が見えない戦いなんかに、手を出すものじゃないわ」

「そう言うがシンシア嬢」

 

 蓮司は少し不本意そうに眉を寄せた。

 

「ならばキミはなぜ今、俺と共に戦っているんだ。勇者となったクロエちゃんの強さは知っていたのだろう?」

「それは……」

 

 シンシアが言葉に詰まる。

 彼女とて、勝算があってクロエに挑んでいるわけではない。ただ、止めたい一心でここにいるのだ。

 

「そういうことだ。勝算が立ってなくとも、退けないときはある」

「そうね、……そうかもしれない」

 

 シンシアは静かに頷いた。

 蓮司はニッと笑う。

 

「だが、勝算を立てること自体は大事だ。武力で勝てない相手に、精神的揺さぶりを掛けてみる、というアプローチは悪くなかったと思う」

「ええ。効果はあったわ、だからこそ『勇者』が防衛反応を示した」

「次に考えたい部分があるとすれば、あの『勇者』の部分を弱めることができないか、というところだ」

 

 蓮司は、クロエの中で『勇者』の意識が強くなった瞬間のことを思い返す。

 

「あのとき、彼女の周囲には一層濃く魔力が満ちる感じだった。これはどういうことだろうか」

「言わなかったっけ? 覚醒したクロエの魔力パターンを、この世界のダンジョンが記憶したのよ。だから今、全てのダンジョンから『勇者』を維持する為の魔力が、クロエに送られてきてるの」

「つまり?」

「あのとき『勇者』としての自我を取り戻す為、クロエの周囲に、より多くの魔力が流れ込んできたんでしょうね。外部電源に繋がったようなものよ」

「なるほど、そういうことか……」

 

 蓮司は考え込んだ。

 ブツブツと小さく一人ごちつつ、シンシアと指を合わせていない方の手を顎に添える。

 

 時に目を瞑り、唇を噛みしめ、勝手に頷き、勝手に首を振る。

 シンシアが小声で名を呼んでも、反応がない。

 完全なる没我の境地。

 思考の海へ深く潜り、最適解という名の真珠を探すダイバーの顔。

 

(なるほど。この集中力……これは、脅威なはずだわ)

 

 シンシアはクスリと、柔らかに笑った。

 敵にしたくない怖い人。けれど味方だと、ここまで頼もしく思える。

 

「なあ、シンシア嬢」

 

 不意に、蓮司が顔を上げた。

 その瞳には、確かな光が宿っていた。

 

「一つ、試してみたい策があるのだが」

「……どんな策? 話してみなさいよ」

「こういうのだ、どうだろうか」

 

 話し始めた蓮司の顔は、悪戯を思いついた少年のように笑っていた。

 この期に及んでこの男は、とシンシアは苦笑を禁じ得ない。

 絶望的な状況を楽しめる者は、強いに決まっている。

 ならば私も、と彼女も不敵に笑い返した。

 この男に倣って楽しんでやる。――親友(クロエ)を取り戻すための、この戦いを。

 

「――試す価値はあると思うわ」

「よし決まりだ。やろう、作戦名は『偽装IPトラトラトラ』!」

 

 

●38 乱入者

 

 死の静寂が、廃墟と化した渋谷を支配していた。

 かつて若者たちで賑わったスクランブル交差点は、いまや瓦礫の山と化し、コンクリートの墓標が乱立する荒野となっている。

 

 風が吹くたび、鉄骨が軋む乾いた音が、亡霊の囁きのように響き渡る。

 その瓦礫の中に、少女が一人、立っていた。

 漆黒のドレスと化した魔力の服を風になびかせ、感情の一切を削ぎ落した瞳で周囲を見渡す姿は、破壊の女神そのものだった。

 

「どうやって魔力を誤魔化して隠れられたのかはわかりませんが」

 

 クロエが右手を掲げる。

 瞬間、大気が悲鳴を上げた。

 

