「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件 作:chickden
クロエとシンシアは、蓮司の家で間借りして、一緒に暮らすこととなった。
「え、だって私らイゼルバーンの裏切り者よ? 命狙われちゃうもの。『R』が責任取って守ってくれるのを期待してよくない?」
シンシアは笑顔でそう言って憚らない。
「それにさ、クロエの左手薬指に指輪を嵌めた罪も大きいんだから」
あのとき咄嗟に指輪を嵌めた指が、左手の薬指だった。
最近の配信では、それをリスナーに追及されるも、クロエは。
「大事な指輪なんです」
で通していた。
荒れるかと周囲は思っていたものの、案外荒れなかったのは、純粋に彼女のダンチューバーとしての活躍を楽しみにしているリスナーが多かったことを示している。
「左手薬指の指輪は、願い事成就、なんて意味もあるんですよ?」
”本当かクロエちゃん!”
”どんな願い事なの? 聞かせてくれー!”
「ふふ。皆が幸せになれる世界でありますように、ですよ」
”クロエちゃんマジ天使! いや女神!”
”本気で言ってそうなところが凄い”
もちろん彼女は本気なのだ。
この『世界』が、いつまでもそういう世界でありますように。
勇者でなくなった彼女は、その為に今、シンシアと共に戦っている。
シンシアは、クロエとコンビを組むことで同配信によく顔を出すようになった。
美人の彼女と、かわいいクロエ。
しかもどちらも世界で有数の強さなのだ。人気は日本から羽ばたき、欧米での知名度もうなぎ上りだ。
「聞いてクロエ、この世界は狙われているの!」
から始まる彼女の様々なミニコントが地味にバズっている。
彼女は彼女なりに、イゼルバーンに狙われているこの世界、という事実を受け入れやすくさせる為の『世論作り』を試みているらしい。
初子さんにはいつも、「そういうの、いいから」と困られているとかなんとか。
初子さんは、変わらずクロエのマネージャー。
そこに、移籍してきたシンシアの管理も仕事として含まれることになった。
毎朝蓮司の家に車を走らせて、彼女たちをさらっていく。
今日も元気にダンジョン探索だ。
ダンジョン探索と言えば、あれからハヤテは『シブヤ』のことを口にしなくなった。
スペシャルチームも事実上の解散。
とはいえ彼は落ちぶれるわけでもなく、なんならこれまで以上に名声を博している。
コンサートの日にあった謎の『シブヤ鳴動』。
それを一人で解決した、と世間やダンジョン協会に認識されているのだ。
蓮司たちが去ったあとも彼は、シブヤ前に残っていた。
異常を検知して駆けつけたダンジョン協会の強者たちは見たのだ。
一人、ステージの上で佇み、大地への鎮魂歌を捧げていた彼の姿を。
その鎮魂が聞いて、『シブヤ』の鳴動が収まった、と世間は噂しているのだった。
そして我らが西岡蓮司は――。
「もう兄貴! 部屋の掃除くらいして!」
今日も妹の七海に怒られている。
「クロエさんとシンシアさんが同居始めるようになったんだから、なるべく恥ずかしいところは見せないの!」
「私は気にしてないよ、七海ちゃん」
「シンシアは気にしてないそうだ、七海」
「身内の恥部は、私が気になるの!」
そう言って蓮司を自室から追い出し、勝手に掃除をすることが増えた妹なのである。
「そんなことより『R』。四層の攻略計画はどうなってるのよ」
「ああ、それなら」
スペシャルチームがなくなったその後、無配信でクロエたちとチームを組み、ダンジョン『シブヤ』を攻略中の彼である。
まだまだ『ダンジョン&マジック』のプロテクトも先があり、やりたいことだらけな蓮司なのであった。
「ゲームの方ばかり見てないで、クロエのことも見なさいよ? なにせ薬指に指輪嵌めたんだから」
「配信は毎回見ているが」
「そーゆー意味じゃない!」
掃除をしてた七海が部屋から顔だけを覗かせて、蓮司を睨む。
「ほんと兄貴、そーゆートコだぞ。ね、シンシアさん、今度二人で兄貴とクロエさんのデート計画でも練りませんか?」
「ん! いいね七海ちゃん! いいよー、わかってるじゃーん!」
悪戯な顔で笑うシンシアだ。
クロエが階下でこの話を聞いており、顔を真っ赤にしていたとか、していなかったとか。
ともあれ、一時的に平和なこの世界。
それぞれがこの時を堪能していたのだった。
◇◆◇◆
薄暗いコンピュータールームで、モニタを前にして酒を飲んでいる女が居た。
グラスに氷を浮かべ、ストレートにウイスキーをツーフィンガー。
口にしてチェイサーで水も飲む。
「今のところ全て計画通りだよ、リュウゲツさん。虹の石も、貴方が仕込んでくれた通りに機能したんだ」
彼女――サエコは嬉しそうな顔で呟く。
「ありがとね、子供たちを守ってくれて」
「アリガトね、アリガトね」
AIプログラム『ReN』がサエコに追従した。
機嫌良さそうな彼女は、ReNに頷きながらウイスキーを飲み干した。
「旦那の分まで飲まないとね。めでたい日だから」
「『
「良いと思うよ。少なくともここまでは大成功と言える」
にんまり笑うサエコがウイスキーを追加した。
ツーフィンガーどころじゃない。これなら瓶のまま飲んでも良いくらいだ。
「ウワバミだ、相変わらズ」
「こういう日くらいはね」
フフ、と笑う。
「この先は不確定な要素も増えるから、次にこうした幸せな気持ちで飲めるのはいつになることか」
「むしゃくしゃしてテも、飲んでるけドネ、母さン」
「るせいぜ」
ヒヒヒ、と笑顔のまま、彼女が酒を胃に流し込んでいると。
『ニシオカ主任、長官がお呼びです。至急長官室までおいでください』
コンピュータを通じて社内連絡が回ってきた。
「ちぇ、お仕事だよ。だから、さっさと飲んでおきたかったんだ」
「母さン、タいへン」
「大変さ。こんな辺鄙なところで軟禁みたいな生活、普通の神経じゃ務まらないね」
「辺鄙かナ?」
抑揚の少ない口調でReNが問う。サエコは苦笑しながら。
「辺鄙だろ。エリア51ダンジョンだぞ。砂漠の真っただ中。世界最古のダンジョン内に作られた特設基地。ここが辺鄙じゃなくて、どこが辺鄙さね」
「マーそうネ」
じゃ、いってくらあ、と部屋を出ていくサエコ。
そこには、超近代的な施設が広がっていた。
パリッとした背広姿の諜報員や、白衣を纏った研究者たち。
たくさんの人がところ狭しと行き交いしている。
ガラス状のモニタに数々のデータが表示され、監視の映像も同時に流れていた。
それはアメリカ合衆国内だけでなく、全世界中を網羅している情報量。
「……全て、ReNのおかげ、か」
――頼むぜ、あたしの息子。
「これからが本当の無理ゲーだ」
誰に聞かれるでなく、サエコは小声で呟いたのだった。