「その攻略法、デマですよねw」と笑われた俺のブログ。なぜかS級美少女配信者だけが信じて実行している件 作:chickden
人気サイト、『
投稿者名は『R』。
シブヤ一層に出てくる魔物の種類と対処法を詳細に書きつつ、推奨の攻略ルートも記してある。ボスを討伐した際の所感も書かれており、明言こそしていないが一層をクリアしたということを暗示している内容だ。
『シブヤというと、あのシブヤのことですよね?』
『いやぁ、読んでみましたが、シブヤダンジョンは情報がなさすぎて、正直私には真偽を判断できませんでした』
『普通に考えて難しいと思いますけどね。なにせ超級認定の場所ですし』
『一層ボスは回復特化のグレーターデモンだった……? えええ、奥まで行けたってことなんですかねこれ。本当かなぁ』
顔出しの彼らはSNSや配信で過激な批判は言いにくい。だから無難な形で、やんわりと疑念を表明するに留まる。
大盛り上がりに盛り上がったのは、配信でのコメント欄や、匿名掲示板への書き込みなどだ。無責任な立場の彼らは、もっと口汚く遠慮ない空気で、投稿者のことを叩いた。
”シブヤ一層ボス、攻略されるwwww”
”ソロでボス討伐ってwwwフカすにも限度ってものがあるだろバカ”
”くくく、シブヤ一層はもうクリア済み。お前らにはまだ早いか、『この領域』の話は……”
”あほらし”
”なんだろな。嘘松だとしても、目的がわからん”
最初こそただのホラ吹き愉快犯だと言われていたものの、誰かが書きこんだひと言で空気が変わる。
”ハヤテアンチなんじゃね?”
”なんでそうなる”
”ほら、スペシャルチーム発足したから、それにケチつけようって感じに”
”あー”
そこからは、フルボッコタイムだった。
ハヤテは今や日本が誇るSS級探索者にして人気ダンチューバー。その足を引っ張ろうだなんて、非国民だ。というか敵性国家の工作ではないのか。そういう論調までも生まれて来た。
ネット民が一丸となって、『R』に罵詈雑言を浴びせた。普通に「氏ね」程度は生ぬるい、「国へ帰るんだな、おまえにも家族がいるだろう」「住所特定すっぞこら」など。
脅迫まがいの書き込みまで手てくる始末。
収拾がつかなくなったそのとき、初めて彼がこの件に関する意見表明をした。
――彼。つまり渦中の人、ハヤテだ。
「やあみんな、ハヤテだ。……うん、今日は少し真面目な話をさせてもらうよ。例のブログの話、俺の耳にも入っている。正直、くだらないデマにいちいち反応するのも大人げないと思って静観していたんだが……どうやら、この件で俺のことを本気で心配してくれているファンがたくさんいるらしいじゃないか。……みんな、ありがとう。君たちを不安にさせておくわけにはいかないからね。急遽、こうして配信をさせてもらうことにした」
居間の大型テレビでハヤテの姿を見ながら、七海はポテトチップスを口にした。
すっと立ち上がり、階段の下から二階に向かって声を上げる。
「兄貴ー、ハヤテがあのブログに対しての声明を出すっぽいよー」
呼びかけてみるも、返事がない。
蓮司は最近、ちょこちょこと一人で外に出るようになった。
どこに行っているのか七海は知らないが、少なくとも部屋に引き篭もる時間が減ったことは彼女にとって嬉しいことだ。
今日もきっと、知らぬ間に外へ出ているのだろう。
仕方ない、一人でハヤテの配信を見ておくとしよう。兄貴にはあとで内容を伝えればいいか。と、七海は居間に戻ったのだった。
「まず、結論から言おう。あのブログは完全なデタラメだ。俺が自らダンジョン管理部に確認を取った。ここ一ヶ月、シブヤには公式な入場記録は一切ない。……まあ、当たり前の結果だがね」
”てことは?”
”攻略してきたなんて、嘘ってことだよ”
”やっぱりな”
”そりゃそうだよ、超級ダンジョンを一人で探索とか自殺行為なんだから”
「ああ、その通りだ。自殺行為だよ。……だからこそ、俺は今回の件を看過できない。ネットで注目を浴びたいがために嘘をつく人間はいつの時代もいる。だが、今回の『R』と名乗る人物……彼は少しタチが悪い」
ハヤテは七海が見るテレビの中で、わざとらしく肩をすくめた。
「きっと彼は、まだ年若い子なんだろう。部屋の中からあまり出たことがない、現実と空想の区別が少し苦手な子なんじゃないかな。俺はそう見ている」
七海の、ポテトチップスを摘まもうとする手が止まった。
――なにこいつ、うちの兄貴をなんか馬鹿にしてない?