 彼女の掌の上に、どす黒い魔力の球体が形成されていく。それは光を吸い込むブラックホールのように、周囲の空間を歪めながら膨張していく。ドームTOKYOで見せたものよりも遥かに濃密で、禍々しい質量。

 

「周囲全てを吹き飛ばしてしまえば同じことなんですよ?」

 

 それは脅しではない。確定した未来の宣告だった。

 

「待って待って待って!」

 

 たまらず、シンシアが瓦礫の陰から飛び出した。

 

「ダメよクロエ! そんなの使われたら防御の手段がないじゃない!」

「そうよシンシア。だからあなたたちは、そうして穴倉から這い出してくるしかない」

 

 クロエは表情もなくそう言った。

 そこには先刻まで垣間見えていた『クロエ』としての嫉妬や人間味が微塵もなく、あるのは冷酷な『勇者』としての機能だけだった。勇者システムの防衛反応が、彼女の心を鋼鉄の殻で覆い隠しているのだ。

 

「『R』さんもそこにいるのですか? 出てこないなら、ビルごと吹き飛ばしますけど」

 

「私の知ってる『クロエ』なら、『R』さんに対してそんなことできるわけないんだけどな」

「……試してみる? シンシア」

 

 彼女は笑いもせず、冷徹に言い放つ。

 その瞳の奥にあるのは、深淵のような虚無。

 

「あなたたちが何を狙っているのかはわからないけど、気持ちを揺さぶろうとしているなら、もう無駄だと思う。私はイゼルバーンの勇者、些事など気にせず使命を果たす」

「そうね、あなたは確かに勇者。『クロエ』なら、『R』に関したことを些事だなんて言うはずないもの!」

 

 シンシアが叫んだ、その瞬間。

 音もなく、殺気もなく。

 クロエの背後に一つの影が躍り出た。

 

「だが今は、その些事であることがありがたい。だからこそチャンスが生まれるのだから!」

 指輪で魔力を隠したままビルの裏口を使い、瓦礫の山を音もなく駆け抜け、死角を縫って接近していた蓮司だ。

 全身の神経を研ぎ澄まし、彼は木刀を振り上げるのではなく、何故か、クロエの『左手』に向かって自らの手を伸ばした。

 指先が、クロエの肌に触れようとした刹那。

 

「……っ!」

 

 クロエの反応は、思考よりも速かった。

 背後の殺気ではなく、大気の微細な揺らぎを皮膚感覚で察知し、瞬時に頭上に溜めていた魔力球を破裂させる。

 

 ばしゃぁん!!

 炸裂音と共に、衝撃波が全方位へと炸裂した。

 

 瓦礫が弾け飛び、粉塵が舞う。

 蓮司の体は木の葉のように弾き飛ばされ、アスファルトの上を転がった。距離が、強制的に開けさせられる。

 

「出ましたね、『R』さん。またなにかを狙っているようですが」

「……むう、惜しい」

 

 

 口の端から血を流し、体勢を整えながら蓮司は不敵に笑う。

 恐怖はない。あるのは、攻略への執念のみ。

 

「あなたは近づかせなければ戦闘力が半減する。違いますか『R』さん」

「素晴らしいなクロエちゃん。論理的思考(ロジック)で俺を攻略してくれるか。となるとそれは、俺の存在がキミの中で些事ではないという証明だ。喜ばしい!」

「『R』さんは近づかせない。シンシアには近接戦を挑む。これが今の状況の最適解」

 

 言うが早いか、クロエが疾風の如く動いた。

 その速度は、風切り音と共に残像を残すほどだ。標的はシンシア。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 クロエの漆黒の剣を受けるため、シンシアも空間(アイテムボックス)から剣を取り出す。

 ガキンッ! と鼓膜をつんざく激しい金属音が廃墟に響き渡る。

 

「『R』! どうにかして!」

 

 シンシアは彼女の激しい斬撃を受けながら、悲鳴のように叫ぶ。

 一撃一撃が重い。受けるたびに後退させられ、足元の地面がひび割れる。

 その間に蓮司は走った。

 