”コミュ障って素直に言え!”
”妄想の世界の住民かぁ”
コメントの皆も! なんなのよ。
七海の目が座っていく。確かに兄貴は少し浮世離れしたところはあるけど、ここまで言われなくちゃならないほど!?
彼女はこれまで、ハヤテの配信を楽しく見ていた良視聴者だ。
とはいえ、身内を――しかも自分が大好きな兄をここまで悪しざまに言われてしまうと、一気に冷めてくる。
もちろん、世間で蓮司の書いたブログ内容が批判的に見られることは、ある程度予想していた。だけど、蓮司は本当のことを書いているはずなのだ。彼女は蓮司がこの件に関して嘘をついているとは思っていない。兄が、そんな無駄な嘘をつく人間ではないと信じている。
(理解されないなんてことは、わかってたけど。わかってたけど……!)
それで自分も、兄に対してざまあみろ、なんて笑ったりもしたけれど!
そんなことは棚の上に放り投げて、悔しさが込み上げてきた。
「スタッフが面白いことを教えてくれてね。彼の書いた攻略法とやらは、どうやら人気ゲーム『ダンジョン&マジック』の内容とそっくりらしい。……ふふ、みんなも知ってるだろう? あのゲームはよく出来ている。だが、あくまでゲームだ。まさかゲームの真似事で、本物の超級ダンジョンが攻略できると本気で信じているのだとしたら……うん、少し、可哀想になってくるな。承認欲求を満たしたい気持ちは分かるが、やり方があまりにも稚拙すぎる」
”納得いった”
”ああ、なんかデジャブあったんだよなあの攻略”
「だからみんな、彼のことはもう許してやってくれ。こんな子供の戯言に、これ以上構うのは時間の無駄だ。……ただ、俺が本当に心配なのは、彼の書いたファンタジーを真に受けて、無謀にもシブヤに挑もうとする者が出てしまうことだ。何度も言うが、それは『自殺行為』だ。命を賭けるべき場所を、見誤ってはいけない」
”さすがハヤテ、大人の態度だな”
”俺が女なら抱かれたい!”
”男だけど抱かれたい!”
”ジェンダー乙”
「あはは、俺は来るものは拒みませんよ。ですけど俺も少し有名になりすぎましたからね、今はスキャンダルになることは控えさせてください。大事なプロジェクトの前でもありますから」
”お?”
”その話題は!”
”盛り上がり、くるか!?”
「今回の件は、俺も悪い。俺がS級ダンジョン『ウエノ08』を踏破してしまった才能の持ち主だったから、きっと嫉妬をさせてしまったんだ。――だからこそ、今日俺は約束しよう」
ハヤテは目を見開いて、自信満々の笑みを浮かべながら白い歯を煌めかせた。
「この俺、S級探索者ハヤテが、『本物』の攻略というものを見せてやる。ゲームの真似事ではない、命を賭けた本物の探索をね。日本スペシャルチーム・リーダーの名に賭けて、俺が最初のフロア踏破者になる。そして、あの哀れな子供の夢を、俺が終わらせてやるよ」
”うおおおおおおおおお”
”キターーーーーーー!”
”ハヤテエエエエエ!”
「決行は、今週末の土曜日午前10時から! チャンネル登録がまだな人は忘れないでくれよな。この歴史的瞬間を是非ともリアルタイムで!」
◇◆◇◆
「ただいま」
蓮司が玄関を開けた途端、妹の七海が走り込んできて兄へと抱きついた。
「兄貴ぃぃぃーっ!」
「お、おい? どうしたんだ妹。泣いてるなんて七海らしくもない」
「ごめんね、ごめん! 私が兄貴をそそのかしたばっかりにー!」
リビングに行き、蓮司は七海に話を聞いた。
「そうか。イヤな思いをさせてしまったんだな、ありがとう七海俺のために悔しがってくれて」
「私、兄貴の言葉を信じてるんだよ。本当に兄貴が、『シブヤ』の一層を攻略してきたんだ、って」
「ああ。俺は確かにボスを倒してきたぞ」
「私も……言っちゃダメなのかな。『ウチの兄貴がRだ! 本当にクリアしたんだから』って」
蓮司は優しい笑みを浮かべながら首を振った。
「それは良くない。なるほどこの世の中のシステムは面白い。ハヤテというダンチューバーは『腕力』を持っているんだね」
「腕……力?」
「そう、腕力。社会的立場、という名の腕力だ。腕力知力権力経済力、まあ呼び方は色々とあるが、それらは全て世界への『影響力』に変換される。影響力こそが世界を動かす為のシステムなんだよ」
「……じゃあ、泣き寝入り?」
「そうだね。相手にしないのが一番じゃないかな。気にしないでいいよ、俺は、俺の真実を七海が信じてくれているだけで嬉しいんだから」
七海はおずおずと。
「じゃあ、シブヤ二層にはもう行かないの兄貴?」
「ん? いやそれは別」
ケロっとした顔で蓮司は七海を見た。
「あれからまたダンジョン&マジックの解析を進めたら、どうやらまたさらに未実装部分が見つかったんだけど、やはりというか予想通りというか、シブヤ二層以降のデータらしかったからね。俺の目的はあのプログラムを最後まで解析することだから、これからも『シブヤ』には潜るつもりだよ」
「そっか……嬉しいな」
七海は笑ってみせた。
私は知っている。兄貴がどれだけ凄い人なのか。どんな偉大なことをしているのか。
それだけで、いいや。知ってるだけで十分だ。世間がなんと言おうとも、私だけはお兄ちゃんの凄さを見続けていきたい。
「ところで……ちょっと遅くなったけど、これ」
「ん、なに兄貴。この虹色のペンダント」
「シブヤ一層のボスが落とした虹色の石を、ペンダントに加工して貰ったんだ。……魔石でもなんでもない、ただの綺麗な石ってだけなんだけど、えっとその」
蓮司は七海から目を逸らしながら、頭を掻いた。
「ハッピーバースデー、七海」
そういってレインボウクリスタルのペンダントを七海に渡した。
七海は目を丸くして。
「覚えていて、くれたんだ。忘れられてると思ってた」
「すまない。どこでこれを加工して貰えばいいのかわからなくて、外出しては彷徨ってた」
そっか! と七海は得心した。
最近いそいそと外出していたのは、これの為だったんだ。
嬉しさが胸いっぱいに広がって、思わず唇の先が尖る。
「そんなの、得意のネットで調べればよかったじゃん」
尖った口から出たのは憎まれ口。
だけど、蓮司は感心した目で彼女の方を見る。
「そ、そうか……! なぜだろう、まったく気が付かなかった……!」
外出に関してのスキルはゼロな彼なのだ。
「そういうとこだぞ、兄貴」
七海はペンダントを眺めながら、嬉しそうに笑ったのだった
◇◆◇◆
超級ダンジョン『シブヤ』の入口に、早々たるメンバーが集まっていた。
A級探索者、10人。
S級探索者、3人。
そしてこの日、SS級と日本で初の認定を受けた男、リーダーのハヤテ。
「みんな、用意はいいかな?」
黄金の鎧に身を包んだハヤテが黄金の剣を掲げると、それぞれが得意の武器を掲げて
「「おおおおおーっ!」」
と声を上げた。
日本を代表するスペシャルチームの面々だ。ネット民もこれには大盛り上がり。
”アポーツのケンが居るぞ”
”大魔法使い、ザナロ爺だ!”
”クロエちゃん! クロエちゃん!”
”すげえ……、ハヤテが声を掛けでもしないと、こんな豪華メンバー集まらねぇ”
「いざ出発、伝説の幕開けだ」
そう言ってシブヤに突入する一行。この様子は、日本だけでなく世界が注目していた。
”Finally, it begins!”
”oh! super dungeon Shibuya!”
入口を前に、彼女は目を凝らそうとして――とめた。
凝らすまでもなく、そこでは魔力が渦巻いていた。
魔力を可視化できるクロエの目には、まるで目の前に大きな壁がそそり立っているようにも見えたのだ。
禍々しい魔力の奔流。
彼女が逡巡していると。
「クロエちゃん、キミは俺の後ろに。大丈夫、守ってみせるよ」
「あはは☆ ありがとーハヤテさん優しいです☆」
いけない、こんなことで気圧されてる場合じゃない!
きっとこの中に居る、『ウエノ08』真の踏破者さんに、私も出来るというところを見せたい。そのために、頑張らないと。
内心で自分を鼓舞するクロエだった。
――そして。
ダンジョン史に残ると語られる探索がついに始まる。