「クロエちゃんがそう狙うなら、俺と合流だ! 二人で接近戦をすればいい!」

「……ならば離れるだけですが」

 

 蓮司が近づいていくと、今度は二人から離れるように動くクロエだった。

 接近を許さない。徹底した塩対応。まるでプログラムされた迎撃マシーンのように正確無比な動き。

 

「やるなクロエちゃん。だがその最適解とやらは潰したぞ」

「クロエの戦い方に対応してるじゃない、『R』」

「これが対話というものだよシンシア嬢」

 

 褒められて、まんざらでもなさそうな蓮司は調子に乗って、少し早口になる。

 

「だから俺は、戦い自体は嫌いでもないんだ。これは『ダンジョン&マジック』での対人戦でも同じなのだがね。知力を尽くした戦闘には対話がある。それは会話であり、相手への理解へと至る。戦いはとても言語的なコミュニケーションなのだよ」

 

 土埃にまみれた顔で、楽しそうに笑った。

 この期に及んで楽しそうな彼を、一瞬クロエはねめつけるように睨んだが、その感情はすぐに『勇者』の無表情で覆い隠される。

 

「さて、この流れに対する次の一手はなにかなクロエちゃん?」

「そんなの、機械的に処理するだけで事足ります」

 

 バサァッ!

 クロエの背中に、魔力で編まれた漆黒の翼が生えた。

 重力を無視し、彼女は空中へと舞い上がる。地上を見下ろすその姿は、まさに堕ちた天使。

 

「空か!」

 

 蓮司が目を丸くした。まさかクロエちゃんが、念動で空を飛ぶとは。

 彼女は空中で、掌に魔力を集め始める。

 

 シンシアが地上から、赤い光線魔法でクロエを攻撃するも、それは幾重にも展開された魔力シールドで容易く受け止められてしまう。

 

「わかっているでしょシンシア。今の私の魔力は、あなたと違って無尽蔵。魔力球を溜めながらあなたの攻撃を受け止めることができる。溜められたくないなら――」

「空中戦を挑め、ってことか」

 

 シンシアの背中にも、鮮血のような赤い魔力の翼が生えた。

 翼をはためかせ、彼女は空中にてクロエに接近戦を挑む。

 空中で激突する赤と黒の光。衝撃波が空気を震わせ、廃ビルのガラス窓が次々と砕け散っていく。

 

 クロエはシンシアの剣を剣で受けながら、冷淡に告げる。

 

「そう。それならば流石に、魔力球を溜める余裕はなくなる。あなたの一騎打ちと引き換えに、ね。でも」

 

 彼女は淡々と剣を振るいながら。

 

「私との接近戦、どこまで持つかしらね、シンシア」

「さあ!? 私が持たせてるあいだに『R』、またなにか考えて!」

 

 シンシアとクロエが一瞬下を見ると、すでに蓮司の姿はそこになかった。

 言われるまでもなく、既に行動を起こしていた彼なのである。瓦礫の迷宮に身を潜め、次なる好機を虎視眈々と狙っている。

 

「……また隠密行動。『R』さん、小賢しい」

「お互いさまじゃないクロエ」

 

 シンシアが楽しそうに笑う。

 二人は空中で激しく剣を交える。楽しそうなシンシアと、無言で機械的に剣を振るうクロエの姿は非常に対比的だった。

 

「まあでも、クロエも案外『策』を弄するタイプだったわね。少しだけ、焼けるかも」

「……くだらない」

「ふふ。勇者らしい教科書通りの反応、ありがと」

 

 冷や汗を掻きながら会話を組み込んでいるシンシアだった。

 一歩間違えれば、クロエの剣を受けきれない。それでも彼女は、喋らずに居られない。気持ちが高揚している自覚があった。

 

「なるほどね。この感覚が、『R』の見ている戦闘景色」

 

 シンシアはクロエの重い一撃を受け止め、腕に痺れを感じながら、ふと呟いた。

 

「確かに楽しいわ。ね、クロエ、今なら私もあなたが『R』に執着していた理由がわかる。彼の魅力がわかるわ。彼が戦う理由は、対象への興味が根底にあるのね」

「どういう……こと? シンシア」

 

 無表情だったクロエの眉間に、ピクリと一本、不快そうなシワが刻まれる。

 彼女は眉をひそめながらシンシアを睨んだ。その目の奥に、『私よりも彼を理解してるとでもいうの?』という激しい嫉妬が見え隠れする。

 再び、中の『クロエ』が揺れているのだ。

 

「私たちが――イゼルバーンの為に戦う理由は、至極単純。忠誠心と愛国心、……そしてたぶん、これは私たちへの教育や洗脳で培われたもの。計算されたモノの結実としてつくられた感情」

 

 楽しそうに剣を振るいながら、シンシアは語る。言葉の一つ一つが、刃となってクロエの心を突き刺すように。

 

「だけど『R』は、対象に興味を持って観察している。分析しようとする。それは相手を理解したいという純粋な欲求。この執着は、きっと愛と呼べるものの一つの形だわ。だからあの人は、いつも楽しそう。苦しいときすらも、逆境を楽しめる。それが彼の強さ」

「…………」

 

 無言で剣を振るうクロエの目に、どす黒い怒りの炎がチラホラと燃え上がる。

 冷静さを欠き始めた剣筋。それをシンシアは見逃さない。小悪魔的な表情を作り、

 

「あれー? もしかしてクロエ、こんなこともわかってなかったー? これじゃ、私の方が『R』を良く知っていることになっちゃうんだけどー」

 

 挑発した。

 それは、シンシア一世一代の、命を懸けた大挑発。

 効果は劇的だった。

 

「黙りなさいッ!!」

 

 クロエが絶叫した。

 凄い形相となった彼女が、我を忘れて大振りの一撃を繰り出した。

 それは剣技というより、膨れ上がった魔力の塊をただ叩きつけるような暴力。

 シンシアは防御しようとしたが、その重さは想定を遥かに超えていた。

 

 ズドオォォォン!

 空中から叩き落とされ、シンシアは隕石のように地面に激突する。

 土煙が高く舞い上がり、大地がクレーターのように陥没した。

 

「ぐはっ!」

 

 背中を強打し、一瞬、息ができない。

 肺の中の空気が強制的に排出され、視界が明滅する。全身の骨が悲鳴を上げているのがわかる。

 

「遊びは終わりだわシンシア!」

 

 空中に留まったまま、クロエは掌を眼下のシンシアに向ける。

 そこに収束するのは、一条の黒い光。

 レーザーにも似た、高密度に圧縮された破壊の光線。回避不能の死の宣告。

 

(しまっ……体が、動かない……)

 

 どうにか咄嗟にシールドを張ろうとするも、魔力の練り上げが間に合いそうもない。

 シンシアの脳裏に、走馬灯が駆け巡る。

 ああでも、悪くなかった。

 この世界にきて、『R』と出会えて、クロエと遊んで。面白かった。

 

 ――私は、生きた。

 迫りくる死の光線を前にして、彼女の唇には満足そうな笑みが浮かんでいた。

 

「こんどこそ、あとは任せるわね、『R』」

 

 彼女が覚悟を決めて目を閉じた、その時だ。

 突然の乱入者が、二人の間に割って入った。

 

「だめっ! クロエちゃん!」

 

 ドン、とシンシアの身体を強く突き飛ばし、自分がそこに入れ替わった女性。

 見慣れたスーツ姿。必死な形相。

 

「初子さん!?」

 

 どうしてここに、と驚愕したシンシアが言いきる前に。

 クロエの放った極大の黒い閃光が、初子の腹を直撃した。

 ゴウッ!!

 肉が焼ける音と、衝撃。

 初子の腹部が光に飲み込まれ、消し飛んだ。

 

 

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